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63.言う
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「あれか?」
「しかないでしょ」
「あれしかないですね」
「───」
目の前を堂々を歩く熊、というよりモンスター。
僕たちは目線に入らないように高所から見つめる。
デカい、デカすぎ、全長10メートルはあるかもしれない。
しかも子連れだ、気が立っているだろう。
息が聞こえる。
経緯は僕の魔具エフェクトシールドの強化のための魔石採集だ。
強力なモンスターのドロップ品に多いので、村の北側に繰り出した。
パーティメンバーに伝えると、三人とも同行したいと、カエデはエルフから借りた弓(巨大)で狙撃、僕含めて他三人は接近だ。
そしてカエデが索敵を先行していると、早速見つかって、今に至る。
「オトメさん、どうやって倒すんですか?」
「正面衝突?」
「なわけあるかぁ!あんな化け物と正面から?ムリムリ、ゴールドグリップのほうがマシだよ」
「ふーん……同意しかねるねぇ」
「ナゼ!?」
キリカは抜刀し、今にも飛び降りて奇襲をしかけそう。
エイルも魔導書を開いて、やる気満々。
どこかで覗いているカエデもロックオン済みだろう。
後は僕だけか。
「子供がいるのか……忍びないけど……」
愁と絶叫を装備して、魔縄を生成、覚悟を決めて飛び降りる。
「黙って殺されて、転生してくれ」
僕の飛び降りを合図にキリカはエイルを片腕で抱えて続く。
加速する体は巨体に近づく、剛毛が鉄の針に見える。
目視で地面ギリギリで『ループアウト』を使って無事に着地、続いてキリカも着陸。
衝撃が体を襲う。
「う!」
「あ、大丈夫エイルちゃん?」
魔力の絶対量が少ない僕は二度連続使用でMPが切れる。
「さぁーて!気張ってこうぜ!というわけで皆……ぶっ殺せ!」
「おおー!」
「……」
「──────!!!」
おそらく母熊、巨大な体で重量感のある一撃を繰り出すだろう、エイルは距離を取るべきだ。
僕もまともに攻撃を防ぐことができるとは思えない。
打撃斬撃攻撃に特化したモンスターだろう。
人が戦っていい生き物ではありません。死にます。
「炎系魔術は禁止、キリカは青の剣閃をできるだけ短く」
「了解!」
「わかりました」
熊が腕を振り上げる、子連れの熊は凶暴と聞いたがその通りだ。
思ったより速い、攻撃予測は無いがわかりやすい攻撃で避けやすい。ECFで訓練しておいてよかった。
キリカはエイルをかばうように後ろに、僕は短剣を投げて前転回避。
体をかすめた熊の腕、当たれば復帰が難しいことは想像しやすい。いいや、死にます。
そして短剣の威力を期待したが、その体毛には刺さらない。
いや、皮が固いのか?
はじかれた短剣を回収し、距離を取る。
「これじゃあ僕の飛び道具が通用しないな」
「……」
「期待するぜ」
続いて熊の攻撃前、飛翔する矢、命中先は口の中、舌を捕らえたようだ。
いかに頑丈な皮膚をもっていても、粘膜は弱いのだろう、カエデの一射は完璧だった。貫通した矢が顎から突き出てきた。
さすがエリートだ。
顎に舌を固定され、熊さんはきっとお怒りだろう。
移動速度が一気に上昇、暴れまわる。近づけない。一つ一つの動作の音が大きすぎる。正直怖い。
怯み時間も短く、キリカの青の剣閃が間に合わない。
「避けろお前ら!」
「わかってる!」
キリカが距離をさらに取ると、隣でエイルが悪い笑い顔をしている。
「今度は真面目にぶっ放す……します!」
「やっぱりエイルちゃん胴上げで頭おかしくなってる」
僕が精一杯回避している向こう側で、魔導書が光を放つ、カエデは再び弦を絞っているのだろう。
「かませっ!エイル!」
「完全になった私の力を見せてやる!切り刻め『カシロ・ライト』!……きまったっ!」
エイルの指定した範囲は熊の右腕、前回より正確で広く高威力、分厚い皮の上から斬撃を放つ。
追加効果だろうか、熊の腕から蒸気のようなものが見えた。
「アアグルアア!」
痛いでしょう。
かなり耳に来た。
「よしっ!完璧!」
「いいぞエイル!」
確実に決定打になった一撃だ、暴れていた熊の動きが鈍くなった。
命を感じる、最後まであがいてくれよ。
足、後退してますよ!
