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第63話 憤りの果てに

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「お、俺たちに逆らおうってのか!」

 男の二人が剣を抜き、一人がサリナを羽交い絞めしている。
 いざとなったら人質にでもするつもりなのだろう、姑息な真似をする連中に、俺はさらに怒りを覚えた。

 サリナはというと、目か涙をボロボロ溢し俺を見ている。着衣が乱れており、男たちに身体を乱暴に扱われたのだろう。

 そのことを想像してしまい、酷く後悔をする。
 俺はいたたまれなくなり、サリナから顔を逸らす。

「俺たちはBランク冒険者だぞ。てめぇとは潜った修羅場が違えんだ!」

 男たちが吠える。それなりの装備を身に着け、それなりの身のこなしをしているようだが、たいしたことはない。
 身動きが取り辛い裏路地とう利点を生かすつもりなのか、連携を取るつもりでじりじりと距離を詰めてくる。

「へへっ、いっちょ前に良い武器を持ってるじゃねえか」

「てめぇを殺した後、女と一緒に闇商人に高く売ってやるとするか」

 魔導剣に目を付けた男たち。俺を始末した後はサリナをさらに酷い目にあわせるのだという。

「そいつらは対人専門の冒険者でな。おまえ、運がなかったな」

 サリナを羽交い絞めしている男が勝ち誇ったように言うと、

「コウ、逃げてええええええ!」

 サリナが悲痛な声で叫んだ。

「ここまで見られて逃がすかよっ!」

「じわじわいたぶってやるから、覚悟しやがれ!」

 タイミングをずらし、連続で攻撃を仕掛けてくる。確かにこの路地では攻撃を横に避けるのは不可能なので、畳みかけられればきついだろう。だが……。

「あっそ」

 俺は前に踏み込むと、剣を二度振るい、男の利き腕を斬り、剣を落とさせた。

「なっ!?」

 サリナを羽交い絞めしていた男が驚き声を上げる。

「俺がこんな、下衆相手に負けるわけないだろ」

 これでも強力なモンスターを屠ってきた実績がある。魔導剣を使わなければサリナに勝てないのだろうが、雑魚相手に負けてやる道理がない。

「てめぇ、この女がどうなっても――」

「遅い!」

 我に返り、剣をサリナに押し当て脅そうとするが、最初に二人を斬った時点でやらなければ意味がない。
 男はとっくに俺のキリングレンジに入っていた。

 俺は剣を持つ男の腕の神経を切断し、剣を落とさせる。

「ぐあ……」

 痛みで一歩下がったところで、

「汚い手でサリナに触るんじゃねえ!」

 飛び蹴りを食らわせ、そのままサリナを懐の中に収めた。

「大丈夫か?」

 俺はサリナの顔を覗き込む。涙で顔が腫れていて、綺麗な顔が台無しになっていた。

「て、てめぇ。よくもやりやがって……俺の腕が……ポーション一本じゃ治らねえぞ」

 その間に、男たちはポーションを飲むと怪我を治し剣を取る。
 先程吹き飛ばした男も含め前後から挟まれることになった。

「ざまぁねえな、余裕ぶっこくからだぜ。女を守りながら俺たち四人の攻撃をうけきれるわけがねえ!」

 唾を飛ばし怒鳴る男に、俺は笑みを浮かべ言った。

「わざとだよ」

「何?」

「サリナをこんな目に遭わせておきながら、楽に死ねるとおもうなよ。何度でも痛めつけてやるから覚悟しろ」

「ぬかしやがれ!」

 男たちが一斉に襲い掛かってくる。

「風よ、切り刻め」

 竜巻が起こり、やつらの全身を切り刻んだ。

「あ……ぐ……てめぇ、魔導師……?」

 血こそ出ているが、風の刃での傷はそう深くない。
 全員膝を着いてはいるが致命傷を負ったものはいなかった。

 この上、魔法まで使ってみせたことで勝ち目がないと理解したのか、男たちが武器を捨てて投降し始める。

「へへへ、悪かった。あんたらには手は出さねえ」

「頼む、飢えた子どもが三人いて俺の帰りを待ってるんだ」

「俺が稼がないと孤児院のガキどもが……」

 男たちは一斉に命乞いを始める。

「しるか、死ね」

 俺の剣が男の胸に突き刺さり、背中まで貫通する。

「ゴポッ……」

 自分が刺されたことが信じられないとばかりに男は目を見開き、瞳が白く反転する。男はそのまま絶命した。

「「「ひっ!」」」

 やっと恐怖を覚えた男たち、そうでなくては困る。自分が何をしたのか、どんな目に合うのか認識しながら死んでもらわないとサリナへの罪滅ぼしにならない。

「頼む助けて――おげえええええ」

「嫌だ、死にたくなっ――あごああああああああ」

「頼む……俺が悪かった……あっ!」

 俺はその場の全員を殺すのだった。



「はぁはぁはぁ」

 胸糞が悪い。吐き気が止まらない。俺はこの世界に来て初めて人の命を奪った。
 サリナが暴行されている姿を目撃すると、頭に靄がかかったかのように何も考えられなくなったからだ。

「コウ……」

 身体が動くようになったのか、サリナが見てくる。

「今はお前と話したい気分じゃない。頼むから離れてくれ」

 彼女も心の傷をおっているだろうに、もう少し違う言葉をかけられないものか、

「いやっす! 今のコウは、壊れてしまいそうっす。傍にいたいっす」

 そう言って抱き着いてくる。

「俺だってあいつらと同じだ。お前の身体に欲情したこともあるし、お前を騙していたんだ」

 サリナが探しているのが自分だと告げていれば、無駄足を踏ませることなく、このように彼女が傷つくこともなかった。

「あんな連中とコウを一緒にするなっす! コウは……私のコウは……絶対にこんな連中とは違う! 同じであってたまるっすか!」

 俺の言葉を否定するように、サリナは強く抱き着いてくる。

「私だって、コウを騙していたっす!」

「なんだと?」

「『オーラ』の取得する方法は、確かに言った通りっすけど、絶対的な条件が一つあるっす。それを隠していたっす」

「それは何だ?」

 彼女が俺に話していない条件、それについて聞くと……。

「そ、それは……これっす!」

 サリナは顔を寄せ恥ずかしそうにすると、唇を重ねてきた。

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