高貴なる人質 〜ステュムパーリデスの鳥〜

ましら佳

文字の大きさ
45 / 62
⌘2章 高貴なる人質 《こうきなるひとじち》

45.亡霊

しおりを挟む
 山のように土産を持たされた山雀やまがらが、また日雀ひがらとして帰途についた。
蜂鳥はちどりは、やっと帰った、とため息をついて思い出していた。
公式の出向ではありませんとか言ってたのに、あちこちの夜会パーティーに出ては、話題をさらっていた。
美しく着飾った女性が1ダースいようが100ダースいようが、あの女家令が現れたなら家鴨アヒルと白鳥くらいの差はある。
実際の白鳥ではなくハゲワシのような凶暴な猛禽だろうけど。
宮廷育ちで風雅も優雅も恋やら愛の駆け引きも主食におかずに間食にしてきた彼女にとって、この国の牧歌的な程の社交会など、前菜にもなるまい。
スナック菓子をつまむ程の手軽さで衆目を集め、ホイホイ男を転がされては、見ていて面白いという物見高い者以外には顰蹙ひんしゅくでしかない。
あれは道場破りに近い。
元首夫人ファーストレディは、自分が主催でありホスト役のパーティーに、残雪ざんせつのみならず、宮廷文化の粋を集めたような女家令であり伯爵家令と婚約中という彼女を招く事で、話題にもなり格も上がると喜んでいたが。
蜂鳥はちどりは「あの女、クセが悪いんだよ」と舌打ちする。
山雀やまがらは、元首令嬢の婚約者候補を、分かっていて引っかけたのだ。
パーティーの間中、婚約者候補は他の客同様に山雀やまがらに夢中になり、結果的にひとりにされたサマーは情けなく恥をかいたと泣いたらしい。
宮廷文化に憧れている若い令嬢に対する「これが宮廷流なんだよ。こんなもんじゃないよ」という挨拶代わりとも、通り魔事件とも言えるわね、と残雪ざんせつが苦笑していた。
女主人が、あの夢見る乙女をなんとかうまいことフォローしてくれていればいいけれど。
全く、嵐のようだったと思いながら、八角鷲はちくまに「悪魔が帰った」と連絡すると「もう帰ってくるのか?!」と動揺していた。
蜂鳥はちどりは「早く引き取って!」と言って通話を切った。

 
 久しぶりに残雪ざんせつの日常の近くに控える事になって、家令の姉弟が驚いた事の一つには、彼女が随分な宵っ張りであると言う事。
そもそも時差があり実家の家族と電話で連絡しようとすればどうしても夜中になってしまうのだが、その後も仕事をしたりしているのだろう。
蜂鳥はちどりは、残雪ざんせつが用意した夜食をつまみながら自分もまた書類整理の為にデスクに向かった。

 
 

 夕食後しばらくして、残雪ざんせつが今晩夜勤で寝ずの番の蜂鳥はちどりに夜食を用意してから私室に戻った。
「・・・遅い」
部屋の奥から不機嫌な声がした。
「あら、時間なんて関係あるんですか」
残雪ざんせつが不思議そうに手を差し出した。
「・・・まあ、関係はないけど。でも、待ってた」
待ってた、とそう言われて、残雪ざんせつは笑みこぼれた。
「お待たせしました」
「人質稼業も大変かい?」
違う声に、頷く。
「まさかこうなるとは思ってなかったのでね。・・・橄欖かんらん様が不安定になっているみたい。蓮角れんかくがお手紙に書いて寄越したの。・・・海燕うみつばめも大変ね。あの子、橄欖かんらん様が大好きなのね」
笑って、五位鷺ごいさぎの手を取った。
「なんと面倒な。高貴なる人質が雪で良かったとは決して思わないけど、春じゃなくて、良かった」
父親の顔をして、五位鷺ごいさぎが言った。
さ、早く来てと蛍石ほたるいしがソファを叩いた。
「雪ったら、私たちの事なんて忘れたのかと思っちゃう」
「そんなわけないわ。私の愛しい方」
「時間も距離も関係なく、愛しているよ」
「・・・・まあ、しつこい」
三人は在りし日と同じように笑い転げた。



「・・・おはよ、おつかれ」
朝方、寝起きの駒鳥こまどりがリビングに現れたのに、夜勤明けの蜂鳥はちどりが声をかけた。
「おはようございます、おやすみなさい」
「はいはい。・・・ねぇ。駒《こま》」
「何だよ?」
「昨夜、雪様のお部屋から楽しそうな声が聞こえたんだけど」
「ああ、通話かな?春北斗はるほくとじゃないの?時差があるから、夜中電話してんだろ」
二人は仲のいい母娘で、連絡は頻繁にしているし、春北斗はるほくとからは、たまに福袋みたいな箱が届く。
ああ、このセンスって五位鷺ごいさぎお兄様の血だわ、と蜂鳥はちどりが絶句する程の、混沌としたチョイスの中身であった。
「・・・いえ、女と男の声よ?」
聞いたことがある、忘れるはずの無い声。
・・・でも、まさか。
駒鳥こまどりが不思議そうな顔をしたのに、なんでもない、と蜂鳥はちどりは首を振った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます

腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった! 私が死ぬまでには完結させます。 追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。 追記2:ひとまず完結しました!

屈辱と愛情

守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

彼の言いなりになってしまう私

守 秀斗
恋愛
マンションで同棲している山野井恭子(26才)と辻村弘(26才)。でも、最近、恭子は弘がやたら過激な行為をしてくると感じているのだが……。

裏切りの代償

中岡 始
キャラ文芸
かつて夫と共に立ち上げたベンチャー企業「ネクサスラボ」。奏は結婚を機に経営の第一線を退き、専業主婦として家庭を支えてきた。しかし、平穏だった生活は夫・尚紀の裏切りによって一変する。彼の部下であり不倫相手の優美が、会社を混乱に陥れつつあったのだ。 尚紀の冷たい態度と優美の挑発に苦しむ中、奏は再び経営者としての力を取り戻す決意をする。裏切りの証拠を集め、かつての仲間や信頼できる協力者たちと連携しながら、会社を立て直すための計画を進める奏。だが、それは尚紀と優美の野望を徹底的に打ち砕く覚悟でもあった。 取締役会での対決、揺れる社内外の信頼、そして壊れた夫婦の絆の果てに待つのは――。 自分の誇りと未来を取り戻すため、すべてを賭けて挑む奏の闘い。復讐の果てに見える新たな希望と、繊細な人間ドラマが交錯する物語がここに。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

婚約破棄から50年後

あんど もあ
ファンタジー
王立学園の卒業パーティーで、王子が婚約者に婚約破棄を宣言した。王子は真に愛する女性と結ばれ、めでたしめでたし。 そして50年後、王子の孫の王子は、婚約破棄された女性の孫と婚約する事に。そこで明かされた婚約破棄の真実とは。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

処理中です...