カエデの第二射、熊の目をとらえた。
上手すぎる。
「はっはー、僕とおそろいだね」
僕はクニテツ程の怪力はない、よって投擲はザコ。
だからフックショットを上の木に撃ち、上昇、アンカーを開放し、降下した。
「僕が出来るまともな攻撃手段だ!」
愁と絶叫の二剣を逆手持ち、落下攻撃、その装甲に突き刺す。
腕がもっていかれそうだ。『兜割・天』ほどではなかったのか、僕の腕は耐えた。
厚い皮を貫通でき……たが本当に少しだけ、短剣ではリーチが足りなかった。
「クッソ……」
衝撃は感じたみたいだが、皆程のダメージを受けていない。
「オトメ君、離れて!」
青い光放つ少女、刀のリーチは4倍近く、色の深みは時間とともに増す。
「よく考えたら刀振り回すのにオトメ君が邪魔だった!」
「そりゃそうだ!」
僕はフックショットで上に逃げる。
体を中で反転させて木の枝に乗る。
「どんな装甲でも……切断する」
巨大熊の懐に駆け抜け、体を回転させて放つ四連撃、熊は五等分になった。
「ふっ……血まみれですが、いっちょあがり!」
「おおーキリカさん流石です!」
「……!」
「最初からこれで良かったのでは?」
振り返ると、子熊は姿を消していた。
僕もこれ以上殺生したくないし、放っておいていいか。
大体キリカの活躍で巨大な熊を怪我無しに討伐し、ストレージにしまって村へと帰る。
きっと僕一人なら無理だっただろう。
他三人なら単独でも……なんだか絶望した。
「オトメー、これ君たちがやったのか?」
「あぁ、大体キリカのおかげですが」
「そうですね、キリカさんの剣閃は美しいです」
「……うんうん」
「えへっへどうもー」
滞在のお礼として村の亜人達に振舞った。
野性味溢れる味、命を感じる、そして美味い。
ドロップ品確認のUIは表示されないため、自分でストレージを見る必要がある。
確認の結果、『魔石(小)』が4個『魔石(中)』が2個あった。
このくらいあれば十分だろうと思い、ガットに持っていくと、魔石(中)でいいと言うので、渡した。
疲れた、村は賑わってるし、亜人の相手はエイルとカエデがしているから僕は休もう。
「ふー」
深呼吸とともに木の上に乗る。
フックショットの使い方の一つだ。
「月が綺麗だ」
左目で見る月はいつも見ている色、結界の判別が出来ない。
「あ、マニーに再生水の手掛かり訊くの忘れてた……てかなんか誤魔化し気味にしてるよねあの人」
明日でいいか、時間はまだ……あるよな?
