高貴なる人質 〜ステュムパーリデスの鳥〜

ましら佳

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⌘2章 高貴なる人質 《こうきなるひとじち》

40.結節点

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 中央駅セントラルステーションのセレモニーに参加する為に人々が集まっていた。
駅というのは、始まりと終わりの場所でもあるが、また結びの場所でもある。
各周辺国家からの全ての乗り入れ路線が揃い、それをきっかけに近代的な駅舎が新築された。
盛大なセレモニーに来賓として参列した後の残雪ざんせつに、蜂鳥はちどり駒鳥こまどりが駆け寄って来た。
本日の参加者は全員胸元に自国の国旗の色のリボンを花の形にしてピンで付けられたらしく、可愛いでしょうと残雪が微笑んだ。
「雪様、外に車を回しますから、このまま帰宅出来そうですか」
「そうね、いくつかお誘い頂いたけれど、ちょっと疲れちゃったし。・・・一息入れたいけれど、ここは駅だけれど、喫茶店やら食堂やらパン屋さんは無いのねぇ」
駅構内には小さな売店のみ。
あとは店舗らしい店舗がなく、アーケードの街角まで出なければならないようだ。
小腹がすいたのと、久しぶりに履いたかかとの高い靴で足が痛いので参ったわと残雪ざんせつが笑った。
「防犯の為でしょうね。まだまだ治安が良いとは言えませんもの」
「大きな駅って言うと、お土産物やら名産特産品でいっぱいのイメージですけどね」
特使の姿を見つけた参列者達がひっきりなしに挨拶に来ては残雪ざんせつはその度に短い会話を繰り返していた。
これではなかなか帰れそうに無い。
「・・・特使殿、ああ、良かったこちらでしたか」
声をかけられて、新たな来訪者に残雪ざんせつが笑顔で顔を上げた。
公邸から急ぎの用でもあったかと家令の二人もまたそちらを向いた。
男も参列者の一人らしく、胸元にリボンをつけている。
男が早足で更に距離を詰め、残雪ざんせつが男の方向に一歩踏み出した。
蜂鳥はちどりは男の手に刃物が握られているに気付き、咄嗟とっさ残雪ざんせつの前に立った。
残雪ざんせつがそれを押し除けた時、駒鳥こまどりが男を投げ飛ばした。
異変に気付いた保安官達がなだれ込んできて、男は確保された。
騒ぎに驚いた人々が悲鳴を上げて、その場から離れ、またどっと集まって来た。

