ストーキング ティップ

ろくろくろく

文字の大きさ
4 / 68

出会い?

しおりを挟む
広い構内には様々な学舎が建っており、それぞれに聖心館だの信心館だのと大層な名前が付いている。
学生サロンと呼ばれている興進館は軽いカフェを併設した談話目的のフリースペースの為、比較的目立つ場所に建っていた。
デッキ仕様のテラスが建物をグルリと囲い、はめ殺しのガラスからは楽しそうに集う学生達の姿が見える。

「入り……にくい……」

全く無縁の世界に思えて足がすくむが、基本的には幅の広い年齢層がそれぞれの目的にあった群れを作る為、「仲間では無い奴は透明」という世界だ。
誰も注意を払っていないのだから無駄な気後れをする前にさっさと用を済ませばいいと、重い手押しのガラスドアを開けて中に入った。

広くてゆったりとした席間を取る為か平べったい印象の中、パラパラと埋まる「フリー」な「スペース」ですぐに目に付いたのは妙に女子率の高い学生の塊だった。
クリスの姿は見えないがチラチラとうちわが見切れているからそこにいるのだろう。
誰かに声を掛けるのはかなりハードルが高くて恨めしい使い古された本を睨んだ。

その時に足を止めてしまったせいだろう、ドンと肩を押されてよろけてしまった。
しかし、ぶつかって来た女子は振り返りもせず、まるで何事も無かったように行ってしまう。
本当に……仲間で無い奴は透明なのだ。

何だか馬鹿らしくなって、やられた事をそのまま繰り返した。つまり、手近にいた学生に「クリスさんに渡して」と本を押し付け出口のドアに向かった。

「クソ重い……」

入る事も出る事も拒むような重厚なガラスのドアは息苦しさすら産む。早く立ち去りたくて歩く勢いのまま押し開けたら手首を少し捻ったくらい重い。とんだとばっちりを受けた気分でドアを押し開け、足を踏み出そうとすると突然だった。
体の向きが変わる程の力で肩を掴まれて驚いた。

何故か少し息を荒げ、絵に描いたような美しい目を見開いて「大丈夫?」と聞いたのがクリスだった。

それからだ。
見かけたら手を振ってくるようになった。

最初は自分に向けて手を振っているとは思わなくて無視をしていた。
そしたら今度は手を振りながら近づいて来るようになった。
彼に取っては何でもないキャンパスライフの一コマなのかもしれないが中途半端な知り合いが最も苦手なのだ、クリスを見かけたら逃げるようにした。
しかし、逃げたら追いかけて来てまで逃げ腰のボッチから「おはようございます」を奪い取っていく。

クリスが何をしたくて何を考えているかがわからない。
大学に行っても一言も話さず帰ってくるなんて事が頻繁にあったからそれはいいのだが、烏滸がましいくてとてもじゃ無いがクリスと友達だなんて言えない。
彼が人気者なのは何も顔がいいからだけではないだ、誰にでも優しいし思ったよりも気さくだし、親切だと思う。

だから……もしかしてボッチなのを気付かれて同情されているのかと思う。
もしそうなら放っておいて欲しいのが本音だった。

ボッチでいるには理由があるのだ。

小さい頃は変な奴だとよく言われた。
気味が悪いとも言われた。
早口で交わされる会話に付いて行けず、言葉が音になり意味を拾えない。
要求される返事が出来ない。
その為か小学生の頃は軽いイジメもあったのだが、中学を終える頃からだろうか、急かされる答えに詰まっていると怒っていると誤解を産んだのだと思う。腫れ物を扱うように誰もが遠巻きになっていた。
大人になった今は随分とマシになったのだろう、今なら何が悪かったのかわかってはいるが、相変わらずフリートークは苦手なのだ。
何を話していいかわからないから会話が尽きて間が開くのが嫌だった。
焦ったり冷や汗をかくのが嫌だった。

だから……だから……挨拶なんかいらないのに、出来れば話しかけて欲しくないのに、何故お昼を一緒に食べなければならないのか。
何故こうなったのか。

何もわからないまま、クリスの隣に座った。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

後宮の男妃

紅林
BL
碧凌帝国には年老いた名君がいた。 もう間もなくその命尽きると噂される宮殿で皇帝の寵愛を一身に受けていると噂される男妃のお話。

鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる

結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。 冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。 憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。 誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。 鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。

【完結】抱っこからはじまる恋

  *  ゆるゆ
BL
満員電車で、立ったまま寄りかかるように寝てしまった高校生の愛希を抱っこしてくれたのは、かっこいい社会人の真紀でした。接点なんて、まるでないふたりの、抱っこからはじまる、しあわせな恋のお話です。 ふたりの動画をつくりました! インスタ @yuruyu0 絵もあがります。 YouTube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。 プロフのwebサイトから飛べるので、もしよかったら! 完結しました! おまけのお話を時々更新しています。 BLoveさまのコンテストに応募しているお話を倍以上の字数増量でお送りする、アルファポリスさま限定版です! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!

