仮想世界β!!

音音てすぃ

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36.廃線

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「キリカ……だったか?何故俺が隊長ではなく、お前が隊長なんだ?」

 サイケンが濁点を付けるように強く憎らしい声でなにか喋っていた。
 彼は四人の中では最年長、実戦経験アリで、皆を引っ張りたかったのか、キリカに嫌味を垂れていた。

「そりゃサイケン、キリカちゃんが強いからじゃい」
「そうだよサイケン、自重しなよ」

 カワセミとガラスの容赦のない言葉に、サイケンは息を荒らげた。

「どう考えたって、俺が経験者!最年長で、一番強いはずだろ?だったら必然的に俺が隊長だろ!?」
「……あの、サイケンさん、代わります?」

 駄々をこねたサイケンに、隊長の席を譲ろうとするキリカを、二人は止めた。

「いや待てよキリカちゃん。ツルギさんはキリカちゃんに任せたんだ。それは適任って意味なんじゃコイツじゃない」
「そうだよ、自信もてよ。サイケンに譲っちゃだめだって」

 ツルギというワードで、サイケンは何か納得をした顔を見せ、キリカに心を頼む。

「……キリカ、俺らはタメでいこう。それが俺らのルール。任せたぜ、ツルギさんのお墨付きとあらばな」
「はい……うん!オトメ君を探そう!」
「それよりガラス、カワセミ、お前ら覚えてろ」

 キリカ隊は、SEの効果を失った四人組。
 オトメキョウスケの捜索のため、東に走る。

 廃墟の連続に景色が変わらない。
 いつになったらたどり着けるのか、もしかしたらオトメはもう?

 SEの無い人間は、その五感で全てを感知する。
 蓄積した魔力はレーダーの働きが出来る。ある人は第六感に近いと言った。
 早速ガラスが何かを察知する。

「皆、前に二人……!」
「二人だぁ?俺らは四人だ、そいつら倒して突っ切るぞ!」
「力見せるぜい」
「サイケン、カワセミ、ガラスくん……気は抜かないでね」
「多分……あと5秒で会敵!」

 キリカは思い出していた。
 巨大ジャミングが街に散布する前の通信の内容。


『ゴールドグリップ』

 通信の後、ツルギが全員に教えたくれた情報。
 彼は黄金の拳を持つ男。
 歳の割に老けて見られる戦闘狂。
 武器はナックル。
 魔法は才能が無い。
 しかし、エーテル場が非常に強靭なため、彼は攻撃魔法を正面から受けてもゴリ押しを通すスタイル。
 ライヴの戦力の中では上位5位くらいはあるらしい。
 そんな彼は、倫理委員にとっては脅威の脅威。
 出逢えばその残虐性が委員の内蔵をミキサーにかける。
 今作戦の要注意人物、まずこの状態の四人は出会ってはいけない。
 このスイセンドウにいるらしい。先の通信発生地が北西からのため、東に走る自分たちは遭遇しないと言われたが、女性の勘か、キリカの鋭い洞察力か、第六感が発動したのか、キリカは黄金の存在を感じていた。

「ゴールド……」
「参上おぉおあど!」
「……グリップ……か?」

 四人の目の前に上空から垂直降下してくるのは噂のアイツ。
 落下ダメージを10割で受けているはずだが、微動せず。
 その衝撃は、屑を砂埃のように巻き上げた。

「ん?お嬢ちゃん、俺の名前知ってるの?ちょっと嬉しいぜ。けどー、お前らは倫理のクソ野郎だからな、ここでお陀仏してもらうぜ」

 要注意人物、ゴールドグリップその人だ。
 ハクバ隊を全滅させた張本人。
 キリカ隊は全員が抜刀する。

「SE……使えないんだろ?ざまぁねぇよな!」
「ゴールドグリップだな、そこを通せ」

 命を奪われるかもしれないという恐怖に立ち向かったのはキリカ。
 強者の余裕を出しているゴールドグリップとは異なる。

「あぁ?何で?」
「言う必要は無い」

 不必要な戦闘は避けろ。
 それにしても通信は北西からじゃなかったの?走ってきたにしては早すぎる。

「もしかして……オトメキョウスケか?それならお前らの仕事は減ったぞ」

 ゴールドグリップは下に薬指を向ける。

「下行った」

 耳に届いた言葉に血液が反応する。血管の膨張に痛みを感じる。頭より足が動いていた。

「貴様ぁ!」

 キリカの衝動はアクセルを踏む。
 躊躇なく青の剣閃を使い、ゴールドグリップに中距離からのレンジで斬り掛かる。

「二つに……!」
「ならねぇよ」
「なれ!」

 キリカの刀は止まる。
 刃先はゴールドグリップの手の甲で静止。
 力を込めるが、少しも動かない。

な力使うなよ。ろくに魔力の制御が出来ねぇのか」
「キリカ、離れろ!」

 サイケンは叫ぶが、今まで青の剣閃で斬れないものなんて無かったキリカにとって、刀が止まるということは動揺につながった。まるで巨大な鋼に杖を打ち付けるような感覚が手に伝わる。

