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西方の亜人
第三話
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話し合い、と言ってもこのメンツ、この状況でしっかりとした話し合いが出来るわけがなかった。
普段は理性的なレオンハルトでさえアルファを前にして不機嫌そう。過去になにかあったんだろうね。それに目の前の勇者様は腕を組んでだんまりを決め込んでいるし。
「それで、そちらはこの大陸を帝国側に引き込みたいんですよね?」
「……あぁそうだ。少しでも仲間は多いに越したことはねぇからな」
「はっ、そんな話に乗ると思うかい?」
鼻でレオンハルトの言葉を笑い飛ばすアルファだけど、こちらに引き込めると言われたら首を捻るしかない。
この手の人は意思が固く、そして靡かない。
話し合いで決めると言ったものの、アルファのスタンスは恐らく中立だ。だから帝国には付かない、されどもこちらにも付かない。敵側に付かないというのはいいことなんだけどね。
「じゃあアピールタイムといこうかな」
帝国にはほぼ交渉の余地はないし、まだ有利だ。なら押すしかないじゃん。
「アルファ、亜人の王を目指したくない?」
「……亜人の王……だって?」
ピクリと眉を上げたアルファが私の方に顔を向けた。その顔は興味半分疑い半分と言った感じだけど、うん、反応は悪くなさそうだね。
さて、亜人の王といったもののそれを実現するには目の前のライオンを倒さないといけないけど、それがまた難しい。よほどのことがなかったら簡単には倒せないだろうねぇ。でも、でも、だ。
「私は亜人を尊敬している。人間にはない強靭な肉体を持つ君たちを。だからこそ、私は君たちと肩を並べたい。勇猛果敢な亜人たちと共に、私は世界を、君は百獣の王に。魔の皇帝と肩を並べられるのは君たち、西方大陸に住む亜人しかいないと、私は思っているよ」
私のアピールタイムは終わりだ。どう受け取るかはアルファ次第。私の言いたいことは言ったからね。
さて、次はレオンハルトの番だ。
「……俺たちは確かに、何度か殺りあったことはある。けどよ、そりゃあ俺たちが本質的な部分が獣だからだ。俺はアルファ、お前を高く買っているんだ。そうじゃなきゃ、わざわざ出向いたりはしねぇよ。過去のことは水に流せとは言わねぇ……だが、頼む。力を貸してくれ」
うーむ、なるほど。そういう感じかぁ、と思いながらちらりとアルファに顔を向けてみると、しかめっ面なのは変わっていないけど、悩んでいる様子だった。これで向こうにつくって言われたら全速力で逃げるしかないよね。
「少し考える時間が必要かと思います。一旦休憩にしましょう」
そこでスーレが悩むアルファに気を利かせたのか、手を打ち鳴らしてそう言った。うんうん、なかなかいい司会だね。
流石に帝国側と一緒に休憩するのは殺し合いかねないから、かなり離れたところでスーレと砂浜にいた。まあ特にすることもないから、海辺で遊ぶスーレのことを眺めることぐらいしかないけどね。
さてさて、どうしたものかな。味方になった時はそれではそれでよし。ただ敵になった時がちょっと、いや、正直かなり面倒くさい。ミアですらやられるぐらいなんだし。
「アイリス様?」
「ああ、ごめんごめん、ボーッとしてたよ」
いつの間にか顔を覗き込んでいたスーレは心配するように私の名前を呼んできた。スーレの頭を撫でながら大丈夫と答えた。
「アイリス様はどうなると思いますか?」
隣にとぐろを巻いて座り込むスーレがそう聞いてきた。なんて答えたものか考えるけど、どう転んでも戦いが起きるとは思うんだよね。
「うーん、どうだろね。敵になろうが味方になろうが、どの道戦いは避けられないだろうし」
まあでも、とりあえずは答えを聞くしかないだろうね。
普段は理性的なレオンハルトでさえアルファを前にして不機嫌そう。過去になにかあったんだろうね。それに目の前の勇者様は腕を組んでだんまりを決め込んでいるし。
「それで、そちらはこの大陸を帝国側に引き込みたいんですよね?」
「……あぁそうだ。少しでも仲間は多いに越したことはねぇからな」
「はっ、そんな話に乗ると思うかい?」
鼻でレオンハルトの言葉を笑い飛ばすアルファだけど、こちらに引き込めると言われたら首を捻るしかない。
この手の人は意思が固く、そして靡かない。
話し合いで決めると言ったものの、アルファのスタンスは恐らく中立だ。だから帝国には付かない、されどもこちらにも付かない。敵側に付かないというのはいいことなんだけどね。
「じゃあアピールタイムといこうかな」
帝国にはほぼ交渉の余地はないし、まだ有利だ。なら押すしかないじゃん。
「アルファ、亜人の王を目指したくない?」
「……亜人の王……だって?」
ピクリと眉を上げたアルファが私の方に顔を向けた。その顔は興味半分疑い半分と言った感じだけど、うん、反応は悪くなさそうだね。
さて、亜人の王といったもののそれを実現するには目の前のライオンを倒さないといけないけど、それがまた難しい。よほどのことがなかったら簡単には倒せないだろうねぇ。でも、でも、だ。
「私は亜人を尊敬している。人間にはない強靭な肉体を持つ君たちを。だからこそ、私は君たちと肩を並べたい。勇猛果敢な亜人たちと共に、私は世界を、君は百獣の王に。魔の皇帝と肩を並べられるのは君たち、西方大陸に住む亜人しかいないと、私は思っているよ」
私のアピールタイムは終わりだ。どう受け取るかはアルファ次第。私の言いたいことは言ったからね。
さて、次はレオンハルトの番だ。
「……俺たちは確かに、何度か殺りあったことはある。けどよ、そりゃあ俺たちが本質的な部分が獣だからだ。俺はアルファ、お前を高く買っているんだ。そうじゃなきゃ、わざわざ出向いたりはしねぇよ。過去のことは水に流せとは言わねぇ……だが、頼む。力を貸してくれ」
うーむ、なるほど。そういう感じかぁ、と思いながらちらりとアルファに顔を向けてみると、しかめっ面なのは変わっていないけど、悩んでいる様子だった。これで向こうにつくって言われたら全速力で逃げるしかないよね。
「少し考える時間が必要かと思います。一旦休憩にしましょう」
そこでスーレが悩むアルファに気を利かせたのか、手を打ち鳴らしてそう言った。うんうん、なかなかいい司会だね。
流石に帝国側と一緒に休憩するのは殺し合いかねないから、かなり離れたところでスーレと砂浜にいた。まあ特にすることもないから、海辺で遊ぶスーレのことを眺めることぐらいしかないけどね。
さてさて、どうしたものかな。味方になった時はそれではそれでよし。ただ敵になった時がちょっと、いや、正直かなり面倒くさい。ミアですらやられるぐらいなんだし。
「アイリス様?」
「ああ、ごめんごめん、ボーッとしてたよ」
いつの間にか顔を覗き込んでいたスーレは心配するように私の名前を呼んできた。スーレの頭を撫でながら大丈夫と答えた。
「アイリス様はどうなると思いますか?」
隣にとぐろを巻いて座り込むスーレがそう聞いてきた。なんて答えたものか考えるけど、どう転んでも戦いが起きるとは思うんだよね。
「うーん、どうだろね。敵になろうが味方になろうが、どの道戦いは避けられないだろうし」
まあでも、とりあえずは答えを聞くしかないだろうね。
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