LOVE HUNTER

風音

文字の大きさ
上 下
109 / 340
第四章

109.大きな手

しおりを挟む


「拓真は何もわかってないっ!  和葉はあの子に怪我なんて負わせてないのに、拓真はあの子の事を信じてた」

「それは……」
「どうして和葉だけが厄介払いなの?  拓真なら信じれると思っていたのに。人に裏切られると誰を信じていいんだかわかんなくなる。信じてくれない拓真なんて大嫌い!」



  和葉は胸の内に留まっていた想いを吐き出して二度目の大嫌いを言い渡した。



  もちろん、本音じゃない。
  勢い余って言ったもの。

  だけど、それ以外は全て今の言い分だった。



  今も昔も、一人が怖いから人を信じようと思っているのに、そう思う度に裏切られる。
  だから、信じる事が怖くて仕方ない。

  信じてもらえない事は、どうしようもないほど窮屈で苦しいのに……。



  全身の力を振り絞って心境を吐き出した和葉だが、廊下側から流れ込んできた風で揺れた髪が頬に触れた瞬間、まるで何かが破裂してしまったかのように瞳から涙が流れ落ちた。

  顎先へと滴り落ちた涙は、真実を伝えたいと願う分量だった。



  和葉は再び拓真から離れようとして腕を強く引いた。
  ところが、拓真は掴んでいる腕をグイッと引き寄せて互いの香りをぶつからせる。



「お前の爪、俺が切り落としたから」

「えっ……。爪?」



  『ごめん』のひと言が届くと思っていたけど、予想外のセリフに目が点に。



「そんなに短い爪で引っ掻いただけじゃ、余程の恨みが募っていない限り深い傷を負ったりしない。それだけは確信している」

「……」


「『やめてくれ』と言ったのは、お前が今こうやって葛藤しているようにあいつ自身にも色々気付いてもらいたかったから」

「えっ……」


「現場を見てないのに互いの言い分を聞いただけで物事を判断したら誰の為にもならないだろ」



  拓真はすっかり惑わされてしまった和葉の心が何処かへ行ってしまわぬように、強い眼差しを向けた。



「一つ聞きたいんだけど、あの時は何に怯えていたの?」

「……拓真があの子の肩を持っていたから誤解を解きたくて」


「別にあいつの肩を持ってないよ」

「でも、目の前で傷跡を見せつけられたら、誰だって彼女の言い分を信じちゃうでしょ」



  拓真は暗い顔をしている和葉の顔の高さまでしゃがむとこう言った。



「俺はこの目で真実を見ない限り信じない。それに、自分が間違ってなければムキになって反論する必要はない。いつも通り堂々としてればいいと思う」

「うん……」


「誤解が解けたからこの話はもう終わり」



  拓真は口角をキュッと上げて、和葉の頭をグシャグシャと撫でた。



  髪に触れた手は、大きくて優しくてほんのり温かくて。
  何度も嗅ぎたくなるような中毒性が高い大好きな香りが、一番近いところから漂ってきた。

  誤解が解けて安心したら、一度止まったはずの涙が不揃いに溢れ落ちる。




  私は大事な事を忘れていた。
  信じていないのは拓真じゃなくて、自分の方。
  信じてもらえない事が怖いと思うばかりにバリケードを張り巡らせていた。

  でも、それは正解じゃないと彼が教えてくれた。



  彼はツンデレ。
  普段は意地悪だし、バカにしたように見下すし、冷たく突き放す割合の方が圧倒的に多いけど……。

  本当はとても優しくて思慮深い人だ。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【R18】幼馴染がイケメン過ぎる

ケセラセラ
恋愛
双子の兄弟、陽介と宗介は一卵性の双子でイケメンのお隣さん一つ上。真斗もお隣さんの同級生でイケメン。 幼稚園の頃からずっと仲良しで4人で遊んでいたけど、大学生にもなり他にもお友達や彼氏が欲しいと思うようになった主人公の吉本 華。 幼馴染の関係は壊したくないのに、3人はそうは思ってないようで。 関係が変わる時、歯車が大きく動き出す。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

ダブル シークレットベビー ~御曹司の献身~

菱沼あゆ
恋愛
念願のランプのショップを開いた鞠宮あかり。 だが、開店早々、植え込みに猫とおばあさんを避けた車が突っ込んでくる。 車に乗っていたイケメン、木南青葉はインテリアや雑貨などを輸入している会社の社長で、あかりの店に出入りするようになるが。 あかりには実は、年の離れた弟ということになっている息子がいて――。

腹黒上司が実は激甘だった件について。

あさの紅茶
恋愛
私の上司、坪内さん。 彼はヤバいです。 サラサラヘアに甘いマスクで笑った顔はまさに王子様。 まわりからキャーキャー言われてるけど、仕事中の彼は腹黒悪魔だよ。 本当に厳しいんだから。 ことごとく女子を振って泣かせてきたくせに、ここにきて何故か私のことを好きだと言う。 マジで? 意味不明なんだけど。 めっちゃ意地悪なのに、かいま見える優しさにいつしか胸がぎゅっとなってしまうようになった。 素直に甘えたいとさえ思った。 だけど、私はその想いに応えられないよ。 どうしたらいいかわからない…。 ********** この作品は、他のサイトにも掲載しています。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

完全なる飼育

浅野浩二
恋愛
完全なる飼育です。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

処理中です...