3 / 62
⌘1章 雲母の水底 《きららのみなぞこ》
3.月の雫
しおりを挟む
残雪は、母親達に風呂に入って来いと言われ、すっかりすっきりし、テーブルにあるものを食べて、もう眠そうな表情のまま五位鷺の話を聞いていた。
よく見るとなかなか可愛らしい。
かなりマイペースそうだが。
それはこの家の人間の特性のようだが。
話を聞いて思い当たる節があったらしく、ああ、と顔をあげた。
「先月、台風の日に、海で」
そこまで言うと、春北風が顔色を変えた。
「雪ちゃん!台風が来てる日は海行っちゃダメって言ってたでしょ?!」
「だって花火大会だったじゃない。私、ちゃんと浴衣着て行ったんだから」
「風速40mで?花火なんて打ち上がらないわよ」
「そう、中止になったの。仕方ないから帰ろうと思ったら岸壁で遊んでた人がいたんです。危ないからダメって注意しました。その事ではないですか?」
五位鷺が残雪を見た。
大分話が違うようだ。
「浜辺の波打ち際で、波に足元をすくわれそうになったのをお助け頂いたのでは?」
「もう満潮だし、浜はもう見えませんでしたけど。浜ではなく、あそこ岸壁よ?」
「では、岸壁で。海に攫われて転げ落ちそうだったのを身を挺してお助け頂いた、でもなく?」
「でっかい声で、危ないからどいてなって言っただけです。怪我でもされたの?」
「いや、お陰様でと申しますか、無事で・・・」
「そう、よかった。でも、あんな台風の日にあんなところいたら危ないんだから」
自分の事を棚に上げて残雪はそう言った。
「それでは、あのう、何か、こう・・・」
感じましたか。例えば、運命。
運命なんだって言ってるひとがいるんですよ。
とは、あまりにバカバカしくて聞くのは止めた。
彼女に全くその様子はないではないか。
自分が立場を明らかにして、皇帝の遣いだと告げても、ピンと来ていない様子なのがその証拠。
「・・・佐保姫残雪殿、こちら、月の雫と言う名を冠された首飾りなのですが、陛下より貴殿が賜りますお品でして」
残雪は、見せられた箱に綺麗な重箱ね。なんて少し喜んだが、中の見事な真珠のネックレスには、むしろ、怖い、やめて、そんな理由がないと拒否感を見せた。
黒北風と春北風が成り行きに微笑み合った。
「どうやら、お話の行き違いのようですわね」
「・・・よく精査して参ります」
そう言って五位鷺は棕櫚家を辞した。
宮城に戻った五位鷺はすっかり首尾よく事が運んだのだろうと思い込んでいる蛍石と対峙した。
「間違いのようです」
「何がよ?間違いないわよ!」
棕櫚家から山のように持たされた菓子を珍しそうにつまんでいた蛍石が叫んだ。
「何が、浜辺で命を助けられたですか?危険行為を注意されただけでしょう?」
「だれが浜辺と言ったのよ!波打ち際と言ったでしょ」
「岸壁にぶつかって来る大波を、波打ち際とは言いませんよ!」
「あのままだったら私、死んでたかもしれない。命の恩人には変わらないわ!お前に2人の思い出を汚された気分だわ!この能無し!」
剣幕に五位鷺はため息をついた。
「陛下。大事なことをお忘れではないでしょうか」
努めて冷静に続ける。
「陛下の熱い気持ちはわかりました。ですが、残雪様には、それはないのではないですか?」
え?と蛍石が聞き返した。
「だってお前。私、命を助けられて・・・」
そこからもう齟齬が生じているのだ。
「陛下。ようく思い出して下さい。棕櫚佐保姫残雪は、陛下に"危ないから注意した"と仰ってました」
「・・・出会った瞬間に、お互い恋に落ちたのではないの?」
「違います。少なくとも、棕梠嬢にとったら、ただバカを少し注意しただけの話」
五位鷺は、螺鈿の箱をテーブルに置いた。
「先方におかれましては、賜るいわれが無いとの事です」
月の雫は、受け取られずにそのまま戻って来た。
明らかな拒否。
「そんな」
蛍石は口元を押さえた。
よく見るとなかなか可愛らしい。
かなりマイペースそうだが。
それはこの家の人間の特性のようだが。
話を聞いて思い当たる節があったらしく、ああ、と顔をあげた。
「先月、台風の日に、海で」
そこまで言うと、春北風が顔色を変えた。
「雪ちゃん!台風が来てる日は海行っちゃダメって言ってたでしょ?!」
「だって花火大会だったじゃない。私、ちゃんと浴衣着て行ったんだから」
「風速40mで?花火なんて打ち上がらないわよ」
「そう、中止になったの。仕方ないから帰ろうと思ったら岸壁で遊んでた人がいたんです。危ないからダメって注意しました。その事ではないですか?」
五位鷺が残雪を見た。
大分話が違うようだ。
「浜辺の波打ち際で、波に足元をすくわれそうになったのをお助け頂いたのでは?」
「もう満潮だし、浜はもう見えませんでしたけど。浜ではなく、あそこ岸壁よ?」
「では、岸壁で。海に攫われて転げ落ちそうだったのを身を挺してお助け頂いた、でもなく?」
「でっかい声で、危ないからどいてなって言っただけです。怪我でもされたの?」
「いや、お陰様でと申しますか、無事で・・・」
「そう、よかった。でも、あんな台風の日にあんなところいたら危ないんだから」
自分の事を棚に上げて残雪はそう言った。
「それでは、あのう、何か、こう・・・」
感じましたか。例えば、運命。
運命なんだって言ってるひとがいるんですよ。
とは、あまりにバカバカしくて聞くのは止めた。
彼女に全くその様子はないではないか。