「よいしょ」
「よいしょ?」
夜でもわかる白い髪、キリカだった。
左手のフックショットを見る限り、彼女も登って来たのだろう。
「SEにもねミニバージョンのストレージがあるんだ」
そう言って消滅させてみせる。
「どうしてここがわかったの?」
「いない時はどこにいるか、なんとなくわかりますよー」
「すごいな……」
左隣のキリカは月あかりを浴びて、絵画のようだった。
僕の片目に飛び込んできたその絵面を写真で記録したかった。
叶わぬか。
「……あのさ」
「ん?」
キリカが体を少しずつ僕の方に寄せる。
枝はあの熊程の太さで折れる気配はない、だから僕も安心。
いや、キリカさんが安心ではないんですけど。
「えっとね!」
「はい」
一直閃に見つめる目の中に眼帯の男一人、僕だ。
暗くてその赤面に気づくことはない。
「腕かして」
「どうぞ?」
キリカが左腕を掴もうとしたとき、僕は列車の中でのことを思い出した。
前にこうしてキリカの頭を抱き込んだことがあったな。
その時、右腕が無かったんだよな、懐かしい。
我ながら気持ち悪い。
「ううん!」
「そりゃ!」
左腕をそのまま引っ張られ、キリカに引き込まれる。
衝撃は彼女の体が受け止める。
一方の僕は驚いて言葉が出ない。
鼓動がうるさい、二つ分聞こえる。
「オトメ君」
「はいキリカさん、これは一体?」
「これからも死なないで」
うまいこと木の枝から落ちることなく僕はキリカの腕の中にいた、少し恥ずかしいが心地が良かった。
生まれて初めての接触の愛を感じて放心していたかもしれない。
「死な……ないよ。まだ死ねない」
「そうじゃなくて、ま……ま、ままままだ!私と一緒にいてほしい」
「……僕も、キリカがいないと今日の熊だって倒せなかったし、いつまでも仲間でいてほ……しい……です」
そうだ、僕の中で一番大切にしなければいけない人間はキリカだ。
一番初めの仲間みたいなところあるし、僕がこの世界に降り立ってほとんど一緒だ。
でもこの状況は……僕はこういうのに慣れてないからどうすればいいかな?教えてキョウスケ!
「全てが終わったら、オトメ君はどうしたい?」
「あー、考えたことなかったな」
自分はどうしたいんだろう、この戦いの果てに何を求めて、何を掴み取りたいのか、きっとそうだ。
それは普通のことで、皆と同じ考えだろう。
「平和になって、穏やかに生活したいな……恥ずかしいな」
「いいねそれ」
キリカが僕の頭を腕で包む、顔はキリカの肩の向こうを覗く。
「それが一番だ」
「……そう思う?」
「そうだよ、オトメ君が思ったことだもん、間違いなんてあんまりないよ」
木から落ちそうなんて考えはとうに忘れた。
ただひたすらに目の前の優しさと温もりに包まれていたかった。
僕には仲間三人のような境遇はナイ、ただ記憶がない一般人に相当する、少し特別な目を持っただけの人間だ。
それでもなぜこんなに涙が出る?
いやいや、贅沢しすぎたかな?そろそろやめないとメンタルがもたない。
「よくわからないけど、ありがとうキリカ」
「いいよべつに」
僕は丁寧に腕をはがして、キリカを見つめる、かなりひどい顔になっているはずだ。
それでも僕は言わないといけないことがある、ずっと忘れていた。
「キリカ、僕からの……お願いだ、どうか……最後まで生きて、死なないでくれ!キリカは一番大切な仲間だ、キリカが死んだら僕は耐えられないだろう、その剣筋も白い髪も、勝手かもしれないが僕にとっても宝物なんだ」
熊の討伐報酬にしては高すぎるだろう、美味しいお肉で十分だ。
キリカも次第に顔が崩れてきた。笑っているように見える。
顔を手で拭い始めて、もう何て言ってるか分からなくなった。
お互いに悲しいのか嬉しいのか、寂しいのか、感情を考えるのをやめた。
そうか、僕はこれが欲しかったのかもしれない、心に知らないうちに隠していたカスのような大切な感情を引き出して捨てる。
しっかりとサヨウナラをすることだ。
心に手をキリカに突っ込まれて、抵抗があったが、今は気分がいい。
二人は気が済むまで月を見ていた。
夜はいいとおもう、近くでないと顔が良く見えないし、遠くならこの顔見られないしね。
