仮想世界β!!

音音てすぃ

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27.強く強く

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 ギルドの寮生の時、ベッドメイキングはしたことがあるし、毎日していた。
 が、ここの基準は想像の斜め上を行っていた。

「ほらオトメ、そこ、しわがあるよ」
「何処に!?つーかキョウスケスキャンしてよ!」
「つべこべ言わない!」
「はい!」

 厳しかった。しわ一つ許さないストイックな姿勢に心が打ち砕かれそうだった。
 折り目はキレイか、枕の位置は定位置か、シーツのしわ、なんなら空気の厚さなんて……そこまでじゃないか。
 そして一時間の修行の末に完成した。

「いいんじゃないの?」
「完璧なんじゃい」
「悪くないな」
「って言ってるけど、お三方は大丈夫?もう六時だよ」

 僕の台詞に三人の顔が凍り付いて、自分のベッドへ作業に向かう。

「俺たちは馬鹿かっ!新人の為に自分の時間が無いなんて……!」
「ボクなんか不器用だから終わんないよ!」
「俺は速いがなー」
「だったら手伝えカワセミ!」
「嫌じゃい」
「ははは……仲いいな」

 一番早いのはカワセミ、二番がサイケン、最後がガラスだ。

「あと何分だオトメ!」
「三分」
「間にあったか……」
「いやいや、制服着ないと」
「そうだ!アイロンかけろ!」

 すると三人は『倫理委員会戦闘対応制服(深蒼色)』を取り出し、手に暖かい赤光を放つ物体を掴んで、制服を撫で始めた。

「それは?」
「簡易な魔術だ。アイロン台を準備している暇はないからな……ってお前も早く制服を着ろ!」
「オトメ君、ボクのこれ使って──────」

 ガラスは僕にその赤光の塊を投げて渡す。

「熱い!」
「自分で耐火魔術をかけて」
「え、魔術?やったことほとんどないんだけど……」
「マジか……最終兵器とは思えないな」
「まぁここの制服の基準はベッドより厳しくない。訓練とかあるし、心配無用じゃい」
「カワセミが何時もそんなんだからペナルティ食らうんだろ!しわ一つ許さん!」
「ルーム200の点呼が始まりました」
「みんな、ルーム200の点検が始まったってキョウスケが……」
「速くしろ!」

 僕の制服は器用なサイケンに任せた。
 とりあえず208手前で準備完了、部屋に不動でつま先を揃えて立っていればいいらしい。

「(大事なオトメの二日目だ。何事もなく終わらせるぞ!)」
「(おー!ってかオトメの制服カッコイイなぁ)」
「(了解じゃい!)」
「(最善は尽くしたはずだ)」

 ルーム209が終了し、ギンジさんと同じ黒くて豪華な制服の男がスライドドアから入ってくる。

「心拍数が上昇しています」
「(わかってるよ!)」

 訓練生の教官だろうか、それともただの偉い人かな。
 そんなことを考えつつも、黒服の男は僕ら四人の制服を舐めるように見る。
 一言も発することなく、四人の確認が終了する。
 次はベッド。さてどうなる。
 男はしゃがんだり立ったり覗き込んだりしながら数秒。

「……」
「(完璧なら黙って頷いて出ていくはず……)」

 とサイケンが思った時だ。

「枕がずれている、やり直しだ。朝礼前に逆立ちで宿舎棟内を一周……いいな!」

 四人が声を揃えて返事をすると、黒服の男は次の部屋へと移動した。

「おい……誰だ?」

 サイケンが怒りの表情を見せるとカワセミの枕がずれていたことに気が付く。

「カーワーセーミー!貴様ッ!」
「わーわー悪かった!」
「先が思いやられるのはオトメじゃなくてお前かよ……」

 ベッドの基準は厳しいが、制服は日々の訓練のあるのか以外と緩い。勿論襟が立ってないかとか、変にバランスが悪いとかアンシンメトリーでなければ許されるらしい。
 しかし、ベッドメイキングのせいか、皆制服への熱は強い。
 というわけで早速逆立ちで彼らについていこう。

「行くぞお前ら!!」
「「「おー!」」」

 サイケンの掛け声と共に手で歩き出す。
 いったいどれ程の距離を歩くんだ?
 朝礼までって言ってたから百メートルくらいで済むのかな?

「朝礼は全委員集合、6:30だ。それまでにルーム100からルーム499までを完走する!」
「キョウスケ、距離はどのぐらい?」
「およそ三キロメートルです」
「マジかよ……」

 朝から腕が持つだろうか?

 ルームナンバー三桁ごとに階が変わる。勿論階段も逆立ちで上がる必要があるし、ほかの委員も移動を開始している。笑われた。

「一人だけ色が違うけど……オトメって人かな?」
「無様だな。試験受けたのか?」

 僕は下から睨みつけた。

「(うるさいやつらめ……今に見てろ、強くなってやる!)」
「お前ら、時間が無い!ペースを上げるぞ」

 サイケンのコトバで三人のスピードはブーストする。
 人のランニングと変わらない。動きが気持ち悪い。
 一方の僕は腕が限界に近い。昨日の訓練による痛みが続いていた。

「は、速い……」
「オトメ君……?」

 後方から声がする。
 頑張って振り向くと、白を基調とした黒いラインが施された制服のキリカだった。

「キリカ?何か昨日から会ってないけど、久しぶりだな」
「う、うん、そうだね久しぶりじゃないけど……なんで逆立ちなの?」

 そうか、キリカのベッドメイキングは完璧だったのか。

「ペナルティ……」
「なるほどね、お疲れ様(制服似合うなぁ)、後どれくらい?」

 振り返る前、制服が落ちたことによってオトメの割れた腹筋をチラ見したキリカは舞い上がっていた。

「一キロも進んでないです……」
「え!?もう朝礼始まるよ!急がないと!って私が引き留めてるのかハハハ……ごめん」
「お、おう、じゃあな!」
「あー待って!昨日の事もしかして覚えてる?」
「何が?」
「ううん!覚えてなかったらいいの!頑張って!」

 何か恥ずかしそうだな、何かあったのだろう、興味ないけど。いや、少し気になる。

「キョウスケ何か知ってる?」
「お答え出来かねます」
「────急ぐぞ」

 三人はたった二十分で完走、僕はダメだった。あれは人の動きではない。
 とりあえず残りは自由時間にこなすことになり、朝礼に参加した。

 野球が出来そうな広い空間、イヤもっと、ホールかな、そこに千人を超える委員が集合し、縦横ズレることなく並ぶ。
 集団の中で僕ら四人は固まって並ぶ。
 その前方に三メートルはある台があり、そこにナオヒト本部長が登壇する。

「……諸君、今日も新しい一日だ。今日も確実に何か一つを手に入れることができるように訓練に励もう!来るべき贖罪の日の為に!」

「はっ!!」

 全員が声を合わせる。
 とりあえず僕も合わせる。はいっ!って感じかな。

「食材?贖罪か、何悪いことしたのかな?」
「馬鹿野郎、贖罪は管理者達へ向けたコトバだ。勘違いすんなよ」
「ご、ごめんサイケン」
「わかればいいんだ」

 ナオヒト本部長の降壇後、十数秒のファンファーレが流れた。
 僕らの一日はこうやって始まった。
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