30 / 278
30. 見え隠れするもの (1)
しおりを挟む
.
松田会長から連絡があった。
花屋の堀内社長には釘を打っておいたと。
万が一、堀内が約束を破るような真似をわずかでもしたならば、次は自分が始末をつけるとまで言っていた。
それでも堀内は油断のならない男だ。こちらでも十分目は光らせておくが。
しかし、参ったな。
俺を芍薬の花に例えていたと聞いて、信頼を得るのは容易いと思っていたんだが。
信頼のしの字も彼女からは見えない。
黒岩も、松田会長でさえあの娘は少し不思議だと言う。
何があるというのか。
俺にはそれすら見えてこない。
会長は事情を知っているようだが、簡単には教えてはくれないだろうしな。
「仙道さん、花屋のお嬢さんがおみえになりました」
「ああ、勅使河原のところに案内してくれ。俺と会長は寺に行く。あとは頼む」
「はい」
会長と俺は別・・か。
あの娘を甘く見てかかったのはまずかったな。
「ベリー君、これは摘んでもいいの?」
わたしは葉の陰に連なる、深い藍色に白い霧がかかったような実を指して言った。
「いいですよ。粒は小さいけど多分味が濃いと思います。ちょっと酸っぱいかも」
「酸っぱいの好き」
「じゃあ、似たようなのを摘むといいですよ」
わたし、青木みふゆは本日組長先生の敷地内にあるブルーベリー園でブルーベリーの収穫体験をさせてもらっている。
教えてくれているのは19歳のベリー君。名前が難しくて長い(勅使河原蔵之介だったか鞍馬山新之助だったか)ので、ベリー君と呼んばせてもらっている。農業部門の担当者的存在で、イチゴ類が専門だというのでベリー君と呼ぶようになった。
農業高校を出て、就職したが会社が倒産し、ヤケになってケンカしていたところを拾われたのだという。
組長先生のお屋敷が建っている敷地は大変広い。広いなんてもんじゃない。何十人住んでいるんだというお屋敷に広い広い広い広い日本庭園、大きな大きな大きな大きな池があり、畑があり、果樹栽培もやっている。田んぼもある。田んぼの向こう側はお魚が釣れる川があり、山があり、山も組長先生の持ち物だと最近知った。
どうも農業、林業、水産業も事業として手掛けているらしい。
土木・建築、不動産業は知っていたけど、すごいな、組長先生。
収穫しながら、ベリー君の高校時代の話を聞いていた。農業高校ってなんて人生に役に立つ教育機関なんだろうと思った。
わたしも農業高校行けばよかった。
「ベリー君はいつも一人で収穫してるの?」
「いえ、手伝ってもらってます。さすがにこの広さを一人ではきついから」
「・・・もしかして、わたし、邪魔した?」
「いえ、いえ!今日は元々俺一人だったんです。だからすごく助かりました」
「それならいいけど」
「早朝の作業はだいたいいつも若頭が手伝ってくれてるんですけど、いま忙しいから」
「・・・若頭?」
「?はい、若頭」
「若頭って・・、あの若頭?」
「はい、あの若頭です」
ええーーーーっ!?
今年一番の衝撃かもしれない。
「???そんなにびっくりですか??」
「びっくりというか・・びっくりです・・」
「若頭は野菜の収穫も手伝ってくれたりしますよ。田植えとかもするし。なにせ料理のプロですから食材の質には厳しいんですよ。イタリアとフランスにお店持ってますからね」
「─────」
衝撃の事実は二度目の方が衝撃度大きいーーー!
若頭がプロの料理人ってことはシェフ?!
包丁持たせて大丈夫なのだろうかと思ってしまう。
組長先生の命令で裏で暗躍してるだけじゃなかったのか。
もしかして、スーパーに出没している理由も料理の為だった?
