37 / 121
32.黄金の師弟
しおりを挟む
二人は望んでいた。
自分が強くなること、内臓を破壊する手の感覚を。
二人は望んでいた。
孤島である旧水神の都からの大海原を。
夕日が二人の容姿、を金色に染める。もう色なんてわからない。
一人の男はそうでなくても『黄金の拳』を持つ戦闘狂人。「ライヴ」においても指折りの力を持つ男。
もう一人の男は黄金の男の弟子。熱意と体力しか自信が無い男。
「来るかな、師匠?」
「来るぜ、絶対にな。D9が消えた、つまり奴ら倫理に堕ちたってことだ。必ずD9を使ってくる」
「D9って強いんですか?俺と師匠だったら楽勝じゃないですか?」
弟子は両拳をぶつけ合った。息を荒くして、足の筋肉が緊張している。早く殴り合いたいという気持ちが伝わる。
「お前、ヒエンに勝てないだろ?あれより強いって思ってた方がいいぞ」
「……燃えるじゃないですか」
「だな」
黄金の男は拳を眺めて呟いた。
それは何の意味なのか、この世界に生きる意味なのか。
「最強の力、戦ってみたいぜ。殺し合ってみたいぜ────」
ーーーーーー
ツルギさんと戦闘訓練をしていた。
回避補正の最終調整。
ルーム210のメンバーの相対レベルは越えた。
ほぼ同等。しかし、ギンジさん、アリエさんのレベルは変化しなかった。
強すぎるんだよな、きっと。
今回の戦闘訓練では、銃器の使用を許可された。
「……いい汗が出ているな、オトメ」
「はぁハァ……どうも、まだまだですけどね」
「210の四人では一番強いのか?」
「キョウスケのスキャンでは……ですけど」
「強靭な肉体とスピードのカワセミ、万屋の性能を持つサイケン、瞬間火力の魔術の才能があるガラス、オトメ、いいメンバーだ……そろそろやってみるか……」
ツルギは腰の左側に鞘がある。
しかし、パネル操作で、ストレージからもう一振りの黒い刀を出現させ、右側の腰に差した。
「二本?二刀流ってやつですか?」
「そんな立派なものではない」
刀を抜く、右には「白の零蘭」左には「干支詠」を装備、これがツルギの真骨頂。
「……」
ツルギの斬撃は二本でも威力が堕ちない。むしろ逆、二倍以上になっている。
僕はいつもの如く防ぐと、光化したイノセントが砕けた。
上から二本が僕を引き斬る。
「いっでぇ!つーか折れた!」
折れたイノセントは粒子になって浮遊、元通りになる。
「よ、よかっ……」
「戦場でやるなよ」
ツルギの斬撃は容赦しない。
瞬間移動のエーテルステップで死角に入り、僕の体を切り裂く。
「ぐっ!」
距離を取る。壁を背にして光化したハンドガンを構える。
射撃はもちろんツルギに当たることはない。
わかっている。
「ヘタクソだな」
瞬間移動使いには当たらない。
残りの弾は刀ではじかれる。
「(そこだ)」
発砲と同時にスキル「エリアル・マジック」を使用、初めてツルギさんに使った。
MP-25
ツルギの移動位置の予測は12個所。
その中で最も近い所にスキルを放つ。
下からかちあげる高速斬撃(移動速度上昇LV.3)、地面から三メートル浮いた位置にフォロースルー。
次に、制限距離3メートルの任意の位置に高速移動からのもう一度の高速接近と斬撃。
これが2から4回繰り出せる。
最大のメリットは移動速度上昇と空中での自由移動。攪乱にもなる。
僕が出せた斬撃回数は3回。最低値だ。
このスキルは、攻撃と攻撃の間が0.5秒。
ツルギさんの瞬間移動のクールタイムにはギリギリ間に合うかも。
なんと、一回目の斬撃がツルギにヒット、勿論防がれる。
二回目、これもいなされる。
三回目、渾身の斬撃を繰り出すが、タイミングを掴んだツルギに襟を掴まれた。
「あ」
「まだまだ、だな」
一直線に投げられ、壁に直撃……するところを、姿勢を直し、壁に着地するように足で衝撃を和らげる。
まるで、逆さまに落とされた猫の着地みたい。
「オトメ、お前は何の正義を持って人を殺す?」
「え?急に」
「作戦が開始すれば確実に誰かが死ぬ。勝手に死ぬんじゃない、誰かは誰かに殺される。その時にお前のように迷っていられると困る」
「僕の……正義?」
「死さえ忘れたら、人を殺せるのか?」
