仮想世界β!!

音音てすぃ

文字の大きさ
上 下
40 / 121

35.暗

しおりを挟む
「ループアウトの自動使用を行いました。CPの自動回復を確認、ストレージからライトを出します」

 耳から聞こえるキョウスケの声で目を覚ます。
 水の音と何か巨大なものが動く音、地表世界とは違う恐怖と自分の小ささを感じた。

 気圧差か、耳が潰されそうだ。

「ん?重い」

 出現した球体の浮遊型の発光体が辺りを照らす。
 寝ている僕の上に乗っているのはヒエンだ。
 出血した血が僕に張り付いている。
 粘性をもつ血を剥がしながらヒエンを退ける。

「キョウスケ、ヒエンって奴は?」
「ギリギリ生きてますよ」

 僕が下敷で、クッションになったのだろうか、ありえないな。
 僕は委員全員に一本は支給される『ポーションLV.2』を持っていた。
 レベル2は、最悪の状態でも、HPを30%までは回復できるアイテム。
 この世界で二番目に流通量の多い回復アイテムだ。
 僕は、それをストレージから出して、ヒエンの口に少しずつ流し込む。

「ルーイの時は逆だったな」

 目の前で死にそうな人間を見捨てることはできない。先まで斬り合いをしていたけれども。

「強くなりましたね」
「……あぁ」

 血の気を取り戻していく過程を見つつ、意識を取り戻すまでは見つめていた。
 こんなに女性を近距離で見る機会は無かった。

 血色を取り戻した潤いのある唇。
 穢れを知らない滑らかな肌。
 長く青い髪は触れているだけでも心地が良かった。
 何かキリカに似ている気がする、骨格だろうか眉毛だろうか?

「死ぬのは、ダメだ」

 自分で斬っておいて、自分で回復させる。
 しかも敵を。
 ツルギさんに見られたら何て言われるのだろうか。

「……うっ……私は……ここ……っ!オトメキョウスケ!」
「おぉ、起きたか────って動くなって、HP2%なんだから、落ち着くまで……ね?」

 急に起き上がって痛みに止まるヒエンを僕は両腕で止める。力が弱い、もう少し安静にしていてほしい。

「聞け、多分ここは地下……水面下?まぁそこだ。暗いし、出口も分からない。僕は死にたくないし、目の前で誰かが死ぬのは嫌だ。だから、ここを出るまでは俺はあんたを攻撃しない。よかったらあんた……君もー……貴女も?……そうしてくれないか?」
「……義理はない」
「ま、まぁそうだよなぁ。でも、ここを出たらお互い敵同士、それでいいじゃん?ここ出れないよりは!」
「……お前は本当にD9なのか?」

 承諾してくれたみたいだ。殺意が若干収まった……気がする。
 本当にとはどういった意味なのだろうか。疑いのある台詞でも言っただろうか。PEに似つかわしくないにだろうか。

「D9ってのはよくわからないけど、PEだよ。僕はそいつをキョウスケって呼んでるよ」
「オトメとキョウスケか……この世界に相応しい名前の配分だ。名前はもう知っていると思うが、私はヒエン。ライヴの兵士だ。S5のPEを持っている。この剣はその所有者の証だ」

 ヒエンは青の宝剣を手に取る。
 僕と同じで、ストレージが使えるのだろう。折れた剣を見せてくれた。

「何だか敵だけど、親近感が湧くな。僕PEに会うのは初めてなんだ」
「そうか……お前は純白だな。無垢といってもいい」
「ん?どうして?」

 ヒエンの剣は再生を続けている。
 少し羨ましいと聞こえた。

「我らPE使いは適合率によってPEに意識を乗っ取られる。お前からはあまり感じない。私はな、もう記憶が曖昧で、1年以上前の事が思い出せない。自分が誰なのか、何故剣を振るのかはもう分からない。ただ、死んだことはないらしい、我のPEがそう言っていた。本当に私は誰なのだろう?一人称も定まらない」

 折れた剣は元の形に戻る。時間を巻き戻したように完璧な姿になった。

「この剣は青の宝剣、破壊と再生を繰り返す循環世界の象徴、ただ、もう一つS5には能力があるのだが、数ヶ月前に盗まれてしまった。方法は不明だ。PEが言ったことだからな、本当なのだろうが……本領発揮できなくて済まぬ」
「盗まれた?何て能力だ?」
「名前は無かった。元々、青の宝剣の追加効果として付与されているものだったからな。しかし、誰かの命名権利によって名づけられたみたいだ」

