仮想世界β!!

音音てすぃ

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35.暗

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「ループアウトの自動使用を行いました。CPの自動回復を確認、ストレージからライトを出します」

 耳から聞こえるキョウスケの声で目を覚ます。
 水の音と何か巨大なものが動く音、地表世界とは違う恐怖と自分の小ささを感じた。

 気圧差か、耳が潰されそうだ。

「ん?重い」

 出現した球体の浮遊型の発光体が辺りを照らす。
 寝ている僕の上に乗っているのはヒエンだ。
 出血した血が僕に張り付いている。
 粘性をもつ血を剥がしながらヒエンを退ける。

「キョウスケ、ヒエンって奴は?」
「ギリギリ生きてますよ」

 僕が下敷で、クッションになったのだろうか、ありえないな。
 僕は委員全員に一本は支給される『ポーションLV.2』を持っていた。
 レベル2は、最悪の状態でも、HPを30%までは回復できるアイテム。
 この世界で二番目に流通量の多い回復アイテムだ。
 僕は、それをストレージから出して、ヒエンの口に少しずつ流し込む。

「ルーイの時は逆だったな」

 目の前で死にそうな人間を見捨てることはできない。先まで斬り合いをしていたけれども。

「強くなりましたね」
「……あぁ」

 血の気を取り戻していく過程を見つつ、意識を取り戻すまでは見つめていた。
 こんなに女性を近距離で見る機会は無かった。

 血色を取り戻した潤いのある唇。
 穢れを知らない滑らかな肌。
 長く青い髪は触れているだけでも心地が良かった。
 何かキリカに似ている気がする、骨格だろうか眉毛だろうか?

「死ぬのは、ダメだ」

 自分で斬っておいて、自分で回復させる。
 しかも敵を。
 ツルギさんに見られたら何て言われるのだろうか。

「……うっ……私は……ここ……っ!オトメキョウスケ!」
「おぉ、起きたか────って動くなって、HP2%なんだから、落ち着くまで……ね?」

 急に起き上がって痛みに止まるヒエンを僕は両腕で止める。力が弱い、もう少し安静にしていてほしい。

「聞け、多分ここは地下……水面下?まぁそこだ。暗いし、出口も分からない。僕は死にたくないし、目の前で誰かが死ぬのは嫌だ。だから、ここを出るまでは俺はあんたを攻撃しない。よかったらあんた……君もー……貴女も?……そうしてくれないか?」
「……義理はない」
「ま、まぁそうだよなぁ。でも、ここを出たらお互い敵同士、それでいいじゃん?ここ出れないよりは!」
「……お前は本当にD9なのか?」

 承諾してくれたみたいだ。殺意が若干収まった……気がする。
 本当にとはどういった意味なのだろうか。疑いのある台詞でも言っただろうか。PEに似つかわしくないにだろうか。

「D9ってのはよくわからないけど、PEだよ。僕はそいつをキョウスケって呼んでるよ」
「オトメとキョウスケか……この世界に相応しい名前の配分だ。名前はもう知っていると思うが、私はヒエン。ライヴの兵士だ。S5のPEを持っている。この剣はその所有者の証だ」

 ヒエンは青の宝剣を手に取る。
 僕と同じで、ストレージが使えるのだろう。折れた剣を見せてくれた。

「何だか敵だけど、親近感が湧くな。僕PEに会うのは初めてなんだ」
「そうか……お前は純白だな。無垢といってもいい」
「ん?どうして?」

 ヒエンの剣は再生を続けている。
 少し羨ましいと聞こえた。

「我らPE使いは適合率によってPEに意識を乗っ取られる。お前からはあまり感じない。私はな、もう記憶が曖昧で、1年以上前の事が思い出せない。自分が誰なのか、何故剣を振るのかはもう分からない。ただ、死んだことはないらしい、我のPEがそう言っていた。本当に私は誰なのだろう?一人称も定まらない」

