上 下
49 / 61
第3章 裏世界

12

しおりを挟む


 もえちゃんの魂を取りもどせるタイムリミットは夜明け。
 もう、一時間を切っている。
 シショウは、美玲みれいちゃんたち三人と手をつないで輪になると、ぐるりとみんなの顔を見回して言った。

「いまさらだが、これから行く世界から簡単に帰れると思うなよ。本来なら迷い込んでしまったら最後、もどることの出来ない、無間地獄だ」

 シショウの言葉に、恐怖で顔がこわばる三人。
 無情にも、そんな三人の恐怖を無視して、シショウは続けた。

「きみらの覚悟は聞いているから、もう心の準備は確認しない。行くぞ!」

 そのとたん、みんなの体が、激しく燃え上がる青い炎に包まれた。
 すかさずぼくも、青い炎の中に飛び込む。
 気が付くと、ぼくは今までと同じ、深夜の交差点に立っていた。
 美玲みれいちゃんや優斗ゆうとくん、チャーシューも、辺りをきょろきょろと見回している。

「なんや、おどかしよって……。地獄ゆうから、どんな怖ろしい世界かと思ったら、ワイらの世界と変わりあらへん。あのおっさん、失敗したんとちゃうか?」

 油ぎったメガネをずり上げながら、チャーシューがいぶかしがる。

「でもなんか、すっごく寒くない? まるで冬みたい」

 二の腕をさすりながら言った美玲みれいちゃんの口から、白い息が出ている。
 確かに、ここは見慣れた交差点だったが、真冬のように寒くて、足もとには濃い霧が、川のように流れていた。

「ここはきみたちの住む現実世界じゃない。現実世界に重なって存在する、いわば裏世界だ」

 と、とつぜん、頭の中にシショウの声が響いてきた。

「現実世界のバグのいくつかは、この裏世界が原因とされている。
 ある一定の周期で現実世界と重なる時期があり、そのときに、裏世界の住人が現実世界に現れてしまうんだ。もちろん、その逆もありえる。つまり、ぼくらが迷い込んでしまうパターンだ。もえさんのようにね……。
 一説では、現実世界が構築されるまえに試作され、廃棄されたロストワールドとも言われているが、裏世界の存在理由は謎だ」

「そんな大昔につくられた世界なのに、なんでぼくらの世界とそっくりなんですか?」

 優斗ゆうとくんが、弱々しい灯りをともす、街灯の柱を触りながら聞いた。

「鏡のように現実世界の影響を受けながら、日々変化している。きみらの世界以上に不安定だから、気をつけないと迷子になって、帰れなくなるぞ」

 優斗ゆうとくんが触っていた街灯が、どさりと崩れた。

「まるで砂だ……。みんな、シショウの言う通り、裏世界はもろいから気をつけて」

「せやな。よく見ると別ものや……。っていうか、ヒゲのおっさんはどこから語りかけてんねん! 姿を現せや!」
 チャーシューが、どこへともなく怒鳴り声を上げた。

「さっさきも言ったが、裏世界はとっても危険なんだ。ぼくは帰れなくなると嫌だから、現実世界からきみたちを見守っているよ。温かいまなざしでね」

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

10秒で読めるちょっと怖い話。

絢郷水沙
ホラー
 ほんのりと不条理なギャグが香るホラーテイスト・ショートショートです。意味怖的要素も含んでおりますので、意味怖好きならぜひ読んでみてください。(毎日昼頃1話更新中!)

目が覚めたら夫と子供がいました

青井陸
恋愛
とある公爵家の若い公爵夫人、シャルロットが毒の入ったのお茶を飲んで倒れた。 1週間寝たきりのシャルロットが目を覚ましたとき、幼い可愛い男の子がいた。 「…お母様?よかった…誰か!お母様が!!!!」 「…あなた誰?」 16歳で政略結婚によって公爵家に嫁いだ、元伯爵令嬢のシャルロット。 シャルロットは一目惚れであったが、夫のハロルドは結婚前からシャルロットには冷たい。 そんな関係の二人が、シャルロットが毒によって記憶をなくしたことにより少しずつ変わっていく。 なろう様でも同時掲載しています。

