高貴なる人質 〜ステュムパーリデスの鳥〜

ましら佳

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⌘2章 高貴なる人質 《こうきなるひとじち》

41.雷鳴来たる

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 雷神のような姉弟子の登場に、蜂鳥はちどり駒鳥こまどりは緊張して立ちつくしていた。
なぜ残雪ざんせつが不在の時に来るんだ。
出迎えたものの、自分達では御しきれないと青くなった。
「・・・日雀ひがらお姉様、この度は遠路はるばるようこそおいでくださいました」
「只今、残雪ざんせつ様は、公邸におかれます昼食会にてご不在です。お、おつかれさまです」
月に一度の昼食会という名の身辺調査だ。
家令の帯同は許されず、たった一人で招待される決まり。
やはり政治的な意図のある人質であるのだから仕方ないが、心配は尽きない。
元首夫人が、コリンに護衛させるし必ず無事で送り届けるからと、直接家令の姉弟に約束したからこそ受け入れてはいるが。
「・・・あら、そぅ」
妹弟子と弟弟子を一瞥して、ふんと鼻を鳴らす。
「・・・で?なんだって?あの駅で襲われたって話!?・・・アンタら二人、雁首がんくび揃えて何やってんだよ!良いかい?過失だろうが事故だろうが、人質がその国で死んだら、最悪戦争になるんだよ?!」
日雀ひがらが怒鳴りつけた。
昔は、亡くなった姉の山雀やまがらによく雷を落とされて、この日雀ひがらはネチネチタイプだったものだが、片割れが死んでどっちもやる事にしたのだろうか。
「実際人質なんかいくらでも取り替えられるんだ。それを理由に戦争なんかおっ始められる。この国の小公子あの子どもだって条件は一緒だよ。小公子あの子どもを絶対に死なせない為に私ら必死でやってんのを知らないはずないね?・・・・いいこと?私達に雪様はたった一人だけ。絶対に死なせないで」
姉弟子の剣幕に、弟妹弟子きょうだいでしが神妙な顔で頷いた。
とりあえず納得したのか、日雀ひがらが頷いた。
そしてすぐに人が変わったかのように、しなを作り初めた。
「・・・まあ、この度は仕事で来たわけじゃ無いけどぉ」
じゃ、何しに来たんだ。早よ帰れ。
とは二人は言わずに、はあ、と曖昧あいまいな返事をした。
確かに、家令服ではなくどこぞの若奥様のような格好をしている。だいぶ派手目の。
「・・・なら、一体全体どう言う名目でここにいるんですか」
「あら!気になっちゃう感じぃ?」
日雀ひがらは大将の首を取ったとでも言う表情で、左手の輝く指輪を見せた。
「・・・うわ!デッカいダイヤ!!魔除け?!」
「いくらだよこれ!?・・・ん?これ、十一じゅういち兄上が、須塔すとう家の三の姫元妻にお贈りしたものに似てる・・・?」
あの、なんだったか大袈裟な名前のつけられたえげつないダイヤ。
そうだ、あれだ、と蜂鳥はちどりも頷いた。
「・・・ご名答。陛下が十一じゅういちお兄様の結婚のお祝いに嫌々いやいや下賜した宝物殿の目録第14番よ。・・・元奥様・・・あの方ねぇ、離婚が成立したのに、なぁんでか知らないけれど、この指輪をなかなかお返し下さらなかったのよぉ。更に、東目張ひがしめばる伯夫人を、もとつけてそのまま名乗って良いかなんて言い出したのよ。そんな訳あるかっつーの。・・・陛下のご命令でねぇ、私がこちらご返却お願いにお伺いしたの。・・・あの女、箱なんか捨てやがってらっしゃってね。指輪剥き出しでテーブルの上に置いたのよ?で、その場で私がめて、まあ、ゆるぅい、ぶかぶかですわ、と言った時のあの女の顔ったら!見せてやりたかったわ!!」
どんな小狡こずるい手を使ったのか、日雀ひがらは、十一じゅういちと正式に婚約中であるらしい。
その貴族特権で、鉄道一本でここまで来たのだと得意気に言った。
「陛下に十一じゅういちお兄様と婚約しましたって申し上げたらねぇ、こっちもなぁんでか存じ上げないけど、どうしてだなんて仰って。・・・こう言う事に、どうしてなんてお聞きになるなんて野暮よねぇ。一から十までベッドの事も申し上げた方がいいかしら、でも恥ずかしいですわって申し上げたら、陛下ったら聞かなくても結構なんて言うのよぉ。・・・で、陛下にお許しを頂いて、その足で、須藤すとう家にお伺いしたってわけ。・・・ね、笑えるでしょ?ほら、笑え」
そう言って、声高らかにわらう。
なんという性格の悪さと行動力。
家令の姉弟は姉弟子の所業に震えた。

