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92.微笑みを
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壁まであと数キロ、いや十数キロ、キリカも人目を避けて屋根の上に居た。シロカミ故にアスファルトを堂々と踏む訳にはいかなかった。
観察して分かったことは、ライヴの警戒レベルが上がったことだろう。制服を身につけた軍人みたいな連中が三倍に増えた。オトメの報告以来のことだ、ライヴにECF潜入がバレたに違いない。
「私たちは制服をもっと偽装出来ればどうにかなると思うんだけどなぁ……鎧つけるわけにもいかないし……んー」
身に覚えのある風景に人、私は知っている、家が近かった……いや私が育ったのはあの家だけ。周りにこんなピカピカ光る黒い塊の家はない。
「とうきょう」
口が滑った。今何か言った。頭にこびり付く記憶の断片を拾おうとするが、爪が引っかかり取れない。これも記憶を、本来の記憶を取り戻せたら解決するのだろうか。
もし、この風景の既視感が偽りなきものなら、一体その本物はどんな街だった?
怖かった。
ツルギさんから連絡だ。
『キリカか』
「はい、こちらキリカです、ツルギさんどうしました?こっちはライヴの動きを探っています。未だ数が増えるだけですが」
『報告にあったビヨンドと思われる巨大な有人人型ロボットを確認した』
圧倒的戦闘能力を誇るとされる人型ロボット?血管が脈打つプレッシャーのようなものを感じて周囲を確認した。ビヨンドのライフルは2キロ先も命中すると聞いた。
しかしそんな巨大な人工物、目視したのならすぐに発見できるはず。私の目では分からなかった。
「ど、どこですか?」
『落ち着いて聞け』
「……」
唾を飲んで出来るだけ息を殺した。私には続きが分かった。エーテル場の乱れを察知した。街も相当乱れがちだが、ある場所だけ程度が違う。
『そいつはステルス機能があるんだろうな、俺には見えるが……いや下手くそなようだ。空気が歪んで見える。そいつはそこだ』
「……」
『言い忘れた。喋るな』
「(分かってます!)」
『ビヨンドは……お前の後に鎮座している』
改めて真実を言われて死を悟るところだった。
ーーーーーー
巨人が座るようだ。
立膝で姿勢がいい。
街の明かりで照らされた不思議な光沢を放つ金属で出来た機体。
胸のハッチが開き、蒸気を放って一人の少女が降りてくる。
ヘルメットのようなものを豪快に取る。花が咲いたように髪がパァっと下に降りる。毛先三センチからシロカミが進行していた。
「うっ……ん」
気持ちよさそうに背伸びをすると体のシルエットがハッキリする。体に張り付くウェットスーツのような装備だ。
「逃がしちゃったねぇ」
つまり失敗を嘆く。
顔は引きって笑う。
「結構いるね、でもたった40人ぽっちじゃあこのビヨンド様は倒せないかなぁ……80人でもどうだろ?」
腰のハンドガンを摩りながら街を見下ろしていた。彼女に課せられた命はECFのPEを抹殺すること。あわよくばECFの全滅。NO.E6の力を借りたためビヨンドのような強力な兵器も完成した。もう怖いものなんかない。
ーーーーーー
キリカの後にはビヨンドが透明な姿で鎮座している。
ちょうど中身も降りてきた。もしかして今がチャンス?
『黙って聞け、ビヨンドをECF10名で囲んでいる。お前はそこで待っていろ。そこの黒い女の脳みそをぶち抜いてやる』
「(まさか、カエデが狙っていたりするのか?)」
ニコニコ
『距離140。外すなよ?撃て』
キリカの耳には五つの方向からの発砲音が聞こえた。そのうちの一発、一際目立つ爆音はカエデの銃だ。ならば発砲音が聞こえる前に着弾しているはず。
振り返る。コートのフードから目が覗く。
「ウソ……」
二秒前。
少女は自分を何人かのECFが囲んでいることが分かった。必ずスナイパーライフルで射抜いてくる。生身で射線に立っているのだ当然だ。
「ビヨンド、頼んだ」
笑いが止まらなくて頑張って抑えた。来る……来るぞ奴らの小さな弾丸が!
