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西方の亜人
第二話
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森の奥へ進む。ずっと奥へ、更に奥へ進む。どれだけ歩いたかは定かではないけど、空高くにあった太陽が沈み始めるほど長く歩き続けた。
見えてきたのは一つの洞窟だ。とてもひんやりとしていて肌寒いけど我慢出来ないほどではなかった。洞窟の入口にはよく分からない装飾がされていた。亜人の伝統か何かだとは思うけど。
亜人達はその洞窟の前で立ち止まり、お祈りをするように片膝をつき頭を垂れる。
「……奥で眠っている。行ってきな」
「そうさせてもらうよ。スーレ、行こ」
気を利かせてくれたのか、私達だけで行かせてくれた。
洞窟の中に入ると、いくつもの死体が安置されていた。亜人のもあれば普通の人間のもある。どうやら墓所のようだね。
丁寧に保管されているのがよく分かる。亜人の毛並みは綺麗に梳かれており、人間には死化粧が施されている。
「皆さん綺麗ですね」
「うん、丁重に弔ってくれているのが感じ取れるね」
歩き続けて奥へ進むと彼女がいた。あぁ、本当に、亡くなってしまったんだね。
ミアは西方の墓地で穏やかに眠っていた。満足したように目をつぶって二度と目を覚まさない。
「ミア様っ……」
スーレはミアの事を見ると涙を浮かべて、台に縋り付き肩を揺らし始めた。
勿論私だって悲しい。泣きたいし怒りだって感じる。けどこんなに穏やかに死なれたら、怒るものも怒れなくなる。
私はミアの頭を撫でながらお疲れ様、と呟いた。
「スーレ、私はあの亜人と話してくるよ。君はもう少しだけ、ミアの傍にいてあげて」
「分かり、ましたっ」
涙で顔をクシャクシャにしたスーレの頭を撫でて、私は洞窟を戻り入口へと歩いていった。
どうするべきか考えていた。彼女らは多分帝国とは一切関係ない。そして復讐すべきではないと私は思った。多分だけどミアは、満足したんだ。彼女が穏やかに眠れているなら、私はそれでいい。
洞窟の外に出るとアルファが海の方向を睨み付けていた。森の奥地から海の様子が分かるなんて、凄い鼻と目だよ。
「おや、もういいのかい?」
「うん、それよりも何かあった?」
周囲を囲む亜人達も警戒するように牙を見せていた。
私がそう問いかけると、肩を竦めながら「厄介なお客さんが来た」と面倒そうにため息を吐く。
「実はアンタらが来る前に一隻の軍艦がやってきたのさ」
「あぁなるほど」
どうやら向こうの誰かがこの西方大陸に接触を試みたらしい。
「一緒に世界を救おうだのなんだと宣いやがって、勿論断ったね」
ふぅん、とアルファの話を聞きつつ再びやってきた黒船をどうするのかと聞いた。
「戦うのは好きだ。けど誰と肩を並べるかを決めるのは、アタシ達さ」
「なら、私達とどう?」
「まぁ待ちなよ。先にお客さんの話を聞いてからにしようじゃない」
私は戦力が増えることを僅かに期待して口角が上がるのを我慢し、洞窟の中で泣いているであろうスーレに声をかけた。
「スーレ! 行くよ!」
「さて、どうしたもんか」
砂浜に戻った私達は帝国の旗を掲げた巨大な軍艦を眺めていた。
先代の魔帝、つまりは私のお母さんの記憶で見た「戦艦ユスティーツ」この世界で唯一鉄で作られた軍艦だ。何十門もの大砲に堅固な装甲、木造船なんて軒並み旧世代の遺物とかしちゃうよ。
それにしても私達が乗ってきた船、やられたらしい。浜辺に死体が流れ着いてるしね。
「仕方ない。ここは一つ席でも設けるかな」
吸殻で簡素なテーブルと椅子を作り、比較的固い砂の上に設置してその場に座って待つことにした。
アルファ達が亜人ということもあり、多分来るのは亜人、レオンハルトは確実だ。
待つこと三十分ほど、一艘の小舟が向かってくるのが確認出来た。大きさからしてレオンハルトともう一人は勇者様だ。
「アイリス様、もしもの場合は私の後ろに」
「ありがと。けど、スーレじゃあの二人には絶対に敵わないからやめとく」
「ぐすん……」
ですよね、と苦笑いしながら涙を流すスーレを笑っていると、小舟が無事砂浜へと辿り着いた。
「……アイリスっ」
「お久しぶり二人とも、おっと剣と魔法は無しだよ? 文明人らしく話をしよう」
私の姿を見るやいなや腰に携えた剣をすぐに抜こうとする二人を制止し、席に座るように促した。
かつての仲間だとしても今はもう何とも思わない。だからこそゆっくりと落ち着いて話が出来る。
「よしそれじゃ両陣営を歓迎しよう」
「アルファ、茶番はよせ」
「驕るなよレオンハルト」
私達とは険悪な雰囲気になるのは分かるんだけど、どうやらアルファとレオンハルトの睨み合いが自然界過ぎて超怖い。
「まぁほら、皆さん落ち着いて話をしようって言ってるじゃないですか」
「造形物は黙ってなさい」
「否定はしませんが、無駄な事をするために来た訳では無いでしょう。そちらも、こちらも」
スーレをお披露目したのは今回が初めてだけど、存外進行役とかそういうのが適任なようだね。
