29 / 278
29. 清和会会長・松田の考察
しおりを挟む
.
「お茶、とても美味しかったよ。ご馳走さま」
帰り際に礼をいうと、少し照れながら「ありがとうございます」と彼女は言った。
あの娘、俺が来るのを知っていたのだろうか?
俺の好物を誰かに聞いたのだろうか?
そんなはずはない。
直前に決めたことだ。
予定をたてると、どこから漏れるかわからない。
「どうして落雁を?」
「和三盆と迷ったんですが落雁かなと思って。縁起物だし、神様の食べ物だし。・・お嫌いでしたか?」
「好物だったので久しぶりに口にできて、嬉しかったですよ。神戸屋の落雁でしょう?」
「はい。それならよかったです」
着物を着て紹介を受けた時は、23歳という年相応に見えたが、今日のようにポニーテールにしていると、まだ高校生にも見える。
そして
「あ、松田さん」
店のドアから出る寸前呼び止められた。
「何かついてます。はらってもいいですか?」
と、彼女は言った。
埃だろうと思い、彼女が背中の上襟の下を数回手で軽く払った。
「ありがとう」
「あとはもういいと思います」
不思議な答え方だった。
「松田会長、肩はどうですか?凝るようならマッサージに行かれますか?」
運転している小暮が訊いてきた。
そういえば、ここ一ヶ月くらい、肩凝りが妙にひどくてマッサージにずいぶん通ったが、いまはずいぶん楽だ。
「良くなったみたいだからこのまま自宅に帰ってくれ」
「そうですか、自然によくなるのは珍しいですね」
「・・そうだな」
『あとはもういいと思います』
ああ、そうか。
そういう意味か。
そういう意味かもしれないし、偶然かもしれない。
どちらでもいい。
あの娘がどういう娘だったとしても、俺は惣領会長に従うだけだ。
だが・・、
「小暮、次の惣領会長との茶会には花屋のお嬢さんも招待する。惣領会長と一緒なら彼女も安心だろうから」
「わかりました。菓子はどうなさいますか?」
「落雁を用意してくれ。形は若いお嬢さん好みのかわいいものを作って貰ってくれ」
「はい」
『和三盆と迷ったんですが落雁かなと思って。縁起物だし、神様の食べ物だし。・・お嫌いでしたか?』
礼は必要だろう。
「お茶、とても美味しかったよ。ご馳走さま」
帰り際に礼をいうと、少し照れながら「ありがとうございます」と彼女は言った。
あの娘、俺が来るのを知っていたのだろうか?
俺の好物を誰かに聞いたのだろうか?
そんなはずはない。
直前に決めたことだ。
予定をたてると、どこから漏れるかわからない。
「どうして落雁を?」
「和三盆と迷ったんですが落雁かなと思って。縁起物だし、神様の食べ物だし。・・お嫌いでしたか?」
「好物だったので久しぶりに口にできて、嬉しかったですよ。神戸屋の落雁でしょう?」
「はい。それならよかったです」
着物を着て紹介を受けた時は、23歳という年相応に見えたが、今日のようにポニーテールにしていると、まだ高校生にも見える。
そして
「あ、松田さん」
店のドアから出る寸前呼び止められた。
「何かついてます。はらってもいいですか?」
と、彼女は言った。
埃だろうと思い、彼女が背中の上襟の下を数回手で軽く払った。
「ありがとう」
「あとはもういいと思います」
不思議な答え方だった。
「松田会長、肩はどうですか?凝るようならマッサージに行かれますか?」
運転している小暮が訊いてきた。
そういえば、ここ一ヶ月くらい、肩凝りが妙にひどくてマッサージにずいぶん通ったが、いまはずいぶん楽だ。
「良くなったみたいだからこのまま自宅に帰ってくれ」
「そうですか、自然によくなるのは珍しいですね」
「・・そうだな」
『あとはもういいと思います』
ああ、そうか。
そういう意味か。
そういう意味かもしれないし、偶然かもしれない。
どちらでもいい。
あの娘がどういう娘だったとしても、俺は惣領会長に従うだけだ。
だが・・、
「小暮、次の惣領会長との茶会には花屋のお嬢さんも招待する。惣領会長と一緒なら彼女も安心だろうから」
「わかりました。菓子はどうなさいますか?」
「落雁を用意してくれ。形は若いお嬢さん好みのかわいいものを作って貰ってくれ」
「はい」
『和三盆と迷ったんですが落雁かなと思って。縁起物だし、神様の食べ物だし。・・お嫌いでしたか?』
礼は必要だろう。
10
あなたにおすすめの小説
遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。
沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。
すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。
だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。
イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。
変わり果てた現実を前に、
夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。
深い後悔と悲しみに苛まれながら、
失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。
しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。
贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。
そして、母の心を知っていく子供たち。
イネスが求める愛とは、
そして、幸せとは――。
『白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?』
夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」
教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。
ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。
王命による“形式結婚”。
夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。
だから、はい、離婚。勝手に。
白い結婚だったので、勝手に離婚しました。
何か問題あります?
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
なぜ、私に関係あるのかしら?
シエル
ファンタジー
「初めまして、アシュフォード公爵家一女、セシリア・アシュフォードと申します」
彼女は、つい先日までこの国の王太子殿下の婚約者だった。
そして今日、このトレヴァント辺境伯家へと嫁いできた。
「…レオンハルト・トレヴァントだ」
非道にも自らの実妹を長年にわたり虐げ、婚約者以外の男との不適切な関係を理由に、王太子妃に不適格とされ、貴族学院の卒業式で婚約破棄を宣告された。
そして、新たな婚約者として、その妹が王太子本人から指名されたのだった。
「私は君と夫婦になるつもりはないし、辺境伯夫人として扱うこともない」
この判断によって、どうなるかなども考えずに…
※ 中世ヨーロッパ風の世界観です。
※ ご都合主義ですので、ご了承下さい、
※ 画像はAIにて作成しております
壊れていく音を聞きながら
夢窓(ゆめまど)
恋愛
結婚してまだ一か月。
妻の留守中、夫婦の家に突然やってきた母と姉と姪
何気ない日常のひと幕が、
思いもよらない“ひび”を生んでいく。
母と嫁、そしてその狭間で揺れる息子。
誰も気づきがないまま、
家族のかたちが静かに崩れていく――。
壊れていく音を聞きながら、
それでも誰かを思うことはできるのか。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