着弾。
少女を狙って放たれた弾丸はビヨンドの周りを中心に展開された半透明な魔導シールドに防がれた。ガラス細工が割れるように弾丸が弾けた。
「対物ライフルがいるね?厄介な……」
今。
『……なるほどシールドを展開できるのか。報告にはなかったな』
ツルギは抜刀して全員に通達する。
『これよりビヨンド討伐を命令する。必ず仕留めろ』
ECF隊員それぞれが魔物と戦うよりも緊張感を持った。あんな敵には勝てる見込みがないからだ。ツルギさんがいる、そんなの安心できる材料ではなかった。
懸念材料はあの装甲だ。魔導シールドはカエデの弾丸で破壊を確認した。恐らくクールタイムがあるもう一度シールドを貼るだろう。その奥の黒い装甲、キョウスケの解析によるとほとんどが未知の素材で、難点なのは魔力を吸収すること。これでは青の剣閃が効くのか分からない。そもそもECFの刀が通るとも思えない。さらに魔法も無効化されるとは。
『持ち得る手は全て使え。魔法は奴の装甲の強度を上げる。使うな』
キリカも静かに抜刀する。暗殺術に心得はないが、静かに近づいて一瞬のうちに首を飛ばすことくらい出来る。
今、中身がそこにいる。これは私が仕留めるしかない。
「大丈夫……出来る」
キリカが走る。ビヨンドの向こうに対象がいる。一直線に向かうには巨大で邪魔。それを飛び台にして対象の真上をとった。
「死ねっ……」
気づいていない、いまなら肩から両断できる。
「フフフ……笑えるよ」
あと数センチのところで回避されてしまった。空圧ともいえる衝撃波が辺りを切り裂いた。
「よく避けたね」
「えへへ、いゃあ……以外と出来るもんだねぇ。それとそれはスキルかい?ただの剣の振り下ろしでそこまで周りをズタズタに出来ないでしょ?」
「さぁ」
重心を倒してもう一度攻撃を試みる。切り上げから入る。
「よっ!」
「ちぃ……」
避けられた。続いて突き、右水平斬り、切り返し。斬り下ろし。ことごとく避けられる。
「なんて反応速度」
「今度はコッチだ!」
腰のハンドガンで足を狙う。青の剣閃を広範囲展開して弾丸を防いだ。
「(威力高くない?)」
「へぇ、そんな小細工できるのか……なら」
接近、右脚からの横蹴り、腕で防ぐとそれなりの距離を飛ばされた。
「飛んだ?いてて……訓練でこんなこと無かったのに……」
「立てよ……ん?」
「一撃で決める」
青の剣閃を発動、ここで綺麗に首を飛ばす。
右脚を後に下げて刀を水平に構える。青いオーラが荒ぶり今か今かと爆発を待っている。
「その構え見たことあるよ」
「多分その人より速いよ」
少女は目がいい。私の目を見て狙いを推測できる。だから私は目をつむった。そして力を解放して一突き。右脚で蹴り、右手を一点へ伸ばす。青の剣閃がレンジを伸ばして少女の首を狙う。
「何!伸びた!」
私の狙いが外れ、少女が無理やり避けようとしたその奇跡が肩を斬り裂いた。
「くっ……痛いな。ここまでだ、待っていろすぐに殺す」
すぐにビヨンドの操縦席に移動してハッチを閉じた。
「ま、待て!」
青の剣閃を放とうとしたが、魔力吸収を思い出して留まった。
「畜生……」
ツルギさんから連絡だ。
『キリカもういい、今は距離を取れ』
「いいえ、前衛は任せてください」
『……そうか、なら俺も向かおう』
ビヨンドが起動した。ステルスを失った黒い体が立ち上がる。斬るなら関節部分、もくしは胴体のコックピット。
上を見上げる。目前で感じるプレッシャー、オトメがこれと戦ったと思うと自分も足を震えさせるのをやめようと思えた。
足を一歩踏み出した瞬間、右で何かが近づいて来るのを感じた。ビヨンドもそちらを向いた。
「ライヴゥ!」
屋根から飛び跳ねてビヨンドの頭を剣で捉えた男がいた。金属を叩きつけた音が響く。その美しい剣の輝きに神をも彷彿とさせるようで見入ってしまう。
「邪魔だ!」
ビヨンドも振り払おうと体を揺らすが男は抵抗し、さらに剣を突き刺す。しかし硬すぎて刃が通らない。諦めて屋根へ着地した。
「あなたは?」
「勇者。あんたは?……逃げてください。貴女のような美しい女性が戦場にいてはいけない。ん?……あの男と同じ服装、色違いか、貴様倫理委員会だな!」
「待って!剣を向けるならあっちでしょ!多人数で挑まないとコイツは倒せない」
「……しょうがない、貴様の美貌に免じてここは共闘しよう」
「は?」
ビヨンドが銃を構える。キリカはそれよりも隣のキザ男の神剣が気になって仕方がなかった。
観察して分かったことは、ライヴの警戒レベルが上がったことだろう。制服を身につけた軍人みたいな連中が三倍に増えた。オトメの報告以来のことだ、ライヴにECF潜入がバレたに違いない。
「私たちは制服をもっと偽装出来ればどうにかなると思うんだけどなぁ……鎧つけるわけにもいかないし……んー」
身に覚えのある風景に人、私は知っている、家が近かった……いや私が育ったのはあの家だけ。周りにこんなピカピカ光る黒い塊の家はない。
「とうきょう」
口が滑った。今何か言った。頭にこびり付く記憶の断片を拾おうとするが、爪が引っかかり取れない。これも記憶を、本来の記憶を取り戻せたら解決するのだろうか。
もし、この風景の既視感が偽りなきものなら、一体その本物はどんな街だった?