自分が立場を明らかにして、皇帝の遣いだと告げても、ピンと来ていない様子なのがその証拠。
「・・・佐保姫残雪殿、こちら、月の雫と言う名を冠された首飾りなのですが、陛下より貴殿が賜りますお品でして」
残雪は、見せられた箱に綺麗な重箱ね。なんて少し喜んだが、中の見事な真珠のネックレスには、むしろ、怖い、やめて、そんな理由がないと拒否感を見せた。
黒北風と春北風が成り行きに微笑み合った。
「どうやら、お話の行き違いのようですわね」
「・・・よく精査して参ります」
そう言って五位鷺は棕櫚家を辞した。
宮城に戻った五位鷺はすっかり首尾よく事が運んだのだろうと思い込んでいる蛍石と対峙した。
「間違いのようです」
「何がよ?間違いないわよ!」
棕櫚家から山のように持たされた菓子を珍しそうにつまんでいた蛍石が叫んだ。
「何が、浜辺で命を助けられたですか?危険行為を注意されただけでしょう?」
「だれが浜辺と言ったのよ!波打ち際と言ったでしょ」
「岸壁にぶつかって来る大波を、波打ち際とは言いませんよ!」
「あのままだったら私、死んでたかもしれない。命の恩人には変わらないわ!お前に2人の思い出を汚された気分だわ!この能無し!」
剣幕に五位鷺はため息をついた。
「陛下。大事なことをお忘れではないでしょうか」
努めて冷静に続ける。
「陛下の熱い気持ちはわかりました。ですが、残雪様には、それはないのではないですか?」
え?と蛍石が聞き返した。
「だってお前。私、命を助けられて・・・」
そこからもう齟齬が生じているのだ。
「陛下。ようく思い出して下さい。棕櫚佐保姫残雪は、陛下に"危ないから注意した"と仰ってました」
「・・・出会った瞬間に、お互い恋に落ちたのではないの?」
「違います。少なくとも、棕梠嬢にとったら、ただバカを少し注意しただけの話」
五位鷺は、螺鈿の箱をテーブルに置いた。
「先方におかれましては、賜るいわれが無いとの事です」
月の雫は、受け取られずにそのまま戻って来た。
明らかな拒否。
「そんな」
蛍石は口元を押さえた。
1
あなたにおすすめの小説
【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます
腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった!
私が死ぬまでには完結させます。
追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。
追記2:ひとまず完結しました!
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
屈辱と愛情
守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。
裏切りの代償
中岡 始
キャラ文芸
かつて夫と共に立ち上げたベンチャー企業「ネクサスラボ」。奏は結婚を機に経営の第一線を退き、専業主婦として家庭を支えてきた。しかし、平穏だった生活は夫・尚紀の裏切りによって一変する。彼の部下であり不倫相手の優美が、会社を混乱に陥れつつあったのだ。
尚紀の冷たい態度と優美の挑発に苦しむ中、奏は再び経営者としての力を取り戻す決意をする。裏切りの証拠を集め、かつての仲間や信頼できる協力者たちと連携しながら、会社を立て直すための計画を進める奏。だが、それは尚紀と優美の野望を徹底的に打ち砕く覚悟でもあった。
取締役会での対決、揺れる社内外の信頼、そして壊れた夫婦の絆の果てに待つのは――。
自分の誇りと未来を取り戻すため、すべてを賭けて挑む奏の闘い。復讐の果てに見える新たな希望と、繊細な人間ドラマが交錯する物語がここに。
愛しているなら拘束してほしい
守 秀斗
恋愛
会社員の美夜本理奈子(24才)。ある日、仕事が終わって会社の玄関まで行くと大雨が降っている。びしょ濡れになるのが嫌なので、地下の狭い通路を使って、隣の駅ビルまで行くことにした。すると、途中の部屋でいかがわしい行為をしている二人の男女を見てしまうのだが……。
若奥様は緑の手 ~ お世話した花壇が聖域化してました。嫁入り先でめいっぱい役立てます!
古森真朝
恋愛
意地悪な遠縁のおばの邸で暮らすユーフェミアは、ある日いきなり『明後日に輿入れが決まったから荷物をまとめろ』と言い渡される。いろいろ思うところはありつつ、これは邸から出て自立するチャンス!と大急ぎで支度して出立することに。嫁入り道具兼手土産として、唯一の財産でもある裏庭の花壇(四畳サイズ)を『持参』したのだが――実はこのプチ庭園、長年手塩にかけた彼女の魔力によって、神域霊域レベルのレア植物生息地となっていた。
そうとは知らないまま、輿入れ初日にボロボロになって帰ってきた結婚相手・クライヴを救ったのを皮切りに、彼の実家エヴァンス邸、勤め先である王城、さらにお世話になっている賢者様が司る大神殿と、次々に起こる事件を『あ、それならありますよ!』とプチ庭園でしれっと解決していくユーフェミア。果たして嫁ぎ先で平穏を手に入れられるのか。そして根っから世話好きで、何くれとなく構ってくれるクライヴVS自立したい甘えベタの若奥様の勝負の行方は?
*カクヨム様で先行掲載しております
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる