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41.欠陥共
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食事は懐かしい味がした。
どこかで食べたことがある味だった。
子供の頃から知っている、食べ慣れた慣れた慣れた味。
何故か残してはいけない気がした。
「じゃんけーん……」
そんな声が聞こえてくるようだった。
二人は言動を振り返っていた。
「人殺しは……言い過ぎでは……?」
「そう……だな。もっと優しく言うなら、何かを守る力とか?」
「うんうんそれ、なんか野蛮人みたいに聞こてるからね─────」
自分達は管理者達という意味不明な存在と対峙してきた。
そんな僕らが他人に使える能力は”力”しかない。
キリカは知らないけど。
「これからどうするのオトメ君?やっぱりツルギさん達を探す?ここどこかわかんないけどね。キョウスケ……目は役に立たないの?」
食事を終えたキリカはスプーンを置く。
無意識に目で追ってしまい、その優美さに胸が火照る。
雑な食事法しかできない僕にそれは高貴さとか気品とか、高級なものを感じた。
無駄な緊張を覚えた。
「ECFに連絡を取りたいけど、つながらない……周辺に人がいるから、情報収集からはじめよう。それからは早急にツルギさんと合流したいね、スイセンドウでのことも気になるし、210のメンバーも気になる」
パンの焦げ目を睨みつけて仲間のことを考えていると、ヒエンのことが頭に再生される。
どうしてキリカをかばったのか……キリカの能力とは?
そのことと同時に、死んだ仲間を思った。訓練ですれ違っただけ、挨拶だけ、飯を隣で食っただけ、訓練で剣を交えただけ、それでも確実に失われた記憶達を思うと怒りとか憎悪とか、そんなものが外部と内部に向けられるのを感じた。
自分が嫌いになりそうだった。
「気分悪い?もしかして食べ物腐って……」
「違う違う、せっかくの食事でそんなことはない。というか、キリカは平然保っているよな、どうしてなんだ?」
「何にも寂しくないからよっ!」
自慢げに息を鳴らして言っていた。
「……変な……いや、切り替えいいやつだな……」
僕はゴネて淹れてもらったコーヒーを飲んで席を立った。
「じゃ、行くか」
「んー?あっ、旅のお二人さん!もう食事はいいんですか?まだたくさん……」
「いや、ありがとう。もう十分だ……十分です。それと、僕はオトメ」
「私はキリカ」
「エイル……だね、何も知らない僕らに食事を出してくれてありがとう、ライラさんはどこ?お礼とお返しの話をしたい」
「先生ならもう授業を終えて自室にいると思います、四階の西に部屋がありますよ」
「エイルちゃん、案内してくれないかな?私、方向音痴発動するかもしれないからね!」
そんなスキルはありません。
キリカの台詞の後、奥から小さな紙きれが浮遊してくる。
「キョウスケ、あれは?」
「浮遊魔術だと思われます、ライラのメッセージと推測」
「なるほど」
紙はエイルの手のひらに着地し、勝手に開く。
「……三人で先生の自室に来てほしいそうです、ご案内しますね」
結局三人で向かおうとすると、地響きのような音がしてきて、次第に大きくなる。
無意識に右手が装備していない剣の柄のある部分を掴もうとしていた。
その正体はローブを身に着けた子供たちだった。
多少面食らった僕はしばらく動けなくて、大量に押し寄せてくる人の波にのまれていた。
「キリカァ!助けて!」
キリカの方を確認すると、エイルと一緒に隅に隠れていた。
「あいつらッ!」
抵抗虚しく、蹴られ、蹴られ、踏まれた。
「ニイちゃん邪魔!」
「邪魔!」
「邪魔!」
「飯だー!」
「はらへった」
「ああそうか……」
視界UIの示す時刻は昼を過ぎたあたり、ここでライラが子供を教えていて、ここで食事をするのは子供たち、僕はここが「学校」というものではないのかと考えていた。懐かしんでいたというのが正しい。
「大丈夫?」
「HPはな、CPは訊くな」
波は全て食堂へ飲み込まれ、僕は足跡で服が汚れていた。
「さぁ(痛い)……行こうか(許さねぇからな)」
親切にもここには魔導エレベーター付きの屋敷、四階への移動にそれを利用させてもらった。
「きたねー」
「失礼します」
おおよそ校長室といったところ、本棚には難しそうな本、魔力を感じる浮遊照明がある。
「食事、お気にめしたかな?」
「えぇとても」
「それならよかった、それじゃあ……」
「なんでも言って下さい、僕ら、今何もないので」
ライラ先生は悪戯っぽく顔を歪ませて微笑む、大抵の男なら一発KO!だろう。
「なら、君たち三人で、旅でもしてもらおうかなぁ」
一番反応を示したのはエイルだった。
僕は何にも理解できなかった。
「先生!ついに頭まで狂いましたか!精神の回復が……」
「大丈夫だエイル、私は正気だよ。君の力は彼らにとって役に立つ……そう私は直感した」
「無茶苦茶な……」
旅という言葉、記憶の中では聞きなれない言葉だ。
今まで誰かの命令で動いてきた僕にとっては魅力的過ぎて、思考を止めていた。
依頼にしてはいまいちピンとこない。
「旅か……いいなぁ」
「オトメ君?おーとーめーくん?」
「お、おぉ、どうしたキリカ?」
「旅、してみたいの?」
「なぜわかる!というかキリカは旅の経験は……?」
「大体……三年くらいしてたかなぁ、それでオトメ君と会ったわけだし……」
「ミルザンドは旅の途中で立ち寄ったのか、なるほど……」
人生経験はキリカの方が豊富だった。
「オトメ君、キリカ君、どうかエイルを連れていってもらえるか?それで食事代としたい」
「先生、旅の方に失礼ですよ!私なんかついていったら邪魔ですよ!」
「私は別に負担じゃないよ」
キリカは戸惑うエイルの目線に合わせてしゃがみこんだ。
「エイルちゃんはどうなの?旅、したくない?」
「うっ……」
したいらしい。
そしてキリカは僕の方を振り返る。
「オトメ君はどう?エイルちゃんいても大丈夫?」
「僕は別に……いや……よく考えてみろ、僕らはツルギさんと合流しないといけないんだぞ?それまでの旅とはいえ、そこからエイルはどうする?」
それを聞いたライラがとどめを刺した。
「完全に君たちの仲間として迎えてほしいんだ、私は。いいね、エイル?」
エイルは黙っていたが、どうやら嬉しそう、え、僕の意見は?教え子を簡単に赤の他人に託します!?そっちの事情全然想像できません。
「正直現地案内役……といいますか、人がいるのは心強いです」
「ホラ、ねエイル、彼らについていきな」
急に決まった仲間の加入、僕のパーティメンバーは三人となった。
その後、キリカはエイルと買い物に行くらしい。
仲良くお手手つないで歩いていった。
それを僕とライラ先生と二人で見送った。
夕方には帰ってくる予定だ。
明日出発、とりあえずの目的地は北に……距離を考えるのはやめよう、「ザンゲノヤマ」と言われる街。
人の生存が確認されているのはこの辺ではそのくらい……らしい。
さすが未開拓だ。
とはいえ、ここより栄えているとライラ先生は言っていたし「君たちみたいな現代っ子はああいう街に行くといいと思うな」と言っていたし。
「なぁオトメ、訊きたいことがあるが、訊いていいか?」
「どうぞライラ先生」
微笑みを見せてから、庭のベンチに二人で腰掛ける。
木の影の下で、心地が良い。
「君、PE持ちだね?」
「げぇっ!バレてる!」
「ッハハハ!そう警戒しなくていいよ、殺したりはしないさ」
眉をひそめて肩の力をがんばって抜いた。
「PEなら、空の色の違いがわかるだろう?」
「はい、それ訊こうと思ってました」
ライラはゆったりと両手をベンチに着けて、上を見上げる。
喉元から鎖骨のラインを目をかっ開いて見ていた。
きっと若いんだろうなぁ。
人に堂々とは言えないな。
「私はここら辺では珍しくミルザンド出身でね、ここは未開拓地、まだ危険の多いところだね。だから結界を展開している。上手くバレないように作っているが……やはりPEには見えるか」
「やはり……ですか」
「お、君も結界だと感づいていたか。ここはね、周りからは認識できないようになっているんだ、ザンゲノヤマの人たちでもね」
「どうして?あ、どうしてです?」
「私はメモリーの追放者だ。あっちで禁忌ばかり研究してね、ランダム転送……っかな?そんなんでとばされちゃって……」
「何年前とか訊いてもいいですか?」