ポーカーフェイスで抑揚のないツルギさんでも、この台詞だけは他と違う重みを感じだ。
「僕は、仲間を守りたいから……」
「記憶の価値、お前がどう捉えるのか、それはお前の正義だ。誰も否定できない価値観だ。一旦決めたら今作戦は貫き通せ、修正はその後だ。それでいい」
「────はい。僕は、僕の正義を貫きます」
「それがいい。このクソな場所で一番信用できる唯一だ」
訓練はこれで終了、明日は作戦の日。
夜、210は部屋で円陣を組んでいた。
「えぇ、この度、ツルギ隊長の下につくのはここの四人だ。俺はとても嬉しく、誇らしく思う」
サイケンが司会を務めた。
「サイケンはツルギ隊長が大好きじゃからな!」
「うるさい!これ程の名誉はない!明日、きっと管理者達の首を跳ね飛ばして、この輪廻を終わらせるぞ!」
「ボクも魔術でがんばる!」
「俺も肉弾戦なら得意じゃい、気ぃ張ってこうや」
「……あぁ、終わらせよう」
就寝、僕の中で疑問が生まれた。
それは、ほんのちいさなもの。
死を超越できるなら、この世界を壊す意味はないんじゃないか。
でも、先の訓練でツルギさんに教えられた、今作戦が終わるまでは正義を変えない、これを守った。
守ろうと頑張っていた。
自分が強くなること、内臓を破壊する手の感覚を。
二人は望んでいた。
孤島である旧水神の都からの大海原を。
夕日が二人の容姿、を金色に染める。もう色なんてわからない。
一人の男はそうでなくても『黄金の拳』を持つ戦闘狂人。「ライヴ」においても指折りの力を持つ男。
もう一人の男は黄金の男の弟子。熱意と体力しか自信が無い男。
「来るかな、師匠?」
「来るぜ、絶対にな。D9が消えた、つまり奴ら倫理に堕ちたってことだ。必ずD9を使ってくる」
「D9って強いんですか?俺と師匠だったら楽勝じゃないですか?」
弟子は両拳をぶつけ合った。息を荒くして、足の筋肉が緊張している。早く殴り合いたいという気持ちが伝わる。
「お前、ヒエンに勝てないだろ?あれより強いって思ってた方がいいぞ」
「……燃えるじゃないですか」
「だな」
黄金の男は拳を眺めて呟いた。
それは何の意味なのか、この世界に生きる意味なのか。
「最強の力、戦ってみたいぜ。殺し合ってみたいぜ────」
ーーーーーー
ツルギさんと戦闘訓練をしていた。
回避補正の最終調整。
ルーム210のメンバーの相対レベルは越えた。
ほぼ同等。しかし、ギンジさん、アリエさんのレベルは変化しなかった。
強すぎるんだよな、きっと。
今回の戦闘訓練では、銃器の使用を許可された。
「……いい汗が出ているな、オトメ」
「はぁハァ……どうも、まだまだですけどね」
「210の四人では一番強いのか?」
「キョウスケのスキャンでは……ですけど」
「強靭な肉体とスピードのカワセミ、万屋の性能を持つサイケン、瞬間火力の魔術の才能があるガラス、オトメ、いいメンバーだ……そろそろやってみるか……」
ツルギは腰の左側に鞘がある。
しかし、パネル操作で、ストレージからもう一振りの黒い刀を出現させ、右側の腰に差した。
「二本?二刀流ってやつですか?」
「そんな立派なものではない」
刀を抜く、右には「白の零蘭」左には「干支詠」を装備、これがツルギの真骨頂。
「……」
ツルギの斬撃は二本でも威力が堕ちない。むしろ逆、二倍以上になっている。
僕はいつもの如く防ぐと、光化したイノセントが砕けた。
上から二本が僕を引き斬る。
「いっでぇ!つーか折れた!」
折れたイノセントは粒子になって浮遊、元通りになる。
「よ、よかっ……」
「戦場でやるなよ」
ツルギの斬撃は容赦しない。
瞬間移動のエーテルステップで死角に入り、僕の体を切り裂く。
「ぐっ!」
距離を取る。壁を背にして光化したハンドガンを構える。
射撃はもちろんツルギに当たることはない。
わかっている。
「ヘタクソだな」
瞬間移動使いには当たらない。
残りの弾は刀ではじかれる。
「(そこだ)」
発砲と同時にスキル「エリアル・マジック」を使用、初めてツルギさんに使った。
MP-25
ツルギの移動位置の予測は12個所。
その中で最も近い所にスキルを放つ。