怖かった。
ツルギさんから連絡だ。
『キリカか』
「はい、こちらキリカです、ツルギさんどうしました?こっちはライヴの動きを探っています。未だ数が増えるだけですが」
『報告にあったビヨンドと思われる巨大な有人人型ロボットを確認した』
圧倒的戦闘能力を誇るとされる人型ロボット?血管が脈打つプレッシャーのようなものを感じて周囲を確認した。ビヨンドのライフルは2キロ先も命中すると聞いた。
しかしそんな巨大な人工物、目視したのならすぐに発見できるはず。私の目では分からなかった。
「ど、どこですか?」
『落ち着いて聞け』
「……」
唾を飲んで出来るだけ息を殺した。私には続きが分かった。エーテル場の乱れを察知した。街も相当乱れがちだが、ある場所だけ程度が違う。
『そいつはステルス機能があるんだろうな、俺には見えるが……いや下手くそなようだ。空気が歪んで見える。そいつはそこだ』
「……」
『言い忘れた。喋るな』
「(分かってます!)」
『ビヨンドは……お前の後に鎮座している』
改めて真実を言われて死を悟るところだった。
ーーーーーー
巨人が座るようだ。
立膝で姿勢がいい。
街の明かりで照らされた不思議な光沢を放つ金属で出来た機体。
胸のハッチが開き、蒸気を放って一人の少女が降りてくる。
ヘルメットのようなものを豪快に取る。花が咲いたように髪がパァっと下に降りる。毛先三センチからシロカミが進行していた。
「うっ……ん」
気持ちよさそうに背伸びをすると体のシルエットがハッキリする。体に張り付くウェットスーツのような装備だ。
「逃がしちゃったねぇ」
つまり失敗を嘆く。
顔は引きって笑う。
「結構いるね、でもたった40人ぽっちじゃあこのビヨンド様は倒せないかなぁ……80人でもどうだろ?」
腰のハンドガンを摩りながら街を見下ろしていた。彼女に課せられた命はECFのPEを抹殺すること。あわよくばECFの全滅。NO.E6の力を借りたためビヨンドのような強力な兵器も完成した。もう怖いものなんかない。
ーーーーーー
キリカの後にはビヨンドが透明な姿で鎮座している。
ちょうど中身も降りてきた。もしかして今がチャンス?
『黙って聞け、ビヨンドをECF10名で囲んでいる。お前はそこで待っていろ。そこの黒い女の脳みそをぶち抜いてやる』
「(まさか、カエデが狙っていたりするのか?)」
ニコニコ
『距離140。外すなよ?撃て』
キリカの耳には五つの方向からの発砲音が聞こえた。そのうちの一発、一際目立つ爆音はカエデの銃だ。ならば発砲音が聞こえる前に着弾しているはず。
振り返る。コートのフードから目が覗く。
「ウソ……」
二秒前。
少女は自分を何人かのECFが囲んでいることが分かった。必ずスナイパーライフルで射抜いてくる。生身で射線に立っているのだ当然だ。
「ビヨンド、頼んだ」
笑いが止まらなくて頑張って抑えた。来る……来るぞ奴らの小さな弾丸が!