「ダメ」
「……はい」
どうしてかはわからないが、目に殺意が宿っていた。
これ以上は訊いてはいけない。
メモリーの追放者?初めて聞いた。禁忌か、ヒエンも『サクリファイス』というものを使っていた、関係あるのだろうか。
ランダム転送、キリカが作った強力な引力を持ったアレに近い何かかもしれない。
「ここはね、行き場のない子供、魔術の学びたい子供の秘密の学校だ。彼らに生きる力を与えたくてね。君も見たと思うがここには子供が多い、ほぼ全員が生徒だ、かわいい可愛いね」
居場所のない人間のための場所、素晴らしじゃないか。
優しく語るライラに見入っていて、返答が遅れた。
「そうなん……ですか……世界には色々ありますね。僕には何もないです」
ここにいる人達は皆が何かの力があって、それで生きている。
僕はどうだろう、PEのおかげで手に入れた力だらけだ。
今の僕だって、人の助けなしではここまで生きていないだろう。
そして、僕はお世話になった人たちに何も返せていない。
「そうかな?」
「PEのことですか?PEは僕の力じゃない」
「そうじゃない、君はちゃんとここまで生きてきている。仲間だっているじゃないか、立派な才能で能力さ」
こうやって肯定されたのは初めてで、暫く瞬きができなかった。
「あ、そうだ、どうしてエイルに一緒に旅を?」
「君たちだからだよ。君たちが普通でないことは承知している。なんていったって私の結界を見破る程だからねー。それと……」
「それと?」
「キリカ君の存在が大きいね」
僕には意味不明だった。
傍から見れば不審者の僕たちをどうしてここまで信用できるのか、僕ならできない。
一応客である僕たちの案内を任せる程の信頼を置いている存在を簡単に切り離しているように見えたから。
「彼女はシロカミだね?後天的な。そんな彼女と二人で旅……傷のわかる者しかできないことだ……だから君は才能がある。だから私は君たちを選んだ」
「……すみませんあんま何言っているかわかりませんが、ありがとうございます」
雑な返事をしてしまった。
シロカミ、キリカは怖がられると言っていたな。
喋ると普通に人間だし、怖がられる理由がわからない。
「先も言った通り、ここには居場所が無い可哀想な子が沢山いてね、君のような才能はうらやましい。私はね、結構人に嫌われやすくてね……」
ライラは左手で襟足を掻いていた。
「ライラ先生、僕、もっと知りたい、世界のこととか……キリカに負けないくらいの知識が……!」
「まぁそれは旅で美味しく学びたまえよー」
結局最後まで僕のPEについて詳しく訊いてくることはなかった。
僕はライラ先生のことが分からない。
ただ、この世界で信用できる人間の一人になった。
そうそう、先生は最後こう言っていた。
「君もそのうちエイルのことが分かるはずだ……拒絶せんでくれよ?」
やっぱりわからない。
どこかで食べたことがある味だった。
子供の頃から知っている、食べ慣れた慣れた慣れた味。
何故か残してはいけない気がした。
「じゃんけーん……」
そんな声が聞こえてくるようだった。
二人は言動を振り返っていた。
「人殺しは……言い過ぎでは……?」
「そう……だな。もっと優しく言うなら、何かを守る力とか?」
「うんうんそれ、なんか野蛮人みたいに聞こてるからね─────」
自分達は管理者達という意味不明な存在と対峙してきた。
そんな僕らが他人に使える能力は”力”しかない。
キリカは知らないけど。
「これからどうするのオトメ君?やっぱりツルギさん達を探す?ここどこかわかんないけどね。キョウスケ……目は役に立たないの?」
食事を終えたキリカはスプーンを置く。
無意識に目で追ってしまい、その優美さに胸が火照る。
雑な食事法しかできない僕にそれは高貴さとか気品とか、高級なものを感じた。
無駄な緊張を覚えた。
「ECFに連絡を取りたいけど、つながらない……周辺に人がいるから、情報収集からはじめよう。それからは早急にツルギさんと合流したいね、スイセンドウでのことも気になるし、210のメンバーも気になる」
パンの焦げ目を睨みつけて仲間のことを考えていると、ヒエンのことが頭に再生される。
どうしてキリカをかばったのか……キリカの能力とは?
