仮想世界β!!

音音てすぃ

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40.価

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 翌日は体が軽い。
 一ヶ月以上の夢を見ていた気分だった。
 僕が生きてきた数ヶ月、記憶にある世界は夢で、この森で僕は生まれたのではないか?
 そう思ってしまうくらいに切り離された風景だ。
 少し前は、どこかに行けば誰かがいた。
 ここにはキリカしかいない。
 いっそここで暮らしていこうか、そう一瞬思った自分が嫌いだった。

 僕らはECFと気づかれると厄介と考えて、前の服装に戻していた。
 キリカは制服も冒険服もどちらも似合うと思う。

「見えた」
「マジ?どこどこ?」

 僕はキョウスケのズーム機能で先を見ていた。
 昨日から歩いて十キロ、大した距離ではなかった。
 朝から歩いて3時間、人工物が見えてきた。
 二人とも食糧が尽きてきて、腹が減っていた。

「言葉が通じるといいね」
「ん?コトバ?」

 キリカの思考が詰まった。
 頭では分かっていても、口に出せないもどかしさがグルグル回っていた。

「言葉ってなんだっけ?」
「キリカ、お前バカじゃないだろ?ほら、日本語とか……アレ?」

 僕の頭の中に『日本語』以外の単語が無かった。
 他にもあるということは認識しているのに、知っているはずなのに、出てこない、思い出せない。

「バカとは失礼ね。ま、気にする必要ないんじゃない?今までそんなことなかったし、最悪ジェスチャーで!」
「その時は任せるよ」
「……え、私がやるの?」
「当然だな、言い出しっぺってやつだ」

 この世界に正確には日本語は言葉として存在しない。『言葉』という一つの単語だけが存在する。
 僕の感覚はこの常識を許さなかった。気持ち悪さだけが喉元と頭を往復していた。

 人工物がより大きく見えるようになってきた。
 キリカもそれを確認し、腹を鳴らしている。

「お腹空いた」
「携帯食糧はとっくに尽きたからね、我慢しろ(僕より食いやがって)」

 建物群は二階建てが多い。
 ミルザンドの文化とは似ているが異なる。
 歩く人はほぼ全員が魔道士っぽい服装というか、奇妙だった。
 とりあえず生きてる町(村と言っていたが)のようだ。
 話しかけてみよう。

「あのー旅の者なんですけど……」

 キリカが突撃したのは優しそうな若い女性。とんがり帽子を被っていた。

「おい!キリカ!」

 僕が止めに行こうとしたが遅かった。

「……ふんふんなるほど、君たちけっこう困ってそうだな、よかったらウチに来るといい。ごはんはちょうど余ってるんだ」

 アレ何故か解決してませんかキリカさん?

「やったよオトメ君、あの人ライラさんっていうんだけど、親切な人でよかった!」
「君はすげぇよ……」

 キリカが突然話しかけた『ライラ』という人物の家はこの村では一番大きかった。
 後ろから僕ら二人はついて行ったのだが、村の中は若い子供、少年少女が多かった。
 そして、空の色が僕の知る色ではなかった。
 PE持ちだからこそ分かる。
 普通の目ではわからない色の違いがあった。
 後でライラさんに訊いてみよう。

「お待たせ、ここが私の家であり子供達の学校でもある屋敷……のようなものだ」
「広い」
「あぁ……広い、こういうのって洋館っていうんだっけ?」

 洋?
 建物は外から見ても圧巻なのに、内装は城のようだった。
 アバンドグローリーを越えているかも。

「まぁ食事を用意させるから、食堂で座っていてくれ、案内は……エイル!」

 ライラが少し声を挙げると、奥の方の角から小さな子供が駆けてきた。

「ライラ先生!お呼びですか!?」

『エイル・サモンウィリット』Green
・武器:リベルタの螺旋(魔道書)
・防具:魔道士の服(青)
・アクセサリー:とんがり帽子(特になし)
他スキャンを実行していません。

 少女……いや幼女、童女?
 それ系統に見えてきた。僕は怪しい者ではありません。
 歳は12位かなぁ、そう考えると幼女ではないよなぁ。

「……」

 顔が歪んでいたのか、冷たい視線が隣から刺さるのをキャッチすると、それはキリカだった。
 我に帰り、元の表情に戻す。

「うん呼んだよ。君、暇かい?」
「暇かと訊かれると特に用事は無いですけ……」
「じゃあ彼らを食堂に案内してくれ」
「えっと……あ、はいわかりました」

 ライラさんは強引な人だな。

「私は可愛い生徒に会いに行くよ、君たちも回復したらここから出ていくなり留まるなり、考えておきなよ?タダ飯じゃあないからね?」

 少しの笑を見せてから女性は消えた。
 消えた。
 ……消えた。

「キョウスケ、アレは……」
「おそらく転移系の魔術ではないでしょうか。彼女は今の私の力ではスキャン出来ない程の結界を貼っています」
「きっとめちゃくちゃ強いんだろうな」

 目線をエイルに移す。
 黙ってこちらを見ていた。

「え、えっと、私はエイルっていいます!よろしくお願いします。食堂に案内するのでついてきてください」

 緊張が声から伝わってきた。
 なんだかこちらまで緊張してきた。
 ライラさん、人選ミスですよ。

ーーーーーー

 食堂は収容人数300を超えているだろう。
 ライラさんの言っていた「生徒」はここで食事をしたりするのだろうか?
 何となくイメージしていた。
 ワイワイガヤガヤ……声が聞こえる気がする。

「お席は指定されていませんので、どこに座っても構いませんよ」

 じゃあといって食堂の端に座ろうとすると、キリカが走り出した。

「ド真ん中!」
「……わかった」

 僕らは広い食堂の中心で食事を頂くことにした。

「今からお持ちしますのでお待ちください」
「はーい」

 エイルが厨房に消えていくのを見届けて、キリカが話し出した。

「良かったね、言葉伝わって」
「あぁ心配しなくて良かったな」
「ごはんまで貰って、親切な人だなー」
「お返ししないとな」
「うん……けど私たちに出来ることは……」

 二人で遭難の安心感を補充しながら、思考を回す。
 そして声を合わせて笑いはしない。

「「人殺し」」

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