仮想世界β!!

音音てすぃ

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110.皿の上にはもうない

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「おい!あの試作品を出せ!ヤナギの鳥だ!」

 男が叫んでいた。正面から赤い髪の男が近づいてくる。先行した兵士は次々に殺されていった。

「S5じゃねぇと首が切れねぇ化け物だ。アイツを倒せなくても足止めにはなるだろう……」
「エンドーさん!」
「おう、持ってきたか!?」
「すみません!2か月以上前にヲルが解放、檻に居ません!」

 エンド―という男は膝から力が抜けた。口から冷たい息が漏れる。

「エンドーさん!」
「俺らは死ぬ……ここは終わりだ」
「エンドーさ」

 エンドーの横で首が飛んだ。血圧が高かったのだろう、勢いよくプシャーと血が出ている。

「あ……」
「鳥?あれ、美味しかったですよ」

 キョウスケがエンドーの横にいた。骨の剣が首に置かれる。

「嫌だぁあ!!!」

 横をチラチラと確認したキョウスケは一歩引く。
 安心したエンドーの股から色々漏れる。
 キョウスケには攻撃予測が二つ見えていた。

「ようやく強い人が来てくれましたね」

 余裕のある動きで二撃とも回避した。艶のある床に刺さったのは槍、空気を裂いたのは剣だった。

「エンドーさん、加勢、来ました」
「やっぱり外したか……意外と悔しいね」
「あ、ありがとう。鳥より頼もしい」

『マエカワ』enemy
相対レベル:‐10(回補正:‐15)
・武器:タイムシフターF(剣、1秒先の自分の位置への瞬間移動能力)
・防具:ライヴ兵装(緑、防御強化LV.5)
・アクセサリー:白魔石のピアス
他スキャンを実行していません。

『ハルキ』enemy
相対レベル:‐8(回避補正:‐10)
・武器:フォワードブレード(槍、刃の伸縮)
・防具:ライヴ兵装(緑、防御強化LV.5)
・アクセサリー:白魔石のピアス
他スキャンを実行していません。

「面倒な魔具だね」
「やっぱりバレてるねマエカワ」
「ヲルが言うには、レベル差は大してない。二人で殺すぞ」
「いやいや、拘束でしょマエカワ。俺らじゃ殺せないって」

 剣を持つ男がマエカワ。綺麗でまっすぐな黒髪。第一印象では18歳。
 槍を持つ男がハルキ。長い茶髪を後ろで束ねている。マエカワと同年代に見える。
 二人とも声が若い。

「じゃ、殺してみろ」

 エンドーさんはとっくに撤退していた。ここに残ったのは三人だけ。
 マップに記された位置はパララミローからはるか北、名前を「マルエルの庭園」ライヴの本拠地だと分かった。
 東西には有象無象がある、そっちじゃない。さらに北、そこに巨大な球体がある。その球体がある場所が「マルエルの楽園」私はそこを目指す。

ーーーーーー

「いてっ……いたいいたい!」

 キョウスケは一度二人にバラバラにされたのち復活、その後マエカワの四肢を切断、ハルキの胴体を貫いた。

「ハルキ……」
「マエか」
「記憶マラソンがんばれー」

 キョウスケが胴体を足で蹴り、剣を体から抜く。無力化を確認した。
 全く骨がない。
 加減してやると、一度は殺せるようだ。だが足りない。首を落としただけでは私は死なない。
 人にしてはよくやった。

 マエカワの体を踏んでいく。

「ウヴェ」

ーーーーーー

 黒い建物の屋上にたどり着いた。300メートルはある。
 曇りのせいかわからないが、街も黒い建物ばかりに見える。パララミローと何一つ景色が変わらない。
 人の動きが見える。避難でもしているのだろうか。ここが最後の砦だろうに、楽園にでも逃げるつもりか。

「ヲルがいれてくれるわけないだろう」

 管理者達の本拠地だ。一人残らず殺していってもいいが……途中で飽きそうだ。
 有象無象、東側。ふむちょうど生き物がいないスペースがある。遠くを見つめると、ビル群の廃墟が並んでいた。
 決着をつけるにはいい場所だ。ライヴもECFもまとめて招待してやろう。

「よぉ」

 こんな高い場所まで登ってきたもの好きがいた。
 黄金の姿、ゴールドグリップだった。

「お久しぶり」
「オトメか?随分見た目が変わってんなぁ」
「私はオトメではない。キョウスケだ。せっかくつけてもらった名前だ。意外といい」
「キョウスケでもなんでもいいや。お前、死なねぇんだろ?ちょっと殺し合おうz……」

