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直接対決

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宰相であるハリソン・ダールからドルトレッド伯爵家に、事件の見舞いに訪れたいという連絡が届いたのは、フレッドが巻き込まれた窃盗事件から一月ほど後の春の終わりのことだった。

今更ではあるが、ただの口実なのはお互いに分かっているので、早々に日取りは決められた。

視察も兼ねているということでセドリックを含む護衛を引き連れたハリソンは、定刻に伯爵家を訪れた。

庭がちょうど見頃だからと案内された東屋はガーデンパーティーが出来るほど広く、ハリソンの護衛たちも離れた場所で待機していた。

セドリックは、接待にいそしむメイドたちを目で追っていたが、あの雨の日に出会った3人の少女は見当たらなかった。

メイ、サラ、マリとメリー(メイベル)は東屋の物置で様子を伺い、マイクとフレッドとフィルは目立たない片隅で他の庭師たちと庭の手入れをしている振りをしていた。

マイクはもちろん片耳を飛ばしていたし、フレッドもフィルもハリソンを読み取ろうとしていた。

「何かよく分からない世間話ばっかりしてる。伏線?だとしてもこれじゃ分かんないな」
「それが大人ってもんなんじゃないの?なんかもうあの人バリアがスゴくって何を考えてるのかなんて読めないよ。フィル先輩は?」
「真っ黒だな、あいつ。悪者なのは確定」
「「それはみんな知ってる」」
「ごもっともだな」

アンドレ(オーガスト)は、新しい庭師の親方として紹介されるために、イグナス・ドルトレッド伯爵とハリソンとの面談に同席していた。

「この度はご足労有り難く存じます、宰相殿」
「伯爵が息災で何よりですな。大変な目に遭ったそうで、見舞いが遅れて申し訳ない」
「お忙しい中、お心遣い痛み入ります」
「ここに来る前に隣の侯爵家の領地を通ったが橋の補修は順調なようだな」
「そのようですね。もともと橋が2つ架かっていたのが功を奏したと仰っていました」
「2つめの橋を架けるのは無駄だと、一度却下されたのではなかったかな?」
「そうでしたね。しかし老朽化が進んでいましたから」


「さて、前置きが長くなってしまったな。そちらの御仁が待ちくたびれてしまう。伯爵、紹介してもらえるか?」
「はい。こちらは新しく庭師の親方に就任された…」
「もう茶番はいいだろう。久しぶりだな、ハリソン・グレイグ。いや、今はハリソン・ダール宰相殿か」
「相変わらずモサモサと地味な男だな、オーガスト。サティはどうしている?」
「さあね。どこかで元気にやってるだろう」
「どこか、か。どこだろうな?無事でいるといいが」
「どういう意味だ?」
「ふん、何の策も打たずに敵地に乗り込む訳が無いだろう。今頃は“辺境伯の子供たち”に属する貴族や商家、施設に一斉査察が入っている。証拠も上がっているから摘発は免れないぞ。この伯爵家も同様にな」

マイラー・ネルソンには逃げられたが、その後芋蔓式に見付けた所には慎重に根回ししてきた。
“辺境伯の子供たち”による2度目の粛清からですら30年以上経っている。
1度目など歴史の教科書に載るほどの昔話だ。
再び“辺境伯の子供たち”が都市伝説化している今、その組織が形骸化して堕落したと世論に思わせられれば私に勝機はある。
万が一、証拠の捏造が見付かってもそれはノーマンがやったことにすればいい。

昨日、森の中の別荘で確認したが、ノーマンもオスカーも項垂れてはいたが健康体だった。

マイラー・ネルソンへの疑惑も、勝手に後妻を迎えて堕落した老父への当て付けだったことにしてもいいし、秘かに“辺境伯の子供たち”に反発していたとかでもいい。
理由は何でもいい。
全て押し付けて追い詰めたら、うっかり何処か高い所から落ちてしまうかもしれないな。

ほくそ笑むハリソンを冷たい目で見ながらオーガストは言った。

「う~ん、お前じゃなかったらちょっとぐらいは『なんだと?!』とかって乗ってやっても良かったんだけど、全然そんな気にならんなあ」

「なんだと?!」

「ふっ。お前、それ、ワザとか?」

「ふざけるな!一斉査察!からの一斉摘発だ!ここにだって麻薬栽培の疑いが掛かってる!」

「へえ、そうなんだ。知らなかったなあ。知ってたけど。あんまり罪状のレパートリー無いよな?」

「そんなに呑気にしていていいのか?ここで預かってるネルソンの三男坊が居るだろう?その長兄は私の部下だが、横領が見付かって行方不明だぞ」 

「それで?」

「は…?だから行方不…」

「お呼びでしょうか?宰相閣下」

「は……オス、カー…?なぜここに…?」

「弟がお世話になっている伯爵家に私が居ることはそんなに狼狽えるようなことですか?それとも、の私がここに居ることが不思議なのですか?」

東屋の物置からふらりと現れたオスカーを見たハリソンは驚愕した。
セドリックはボスの異変を察知したが、オスカーの顔を知らなかったので何が起こったのか分からなかった。

「セドリックさんって、ただの手下って感じだね。何も知らされてないんだ。ただビックリしてる」

フレッドがマイクとフィルに囁いた。

「さて、前置きが長くなってしまったかな?
種明かしと本題に入ろう」

オーガストが、にこやかに言った。



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