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第四章
108.誤解
しおりを挟む目線を向けると、そこには扉に身体をもたらせて腕を組んでいる拓真の姿があった。
「まだ帰らないの?」
拓真が教室に現れたのは、この時が初めてのこと。
攻撃的だった先ほどとは一変して穏やかな口調で、沈みゆく夕日を背中から浴びている。
柔らかい眼差し
艶やかな黒髪
大きな影を作る細くて引き締まった身体
拓真の姿を瞳に映すだけでも、心臓が狂ったようにドキドキする。
きっと普段の私なら、拓真が教室に来てくれるだけでも嬉しくてキャーキャー騒いでいただろう。
だけど、今はそんな気分じゃない。
今日は全校生徒の前でフラれてしまったあの時以上に悲しかった。
拓真……。
こんなところまで何しに来たのよ。
昼間、あの嘘つき女の肩を持って私を突き放したクセに、よく平然として話しかけれるね。
でも、まだ帰ってなかったんだ。
下校時刻からかなり時間が経ったから、もうとっくに帰ってると思ってたよ。
どうしてまだ学校にいるの?
もしかして、私が来るのをずっと待ってたとか。
……ううん、そんなはずない。
和葉は昼間の一件が腹立たしく思う一方で、予想外の出現に本調子が狂わされていた。
しかし、今回ばかりは許す事が出来ない。
「もう帰る」
しなだれた髪で拗ねた表情を隠して唇を噛み締めた。
荷物を肩にかけてから不機嫌に足音を立てながら拓真と反対側の扉へ周る。
しかし、拓真はもう一方の出口を塞ぐように先回りして和葉の腕を掴んで引き止めた。
「もし、誤解してるなら大事な話がある」
拓真は目と目を合わせながら落ち着いた口調でそう伝えた。
しかし、和葉は顔を見た瞬間、先ほどの言動が蘇る。
「……誤解? 誤解してるのは拓真の方でしょ」
「じゃあ、どうしてそんなに不機嫌なの?」
「わかるでしょ。今日は拓真と帰るつもりはないから、もうほっといてよ」
「待って!」
お互い攻撃的な口調で言い合った後、和葉は手を振り払って再び教室から逃げ出そうとした。
拓真はすかさず腕を掴んで力強く身体を引き寄せる。
すると、ずっと耐え兼ねていた和葉の想いは、目線を合わせたと共に炸裂してしまう。
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