今朝は花屋のお嬢さんのみふゆさんが収穫に参加だ。
花屋のお嬢さん、と呼ぶと『くすぐったいからやめて』と言われ、みふゆさんと呼ぶことにした。
みふゆさんにブルーベリーの収穫を手伝ってもらったおかで、今日『澤山』に納める分が間に合った。
収穫しながら高校の話になった。農業高校だというとたいていの、特に女の子は『ダッセー』と笑うが、みふゆさんは違った。
『羨ましい』と、彼女は言ったのだ。
収穫が終わり、袋にたくさんのブルーベリーをつめて渡すととても喜んでいた。たくさんあるから店に持っていってみんなで分けると、自転車に乗って彼女は帰って行った。
それならもっと詰めればよかったな。
そうだ。花屋さんに届けに行こう。
時間がある時行ってもいいか若頭に聞いてみよう。
みふゆさんは今日は公休日だから明日にでも、と考えていたら、会長と若頭が帰ってきた。
二人は、みふゆさんの様子がどうだったかを聞かせてほしいと言った。
松田会長から連絡があった。
花屋の堀内社長には釘を打っておいたと。
万が一、堀内が約束を破るような真似をわずかでもしたならば、次は自分が始末をつけるとまで言っていた。
それでも堀内は油断のならない男だ。こちらでも十分目は光らせておくが。
しかし、参ったな。
俺を芍薬の花に例えていたと聞いて、信頼を得るのは容易いと思っていたんだが。
信頼のしの字も彼女からは見えない。
黒岩も、松田会長でさえあの娘は少し不思議だと言う。
何があるというのか。
俺にはそれすら見えてこない。
会長は事情を知っているようだが、簡単には教えてはくれないだろうしな。
「仙道さん、花屋のお嬢さんがおみえになりました」
「ああ、勅使河原のところに案内してくれ。俺と会長は寺に行く。あとは頼む」
「はい」
会長と俺は別・・か。
あの娘を甘く見てかかったのはまずかったな。
「ベリー君、これは摘んでもいいの?」
わたしは葉の陰に連なる、深い藍色に白い霧がかかったような実を指して言った。
「いいですよ。粒は小さいけど多分味が濃いと思います。ちょっと酸っぱいかも」
「酸っぱいの好き」
「じゃあ、似たようなのを摘むといいですよ」
わたし、青木みふゆは本日組長先生の敷地内にあるブルーベリー園でブルーベリーの収穫体験をさせてもらっている。
教えてくれているのは19歳のベリー君。名前が難しくて長い(勅使河原蔵之介だったか鞍馬山新之助だったか)ので、ベリー君と呼んばせてもらっている。農業部門の担当者的存在で、イチゴ類が専門だというのでベリー君と呼ぶようになった。
農業高校を出て、就職したが会社が倒産し、ヤケになってケンカしていたところを拾われたのだという。
組長先生のお屋敷が建っている敷地は大変広い。広いなんてもんじゃない。何十人住んでいるんだというお屋敷に広い広い広い広い日本庭園、大きな大きな大きな大きな池があり、畑があり、果樹栽培もやっている。田んぼもある。田んぼの向こう側はお魚が釣れる川があり、山があり、山も組長先生の持ち物だと最近知った。
どうも農業、林業、水産業も事業として手掛けているらしい。
土木・建築、不動産業は知っていたけど、すごいな、組長先生。
収穫しながら、ベリー君の高校時代の話を聞いていた。農業高校ってなんて人生に役に立つ教育機関なんだろうと思った。
わたしも農業高校行けばよかった。
「ベリー君はいつも一人で収穫してるの?」
「いえ、手伝ってもらってます。さすがにこの広さを一人ではきついから」
「・・・もしかして、わたし、邪魔した?」
「いえ、いえ!今日は元々俺一人だったんです。だからすごく助かりました」
「それならいいけど」
「早朝の作業はだいたいいつも若頭が手伝ってくれてるんですけど、いま忙しいから」
「・・・若頭?」
「?はい、若頭」
「若頭って・・、あの若頭?」
「はい、あの若頭です」
ええーーーーっ!?