 
 帰宅して、残雪ざんせつは数時間後にコリン・ファーガソンの訪問を受けていた。
元首夫妻からの謝罪とお見舞いを持参したコリンは、ソファの残雪ざんせつに頭を下げた。
「・・・この度は大変申し訳ない。どうか、お許し頂きたく参上しました」
残雪ざんせつはとんでもない、と立ち上がろうとして、痛みに諦めた。
両足に包帯が巻かれていた。
「実際何かされた訳もなし。帰ろうと思ったらつまずいて、両足捻挫ねんざという醜態しゅうたいなだけで・・・」
残雪ざんせつは、普段からハイヒール履いてマラソンでもして鍛えようかしらね、と冗談を言ったが、コリンは浮かない顔のまま。
残雪ざんせつは、事があらかた終わった後、やれやれ、やっと帰れると歩き出したらつまづいて転倒したのだ。
騒動後に自損事故を起こしただけと呑気なもの。
残雪ざんせつはこの調子だが、家令の姉弟は立腹していた。
「ファーガソン様!そちらの警備ってどうなっていたんですか?!」
「大体、参列者の身辺調査はどうなっていたんですか?!」
と詰め寄っている。
「・・・二人とももういいじゃない。本当に刺されたわけでもあるまいし」
「刺されてたまりますか!」
「刺されそうになった事が既に問題なんです!」
「刺されたら今頃どうなっていたか!」
三人に責められて、残雪ざんせつは眉を寄せた。
「・・・そんなに怒る事ないじゃない。・・・こまちゃん、お茶お出しして頂戴。お茶菓子は・・・コリンがちょうど良いの持って来たわね。それ頂きましょう」
焼き菓子を見つけてコリンが持参した箱の一つを示す。
なんでこんなやつに茶なんか、と駒鳥こまどりが文句を言いながらキッチンへと向かった。
「・・・雪様、こちらは被害者ですよ?!こいつも加害者みたいなもんじゃないですか?!お茶だお菓子だなんてお角違いです。とっ捕まえた犯人の首でも耳でも持って来てからにすべきです」
辛辣にそう言う蜂鳥はちどり残雪ざんせつが苦笑した。
「またアナタ、時代劇なんだから・・・。あれほどのセレモニーですもの。準備が大変だったのは私も公邸で見ていて知ってるわ。それに、招待されて参加するお式ですもの。身辺調査も当然済んでいたのよね?」
コリンは無言で頷いた。
「・・・身辺調査をして尚の事なんですか!?警備はザルだわ、目は節穴だわ!良い加減にして!」
蜂鳥はちどりが血色ばんで叫んだが、「全くだ」とコリンに全面的に受容されてほんの少し鼻白んだ。
律儀にきっちり時間を計って茶を入れてテーブルに置いた駒鳥こまどりも戸惑っていた。
騒ぎ責め立てる姉に、もっと言ってやれと思っていたのだが。
「・・・全くだ。・・・我々は、貴方方の国の女皇帝陛下とその大切な宮宰達を殺し、更に平和の使者たる貴女まで殺してしまうところだった」
残雪ざんせつはコリンを眺めてから、少し苦労してソファから体を起こした。
彼が亡き女皇帝の事や、更には総家令やその姉妹の事を自分から積極的に話した事はあまりない。
おそらく、自分と五位鷺ごいさぎの関係を元首夫妻から事実として聞いたのだろう。
残雪ざんせつは静かな口調で話し始めた。
「・・・コリン。この話はどうしたって我が国に伝わっている事でしょう。周辺の国にも知れ渡る。私が心配しているのは、あなた達が持ち堪えられるか」
いまだ屋台骨がしっかり定まっていない状態のこの国で、この事件は国際問題になり、くすぶる火種に油を撒き散らし飛び火する事になりかねない。
「・・・・ごめんなさいね。これは悪口じゃない。・・・私が感じるところでは、この国はまだ暫定政府だわ」
コリンは何か言い返そうとして、戸惑ったようにして頷いた。
自分でもそれはわかっている。
「一つ一つ、あげつらって上から文句を言いたいわけじゃない。・・・でも、まず。官僚組織がはっきりしていない、税収も安定していないと言うより納税の策定が曖昧。軍隊が機能していない。教育指針が不明瞭。・・・・あなた方の最も標榜するリベラルな法治国家は食い荒らされて、もう無いに等しい」
ここまで一つ一つ言語化されて言われた事は無いが、その言葉の重みにコリンは鞭打たれる思いだった。
「・・・私は廷臣だけど、貴族じゃないし官僚でも家令の出身でも無い。でもその私でも、感じる事だもの。周辺の国の政に関わる人間達は、もっとずっと早くから分かってると思う。・・・ね?」
言いながら、蜂鳥はちどり駒鳥こまどりを見る。
彼らが国にどんな報告をしているか。
多分、更に突っ込んだ事実が数字で具体的に書かれているはずだ。
家令の姉弟が頷いた。
「だからと言って我々に何かその判断をする裁量はありませんから、精査し判断するのは兄弟子であり元老院であり議会であり、宮廷であり、それは、勿論、女皇帝陛下ですけれど」
「これは我々の務めでもありますから。我々が報告している事は、ご不快でもございましょうけれど、抑止力にもなっている事をお忘れくださいませんよう」
二人は当然と言うように言った。
「・・・ね。コリン。これが家令なの。困ったもんでしょ。でもね、この子達の働きのおかけで、こんな状況でも、私もフィンもこうして生きてられるのよ」
残雪ざんせつが嬉しそうに微笑んだのにコリンはさらに戸惑った。
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