下からかちあげる高速斬撃(移動速度上昇LV.3)、地面から三メートル浮いた位置にフォロースルー。
次に、制限距離3メートルの任意の位置に高速移動からのもう一度の高速接近と斬撃。
これが2から4回繰り出せる。
最大のメリットは移動速度上昇と空中での自由移動。攪乱にもなる。
僕が出せた斬撃回数は3回。最低値だ。
このスキルは、攻撃と攻撃の間が0.5秒。
ツルギさんの瞬間移動のクールタイムにはギリギリ間に合うかも。
なんと、一回目の斬撃がツルギにヒット、勿論防がれる。
二回目、これもいなされる。
三回目、渾身の斬撃を繰り出すが、タイミングを掴んだツルギに襟を掴まれた。
「あ」
「まだまだ、だな」
一直線に投げられ、壁に直撃……するところを、姿勢を直し、壁に着地するように足で衝撃を和らげる。
まるで、逆さまに落とされた猫の着地みたい。
「オトメ、お前は何の正義を持って人を殺す?」
「え?急に」
「作戦が開始すれば確実に誰かが死ぬ。勝手に死ぬんじゃない、誰かは誰かに殺される。その時にお前のように迷っていられると困る」
「僕の……正義?」
「死さえ忘れたら、人を殺せるのか?」
ポーカーフェイスで抑揚のないツルギさんでも、この台詞だけは他と違う重みを感じだ。
「僕は、仲間を守りたいから……」
「記憶の価値、お前がどう捉えるのか、それはお前の正義だ。誰も否定できない価値観だ。一旦決めたら今作戦は貫き通せ、修正はその後だ。それでいい」
「────はい。僕は、僕の正義を貫きます」
「それがいい。このクソな場所で一番信用できる唯一だ」
訓練はこれで終了、明日は作戦の日。
夜、210は部屋で円陣を組んでいた。
「えぇ、この度、ツルギ隊長の下につくのはここの四人だ。俺はとても嬉しく、誇らしく思う」
サイケンが司会を務めた。
「サイケンはツルギ隊長が大好きじゃからな!」
「うるさい!これ程の名誉はない!明日、きっと管理者達の首を跳ね飛ばして、この輪廻を終わらせるぞ!」
「ボクも魔術でがんばる!」
「俺も肉弾戦なら得意じゃい、気ぃ張ってこうや」
「……あぁ、終わらせよう」
就寝、僕の中で疑問が生まれた。
それは、ほんのちいさなもの。
死を超越できるなら、この世界を壊す意味はないんじゃないか。
でも、先の訓練でツルギさんに教えられた、今作戦が終わるまでは正義を変えない、これを守った。
守ろうと頑張っていた。
0
お気に入りに追加
16
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
タイムワープ艦隊2024
山本 双六
SF
太平洋を横断する日本機動部隊。この日本があるのは、大東亜(太平洋)戦争に勝利したことである。そんな日本が勝った理由は、ある機動部隊が来たことであるらしい。人呼んで「神の機動部隊」である。
この世界では、太平洋戦争で日本が勝った世界戦で書いています。(毎回、太平洋戦争系が日本ばかり勝っ世界線ですいません)逆ファイナルカウントダウンと考えてもらえればいいかと思います。只今、続編も同時並行で書いています!お楽しみに!

30年待たされた異世界転移
明之 想
ファンタジー
気づけば異世界にいた10歳のぼく。
「こちらの手違いかぁ。申し訳ないけど、さっさと帰ってもらわないといけないね」
こうして、ぼくの最初の異世界転移はあっけなく終わってしまった。
右も左も分からず、何かを成し遂げるわけでもなく……。
でも、2度目があると確信していたぼくは、日本でひたすら努力を続けた。
あの日見た夢の続きを信じて。
ただ、ただ、異世界での冒険を夢見て!!
くじけそうになっても努力を続け。
そうして、30年が経過。
ついに2度目の異世界冒険の機会がやってきた。
しかも、20歳も若返った姿で。
異世界と日本の2つの世界で、
20年前に戻った俺の新たな冒険が始まる。
💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活
XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる