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93.予兆
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「オトメ、体調はどうだ?」
セツナが見張りに痺れを切らしてオトメの治療室にやってきた。すぐにミセットが返事をしてくれる。
「セツナ、コイツはバケモノか?」
「え?ま、まぁPE持ってるし……バケモノなのでは?少なくとも私にはそう見えないけど」
「腕を治すのに半日かかるって言ったけど、撤回する。一時間かも」
「そんなに早いの?」
「……早すぎる。これならアリエさんを呼んで一緒に治療したら数分で終わるかも」
セツナがミセットの隣で座った。
「早めるにはどうするの?」
「術式に流し込む魔力をゆっくりと増やしていくの。すぐに入れるといくらオトメのエーテル場が強くても危険だから」
「じゃあ……いや」
「どうしたの?大丈夫よ、アリエさんには連絡したから」
「そ、そう、ありがとう」
何か隠したようにセツナは立ち上がって外に出た。
「何よあの子」
「アイツは……」
「まだ起きなくていいよ!」
オトメが覚醒した頃には、腕が手首まで再生していた。しかし激痛は続いていて、今にも気絶しそうであった。
「アイツは……魔力がない。ツルギさんと一緒だ」
「そっか。情報ありがとう、寝なさい」
「いででで」
セツナは自分でも役に立つことができるかもしれないとミセットの隣に座った。しかし自分に魔力はこれっぽっちもない。役には立てないと外に出たのだ。
「聞けオトメ、今の再生速度は異常だ。原因は分からないけどアリエさんも必要ないくらい早い。これなら……」
ミセットのSEにアリエから連絡がきた。
『ミセット、ツルギさん含めた11人がビヨンドと思われる兵器と交戦中。私も討伐に向かうから、あなたはオトメ君の治療を優先して』
「あ、あのっ!」
『頑張りなさいよっ』
向こうで銃声が聞こえていた。もうアリエさんは危険なところにいるのか。
「私は、私の役目を果たす」
ミセットは持ち得る全ての魔力をオトメに流し込んだ。
ーーーーーー
「ん?……ここは、そうか」
見ないで左手を動かしてみる。よかった、痛みもないし腕もしっかり動いている。ゆっくりと体を起こしてみる。
「重い……」
怠くて体が起き上がらない、しかしそうではなく、僕のお腹の上にミセットが頭を置いて気持ちよさそうに眠っていた。
「おい、重いんだが」
「ラッキーですねオトメ」
「うるさいキョウスケ!」
それにしてもミセットの寝顔を見るのは初めてだ、いや初めてじゃないと問題があるけど。
普段冷静で硬い表情をしているから、こうも無防備な彼女は珍しかった。
試しにほっぺたを引っ張る。全然起きない。
「……MPが0です。魔力再生速度を考えて意識を取り戻すのに五分かかります」
「とんだ衛生兵ですねミセットさーん」
ちょっとまって、ミセットさん寝顔めちゃめちゃ可愛いんですが、どうなんでしょうか、写真撮ったら怒られるでしょうか?
「パシャリ」
「撮るな!」
ゆっくりミセットを退かして、自前のコートを被せて寝かせた。
「じゃあ加勢、行きますか」
「じゃあ火星行きますか?」
「ちがーう!」
「オトメ?目が覚めたの?」
騒がしかったようだ。セツナが迎えに来てくれた。背中にイノセント、腰にアサシンナイフ、うんうんカッコイイぞ。
「バッチリだ。ミセットはあと少し寝れば大丈夫」
「そ、そっか。よかった……」
安心したようにセツナが深呼吸した。
「それで、僕はすぐにあのバケモノを倒しに行かないといけないから、ここを出る。セツナはミセットが起きるまで見ていてくれ」
「それなら私も行くよ」
「ミセット一人には出来ない」
「なら……いや行って、彼女は任せて」
僕はすぐに走り出した。風の音しかしない程に速く。
「距離は?」
「この方角を真っ直ぐ1キロです」
「絶妙に遠い……」
「スキルを使ってみますか?」
「分かった『デットエンド・リーンフォース』」
「到着するころにはMPは回復していると思います」
「それだといいね」
屋根を飛び回り視界に巨大な人型機械が見えてきた。白い人がいる、恐らくキリカだ。そして遠目でも分かるあの剣は……ユイトだ。
「急がないと」
距離が40メートル程になった。エフェクトシールドを装備して突き攻撃のモーションをとった。
「こちらオトメ!ただいま再生完了しました、戦線に復帰します!」
「来たか」
なんと瞬間移動で僕の背中にツルギさんが来た。そして強めに背中を叩かれた。
「待っていたぞ、かませ」
「はい!」
固有スキルエンドスナイパーを発動してビヨンドの胴体に一閃を入れた。
「暫くぶりだね」
「……」
コックピットから声が聞こえた気がした。多分死に損ない的なことを言ったんだと思う。
すぐに離れてキリカとユイトの間に立った。
「オトメ君!」
「キョウスケ?どうしてここにいる?俺の剣技で死んだはず」
「……今お前と戦う気は無い、ユイト」
「ユイトってこの人が自称勇者の?」
気持ち悪いものを見たようなキリカさんは肩を震わせて一歩引いた。
「自称ではない!俺を馬鹿にしたな!終わったら必ず殺す」
僕も今は共闘していると理解した。到着が早くてよかった。まだ被害が出ていない。
「キョウスケ、やるぞ」
僕がエフェクトシールドを構えたところでリーンフォースが消滅した。
セツナが見張りに痺れを切らしてオトメの治療室にやってきた。すぐにミセットが返事をしてくれる。
「セツナ、コイツはバケモノか?」
「え?ま、まぁPE持ってるし……バケモノなのでは?少なくとも私にはそう見えないけど」
「腕を治すのに半日かかるって言ったけど、撤回する。一時間かも」
「そんなに早いの?」
「……早すぎる。これならアリエさんを呼んで一緒に治療したら数分で終わるかも」
セツナがミセットの隣で座った。
「早めるにはどうするの?」
「術式に流し込む魔力をゆっくりと増やしていくの。すぐに入れるといくらオトメのエーテル場が強くても危険だから」
「じゃあ……いや」
「どうしたの?大丈夫よ、アリエさんには連絡したから」
「そ、そう、ありがとう」
何か隠したようにセツナは立ち上がって外に出た。
「何よあの子」
「アイツは……」
「まだ起きなくていいよ!」
オトメが覚醒した頃には、腕が手首まで再生していた。しかし激痛は続いていて、今にも気絶しそうであった。
「アイツは……魔力がない。ツルギさんと一緒だ」
「そっか。情報ありがとう、寝なさい」
「いででで」
セツナは自分でも役に立つことができるかもしれないとミセットの隣に座った。しかし自分に魔力はこれっぽっちもない。役には立てないと外に出たのだ。
「聞けオトメ、今の再生速度は異常だ。原因は分からないけどアリエさんも必要ないくらい早い。これなら……」
ミセットのSEにアリエから連絡がきた。
『ミセット、ツルギさん含めた11人がビヨンドと思われる兵器と交戦中。私も討伐に向かうから、あなたはオトメ君の治療を優先して』
「あ、あのっ!」
『頑張りなさいよっ』
向こうで銃声が聞こえていた。もうアリエさんは危険なところにいるのか。
「私は、私の役目を果たす」
ミセットは持ち得る全ての魔力をオトメに流し込んだ。
ーーーーーー
「ん?……ここは、そうか」
見ないで左手を動かしてみる。よかった、痛みもないし腕もしっかり動いている。ゆっくりと体を起こしてみる。
「重い……」
怠くて体が起き上がらない、しかしそうではなく、僕のお腹の上にミセットが頭を置いて気持ちよさそうに眠っていた。
「おい、重いんだが」
「ラッキーですねオトメ」
「うるさいキョウスケ!」
それにしてもミセットの寝顔を見るのは初めてだ、いや初めてじゃないと問題があるけど。
普段冷静で硬い表情をしているから、こうも無防備な彼女は珍しかった。
試しにほっぺたを引っ張る。全然起きない。
「……MPが0です。魔力再生速度を考えて意識を取り戻すのに五分かかります」
「とんだ衛生兵ですねミセットさーん」
ちょっとまって、ミセットさん寝顔めちゃめちゃ可愛いんですが、どうなんでしょうか、写真撮ったら怒られるでしょうか?
「パシャリ」
「撮るな!」
ゆっくりミセットを退かして、自前のコートを被せて寝かせた。
「じゃあ加勢、行きますか」
「じゃあ火星行きますか?」
「ちがーう!」
「オトメ?目が覚めたの?」
騒がしかったようだ。セツナが迎えに来てくれた。背中にイノセント、腰にアサシンナイフ、うんうんカッコイイぞ。
「バッチリだ。ミセットはあと少し寝れば大丈夫」
「そ、そっか。よかった……」
安心したようにセツナが深呼吸した。
「それで、僕はすぐにあのバケモノを倒しに行かないといけないから、ここを出る。セツナはミセットが起きるまで見ていてくれ」
「それなら私も行くよ」
「ミセット一人には出来ない」
「なら……いや行って、彼女は任せて」
僕はすぐに走り出した。風の音しかしない程に速く。
「距離は?」
「この方角を真っ直ぐ1キロです」
「絶妙に遠い……」
「スキルを使ってみますか?」
「分かった『デットエンド・リーンフォース』」
「到着するころにはMPは回復していると思います」
「それだといいね」
屋根を飛び回り視界に巨大な人型機械が見えてきた。白い人がいる、恐らくキリカだ。そして遠目でも分かるあの剣は……ユイトだ。
「急がないと」
距離が40メートル程になった。エフェクトシールドを装備して突き攻撃のモーションをとった。
「こちらオトメ!ただいま再生完了しました、戦線に復帰します!」
「来たか」
なんと瞬間移動で僕の背中にツルギさんが来た。そして強めに背中を叩かれた。
「待っていたぞ、かませ」
「はい!」
固有スキルエンドスナイパーを発動してビヨンドの胴体に一閃を入れた。
「暫くぶりだね」
「……」
コックピットから声が聞こえた気がした。多分死に損ない的なことを言ったんだと思う。
すぐに離れてキリカとユイトの間に立った。
「オトメ君!」
「キョウスケ?どうしてここにいる?俺の剣技で死んだはず」
「……今お前と戦う気は無い、ユイト」
「ユイトってこの人が自称勇者の?」
気持ち悪いものを見たようなキリカさんは肩を震わせて一歩引いた。
「自称ではない!俺を馬鹿にしたな!終わったら必ず殺す」
僕も今は共闘していると理解した。到着が早くてよかった。まだ被害が出ていない。
「キョウスケ、やるぞ」
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