ヤケになってドレスを脱いだら、なんだかえらい事になりました

杜野秋人
恋愛
「そなたとの婚約、今この場をもって破棄してくれる!」 王族専用の壇上から、立太子間近と言われる第一王子が、声高にそう叫んだ。それを、第一王子の婚約者アレクシアは黙って聞いていた。 第一王子は次々と、アレクシアの不行跡や不品行をあげつらい、容姿をけなし、彼女を責める。傍らに呼び寄せたアレクシアの異母妹が訴えるままに、鵜呑みにして信じ込んだのだろう。 確かに婚約してからの5年間、第一王子とは一度も会わなかったし手紙や贈り物のやり取りもしなかった。だがそれは「させてもらえなかった」が正しい。全ては母が死んだ後に乗り込んできた後妻と、その娘である異母妹の仕組んだことで、父がそれを許可したからこそそんな事がまかり通ったのだということに、第一王子は気付かないらしい。 唯一の味方だと信じていた第一王子までも、アレクシアの味方ではなくなった。 もう味方はいない。 誰への義理もない。 ならば、もうどうにでもなればいい。 アレクシアはスッと背筋を伸ばした。 そうして彼女が次に取った行動に、第一王子は驚愕することになる⸺! ◆虐げられてるドアマットヒロインって、見たら分かるじゃんね?って作品が最近多いので便乗してみました(笑)。 ◆虐待を窺わせる描写が少しだけあるのでR15で。 ◆ざまぁは二段階。いわゆるおまいう系のざまぁを含みます。 ◆全8話、最終話だけ少し長めです。 恋愛は後半で、メインディッシュはざまぁでどうぞ。 ◆片手間で書いたんで、主要人物以外の固有名詞はありません。どこの国とも設定してないんで悪しからず。 ◆この作品はアルファポリスのほか、小説家になろうでも公開します。 ◆過去作のヒロインと本作主人公の名前が丸被りしてたので、名前を変更しています。(2024/09/03) ◆9/2、HOTランキング11→7位!ありがとうございます! 9/3、HOTランキング5位→3位!ありがとうございます!

すべて実話

さつきのいろどり
ホラー
タイトル通り全て実話のホラー体験です。 友人から聞いたものや著者本人の実体験を書かせていただきます。 長編として登録していますが、短編をいつくか載せていこうと思っていますので、追加配信しましたら覗きに来て下さいね^^*

雪狐 氷の王子は番の黒豹騎士に溺愛される

Noah
BL
【祝・書籍化!!!】令和3年5月11日(木) 読者の皆様のおかげです。ありがとうございます!! 黒猫を庇って派手に死んだら、白いふわもこに転生していた。 死を望むほど過酷な奴隷からスタートの異世界生活。 闇オークションで競り落とされてから獣人の国の王族の養子に。 そこから都合良く幸せになれるはずも無く、様々な問題がショタ(のちに美青年)に降り注ぐ。 BLよりもファンタジー色の方が濃くなってしまいましたが、最後に何とかBLできました(?)… 連載は令和2年12月13日(日)に完結致しました。 拙い部分の目立つ作品ですが、楽しんで頂けたなら幸いです。 Noah

ボロ雑巾な伯爵夫人、やっと『家族』を手に入れました。~旦那様から棄てられて、ギブ&テイクでハートフルな共同生活を始めます2~

野菜ばたけ@既刊5冊📚好評発売中!
ファンタジー
 第二夫人に最愛の旦那様も息子も奪われ、挙句の果てに家から追い出された伯爵夫人・フィーリアは、なけなしの餞別だけを持って大雨の中を歩き続けていたところ、とある男の子たちに出会う。  言葉汚く直情的で、だけど決してフィーリアを無視したりはしない、ディーダ。  喋り方こそ柔らかいが、その実どこか冷めた毒舌家である、ノイン。    12、3歳ほどに見える彼らとひょんな事から共同生活を始めた彼女は、人々の優しさに触れて少しずつ自身の居場所を確立していく。 ==== ●本作は「ボロ雑巾な伯爵夫人、旦那様から棄てられて、ギブ&テイクでハートフルな共同生活を始めます。」からの続き作品です。  前作では、二人との出会い~同居を描いています。  順番に読んでくださる方は、目次下にリンクを張っておりますので、そちらからお入りください。  ※アプリで閲覧くださっている方は、タイトルで検索いただけますと表示されます。

貧乏男爵家の四男に転生したが、奴隷として売られてしまった

竹桜
ファンタジー
 林業に従事していた主人公は倒木に押し潰されて死んでしまった。  死んだ筈の主人公は異世界に転生したのだ。  貧乏男爵四男に。  転生したのは良いが、奴隷商に売れてしまう。  そんな主人公は何気ない斧を持ち、異世界を生き抜く。

処理中です...