執着

紅林
BL
聖緋帝国の華族、瀬川凛は引っ込み思案で特に目立つこともない平凡な伯爵家の三男坊。だが、彼の婚約者は違った。帝室の血を引く高貴な公爵家の生まれであり帝国陸軍の将校として目覚しい活躍をしている男だった。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

魔王の息子を育てることになった俺の話

お鮫
BL
俺が18歳の時森で少年を拾った。その子が将来魔王になることを知りながら俺は今日も息子としてこの子を育てる。そう決意してはや数年。 「今なんつった?よっぽど死にたいんだね。そんなに俺と離れたい?」 現在俺はかわいい息子に殺害予告を受けている。あれ、魔王は?旅に出なくていいの?とりあえず放してくれません? 魔王になる予定の男と育て親のヤンデレBL BLは初めて書きます。見ずらい点多々あるかと思いますが、もしありましたら指摘くださるとありがたいです。 BL大賞エントリー中です。

【完結】※セーブポイントに入って一汁三菜の夕飯を頂いた勇者くんは体力が全回復します。

きのこいもむし
BL
ある日突然セーブポイントになってしまった自宅のクローゼットからダンジョン攻略中の勇者くんが出てきたので、一汁三菜の夕飯を作って一緒に食べようねみたいなお料理BLです。 自炊に目覚めた独身フリーターのアラサー男子(27)が、セーブポイントの中に入ると体力が全回復するタイプの勇者くん(19)を餌付けしてそれを肴に旨い酒を飲むだけの逆異世界転移もの。 食いしん坊わんこのローグライク系勇者×料理好きのセーブポイント系平凡受けの超ほんわかした感じの話です。

転生したら、主人公の宿敵(でも俺の推し)の側近でした

リリーブルー
BL
「しごとより、いのち」厚労省の過労死等防止対策のスローガンです。過労死をゼロにし、健康で充実して働き続けることのできる社会へ。この小説の主人公は、仕事依存で過労死し異世界転生します。  仕事依存だった主人公(20代社畜)は、過労で倒れた拍子に異世界へ転生。目を覚ますと、そこは剣と魔法の世界——。愛読していた小説のラスボス貴族、すなわち原作主人公の宿敵(ライバル)レオナルト公爵に仕える側近の美青年貴族・シリル(20代)になっていた!  原作小説では悪役のレオナルト公爵。でも主人公はレオナルトに感情移入して読んでおり彼が推しだった! なので嬉しい!  だが問題は、そのラスボス貴族・レオナルト公爵(30代)が、物語の中では原作主人公にとっての宿敵ゆえに、原作小説では彼の冷酷な策略によって国家間の戦争へと突き進み、最終的にレオナルトと側近のシリルは処刑される運命だったことだ。 「俺、このままだと死ぬやつじゃん……」  死を回避するために、主人公、すなわち転生先の新しいシリルは、レオナルト公爵の信頼を得て歴史を変えようと決意。しかし、レオナルトは原作とは違い、どこか寂しげで孤独を抱えている様子。さらに、主人公が意外な才覚を発揮するたびに、公爵の態度が甘くなり、なぜか距離が近くなっていく。主人公は気づく。レオナルト公爵が悪に染まる原因は、彼の孤独と裏切られ続けた過去にあるのではないかと。そして彼を救おうと奔走するが、それは同時に、公爵からの執着を招くことになり——!?  原作主人公ラセル王太子も出てきて話は複雑に! 見どころ ・転生 ・主従  ・推しである原作悪役に溺愛される ・前世の経験と知識を活かす ・政治的な駆け引きとバトル要素(少し) ・ダークヒーロー(攻め)の変化(冷酷な公爵が愛を知り、主人公に執着・溺愛する過程) ・黒猫もふもふ 番外編では。 ・もふもふ獣人化 ・切ない裏側 ・少年時代 などなど 最初は、推しの信頼を得るために、ほのぼの日常スローライフ、かわいい黒猫が出てきます。中盤にバトルがあって、解決、という流れ。後日譚は、ほのぼのに戻るかも。本編は完結しましたが、後日譚や番外編、ifルートなど、続々更新中。

処理中です...