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第62話 激怒

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「ちぇ……コウのやつ、師匠を何と心得てるっすか!」

 ミナトが出て行き、一人になったサリナは、つまらなそうな顔をするとテーブルにある酒と料理を食べていた。
 先程までと違い、おとなしくなったサリナは一言も発することなく酒場にいる。半身から温もりがなくなってしまったような感覚に、サリナは寂しさを覚えた。

「ふん、いいっす。してやるっすよ、情報収集」

 サリナは席を立つと周囲を見回す。

「決定的な情報を得て、その場にいなかったことを悔しがらせてやるっす!」

 奥の方にいる粗野な男冒険者の四人組を発見すると近付く。

「あんたら、ちょっと聞きたいんすけど」

「おおっ、なんだ、お嬢ちゃん」

「俺たち、ちょうど暇してたんだ」

「ぐひひひ、可愛い顔してるじゃねえか」

 男たちはサリナに嘗め回すような視線を向けるのだが、この時のサリナはそれに気付くことなく用件を話していた。

「というやつを探してるんすけど、どこかで見たことないっすか?」

 説明を終え、男たちの反応を見る。酔っ払っているからか、説明が下手だからか、あるいは両方か、サリナの説明は要領を得ておらず、これで人が見つかるわけもない。ところが……。

「ああ、そいつなら知ってるぜ」

 男の一人が笑みを浮かべそう答えた。

「本当っすか!?」

 思わぬ手掛かりの出現に、サリナは喜ぶと男へと詰め寄った。

「ちょうど今からそいつのところに行くんだけどついてくるか?」

「行くっす! 連れて行って欲しいっす!」

 サリナの返事に、男たちはアイコンタクトをすると一斉に頷く。

「こっちだ、付いてきな」

 男たちの下卑た表情や暗い目にも気付かず、サリナは大きな声を出すとついてくのだった。






「それで、そのミナトはどこにいるっすか?」

 薄暗い裏路地をサリナは進む。前後を男たちに囲まれているのだが、気にも留めない。
 男たちの目が黒く輝き、下卑た笑みを浮かべているのだが、探し人が見つかるかもしれないと興奮しているサリナはそれに気付くことはなかった。

「もう少し先だ、まってなよ」

「ふへへへへ、これでミナトというやつをぶちのめして契約を結べば、国に戻って一生ぐーたら生活っす」

 ミナトを見つけたあとのことを考えるサリナは油断してしまっていた。

 ――プシュッーーー――

「ケホッケホッ、なん……す……か……?」

 突然煙が上がり、むせるサリナ。

「身体が……うごか……な……い?」

 倒れることはないが、指を動かすことができなくなっていた。

「へへへ、特製の痺れ薬さ。身体の感覚は残したまま、身動きだけとれなくする」

「どう……いう……?」

 サリナは疑問を浮かべると男たちの様子を窺がった。

「俺たちはミナトなんて知らないってことだ」

「だま……した……すか?」

 目を見開き、自分が嵌められたことを察するサリナ。

「顔つきはまだガキだが、身体付きはいっちょまえだからな、遊んだ後は奴隷商にでも高く売るか」

「へへへへ、逃げられるものなら逃げてみろよ」

「夢のようなひと時をおくらせてやるよ」

 男たちの手が伸びてくる。その厭らしい指の動きに、サリナは初めて恐怖を覚えた。

「いや……っす」

 サリナとて、男女の営みに対する知識はある。男たちが何をしようとしているのか察すると、全力で身体を動かそうとあがく。

 だが、どれだけ頑張っても、頭と体が切り離されてしまったかのように指一本動かすことができない。
 目の前の不埒な男たちをぶちのめしたいのに……。

「ぐへへへ、やわらけえな」

「たまんねぇぜ」

「おいっ! 俺にも堪能させろよ」

「んっ……やだ……やめ……て」

 男たちの手がサリナの全身に触れる。
 胸を揉みしだかれ、首筋に顔を埋め舌で舐められる。これまでの勇気は消し飛び、サリナは泣きだし、声を出すこともできずにいた。

「俺、もう我慢できねえ! おい! こっちに向けろ!」

 男の一人がベルトを緩めズボンを下す。サリナは他の男に腕を掴まれ、尻を突き出すような恰好をさせられた。

「いや……やめて……やだぁ……やだぁ!」

 身体が痺れて動かない。自分は今からこの男に犯されてしまう。
 今までの人生で感じたことのない恐怖を覚え、サリナは――

「助けて……コウ」

 自然とミナトの顔を思い浮かべた。

 次の瞬間、一筋の風が舞い、ズボンを下していた男に直撃する。

 ――ゴッ――

「ゲフッ!」

 下半身を露出していた男が吹き飛び、壁にぶつかって気絶する。


「「「なっ!」」」

 男たちが驚愕の声を上げ、

「まったく、嫌な予感がして戻ってきてよかった」

 一人の人物が現れた。

「コ……コウ……?」

 サリナは目に涙を溜めると、現れた人物の名を呼ぶ。

 ミナトはサリナと、サリナを押さえつけている男三人を見ると、

「てめぇら、生きて帰れると思うなよ?」

 剣を抜くと殺意を叩きつけるのだった。
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