「力はな、こう使う」

 刀が動く、ゴールドグリップは消える。

「何処に……」

 キリカの腹部に黄金の拳は直撃。

「いt……オッア!」

 空中を10メートル舞い、それをサイケンが受け止める。

「キリカ!くそっ!……カワセミ、ガラス、ゴールドグリップの足止めだ!」
「いいぜ」
「うん」

 キリカはCPが大幅に減ったため、暫く戦えない。
 喋るのも無理だろう。
 息を吸う、吐く、寝る、立つ、見る、それだけで死にそうになる。

「うぅ……あ」
「暫くそうしてろ」

 カワセミとガラスは二人の前に立つ。

「二人は俺の拳についてこれるのか?」
「死ぬき満々じゃい!ふざけんなカッコつけてんじゃねぇ!」
「ボクはそんなことないけどね」

 ゴールドグリップは口元を元気に開けて、カワセミから狙う。

「ほらガキッ!喰ってみろ!」

 急接近からの21連続攻撃、カワセミは7回までは避け、8回目でカウンターを放つ。
 残りは回避。拳に空気が巻き付いて、それすら武器のように見える。余裕をもたないと体が吸い込まれる。

「やるなガキ」

 カワセミの攻撃に重さが無い。回避で精一杯か。

「あの鎧硬いんじゃい……」
「カワセミ、ボク、やりたいことがある……」
「……お?やるかい?……よしいつでもいいぞ、それまでは俺に守備は任せな!……サイケン、手伝え!」

 声を聴いたサイケンはARを構えてゴールドグリップに放つ。
 サイケンは分かっている。近距離の射撃において、相手が化物位の強さなら、確実に弾くか超人的動きで避けて接近攻撃だ。だからサイケンは数発後にスキルを発動した。

 サイケン自作スキル『抜刀術:桜花』わざわざ抜刀した刀を丁寧に納刀して、心眼で敵を捉え一刀を振る。

 サイケンの思惑通り、ゴールドグリップは銃弾を回避、サイケンに拳での攻撃を試みる。納刀中、既に距離は一メートルを切った。

「やるな、他の隊とは質が違うぜ」

 互いの近づく風、交わる拳と刀からか、短く高い音が鳴る。
 ちょうどサイケンとゴールドグリップは位置が交換されていた。

「入った……俺もだが……」

 サイケンは時間差で頬に打撃を食らったようにして空中を舞った。

「やるな、小僧……グッ!」

 サイケンはゴールドグリップの左足を切り裂いていた。
 桜花の効果は多段ヒット(追撃五回)と出血。斬撃時に濃縮した魔力が刃物のように傷口から飛び出すことから、花のようだと言われたため命名。
 ゴールドグリップの鎧が追加効果のほとんどを防いでいた。

「化物め……だが、あれを見ろ……」

 倒れるサイケンは戦いを楽しんでいるゴールドグリップの後ろを指さす。顔の半分が原型をとどめていない。

「あぁ?何だ何だぁ?……あ?」

 ガラスが右手を前に突き出し、左手は左のシロカミを覆っている。

「魔力解放……発動完了!サイケン!カワセミ!頼むぞ!」
「「任せろ!!!」」

 状況に一瞬戸惑うが、どんな攻撃で自分を楽しませてくれるのかと考えるゴールドグリップ。
 少し回復したキリカ。
 男二人は禍々しいオーラを纏い始めた少年の守備に回る。

「……おい」

 ゴールドグリップの表情が変わる。
 楽しそうな目ではない。恐怖と殺意のハイブリッド。

「ああああああああああいゃああ!痛い!」

 周囲のエーテル場が乱れ、汚染される。
 近くの者は吐き気を自覚する。
 ガラスは自身の魔力を外に解放し始めた。
 それに連れてシロカミは領域を広げている。
 それは光の屈折を変える。空間が歪んで見える。
 次第に黒紫の炎がガラスの左手から溢れ出る、右手にも同じ炎が形作られる。

「何故お前みたいなのが……そんなものを!?」

 ゴールドグリップはガラスに攻撃をしようとしても、この二人がそれを許さない。

「どけぇ!」
「どかんのじゃあ!」

 得物同士がぶつかる。
 ゴールドグリップが一歩速い一撃をカワセミに放つ。

「ぶっふぉえ!」

 ガラス護衛一名離脱。あばら骨が数本折れただろう暫く立ってこないだろう。

「次は俺だ!」

 サイケンはノータイムで切り掛る。
 それを軽く避けられ、ガラスに接近される。

「(マズイ、俺としたことが!)」

 そこに通るのが白と青い閃光。
 キリカだ。

「ガラスを……させない」
「まだ立てんのか?」

 ゴールドグリップは身を翻し、刀を避けキリカの背後へ移動、キリカを蹴りで数メートル引き離す。

「かっこいい言葉がいいな──────チェックメイトだ」

 ガラスの左手からは歪みが消え、右腕に黒紫色のオーラが纏う。

「これが、ガラスの封じてる力?」

 移動がほぼ瞬間移動、ゴールドグリップの前。
 それをゴールドグリップに向けて放つ。
 色は破裂、鼓膜に刺さる爆発音、強烈なエーテル攪乱、周囲に莫大な被害を出した。

 これがガラスの力、強大すぎる魔力を暴走させることで火力を出す危険な戦術。

 数時間後、四人は気絶から目を覚ます。
 そこにゴールドグリップはいなかった。
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