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西方の亜人
第一話
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──北方大陸、魔帝城──
なぜ彼女のほどの魔女が敗北し、北方大陸へと帰還することなく、西方の地にて骨を埋めることとなったのか、その鍵を握るのは一体誰なのか、右腕を失ったマリアと共に南方大陸を制圧していた事もあり、詳しい事はまだ分かっていなかった。
私は玉座に座り込んでいた。涙を流すのは我慢していたけど、やっぱり堪える。だけどドラクルが死んだ時のように腐る訳にはいかない。
この玉座の間も、寂しくなっちゃったよ。みんな死んじゃったよ。はは、だけど戦争に犠牲は付き物、誰も死なないトゥルーエンドなんて最初から求めていなかったよ。
さて、感傷に浸るのはおしまいだ。
「オスカル、西方大陸の事を教えて」
「西方大陸は亜人達が多く住む大陸っていうのは知ってますが、それ以上の事はよく分かっていないんですよ」
オスカルは頭を掻きながら肩を竦めてそう説明してきた。
亜人達が、ね。でも私の知る限り亜人は森の奥にひっそりと隠れているばかりかと思ってたけども、ふーむ、なるほど、亜人か。
私が知ってる亜人はやっぱりレオンハルトかなぁ。警戒、しなくちゃね。
「それよりどうします隊長、全軍で押し潰しますかい?」
全軍かぁ。正直、亜人の戦闘能力は敵にすると邪魔にしかならない。空飛ぶワイバーンを射抜く腕力、山を数十分で踏破する脚力。
それに加えて私の両隣に立つオスカルとマリアも腕や目を失っている。
西方大陸を抑えた後に残る中央大陸での大規模な戦闘のことを考えれば、二人には今は大事をとってほしいとは思う。すると動けるのは私だけ、か。
「……いや、マリアとオスカルにはここを守って欲しい」
「何を言ってるんですか!? 危険すぎます、反対です!」
案の定マリアは私の案に反対するけど、その反対に反対した。
これは決定事項であり、覆すことはしない。
「それに一人じゃないよ。スーレを連れていく」
──西方大陸、沖合──
「アイリス様! 見てくださいすっごい大きな魚釣れちゃいました!」
「この世界の魚って妙におどろおどろしいんだよねぇ……」
スーレはまだが飛び出た魚を子供のようにはしゃぎながら私に見せてきた。足を失う前よりかなり明るくなったし、蛇の足を使いこなすことも出来ている。
「それにしても、ミア様が亡くなるなんて……」
「……うん」
「あ、その……無神経でした」
「いやいいよ、私も落ち込んでばかりはいられないからね」
私はスーレの言葉に一瞬落ち込んでしまったけど自分の言葉通り、いつまでもグダグダと失意にのまれるべきじゃない。
そうグッ、と拳を握りしめた時頭の横を高速で何かが通り過ぎていった。最初は虫か何かかと思ったけど、飛んできたそれを掴むスーレを見てハッとさせられた。
「槍……? いやいやいや、どこから!?」
船員に周囲を確認させたけど、小舟や水中に何かがいるという報告はなかった。
まさかと思い、西方大陸の点のような砂浜海岸をよく目を凝らしていると何か小さく蠢いている集団があった。ここからじゃよく見えないけど、もしかして、あれがこれを?
うぅむ、と呻くように眺めているとその方角から、線のようなモノが何本も上に上がっていくのを確認した。
あれは何かと思考する前にスーレが私の前に出る。そして雨のように降り注ぐ槍を蛇の尾で何度も振り払い始めた。
「おさがりくださいアイリス様!!」
「ありがとねスーレ。それにしても……すごいねえ」
ほとんどの槍が上空から降ってきていたけど、再び一本の槍が私に向かって真っ直ぐ投げられてきた。勿論、二度目はちゃんと掴める。
だけど先程と違ったのは高級そうな布とサーベルが括り付けられていたことだね。
それを受け取った途端、槍が降り注ぐのは止まった。見えてるのかな。
「冷たい……あぁ、なるほど」
「アイリス様……それってもしかして」
遺品、だね。
布を開けると中には、綺麗に洗われほつれ等が一つもないミアの服が綺麗にたたまれていた。
サーベルも同様だった。
「スーレ、船員たちの服を槍に括りつけて掲げて」
「分かりました」
最初の槍はまぁ、見逃そう。
私は大きすぎる同乗者が漕ぐ小舟をひっくり返さないように安定させながら上陸する為に白旗を掲げていた。
流石に白旗を掲げるモノに攻撃をしてくるほど、西方大陸の亜人が荒くれ者じゃないらしく私達はすんなりと足を濡らすことに成功した。
そこで待ち受けていたのは狼の亜人の集団。スーレと同じぐらいの巨躯を持つ彼らは槍を手に持ち、警戒するように唸っていた。
「素敵な歓迎に礼を言うよ。さて、誰がアルファかな?」
オメガ達にそう問いかけ答えるのを待っていると、まるで子供が大人を掻き分けて進むように獣の耳と尻尾が生えた女が現れた。亜人、だとは思うけど。
「アタシがアルファさ」
「……亜人……らしくはないね」
「はっはっは! そうさ、アタシは亜人と人間のハーフだからねぇ」
いや、驚いた。シンプルに興味がそそられるけど、それよりもまずはミアの事だ。
「彼女は?」
「ついてきな」