今年一番の衝撃かもしれない。
「???そんなにびっくりですか??」
「びっくりというか・・びっくりです・・」
「若頭は野菜の収穫も手伝ってくれたりしますよ。田植えとかもするし。なにせ料理のプロですから食材の質には厳しいんですよ。イタリアとフランスにお店持ってますからね」
「─────」
衝撃の事実は二度目の方が衝撃度大きいーーー!
若頭がプロの料理人ってことはシェフ?!
包丁持たせて大丈夫なのだろうかと思ってしまう。
組長先生の命令で裏で暗躍してるだけじゃなかったのか。
もしかして、スーパーに出没している理由も料理の為だった?
今朝は花屋のお嬢さんのみふゆさんが収穫に参加だ。
花屋のお嬢さん、と呼ぶと『くすぐったいからやめて』と言われ、みふゆさんと呼ぶことにした。
みふゆさんにブルーベリーの収穫を手伝ってもらったおかで、今日『澤山』に納める分が間に合った。
収穫しながら高校の話になった。農業高校だというとたいていの、特に女の子は『ダッセー』と笑うが、みふゆさんは違った。
『羨ましい』と、彼女は言ったのだ。
収穫が終わり、袋にたくさんのブルーベリーをつめて渡すととても喜んでいた。たくさんあるから店に持っていってみんなで分けると、自転車に乗って彼女は帰って行った。
それならもっと詰めればよかったな。
そうだ。花屋さんに届けに行こう。
時間がある時行ってもいいか若頭に聞いてみよう。
みふゆさんは今日は公休日だから明日にでも、と考えていたら、会長と若頭が帰ってきた。
二人は、みふゆさんの様子がどうだったかを聞かせてほしいと言った。
10
あなたにおすすめの小説
遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。
沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。
すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。
だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。
イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。
変わり果てた現実を前に、
夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。
深い後悔と悲しみに苛まれながら、
失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。
しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。
贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。
そして、母の心を知っていく子供たち。
イネスが求める愛とは、
そして、幸せとは――。
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
なぜ、私に関係あるのかしら?
シエル
ファンタジー
「初めまして、アシュフォード公爵家一女、セシリア・アシュフォードと申します」
彼女は、つい先日までこの国の王太子殿下の婚約者だった。
そして今日、このトレヴァント辺境伯家へと嫁いできた。
「…レオンハルト・トレヴァントだ」
非道にも自らの実妹を長年にわたり虐げ、婚約者以外の男との不適切な関係を理由に、王太子妃に不適格とされ、貴族学院の卒業式で婚約破棄を宣告された。
そして、新たな婚約者として、その妹が王太子本人から指名されたのだった。
「私は君と夫婦になるつもりはないし、辺境伯夫人として扱うこともない」
この判断によって、どうなるかなども考えずに…
※ 中世ヨーロッパ風の世界観です。
※ ご都合主義ですので、ご了承下さい、
※ 画像はAIにて作成しております
壊れていく音を聞きながら
夢窓(ゆめまど)
恋愛
結婚してまだ一か月。
妻の留守中、夫婦の家に突然やってきた母と姉と姪
何気ない日常のひと幕が、
思いもよらない“ひび”を生んでいく。
母と嫁、そしてその狭間で揺れる息子。
誰も気づきがないまま、
家族のかたちが静かに崩れていく――。
壊れていく音を聞きながら、
それでも誰かを思うことはできるのか。
さようなら、お別れしましょう
椿蛍
恋愛
「紹介しよう。新しい妻だ」――夫が『新しい妻』を連れてきた。
妻に新しいも古いもありますか?
愛人を通り越して、突然、夫が連れてきたのは『妻』!?
私に興味のない夫は、邪魔な私を遠ざけた。
――つまり、別居。
夫と父に命を握られた【契約】で縛られた政略結婚。
――あなたにお礼を言いますわ。
【契約】を無効にする方法を探し出し、夫と父から自由になってみせる!
※他サイトにも掲載しております。
※表紙はお借りしたものです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