 

 日雀ひがらは腹が減ったと言い出し、勝手に焼き菓子を食べ始めた。
「・・・何これうまい。パウンドケーキにしちゃしっとりしてるわね。雪様ってやっぱり器用よね」
「あ、それは。分析官のファーガソン様がおこしらえになったものです」
日雀ひがらは、奥様お菓子サークルみたいなもんかと納得して、ふうんと返事をした。
「雪様がお怪我なさった時に、お大変だろうとお食事を作って下さって。雪様がこのケーキをお気に召したと申し上げたらその後もたまにお持ちくださるんです・・・」
「なんだって親切な方ねぇ。後で何かお礼差し上げなくちゃね。何がいいかしら、現金?」
日雀ひがらはそのまま屋敷中を見て回っている様子だった。
離宮を思い出させる、残雪が好きそうなインテリアやファブリックは、この女家令にもまた好ましいものだった。
その内、二階から怒号が響いた。
「蜂!駒!来な!」
本当に事故の後遺症で肺が片方無いのかと思う程の大声で呼びつけられて、姉弟は慌てて階段を駆け上がった。
姉弟子は女主人の私室で待っていた。
私室だと気が引けながらも二人は、そっと部屋に入って日雀ひがらに近付いた。
ベッドサイドの大きな化粧台ヴァニティ・ドレッサーの一番下の段にある棚の下が隠し扉になっているようだった。
「・・・これ、宝飾品をしまっておいたりするものですよね」
「そう。あとは女はこれとかね。・・・でもこんな大物だとはびっくりだけど」
と言って、中から出て来たケースを見せる。
まるで楽器でも収納するような大きさで、螺鈿らでんで美しく細工されていた。
貴重な宝石類や弦楽器でも入っているのだろうかと思うようなしつらえ。
日雀ひがらが無言で箱を開けた。
中から出てきたのは、どう見ても楽器でも宝飾品でも無い。
「・・・・なんですか・・・これ?!」
「見りゃわかんだろ。ライフルだよ。ボルトハンドルの端っこに雪の結晶の刻印。六花ろっか花弁かべんて名前でね。蛍石ほたるいし様と五位鷺ごいさぎお兄様が作らせて雪様に贈ったものだよ」
日雀ひがらが懐かしそうにちょっとだけ微笑んだ。
「・・・十一じゅういちお兄様が、五位鷺ごいさぎお兄様の残った亡骸と一緒にキルンで燃やしたと言ってたけど・・・やっぱり、嘘だった・・・」
そう言って、妹弟子と姉弟子に向き直る。
「雪様、護身用にお持ちになったのでしょうか?」
「ライフルだよ?サファリでライオンだのサイでもいるんなら、そりゃ護身用だろうけど」
蛍石ほたるいし様と五位鷺ごいさぎお兄様の思い出の品だからお持ちになったのでしょうか?」
「まあ、それもあるでしょうけどね」
日雀ひがらは、螺鈿らでん細工の箱をもとに戻し、話を変えた。
デスクの上にある分厚い日報の控えを眺める。
「・・・大体ね、バイトじゃないんだから、アンタらは別として雪様に日報なんかいらないのよ」
「・・・じゃあ、なんでわざわざ書かせてるんですか。雪様、毎日そんなに書く事ないって困ってますよ」
「趣味よ趣味。十一じゅういちお兄様の娯楽楽しみよ」
意外な答えに、蜂鳥はちどりが目を丸くした。
「・・・待って。じゃ、十一じゅういちお兄様、橄欖かんらん様も日雀ひがらお姉様の事も、めんどくさいから相手しないんじゃないの?・・・雪様の為なの?」
「なんて失礼な子だろ!何よ、めんどくさいって!あの女皇帝はそうだろうけど、私のどこがめんどくさいの!?・・・じゃあさぁ、私のめんどくさいとこ10個言ってみなよ!」
「・・そういうとこ・・・」
返事に日雀ひがらが舌打ちした。
「・・・十一じゅういちお兄様は雪様がどうしたって忘れられない。・・・十一じゅういちお兄様よ、ああいうのが本当のめんどくさいタイプよ?何するかわかんないもの。・・・雪様、間違いなく十一じゅういちお兄様のモチベーションだもの」
悲しそうに、嬉しそうに言う姉弟子に、家令の姉弟は何とも言えずに押し黙っていた。
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