朝起きると、何かから解放された気分だった。
重みが取れて、本当に軽かった。何もかもか鮮明だった。
正直、理由はわからない。
「しかないでしょ」
「あれしかないですね」
「───」
目の前を堂々を歩く熊、というよりモンスター。
僕たちは目線に入らないように高所から見つめる。
デカい、デカすぎ、全長10メートルはあるかもしれない。
しかも子連れだ、気が立っているだろう。
息が聞こえる。
経緯は僕の魔具エフェクトシールドの強化のための魔石採集だ。
強力なモンスターのドロップ品に多いので、村の北側に繰り出した。
パーティメンバーに伝えると、三人とも同行したいと、カエデはエルフから借りた弓(巨大)で狙撃、僕含めて他三人は接近だ。
そしてカエデが索敵を先行していると、早速見つかって、今に至る。
「オトメさん、どうやって倒すんですか?」
「正面衝突?」
「なわけあるかぁ!あんな化け物と正面から?ムリムリ、ゴールドグリップのほうがマシだよ」
「ふーん……同意しかねるねぇ」
「ナゼ!?」
キリカは抜刀し、今にも飛び降りて奇襲をしかけそう。
エイルも魔導書を開いて、やる気満々。
どこかで覗いているカエデもロックオン済みだろう。
後は僕だけか。
「子供がいるのか……忍びないけど……」
愁と絶叫を装備して、魔縄を生成、覚悟を決めて飛び降りる。
「黙って殺されて、転生してくれ」
僕の飛び降りを合図にキリカはエイルを片腕で抱えて続く。
加速する体は巨体に近づく、剛毛が鉄の針に見える。
目視で地面ギリギリで『ループアウト』を使って無事に着地、続いてキリカも着陸。
衝撃が体を襲う。
「う!」
「あ、大丈夫エイルちゃん?」
魔力の絶対量が少ない僕は二度連続使用でMPが切れる。
「さぁーて!気張ってこうぜ!というわけで皆……ぶっ殺せ!」
「おおー!」
「……」
「──────!!!」
おそらく母熊、巨大な体で重量感のある一撃を繰り出すだろう、エイルは距離を取るべきだ。
僕もまともに攻撃を防ぐことができるとは思えない。
打撃斬撃攻撃に特化したモンスターだろう。
人が戦っていい生き物ではありません。死にます。
「炎系魔術は禁止、キリカは青の剣閃をできるだけ短く」
「了解!」
「わかりました」
熊が腕を振り上げる、子連れの熊は凶暴と聞いたがその通りだ。
思ったより速い、攻撃予測は無いがわかりやすい攻撃で避けやすい。ECFで訓練しておいてよかった。
キリカはエイルをかばうように後ろに、僕は短剣を投げて前転回避。
体をかすめた熊の腕、当たれば復帰が難しいことは想像しやすい。いいや、死にます。
そして短剣の威力を期待したが、その体毛には刺さらない。
いや、皮が固いのか?
はじかれた短剣を回収し、距離を取る。
「これじゃあ僕の飛び道具が通用しないな」
「……」
「期待するぜ」
続いて熊の攻撃前、飛翔する矢、命中先は口の中、舌を捕らえたようだ。
いかに頑丈な皮膚をもっていても、粘膜は弱いのだろう、カエデの一射は完璧だった。貫通した矢が顎から突き出てきた。
さすがエリートだ。
顎に舌を固定され、熊さんはきっとお怒りだろう。
移動速度が一気に上昇、暴れまわる。近づけない。一つ一つの動作の音が大きすぎる。正直怖い。
怯み時間も短く、キリカの青の剣閃が間に合わない。
「避けろお前ら!」
「わかってる!」
キリカが距離をさらに取ると、隣でエイルが悪い笑い顔をしている。
「今度は真面目にぶっ放す……します!」
「やっぱりエイルちゃん胴上げで頭おかしくなってる」
僕が精一杯回避している向こう側で、魔導書が光を放つ、カエデは再び弦を絞っているのだろう。
「かませっ!エイル!」
「完全になった私の力を見せてやる!切り刻め『カシロ・ライト』!……きまったっ!」
エイルの指定した範囲は熊の右腕、前回より正確で広く高威力、分厚い皮の上から斬撃を放つ。
追加効果だろうか、熊の腕から蒸気のようなものが見えた。
「アアグルアア!」
痛いでしょう。
かなり耳に来た。
「よしっ!完璧!」
「いいぞエイル!」
確実に決定打になった一撃だ、暴れていた熊の動きが鈍くなった。
命を感じる、最後まであがいてくれよ。
足、後退してますよ!