 折れた剣は元の形に戻る。時間を巻き戻したように完璧な姿になった。

「この剣は青の宝剣、破壊と再生を繰り返す循環世界の象徴、ただ、もう一つS5には能力があるのだが、数ヶ月前に盗まれてしまった。方法は不明だ。PEが言ったことだからな、本当なのだろうが……本領発揮できなくて済まぬ」
「盗まれた?何て能力だ?」
「名前は無かった。元々、青の宝剣の追加効果として付与されているものだったからな。しかし、誰かの命名権利によって名づけられたみたいだ」

 命名権利という単語に記憶がある、そして青というコトバにも記憶がある。
 本領発揮していたら殺されていたかもしれませんね。

「PEによると、それは『青の剣閃』というらしい」

 体が震えたのがわかった。

「効力は!?」
「万物切断。射程距離レンジの自由化だ」

 完全にキリカのユニークスキルと一致する。
 盗んだ?キョウスケは覚醒と言っていたが。

「その力、僕の仲間が持ってる……」
「……なんだと?私の力を盗んだと言うのか!?」
「方法は分からない……キョウスケは覚醒したって言ってたし」

 剣を握りしめたヒエンが一歩踏み込もうとしている。危ないです。目線が首にいってます。

「そうか、ならば、その人間に能力を返してもらおうか」
「おいおい、何するつもりだ?やめて!」
「この剣の真価はそのスキルだ。全てを斬る剣と再生する剣。我は力を取り戻す!それからもう一度戦え!」
「ダメだ!」
「何故だ?」

 ダメだというか、元々の持ち主がいるのなら返さないといけない。けど、明確な殺意をもった人間をキリカに会わせるわけにはいかない。だからこれはお願いになる。

「お願いだ、大切な仲間なんだ。でも、外に出たら敵同士だったな……スマン今の話は聞かなかったことにしてくれ。でも、僕の仲間を斬ろうものなら、記憶の準備はしておけよ?」

 ヒエンは苦笑した。
 何の意味だったのだろう。
 理解はできなかった。

「まるで、私のPEみたいにうるさいヤツらだ。オトメ、私の傷は時機良くなる。あと数分で歩けるだろう。そうしたら──────歩こう」
「あぁ、そうしよう」


 ヒエンのHPが65で安定した。
 そろそろ出発がいい。とにかく上を目指せばいいかな?

「オトメ、安心しろ。地下にいる限り、我はお前を攻撃しない」
「よろしく頼むよ?少し怖いです」
「しかし、原生生物がいる。そいつらとの交戦は許可してもらおうか、命の恩人」
「原生生物?」
「トカゲがいたりする」
「デカい?」
「そりゃもう」

 憂鬱になってきた。
 地下を迷路にしたのはトカゲだけではないだろう、他にもいそうだ。聞こえた音がトカゲなら全長何メートルかわからない。気を引き締めていこう。

 どれくらい歩いたのか、体は熱を持つが、流石の水面下で気温が低い。放冷は完璧だ。
 だがここで寝泊まりは考えられない。ストレージに寝袋とかあればいいけど。
 順調に上へは向かっている。大丈夫だ、まだ登れる。

「オトメ」
「何だ?」
「私はこうやってPE所有者とゆっくり語り合うのは初めてというか、久しぶりなのだ。敵とはいえ、ワクワクしている」
「僕は仲間がヒエンに殺されそうでヒヤヒヤしてるよ」

 広い足場を見つけた。これでかなり上昇出来そうだ。

「オトメの仲間というのはそんなに大切なものなのか?」
「仲間は大切だ。何言ってんだ、ヒエン……あんただって、仲間は大切だろ?いくら記憶を無くして復活するっていったってさ」
「……分からない」

 すごく困った顔をされた。

「ヒエンは、僕を殺すように命令されていたのか?」
「まあそんなところだ。詳しくは言えない」

 そうして、ヒエンが話し終わった時、前の暗闇で動く影があった。
 半分反射で剣を構えた。
 ヒエンも構える。
 先の戦闘の傷が半分くらい回復している僕が戦うべきだ。