 命名権利という単語に記憶がある、そして青というコトバにも記憶がある。
 本領発揮していたら殺されていたかもしれませんね。

「PEによると、それは『青の剣閃』というらしい」

 体が震えたのがわかった。

「効力は!?」
「万物切断。射程距離レンジの自由化だ」

 完全にキリカのユニークスキルと一致する。
 盗んだ?キョウスケは覚醒と言っていたが。

「その力、僕の仲間が持ってる……」
「……なんだと?私の力を盗んだと言うのか!?」
「方法は分からない……キョウスケは覚醒したって言ってたし」

 剣を握りしめたヒエンが一歩踏み込もうとしている。危ないです。目線が首にいってます。

「そうか、ならば、その人間に能力を返してもらおうか」
「おいおい、何するつもりだ?やめて!」
「この剣の真価はそのスキルだ。全てを斬る剣と再生する剣。我は力を取り戻す!それからもう一度戦え!」
「ダメだ!」
「何故だ?」

 ダメだというか、元々の持ち主がいるのなら返さないといけない。けど、明確な殺意をもった人間をキリカに会わせるわけにはいかない。だからこれはお願いになる。

「お願いだ、大切な仲間なんだ。でも、外に出たら敵同士だったな……スマン今の話は聞かなかったことにしてくれ。でも、僕の仲間を斬ろうものなら、記憶の準備はしておけよ?」

 ヒエンは苦笑した。
 何の意味だったのだろう。
 理解はできなかった。

「まるで、私のPEみたいにうるさいヤツらだ。オトメ、私の傷は時機良くなる。あと数分で歩けるだろう。そうしたら──────歩こう」
「あぁ、そうしよう」


 ヒエンのHPが65で安定した。
 そろそろ出発がいい。とにかく上を目指せばいいかな?

「オトメ、安心しろ。地下にいる限り、我はお前を攻撃しない」
「よろしく頼むよ?少し怖いです」
「しかし、原生生物がいる。そいつらとの交戦は許可してもらおうか、命の恩人」
「原生生物?」
「トカゲがいたりする」
「デカい?」
「そりゃもう」

 憂鬱になってきた。
 地下を迷路にしたのはトカゲだけではないだろう、他にもいそうだ。聞こえた音がトカゲなら全長何メートルかわからない。気を引き締めていこう。

 どれくらい歩いたのか、体は熱を持つが、流石の水面下で気温が低い。放冷は完璧だ。
 だがここで寝泊まりは考えられない。ストレージに寝袋とかあればいいけど。
 順調に上へは向かっている。大丈夫だ、まだ登れる。

「オトメ」
「何だ?」
「私はこうやってPE所有者とゆっくり語り合うのは初めてというか、久しぶりなのだ。敵とはいえ、ワクワクしている」
「僕は仲間がヒエンに殺されそうでヒヤヒヤしてるよ」

 広い足場を見つけた。これでかなり上昇出来そうだ。

「オトメの仲間というのはそんなに大切なものなのか?」
「仲間は大切だ。何言ってんだ、ヒエン……あんただって、仲間は大切だろ?いくら記憶を無くして復活するっていったってさ」
「……分からない」

 すごく困った顔をされた。

「ヒエンは、僕を殺すように命令されていたのか?」
「まあそんなところだ。詳しくは言えない」

 そうして、ヒエンが話し終わった時、前の暗闇で動く影があった。
 半分反射で剣を構えた。
 ヒエンも構える。
 先の戦闘の傷が半分くらい回復している僕が戦うべきだ。

「ヒエン、見える?」
「トカゲ……リザードマンだ」
「聞いた事ないな」
「四体、会敵」

 気がつくと、四方を囲まれていた。
 見たことの無い生物。
 二足歩行で、表面が鱗で包まれている。
 人間の服、というよりは鎧を着ていて、顔が爬虫類に酷似。
 尾骶骨から伸びる何かは尻尾というやつだろう。
 手には剣が握られているのが二匹、もう二匹は斧を持っている。
 声帯があるのか、奇妙な音を出している。