そのことと同時に、死んだ仲間を思った。訓練ですれ違っただけ、挨拶だけ、飯を隣で食っただけ、訓練で剣を交えただけ、それでも確実に失われた記憶達を思うと怒りとか憎悪とか、そんなものが外部と内部に向けられるのを感じた。
自分が嫌いになりそうだった。
「気分悪い?もしかして食べ物腐って……」
「違う違う、せっかくの食事でそんなことはない。というか、キリカは平然保っているよな、どうしてなんだ?」
「何にも寂しくないからよっ!」
自慢げに息を鳴らして言っていた。
「……変な……いや、切り替えいいやつだな……」
僕はゴネて淹れてもらったコーヒーを飲んで席を立った。
「じゃ、行くか」
「んー?あっ、旅のお二人さん!もう食事はいいんですか?まだたくさん……」
「いや、ありがとう。もう十分だ……十分です。それと、僕はオトメ」
「私はキリカ」
「エイル……だね、何も知らない僕らに食事を出してくれてありがとう、ライラさんはどこ?お礼とお返しの話をしたい」
「先生ならもう授業を終えて自室にいると思います、四階の西に部屋がありますよ」
「エイルちゃん、案内してくれないかな?私、方向音痴発動するかもしれないからね!」
そんなスキルはありません。
キリカの台詞の後、奥から小さな紙きれが浮遊してくる。
「キョウスケ、あれは?」
「浮遊魔術だと思われます、ライラのメッセージと推測」
「なるほど」
紙はエイルの手のひらに着地し、勝手に開く。
「……三人で先生の自室に来てほしいそうです、ご案内しますね」
結局三人で向かおうとすると、地響きのような音がしてきて、次第に大きくなる。
無意識に右手が装備していない剣の柄のある部分を掴もうとしていた。
その正体はローブを身に着けた子供たちだった。
多少面食らった僕はしばらく動けなくて、大量に押し寄せてくる人の波にのまれていた。
「キリカァ!助けて!」
キリカの方を確認すると、エイルと一緒に隅に隠れていた。
「あいつらッ!」
抵抗虚しく、蹴られ、蹴られ、踏まれた。
「ニイちゃん邪魔!」
「邪魔!」
「邪魔!」
「飯だー!」
「はらへった」
「ああそうか……」
視界UIの示す時刻は昼を過ぎたあたり、ここでライラが子供を教えていて、ここで食事をするのは子供たち、僕はここが「学校」というものではないのかと考えていた。懐かしんでいたというのが正しい。
「大丈夫?」
「HPはな、CPは訊くな」
波は全て食堂へ飲み込まれ、僕は足跡で服が汚れていた。
「さぁ(痛い)……行こうか(許さねぇからな)」
親切にもここには魔導エレベーター付きの屋敷、四階への移動にそれを利用させてもらった。
「きたねー」
「失礼します」
おおよそ校長室といったところ、本棚には難しそうな本、魔力を感じる浮遊照明がある。
「食事、お気にめしたかな?」
「えぇとても」
「それならよかった、それじゃあ……」
「なんでも言って下さい、僕ら、今何もないので」
ライラ先生は悪戯っぽく顔を歪ませて微笑む、大抵の男なら一発KO!だろう。
「なら、君たち三人で、旅でもしてもらおうかなぁ」
一番反応を示したのはエイルだった。
僕は何にも理解できなかった。
「先生!ついに頭まで狂いましたか!精神の回復が……」
「大丈夫だエイル、私は正気だよ。君の力は彼らにとって役に立つ……そう私は直感した」
「無茶苦茶な……」
旅という言葉、記憶の中では聞きなれない言葉だ。
今まで誰かの命令で動いてきた僕にとっては魅力的過ぎて、思考を止めていた。
依頼にしてはいまいちピンとこない。
「旅か……いいなぁ」
「オトメ君?おーとーめーくん?」
「お、おぉ、どうしたキリカ?」
「旅、してみたいの?」
「なぜわかる!というかキリカは旅の経験は……?」
「大体……三年くらいしてたかなぁ、それでオトメ君と会ったわけだし……」
「ミルザンドは旅の途中で立ち寄ったのか、なるほど……」
人生経験はキリカの方が豊富だった。
「オトメ君、キリカ君、どうかエイルを連れていってもらえるか?それで食事代としたい」
「先生、旅の方に失礼ですよ!私なんかついていったら邪魔ですよ!」
「私は別に負担じゃないよ」
キリカは戸惑うエイルの目線に合わせてしゃがみこんだ。
「エイルちゃんはどうなの?旅、したくない?」
「うっ……」
したいらしい。
そしてキリカは僕の方を振り返る。
「オトメ君はどう?エイルちゃんいても大丈夫?」
「僕は別に……いや……よく考えてみろ、僕らはツルギさんと合流しないといけないんだぞ?それまでの旅とはいえ、そこからエイルはどうする?」
それを聞いたライラがとどめを刺した。
「完全に君たちの仲間として迎えてほしいんだ、私は。いいね、エイル?」
エイルは黙っていたが、どうやら嬉しそう、え、僕の意見は?教え子を簡単に赤の他人に託します!?そっちの事情全然想像できません。
「正直現地案内役……といいますか、人がいるのは心強いです」