「ヒエン、見える?」
「トカゲ……リザードマンだ」
「聞いた事ないな」
「四体、会敵」

 気がつくと、四方を囲まれていた。
 見たことの無い生物。
 二足歩行で、表面が鱗で包まれている。
 人間の服、というよりは鎧を着ていて、顔が爬虫類に酷似。
 尾骶骨から伸びる何かは尻尾というやつだろう。
 手には剣が握られているのが二匹、もう二匹は斧を持っている。
 声帯があるのか、奇妙な音を出している。

「キィィー!」

 うるさい。
 身長は2メートルを超える。絶対に防御力が高い。

「暗闇ではPEのスキャン精度が落ちる、オトメ、彼に頼らず殺れ!」
「わかってる!」

 先制を取ったのはリザードマン。
 人間を上回る巨体から放たれる斬撃は速く重く、僕の横で空を斬る。
 やはり人でなしは力が強い。
 マトモに正面からの殴り合いは避ける。
 僕は一歩下がり、ルーンナイフを三本投げる。
 実はナイフ投げも訓練した。

 それらは頭、胴体、足にヒットした。

「ギィ亻ヤー!!」

 多分そういう声だった。
 斧を持ったリザードマンは憤怒。
 そこに割こむ青剣。胴体から頭まで切り上げ両断すると、花のように開花した。
 ヒエン綺麗にトドメを刺した。

「私が剣のトカゲを一匹引き受ける、残りを頼めるか?」
「あぁ、無理すんな」

 僕は二匹、剣持ちと斧持ち。
 二匹は互いのリズムを合わせて僕に切り掛る。

「(左右からの連携か)」

 距離を取って回避することなく、リザードマン(剣)の体に飛びつき巻き付く。
 これくらいの芸当は出来るようになった。
 そして、暴れる体上でバランスを取り、剣を力いっぱいに胴体突き刺す。
 厚い皮膚と、硬い鱗が邪魔する、その感覚が手に伝わる。
 人とは違う。
 僕の中の残虐性が、人外の嗜好を持ったかもしれない。
 もがいた結果、リザードマン(剣)は絶命。
 もう一体は構わず僕に斧を振り下ろす。
 よく見えなかったが、ギリギリ僕はそれを剣で防ぎつつ体で受け止める。

「ぐっ……重い」

 体の大きさの差が、上から僕を潰そうとする。ギンジさんに匹敵している。あの人本当に人か?

「もう……くたばれよ!」

 剣をずらして回避、足、首の順番で斬撃、しかし、あまりダメージになっていないのか、もう一度リザードマンは、斧を振り下ろす。
 ブンッという音が顔を通って行った。一撃で顔が飛んでいたかもしれない。

「回避出来るけど、攻撃が効かない!どうするキョウスケ?」
「銃器の使用はオススメ出ません。他にリザードマンが出現する可能性が高まります。よって、ヒエンとの二人がかりで一匹倒すのがいいでしょう。ヒエンの攻撃力はオトメの3倍です」

 サンバイ?強い。少し悔しい。
 それなら、まずコイツの動きを止めよう。
 僕はルーンナイフを数本リザードマン(斧)に投げる。的は目だ。
 一本が命中。数秒なら足止め出来るだろう。
 ヒエンに加勢する。
 どうやら劣勢、攻撃のチャンスが無いようだ。

「コッチ、見やがれ!」

 リザードマン(剣)の後方から切りつける。
 やっぱり突き刺しじゃないと効かん。

「オトメ、ありがとう」

 リザードマンの気を引いて、一瞬の隙を使って、ヒエンがリザードマンの体を三等分にする。

「もう一体はアッチだ──────」


 僕とヒエンは、まるでキリカと組んでいるようにスムーズなコンビネーションだった。






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