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第四章
110.今の距離感
しおりを挟む「ほら、ボケっとしてないで帰るぞ」
拓真は肩にかけている和葉のカバンをヒョイと取り上げて、後ろを追って来いと言わんばかりに教室を後にする。
「ちょっ、待ってよ~」
結局いつも通り。
私は先行く彼の背中に向かって走った。
窓辺から差し込む夕日は、彼の白いワイシャツをほんのりとオレンジ色に染める。
『お前が来るのをずっと待ってた』
決して口にはしないけど、彼の背中がそう物語ってるように思えた。
これが恋に発展するにはまだ遠い道のりかもしれないけど、今は気にかけてくれるだけでも十分。
校門を出る頃には肩を並べて歩いてくれた。
歩くテンポは早くも遅くもなく、私の歩幅に揃えてくれている。
駅までのこの貴重な10分間は、丸一日接近を我慢したご褒美だ。
でも、今日は特別。
いつもは私が下駄箱で待っているのに、今日は拓真が教室まで迎えに来てくれたから。
「先週畑に蒔いた大根の種、もう芽が出てきたよ」
「うそーっ! もう芽が出たんだ」
「大根は成長が早いからな。……じゃ、ここで」
「あっ……う、うん。バイバイ、また明日」
学校から駅までの道のりはきっちり10分。
拓真は決して残業しない。
それまで仲良く会話していても、別れ方はいつも素っ気ない。
バイバイと手を振っても振り返してくれないし、背中を向けたら振り返りもしない。
この別れ際の切なさが片想いというやつだろう。
今日もいつも通り、駅から姿を消していく拓真の後ろ姿を見えなくなるまで追って大きく手を振る私。
当然、彼は私の事なんて構わずに真っ直ぐ家路へと向かう。
それが今の距離感。
だけど、まだそれでいい。
今日は特別に気をかけてくれただけでも嬉しかったよ。
だって、私の事なんて全く眼中ないと思っていたから。
拓真との恋はこれからもずっと大切にしていきたい。
焦らず無理せず無駄な近道をしないで、一歩一歩地を踏みしめてゆっくり進んで行こう。
拓真の気持ちが傾いてくれるその日が来るまで……。
私はLOVE HUNTER
本音を丸出しにしたら本物の結果が訪れた。
ツンデレでも意地悪でもいい。
彼にはいつも心の目を開いたまま近くで見守っていて欲しいと心から願ってる。
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