「ホラ、ねエイル、彼らについていきな」
急に決まった仲間の加入、僕のパーティメンバーは三人となった。
その後、キリカはエイルと買い物に行くらしい。
仲良くお手手つないで歩いていった。
それを僕とライラ先生と二人で見送った。
夕方には帰ってくる予定だ。
明日出発、とりあえずの目的地は北に……距離を考えるのはやめよう、「ザンゲノヤマ」と言われる街。
人の生存が確認されているのはこの辺ではそのくらい……らしい。
さすが未開拓だ。
とはいえ、ここより栄えているとライラ先生は言っていたし「君たちみたいな現代っ子はああいう街に行くといいと思うな」と言っていたし。
「なぁオトメ、訊きたいことがあるが、訊いていいか?」
「どうぞライラ先生」
微笑みを見せてから、庭のベンチに二人で腰掛ける。
木の影の下で、心地が良い。
「君、PE持ちだね?」
「げぇっ!バレてる!」
「ッハハハ!そう警戒しなくていいよ、殺したりはしないさ」
眉をひそめて肩の力をがんばって抜いた。
「PEなら、空の色の違いがわかるだろう?」
「はい、それ訊こうと思ってました」
ライラはゆったりと両手をベンチに着けて、上を見上げる。
喉元から鎖骨のラインを目をかっ開いて見ていた。
きっと若いんだろうなぁ。
人に堂々とは言えないな。
「私はここら辺では珍しくミルザンド出身でね、ここは未開拓地、まだ危険の多いところだね。だから結界を展開している。上手くバレないように作っているが……やはりPEには見えるか」
「やはり……ですか」
「お、君も結界だと感づいていたか。ここはね、周りからは認識できないようになっているんだ、ザンゲノヤマの人たちでもね」
「どうして?あ、どうしてです?」
「私はメモリーの追放者だ。あっちで禁忌ばかり研究してね、ランダム転送……っかな?そんなんでとばされちゃって……」
「何年前とか訊いてもいいですか?」
「ダメ」
「……はい」
どうしてかはわからないが、目に殺意が宿っていた。
これ以上は訊いてはいけない。
メモリーの追放者?初めて聞いた。禁忌か、ヒエンも『サクリファイス』というものを使っていた、関係あるのだろうか。
ランダム転送、キリカが作った強力な引力を持ったアレに近い何かかもしれない。
「ここはね、行き場のない子供、魔術の学びたい子供の秘密の学校だ。彼らに生きる力を与えたくてね。君も見たと思うがここには子供が多い、ほぼ全員が生徒だ、かわいい可愛いね」
居場所のない人間のための場所、素晴らしじゃないか。
優しく語るライラに見入っていて、返答が遅れた。
「そうなん……ですか……世界には色々ありますね。僕には何もないです」
ここにいる人達は皆が何かの力があって、それで生きている。
僕はどうだろう、PEのおかげで手に入れた力だらけだ。
今の僕だって、人の助けなしではここまで生きていないだろう。
そして、僕はお世話になった人たちに何も返せていない。
「そうかな?」
「PEのことですか?PEは僕の力じゃない」
「そうじゃない、君はちゃんとここまで生きてきている。仲間だっているじゃないか、立派な才能で能力さ」
こうやって肯定されたのは初めてで、暫く瞬きができなかった。
「あ、そうだ、どうしてエイルに一緒に旅を?」
「君たちだからだよ。君たちが普通でないことは承知している。なんていったって私の結界を見破る程だからねー。それと……」
「それと?」
「キリカ君の存在が大きいね」
僕には意味不明だった。
傍から見れば不審者の僕たちをどうしてここまで信用できるのか、僕ならできない。
一応客である僕たちの案内を任せる程の信頼を置いている存在を簡単に切り離しているように見えたから。
「彼女はシロカミだね?後天的な。そんな彼女と二人で旅……傷のわかる者しかできないことだ……だから君は才能がある。だから私は君たちを選んだ」
「……すみませんあんま何言っているかわかりませんが、ありがとうございます」
雑な返事をしてしまった。
シロカミ、キリカは怖がられると言っていたな。
喋ると普通に人間だし、怖がられる理由がわからない。
「先も言った通り、ここには居場所が無い可哀想な子が沢山いてね、君のような才能はうらやましい。私はね、結構人に嫌われやすくてね……」
ライラは左手で襟足を掻いていた。
「ライラ先生、僕、もっと知りたい、世界のこととか……キリカに負けないくらいの知識が……!」
「まぁそれは旅で美味しく学びたまえよー」
結局最後まで僕のPEについて詳しく訊いてくることはなかった。
僕はライラ先生のことが分からない。
ただ、この世界で信用できる人間の一人になった。
そうそう、先生は最後こう言っていた。
「君もそのうちエイルのことが分かるはずだ……拒絶せんでくれよ?」
やっぱりわからない。
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