「スーレ、進行を頼むよ」
「はいアイリス様、お任せ下さい!」
こうして一触即発の雰囲気の中、西方大陸をお互いどうするのかを話し合うことになった。
見えてきたのは一つの洞窟だ。とてもひんやりとしていて肌寒いけど我慢出来ないほどではなかった。洞窟の入口にはよく分からない装飾がされていた。亜人の伝統か何かだとは思うけど。
亜人達はその洞窟の前で立ち止まり、お祈りをするように片膝をつき頭を垂れる。
「……奥で眠っている。行ってきな」
「そうさせてもらうよ。スーレ、行こ」
気を利かせてくれたのか、私達だけで行かせてくれた。
洞窟の中に入ると、いくつもの死体が安置されていた。亜人のもあれば普通の人間のもある。どうやら墓所のようだね。
丁寧に保管されているのがよく分かる。亜人の毛並みは綺麗に梳かれており、人間には死化粧が施されている。
「皆さん綺麗ですね」
「うん、丁重に弔ってくれているのが感じ取れるね」
歩き続けて奥へ進むと彼女がいた。あぁ、本当に、亡くなってしまったんだね。
ミアは西方の墓地で穏やかに眠っていた。満足したように目をつぶって二度と目を覚まさない。
「ミア様っ……」
スーレはミアの事を見ると涙を浮かべて、台に縋り付き肩を揺らし始めた。
勿論私だって悲しい。泣きたいし怒りだって感じる。けどこんなに穏やかに死なれたら、怒るものも怒れなくなる。
私はミアの頭を撫でながらお疲れ様、と呟いた。
「スーレ、私はあの亜人と話してくるよ。君はもう少しだけ、ミアの傍にいてあげて」
「分かり、ましたっ」
涙で顔をクシャクシャにしたスーレの頭を撫でて、私は洞窟を戻り入口へと歩いていった。
どうするべきか考えていた。彼女らは多分帝国とは一切関係ない。そして復讐すべきではないと私は思った。多分だけどミアは、満足したんだ。彼女が穏やかに眠れているなら、私はそれでいい。
洞窟の外に出るとアルファが海の方向を睨み付けていた。森の奥地から海の様子が分かるなんて、凄い鼻と目だよ。
「おや、もういいのかい?」
「うん、それよりも何かあった?」
周囲を囲む亜人達も警戒するように牙を見せていた。
私がそう問いかけると、肩を竦めながら「厄介なお客さんが来た」と面倒そうにため息を吐く。
「実はアンタらが来る前に一隻の軍艦がやってきたのさ」
「あぁなるほど」
どうやら向こうの誰かがこの西方大陸に接触を試みたらしい。
「一緒に世界を救おうだのなんだと宣いやがって、勿論断ったね」
ふぅん、とアルファの話を聞きつつ再びやってきた黒船をどうするのかと聞いた。
「戦うのは好きだ。けど誰と肩を並べるかを決めるのは、アタシ達さ」
「なら、私達とどう?」
「まぁ待ちなよ。先にお客さんの話を聞いてからにしようじゃない」
私は戦力が増えることを僅かに期待して口角が上がるのを我慢し、洞窟の中で泣いているであろうスーレに声をかけた。
「スーレ! 行くよ!」
「さて、どうしたもんか」
砂浜に戻った私達は帝国の旗を掲げた巨大な軍艦を眺めていた。
先代の魔帝、つまりは私のお母さんの記憶で見た「戦艦ユスティーツ」この世界で唯一鉄で作られた軍艦だ。何十門もの大砲に堅固な装甲、木造船なんて軒並み旧世代の遺物とかしちゃうよ。
それにしても私達が乗ってきた船、やられたらしい。浜辺に死体が流れ着いてるしね。
「仕方ない。ここは一つ席でも設けるかな」
吸殻で簡素なテーブルと椅子を作り、比較的固い砂の上に設置してその場に座って待つことにした。
アルファ達が亜人ということもあり、多分来るのは亜人、レオンハルトは確実だ。
待つこと三十分ほど、一艘の小舟が向かってくるのが確認出来た。大きさからしてレオンハルトともう一人は勇者様だ。
「アイリス様、もしもの場合は私の後ろに」
「ありがと。けど、スーレじゃあの二人には絶対に敵わないからやめとく」
「ぐすん……」
ですよね、と苦笑いしながら涙を流すスーレを笑っていると、小舟が無事砂浜へと辿り着いた。
「……アイリスっ」
「お久しぶり二人とも、おっと剣と魔法は無しだよ? 文明人らしく話をしよう」
私の姿を見るやいなや腰に携えた剣をすぐに抜こうとする二人を制止し、席に座るように促した。
かつての仲間だとしても今はもう何とも思わない。だからこそゆっくりと落ち着いて話が出来る。
「よしそれじゃ両陣営を歓迎しよう」
「アルファ、茶番はよせ」
「驕るなよレオンハルト」
私達とは険悪な雰囲気になるのは分かるんだけど、どうやらアルファとレオンハルトの睨み合いが自然界過ぎて超怖い。
「まぁほら、皆さん落ち着いて話をしようって言ってるじゃないですか」
「造形物は黙ってなさい」
「否定はしませんが、無駄な事をするために来た訳では無いでしょう。そちらも、こちらも」
スーレをお披露目したのは今回が初めてだけど、存外進行役とかそういうのが適任なようだね。
「スーレ、進行を頼むよ」
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