 キョウスケの手から骨が伸びていた。
 黄金の鎧は金属音を響かせて貫かれた。
 簡単に心臓がはじけていた。

「残念だ。向こうに呼んでやろうと思ったのに」
「カッ……おいおいまじかよ……」

 キョウスケは骨を引き寄せ、ゴールドグリップの首を掴み、勢いで地面に叩きつける。

「実力差を呪って死ね。マラソンへどうぞー」

 手に力を入れると簡単に首が取れた。断末魔は覚えていない。
 ゴールドグリップの体から力が抜けたのを覚えている。
 髪を掴んでぐるぐる頭を回していた。中身がピュンピュンと飛び散っていた。

「下見……いきますか」
「師匠?ししょうおぉお!!」

 スイセンドウで見たクレイという男が登ってきた。ゴールドグリップを追いかけてきたのだろう。哀れだ。彼も呼んでやろうと思っていたのに。
 その敵意、とても残念だ。

「お前がやったのか?」
「はい、そうです……これほしい?」

 振り回していた首を差し出した。
 2秒硬直された。無理もないか。

「殺してやる!」
「っそ」

 ゴールドグリップの首を屋上から放り投げた。クレイの目が開く。それを足場ギリギリまで首を追いかけた。

「あ。あああ!」
「取りに行けば?」

 キョウスケはクレイの襟を掴み、首と同様に放り投げた。同時に身体の成長具合が伺えた。

「いい鍛え方だ、頑張れ。生きてたらね」
「───落ち」

 300メートルから人が落下していく。そして見えなくなっていった。叫び声が遠くなっていく。
 ECFの敵が居なくなっていく。下の有象無象どもではツルギの相手なんて出来ないだろう。

「さぁさっさと出てこいよPEども」

ーーーーーー

「……ゴールドグリップが死んだ」

 マルエル庭園地上。
 とんがり帽子の女性が呟いた。

「あぁマジか?」

 赤い服、白髪の男が目を開けた。手に持った紙煙草を誤って潰してしまった。

「D9に乗っ取られたようだ。ツキミさんの力も持っている。面倒な相手だ」

 刀を二本持つ男が冷静に言った。

「ほぉ?サタン、勝てねぇとは言わねぇんだな?」
「もちろんだ。マルエル、アレをよこせ」
「古い名前で呼ばないでよ。ま、今はそっちで呼ばれた方が都合がいいけど」

 マルエルという女性が一本の瓶をサタンに渡す。手に持つだけで具合が悪くなりそうだ。

「仮の名前でも、サタンなんて大層な名前がついてるんだから、ミスするじゃないよ。ヤナギから盗むの大変だったんだから」
「首の皮一枚つながればいい。手は何でも使う。ヲルが狙いを外したのは珍しいからな」
「陣地中央で敵最強の人物を最も強い状態で開放……ま、そうだよな。状況は最悪だ」

 白髪の男がつぶれた煙草をくわえ、指をパチパチ鳴らして火をつけた。
 二刀の男が瓶を懐にしまい、白髪の男に問うた。

としてどう思う?」
「ふー……あ?どうって……あー……どうもねぇな。持ってかれたのは片目だからな。今のD9がどんな性格かは正直わからねぇ。ま、慢心させときゃいいんじゃね」
「わかった。出たとこ勝負にしよう」
「俺の話聞いてた?」

 白髪の男の後ろから声がする。若い声だった。

「ザンゲさん!あっちで人が死んでる!……って、え?誰?」
「おぉミキ!こっちこい!おじさんたちに挨拶しろ!」

 ミキはザンゲという白髪の男と共にいる怖い大人に委縮した。

「おい!挨拶!」
「はい!ザンゲさんの……なんですか?奴隷的な何かのミキです」
「サタン」
「マルエルよー坊ちゃん」

 挨拶が5秒で終わるとザンゲはミキの肩を掴んだ。

「ということだ。残念ながら俺にはやることがあるお前ら二人に任せる」

 ザンゲはミキを連れてその場を去った。

ーーーーーー

「ザンゲの野郎逃げるのか……なぁマルエル、前の……赤い光、また頼めるか?」
「大丈夫だけど。ここでやるの?」

 サタンの返事を待つ前にマルエルの目が伝えた。

「待って」
「いいや、俺も同じ事を考えている」

 サタンはSEをマルエルはPEを見つめていた。

 屋上でキョウスケがライヴとECFに伝える。
 戦人が刮目した。

『4日後、指定座標にて待つ。参加されたし』

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