着弾。
少女を狙って放たれた弾丸はビヨンドの周りを中心に展開された半透明な魔導シールドに防がれた。ガラス細工が割れるように弾丸が弾けた。
「対物ライフルがいるね?厄介な……」
今。
『……なるほどシールドを展開できるのか。報告にはなかったな』
ツルギは抜刀して全員に通達する。
『これよりビヨンド討伐を命令する。必ず仕留めろ』
ECF隊員それぞれが魔物と戦うよりも緊張感を持った。あんな敵には勝てる見込みがないからだ。ツルギさんがいる、そんなの安心できる材料ではなかった。
懸念材料はあの装甲だ。魔導シールドはカエデの弾丸で破壊を確認した。恐らくクールタイムがあるもう一度シールドを貼るだろう。その奥の黒い装甲、キョウスケの解析によるとほとんどが未知の素材で、難点なのは魔力を吸収すること。これでは青の剣閃が効くのか分からない。そもそもECFの刀が通るとも思えない。さらに魔法も無効化されるとは。
『持ち得る手は全て使え。魔法は奴の装甲の強度を上げる。使うな』
キリカも静かに抜刀する。暗殺術に心得はないが、静かに近づいて一瞬のうちに首を飛ばすことくらい出来る。
今、中身がそこにいる。これは私が仕留めるしかない。
「大丈夫……出来る」
キリカが走る。ビヨンドの向こうに対象がいる。一直線に向かうには巨大で邪魔。それを飛び台にして対象の真上をとった。
「死ねっ……」
気づいていない、いまなら肩から両断できる。
「フフフ……笑えるよ」
あと数センチのところで回避されてしまった。空圧ともいえる衝撃波が辺りを切り裂いた。
「よく避けたね」
「えへへ、いゃあ……以外と出来るもんだねぇ。それとそれはスキルかい?ただの剣の振り下ろしでそこまで周りをズタズタに出来ないでしょ?」
「さぁ」
重心を倒してもう一度攻撃を試みる。切り上げから入る。
「よっ!」
「ちぃ……」
避けられた。続いて突き、右水平斬り、切り返し。斬り下ろし。ことごとく避けられる。
「なんて反応速度」
「今度はコッチだ!」
腰のハンドガンで足を狙う。青の剣閃を広範囲展開して弾丸を防いだ。
「(威力高くない?)」
「へぇ、そんな小細工できるのか……なら」
接近、右脚からの横蹴り、腕で防ぐとそれなりの距離を飛ばされた。
「飛んだ?いてて……訓練でこんなこと無かったのに……」
「立てよ……ん?」
「一撃で決める」
青の剣閃を発動、ここで綺麗に首を飛ばす。
右脚を後に下げて刀を水平に構える。青いオーラが荒ぶり今か今かと爆発を待っている。
「その構え見たことあるよ」
「多分その人より速いよ」
少女は目がいい。私の目を見て狙いを推測できる。だから私は目をつむった。そして力を解放して一突き。右脚で蹴り、右手を一点へ伸ばす。青の剣閃がレンジを伸ばして少女の首を狙う。
「何!伸びた!」
私の狙いが外れ、少女が無理やり避けようとしたその奇跡が肩を斬り裂いた。
「くっ……痛いな。ここまでだ、待っていろすぐに殺す」
すぐにビヨンドの操縦席に移動してハッチを閉じた。
「ま、待て!」
青の剣閃を放とうとしたが、魔力吸収を思い出して留まった。
「畜生……」
ツルギさんから連絡だ。
『キリカもういい、今は距離を取れ』
「いいえ、前衛は任せてください」
『……そうか、なら俺も向かおう』
ビヨンドが起動した。ステルスを失った黒い体が立ち上がる。斬るなら関節部分、もくしは胴体のコックピット。
上を見上げる。目前で感じるプレッシャー、オトメがこれと戦ったと思うと自分も足を震えさせるのをやめようと思えた。
足を一歩踏み出した瞬間、右で何かが近づいて来るのを感じた。ビヨンドもそちらを向いた。
「ライヴゥ!」
屋根から飛び跳ねてビヨンドの頭を剣で捉えた男がいた。金属を叩きつけた音が響く。その美しい剣の輝きに神をも彷彿とさせるようで見入ってしまう。
「邪魔だ!」
ビヨンドも振り払おうと体を揺らすが男は抵抗し、さらに剣を突き刺す。しかし硬すぎて刃が通らない。諦めて屋根へ着地した。
「あなたは?」
「勇者。あんたは?……逃げてください。貴女のような美しい女性が戦場にいてはいけない。ん?……あの男と同じ服装、色違いか、貴様倫理委員会だな!」
「待って!剣を向けるならあっちでしょ!多人数で挑まないとコイツは倒せない」
「……しょうがない、貴様の美貌に免じてここは共闘しよう」
「は?」
ビヨンドが銃を構える。キリカはそれよりも隣のキザ男の神剣が気になって仕方がなかった。
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