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劣等感

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 レイサスは、物心がついた時から常に優秀な兄と比べられてきた。見目も良く、社交的で人当たりの良い兄は、人の心を掴むのも上手だった。大きくなるにつれ両親はもちろん、たくさんの令嬢達が兄に夢中になるのを見てきた。どの令嬢も、兄の前では美しく着飾り、可愛らしく頬を染めていたが、それが弟のレイサスに向けられることはなかった。決して家族からの愛情がなかった訳ではない。しかし、兄に対し見えない劣等感は常に抱いていたのだ。そんなレイサスだったが、高い運動能力と剣術の才脳だけは幼い頃より兄を上回っていた。それは、レイサスにとって唯一誇れるものだったし、いつか騎士になりたいという将来の夢の為に、毎日剣の修行に励んでいた。

 そんな中、一人の少女がレイサスの前に現れた。レイサスに話しかけ、ニコニコと微笑み、レイサスの剣の腕前を褒めてくれたのだ。自分に優しく接してくれる少女に、まだ子供だったレイサスは直ぐに心を奪われた。ワクワクしながら彼女が再び訪れるのを待つ日々は、レイサスにとって心がくすぐられる思いだった。兄ではなく自分を選んでくれたことが、とても嬉しかったのだ。しかし、無情にも少女の本心を知ってしまうまでに、それほど時間はかからなかった。結局少女の目当ても兄だったのだ。質の悪いことに、弟のレイサスを利用して兄に近づこうとする、一番最悪な女の子だった。

 事実を知ったレイサスは、酷く落ち込み、自信を失った。元々少なかった口数が更に減り人と話をしなくなると、次第に他人に対しての興味も失っていった。家族以外誰も愛せないし、誰も信じることができなかった。誰の前でも、常に仮面のような無表情のレイサスを心配して、両親が数人の令嬢との縁談話を持ってきたのだが、怖そうな外見と何も話さないレイサス相手に、どの令嬢も尻込みしてしまい、まともな会話にすらならなかった。

 常に一人だったレイサスは、剣を振る以外の時間は、よく本を読んで時間をつぶしていた。他にすることもなかったから最初は渋々読んでいた記憶があるが、毎日なんとなくページを開くようになると、次第に本の世界に引き込まれていくようになった。そんなレイサスも学園に入る頃にはすっかり本を読むことが日課になっていた。

 学園の図書室。この静かな空間が好きだった。誰も気付かないような場所に、ひっそりと置かれた机。そこに窮屈そうに並べられた三脚の椅子。窓から外の景色が見えるこの場所がレイサスのお気に入りだった。時間を見つけてはここに通って本を読んだ。昼食もここへ来て一人で食べていた。放課後の騎士科の鍛練後も、真っ直ぐ部屋には戻らないで、この場所で夕日に照らされながら本を読んで帰るようになった。レイサスにとって、この場所は、やかましい学園生活の中で、唯一心の休まる居心地の良い場所になっていた。

 そんな大切なこの場所に、ある日フローレンスはいきなり現れたのだ。
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