私達は亜人に囲まれつつ、豊かな森となっている奥へと進んでいくことになった。
なぜ彼女のほどの魔女が敗北し、北方大陸へと帰還することなく、西方の地にて骨を埋めることとなったのか、その鍵を握るのは一体誰なのか、右腕を失ったマリアと共に南方大陸を制圧していた事もあり、詳しい事はまだ分かっていなかった。
私は玉座に座り込んでいた。涙を流すのは我慢していたけど、やっぱり堪える。だけどドラクルが死んだ時のように腐る訳にはいかない。
この玉座の間も、寂しくなっちゃったよ。みんな死んじゃったよ。はは、だけど戦争に犠牲は付き物、誰も死なないトゥルーエンドなんて最初から求めていなかったよ。
さて、感傷に浸るのはおしまいだ。
「オスカル、西方大陸の事を教えて」
「西方大陸は亜人達が多く住む大陸っていうのは知ってますが、それ以上の事はよく分かっていないんですよ」
オスカルは頭を掻きながら肩を竦めてそう説明してきた。
亜人達が、ね。でも私の知る限り亜人は森の奥にひっそりと隠れているばかりかと思ってたけども、ふーむ、なるほど、亜人か。
私が知ってる亜人はやっぱりレオンハルトかなぁ。警戒、しなくちゃね。
「それよりどうします隊長、全軍で押し潰しますかい?」
全軍かぁ。正直、亜人の戦闘能力は敵にすると邪魔にしかならない。空飛ぶワイバーンを射抜く腕力、山を数十分で踏破する脚力。
それに加えて私の両隣に立つオスカルとマリアも腕や目を失っている。
西方大陸を抑えた後に残る中央大陸での大規模な戦闘のことを考えれば、二人には今は大事をとってほしいとは思う。すると動けるのは私だけ、か。
「……いや、マリアとオスカルにはここを守って欲しい」
「何を言ってるんですか!? 危険すぎます、反対です!」
案の定マリアは私の案に反対するけど、その反対に反対した。
これは決定事項であり、覆すことはしない。
「それに一人じゃないよ。スーレを連れていく」
──西方大陸、沖合──
「アイリス様! 見てくださいすっごい大きな魚釣れちゃいました!」
「この世界の魚って妙におどろおどろしいんだよねぇ……」
スーレはまだが飛び出た魚を子供のようにはしゃぎながら私に見せてきた。足を失う前よりかなり明るくなったし、蛇の足を使いこなすことも出来ている。
「それにしても、ミア様が亡くなるなんて……」
「……うん」
「あ、その……無神経でした」
「いやいいよ、私も落ち込んでばかりはいられないからね」
私はスーレの言葉に一瞬落ち込んでしまったけど自分の言葉通り、いつまでもグダグダと失意にのまれるべきじゃない。
そうグッ、と拳を握りしめた時頭の横を高速で何かが通り過ぎていった。最初は虫か何かかと思ったけど、飛んできたそれを掴むスーレを見てハッとさせられた。
「槍……? いやいやいや、どこから!?」
船員に周囲を確認させたけど、小舟や水中に何かがいるという報告はなかった。
まさかと思い、西方大陸の点のような砂浜海岸をよく目を凝らしていると何か小さく蠢いている集団があった。ここからじゃよく見えないけど、もしかして、あれがこれを?
うぅむ、と呻くように眺めているとその方角から、線のようなモノが何本も上に上がっていくのを確認した。
あれは何かと思考する前にスーレが私の前に出る。そして雨のように降り注ぐ槍を蛇の尾で何度も振り払い始めた。
「おさがりくださいアイリス様!!」
「ありがとねスーレ。それにしても……すごいねえ」
ほとんどの槍が上空から降ってきていたけど、再び一本の槍が私に向かって真っ直ぐ投げられてきた。勿論、二度目はちゃんと掴める。
だけど先程と違ったのは高級そうな布とサーベルが括り付けられていたことだね。
それを受け取った途端、槍が降り注ぐのは止まった。見えてるのかな。
「冷たい……あぁ、なるほど」
「アイリス様……それってもしかして」
遺品、だね。
布を開けると中には、綺麗に洗われほつれ等が一つもないミアの服が綺麗にたたまれていた。
サーベルも同様だった。
「スーレ、船員たちの服を槍に括りつけて掲げて」
「分かりました」
最初の槍はまぁ、見逃そう。
私は大きすぎる同乗者が漕ぐ小舟をひっくり返さないように安定させながら上陸する為に白旗を掲げていた。
流石に白旗を掲げるモノに攻撃をしてくるほど、西方大陸の亜人が荒くれ者じゃないらしく私達はすんなりと足を濡らすことに成功した。
そこで待ち受けていたのは狼の亜人の集団。スーレと同じぐらいの巨躯を持つ彼らは槍を手に持ち、警戒するように唸っていた。
「素敵な歓迎に礼を言うよ。さて、誰がアルファかな?」
オメガ達にそう問いかけ答えるのを待っていると、まるで子供が大人を掻き分けて進むように獣の耳と尻尾が生えた女が現れた。亜人、だとは思うけど。
「アタシがアルファさ」
「……亜人……らしくはないね」
「はっはっは! そうさ、アタシは亜人と人間のハーフだからねぇ」
いや、驚いた。シンプルに興味がそそられるけど、それよりもまずはミアの事だ。
「彼女は?」
「ついてきな」
私達は亜人に囲まれつつ、豊かな森となっている奥へと進んでいくことになった。
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