仮想世界β!!

音音てすぃ

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39.旅として借り

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「しんでもうらうとこまる」

 声がする。

「まだだよ」
「聞いた事のない声だな……」

 キョウスケでもない。
 キリカでもない。
 そう、僕はキリカの作った何かに吸い込まれたはずだ。
 あの後どうなった?
 ツルギさんは?皆は?

「というかおきなよおとめきょうすけ」
「すまん、眠いんだ後にしてくれないか?」
「きみはおもしろいよぴーいーのくせにとってもよわっちいよ」
「──────うるさいなぁ」
「もっとでぃーないんにからだをまかせてみたら?」
「D9?キョウスケのことか?意味がわからん、僕は僕だ。キョウスケはアイツだ」
「あっそすきにすればわたしはたのしくきみをみてるよじゃあねせいぜいしなずにうまくいきろよくそったれ」
「あぁそうさせてもらうよ」

 目が覚める。
 瞳孔を白が覆うくらいに。
 身体の感覚が起き始め、環境を感じる。
 緑と緑、白、赤、木がいっぱいだ。
 ここは森なのかもしれない。

「キョウスケ、ここは?」
「未設定、まぁ森でいいと思いますよ」
「未設定?未開拓地的な?」

 首を回して見渡す。
 水の音と木々の歌、鳥の求愛、隣にはキリカが眠っていた。

「おいキリカ、起きろよ」
「……」
「エーテル場の安定までは後二時間はかかります。オトメが眠っていた時間は五時間」
「けっこう長いな……でも、とりあえず生きてたことだし、キリカ連れて人の気配のある所までいこうか」

 僕はキリカの頬をつねってみたが結果はそれだけだった。
 諦めて担ぐ。
 鍛えていて良かった、ここで持てないのは恥ずかしいからな。

「森って来たことないよな、でもなんだこの既視感!?」
「さぁ?」
「そういえはキョウスケって人間味出てきたよね」
「そうですか?」
「うん、あの気持ち悪さが抜けたよ」
「オトメがそれでいいなら続けます」
「じゃあ続けてな」

 独り言をブツブツ言いながら土を歩く。
 今まで硬い地面ばかり歩いてきた僕に、この土は優しい。
 空気は体を浄化してくれる。
 先の戦闘がウソに感じてくるようだ。

「キョウスケ、どう進んだらいい?」
「広範囲をスキャンしたいので、どこか高いところにでも行きましょう」

 歩いているうちに、どこか斜面を見つける。
 上には平坦な所がありそうだ。
 裏から回ってみた。

「眺めがいいな」

 一面が木である。
 名前未設定なら、僕らが第一開拓者ってことでいいのかな?

「で?スキャンは?」
「後二秒……はい、西に十キロ、村と思わしき人の塊があります」
「けっこう距離があるな……でもそこしかないか、情報も集めたいし、歩こう」

 僕はテクテクと歩きだす。
 暑かったり涼しい風が吹いたりと慣れない環境だ。
 汗がだんだん出てきた。

「きょ、キョウスケ!二時間は経ってないのか?」
「はい、今で二時間です」
「……ん?……あれ、ここどこ」
「キリカようやく目覚めたな、降り……」
「ないよ」

 目覚めの発言は拒否、楽したいのは分かるけど。
コッチも疲れるんだよ?

「まぁそう言わずにさぁ、ここまでおぶってきたんだ、その立派な足で歩いてよ」
「嫌だ」

 なんて頑固なんだ!

「借りは返してもらうよ」

 借り?僕はそんなものは知らない。

「知らねぇよ、いいから降りろ!」
「いーやだ。まだここにいる!」
「あっそ、降りたいって言っても降ろさないよ!」
「いーよ、もう降りない」

 そこまで言うと、上のキリカは両腕で、僕の首に強くしがみつく。
 起床からすぐ、こんな会話の通じないキリカを初めてみた。

「い、痛い」
「降ろしたら斬るから……ね?」

 結果で、僕はキリカを担いだまま森を抜けることになった。
 半分以上脅迫も入っているし、拒否できなかった。

「キリカー、体重は?疲れる」
「オトメ君の半分以下」
「なわけ……」
「じゃあ当てて?」
「えーっと……」
「当てたら斬るけど」
「33です……」
「よろしい」

 ここからでは顔は見えない。
 でも声からすると笑っているのだろう、この状況を楽しんでいる。
 一刻も早くツルギさんに会わないといけないのに。
 きっと倫理委員も僕を探しているはずだ。
 でもここは未開拓地、そう簡単に合流はできないだろう。
 空飛ぶ船でもあれば楽なのになぁ。

 上を見ると、色はオレンジ、森は更に暗くなる。

「今日はここで休もう」
「え、」
「どうした?」
「降りたくない」
「子供かよ、寝るだけだ、楽だろ?」
「んー、しょうがない」

 観念したのか、キリカは僕から降りて動かない。

「寝かせて」
「はぁ!?自分でやれよ!」
「借りあるよ、オトメ君」
「何の!」
「もう一回訊いたら斬る」
「わーかった!わかったよ!」

 ホントにってなんだ?

「キョウスケ、ここ一帯に危険生物とか植物とかいない?」
「スキャン結果として、特に危険な生き物はいません。ゴブリンのコロニーは幾つかありますが、彼らは賢いですから自分たちより強いものを襲ったりしないでしょう。ここに焚き火を作りましょう。そうすれば彼らは自分より強いオトメを認識できます」
「へー、そんなのでゴブリンは寄ってこないのか?」
「はい」

 僕はストレージからライターを……いや、ここは魔法を使ってみよう。
 とりあえず倒木を持ってきて、バラバラにして、準備完了。

「僕、火を付けたことないんだよね!」
「大丈夫?」
「へへへ、まかせろって」

 初の魔法に気持ちが高ぶる。
 血液が歓喜し、血管は踊る。

 火をイメージする。
 手先から魔力の流れを感じて、感覚で練ってみたり弾いてみたり、すると、熱を持つ。

「あっつ!」

 もっと弾く、まるでライターと一緒だ。
 ようやく火が出来る。
 これ以上熱くないように、自分の手に耐火の魔術をかける。
 これは簡単だった。
 バリア系に近い、表面に魔力の膜を貼るだけ。

「つくかなー」

 水分を含んでいる部分はつかなかった。
 結局カラカラの部分を見つけて、集めて、なんとか焚き火っぽいものを作りあげた。
 自信作である。

「出来た」
「下手くそ」
「じゃあお前やれよ」
「ヤダ」
「何なんだよ!今日は!」

 ワガママが激しい、後で何があったか訊いてみよう。

 簡易的な寝袋をストレージから取り出して、下に敷く。

「ほら、入れよ」
「入れて」
「……あーもう!」

 どうやって入れればいいの?
 人を持ってどうやって寝袋に入れるの?

「チャックを開ければいいのではないですか?」
「おぉ、そうだなキョウスケ」

 ECFロゴの着いた寝袋はチャックを開ければ簡単に人を入れられそうだ。
 早速開けて、キリカを抱えてみる。

「お姫様抱っこで」
「はいはい」

 という要望つきである。

 なんとか踏ん張って寝かせて、チャックを閉める。

「じゃあな」
「おやすみ」
「……おやすみ」

 三十分耐えたキリカは寝てしまった。
 一方の僕は、寝落ちするまで見張りを続けていた。
 何かあればキョウスケが起こしてくれるらしいが、そんなものは関係がなかった。

 明日は……村に着くかな?
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