カエデの第二射、熊の目をとらえた。
上手すぎる。
「はっはー、僕とおそろいだね」
僕はクニテツ程の怪力はない、よって投擲はザコ。
だからフックショットを上の木に撃ち、上昇、アンカーを開放し、降下した。
「僕が出来るまともな攻撃手段だ!」
愁と絶叫の二剣を逆手持ち、落下攻撃、その装甲に突き刺す。
腕がもっていかれそうだ。『兜割・天』ほどではなかったのか、僕の腕は耐えた。
厚い皮を貫通でき……たが本当に少しだけ、短剣ではリーチが足りなかった。
「クッソ……」
衝撃は感じたみたいだが、皆程のダメージを受けていない。
「オトメ君、離れて!」
青い光放つ少女、刀のリーチは4倍近く、色の深みは時間とともに増す。
「よく考えたら刀振り回すのにオトメ君が邪魔だった!」
「そりゃそうだ!」
僕はフックショットで上に逃げる。
体を中で反転させて木の枝に乗る。
「どんな装甲でも……切断する」
巨大熊の懐に駆け抜け、体を回転させて放つ四連撃、熊は五等分になった。
「ふっ……血まみれですが、いっちょあがり!」
「おおーキリカさん流石です!」
「……!」
「最初からこれで良かったのでは?」
振り返ると、子熊は姿を消していた。
僕もこれ以上殺生したくないし、放っておいていいか。
大体キリカの活躍で巨大な熊を怪我無しに討伐し、ストレージにしまって村へと帰る。
きっと僕一人なら無理だっただろう。
他三人なら単独でも……なんだか絶望した。
「オトメー、これ君たちがやったのか?」
「あぁ、大体キリカのおかげですが」
「そうですね、キリカさんの剣閃は美しいです」
「……うんうん」
「えへっへどうもー」
滞在のお礼として村の亜人達に振舞った。
野性味溢れる味、命を感じる、そして美味い。
ドロップ品確認のUIは表示されないため、自分でストレージを見る必要がある。
確認の結果、『魔石(小)』が4個『魔石(中)』が2個あった。
このくらいあれば十分だろうと思い、ガットに持っていくと、魔石(中)でいいと言うので、渡した。
疲れた、村は賑わってるし、亜人の相手はエイルとカエデがしているから僕は休もう。
「ふー」
深呼吸とともに木の上に乗る。
フックショットの使い方の一つだ。
「月が綺麗だ」
左目で見る月はいつも見ている色、結界の判別が出来ない。
「あ、マニーに再生水の手掛かり訊くの忘れてた……てかなんか誤魔化し気味にしてるよねあの人」
明日でいいか、時間はまだ……あるよな?