「キィィー!」

 うるさい。
 身長は2メートルを超える。絶対に防御力が高い。

「暗闇ではPEのスキャン精度が落ちる、オトメ、彼に頼らず殺れ!」
「わかってる!」

 先制を取ったのはリザードマン。
 人間を上回る巨体から放たれる斬撃は速く重く、僕の横で空を斬る。
 やはり人でなしは力が強い。
 マトモに正面からの殴り合いは避ける。
 僕は一歩下がり、ルーンナイフを三本投げる。
 実はナイフ投げも訓練した。

 それらは頭、胴体、足にヒットした。

「ギィ亻ヤー!!」

 多分そういう声だった。
 斧を持ったリザードマンは憤怒。
 そこに割こむ青剣。胴体から頭まで切り上げ両断すると、花のように開花した。
 ヒエン綺麗にトドメを刺した。

「私が剣のトカゲを一匹引き受ける、残りを頼めるか?」
「あぁ、無理すんな」

 僕は二匹、剣持ちと斧持ち。
 二匹は互いのリズムを合わせて僕に切り掛る。

「(左右からの連携か)」

 距離を取って回避することなく、リザードマン(剣)の体に飛びつき巻き付く。
 これくらいの芸当は出来るようになった。
 そして、暴れる体上でバランスを取り、剣を力いっぱいに胴体突き刺す。
 厚い皮膚と、硬い鱗が邪魔する、その感覚が手に伝わる。
 人とは違う。
 僕の中の残虐性が、人外の嗜好を持ったかもしれない。
 もがいた結果、リザードマン(剣)は絶命。
 もう一体は構わず僕に斧を振り下ろす。
 よく見えなかったが、ギリギリ僕はそれを剣で防ぎつつ体で受け止める。

「ぐっ……重い」

 体の大きさの差が、上から僕を潰そうとする。ギンジさんに匹敵している。あの人本当に人か?

「もう……くたばれよ!」

 剣をずらして回避、足、首の順番で斬撃、しかし、あまりダメージになっていないのか、もう一度リザードマンは、斧を振り下ろす。
 ブンッという音が顔を通って行った。一撃で顔が飛んでいたかもしれない。

「回避出来るけど、攻撃が効かない!どうするキョウスケ?」
「銃器の使用はオススメ出ません。他にリザードマンが出現する可能性が高まります。よって、ヒエンとの二人がかりで一匹倒すのがいいでしょう。ヒエンの攻撃力はオトメの3倍です」

 サンバイ?強い。少し悔しい。
 それなら、まずコイツの動きを止めよう。
 僕はルーンナイフを数本リザードマン(斧)に投げる。的は目だ。
 一本が命中。数秒なら足止め出来るだろう。
 ヒエンに加勢する。
 どうやら劣勢、攻撃のチャンスが無いようだ。

「コッチ、見やがれ!」

 リザードマン(剣)の後方から切りつける。
 やっぱり突き刺しじゃないと効かん。

「オトメ、ありがとう」

 リザードマンの気を引いて、一瞬の隙を使って、ヒエンがリザードマンの体を三等分にする。

「もう一体はアッチだ──────」


 僕とヒエンは、まるでキリカと組んでいるようにスムーズなコンビネーションだった。






しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

30年待たされた異世界転移

明之 想
ファンタジー
 気づけば異世界にいた10歳のぼく。 「こちらの手違いかぁ。申し訳ないけど、さっさと帰ってもらわないといけないね」  こうして、ぼくの最初の異世界転移はあっけなく終わってしまった。  右も左も分からず、何かを成し遂げるわけでもなく……。  でも、2度目があると確信していたぼくは、日本でひたすら努力を続けた。  あの日見た夢の続きを信じて。  ただ、ただ、異世界での冒険を夢見て!!  くじけそうになっても努力を続け。  そうして、30年が経過。  ついに2度目の異世界冒険の機会がやってきた。  しかも、20歳も若返った姿で。  異世界と日本の2つの世界で、  20年前に戻った俺の新たな冒険が始まる。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

タイムワープ艦隊2024

山本 双六
SF
太平洋を横断する日本機動部隊。この日本があるのは、大東亜(太平洋)戦争に勝利したことである。そんな日本が勝った理由は、ある機動部隊が来たことであるらしい。人呼んで「神の機動部隊」である。 この世界では、太平洋戦争で日本が勝った世界戦で書いています。(毎回、太平洋戦争系が日本ばかり勝っ世界線ですいません)逆ファイナルカウントダウンと考えてもらえればいいかと思います。只今、続編も同時並行で書いています!お楽しみに!

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活

XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

処理中です...