「よいしょ」
「よいしょ?」
夜でもわかる白い髪、キリカだった。
左手のフックショットを見る限り、彼女も登って来たのだろう。
「SEにもねミニバージョンのストレージがあるんだ」
そう言って消滅させてみせる。
「どうしてここがわかったの?」
「いない時はどこにいるか、なんとなくわかりますよー」
「すごいな……」
左隣のキリカは月あかりを浴びて、絵画のようだった。
僕の片目に飛び込んできたその絵面を写真で記録したかった。
叶わぬか。
「……あのさ」
「ん?」
キリカが体を少しずつ僕の方に寄せる。
枝はあの熊程の太さで折れる気配はない、だから僕も安心。
いや、キリカさんが安心ではないんですけど。
「えっとね!」
「はい」
一直閃に見つめる目の中に眼帯の男一人、僕だ。
暗くてその赤面に気づくことはない。
「腕かして」
「どうぞ?」
キリカが左腕を掴もうとしたとき、僕は列車の中でのことを思い出した。
前にこうしてキリカの頭を抱き込んだことがあったな。
その時、右腕が無かったんだよな、懐かしい。
我ながら気持ち悪い。
「ううん!」
「そりゃ!」
左腕をそのまま引っ張られ、キリカに引き込まれる。
衝撃は彼女の体が受け止める。
一方の僕は驚いて言葉が出ない。
鼓動がうるさい、二つ分聞こえる。
「オトメ君」
「はいキリカさん、これは一体?」
「これからも死なないで」
うまいこと木の枝から落ちることなく僕はキリカの腕の中にいた、少し恥ずかしいが心地が良かった。
生まれて初めての接触の愛を感じて放心していたかもしれない。
「死な……ないよ。まだ死ねない」
「そうじゃなくて、ま……ま、ままままだ!私と一緒にいてほしい」
「……僕も、キリカがいないと今日の熊だって倒せなかったし、いつまでも仲間でいてほ……しい……です」
そうだ、僕の中で一番大切にしなければいけない人間はキリカだ。
一番初めの仲間みたいなところあるし、僕がこの世界に降り立ってほとんど一緒だ。
でもこの状況は……僕はこういうのに慣れてないからどうすればいいかな?教えてキョウスケ!
「全てが終わったら、オトメ君はどうしたい?」
「あー、考えたことなかったな」
自分はどうしたいんだろう、この戦いの果てに何を求めて、何を掴み取りたいのか、きっとそうだ。
それは普通のことで、皆と同じ考えだろう。
「平和になって、穏やかに生活したいな……恥ずかしいな」
「いいねそれ」
キリカが僕の頭を腕で包む、顔はキリカの肩の向こうを覗く。
「それが一番だ」
「……そう思う?」
「そうだよ、オトメ君が思ったことだもん、間違いなんてあんまりないよ」
木から落ちそうなんて考えはとうに忘れた。
ただひたすらに目の前の優しさと温もりに包まれていたかった。
僕には仲間三人のような境遇はナイ、ただ記憶がない一般人に相当する、少し特別な目を持っただけの人間だ。
それでもなぜこんなに涙が出る?
いやいや、贅沢しすぎたかな?そろそろやめないとメンタルがもたない。
「よくわからないけど、ありがとうキリカ」
「いいよべつに」
僕は丁寧に腕をはがして、キリカを見つめる、かなりひどい顔になっているはずだ。
それでも僕は言わないといけないことがある、ずっと忘れていた。
「キリカ、僕からの……お願いだ、どうか……最後まで生きて、死なないでくれ!キリカは一番大切な仲間だ、キリカが死んだら僕は耐えられないだろう、その剣筋も白い髪も、勝手かもしれないが僕にとっても宝物なんだ」
熊の討伐報酬にしては高すぎるだろう、美味しいお肉で十分だ。
キリカも次第に顔が崩れてきた。笑っているように見える。
顔を手で拭い始めて、もう何て言ってるか分からなくなった。
お互いに悲しいのか嬉しいのか、寂しいのか、感情を考えるのをやめた。
そうか、僕はこれが欲しかったのかもしれない、心に知らないうちに隠していたカスのような大切な感情を引き出して捨てる。
しっかりとサヨウナラをすることだ。
心に手をキリカに突っ込まれて、抵抗があったが、今は気分がいい。
二人は気が済むまで月を見ていた。
夜はいいとおもう、近くでないと顔が良く見えないし、遠くならこの顔見られないしね。
朝起きると、何かから解放された気分だった。
重みが取れて、本当に軽かった。何もかもか鮮明だった。
正直、理由はわからない。
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