仮想世界β!!

音音てすぃ

文字の大きさ
32 / 121

27.強く強く

しおりを挟む
 ギルドの寮生の時、ベッドメイキングはしたことがあるし、毎日していた。
 が、ここの基準は想像の斜め上を行っていた。

「ほらオトメ、そこ、しわがあるよ」
「何処に!?つーかキョウスケスキャンしてよ!」
「つべこべ言わない!」
「はい!」

 厳しかった。しわ一つ許さないストイックな姿勢に心が打ち砕かれそうだった。
 折り目はキレイか、枕の位置は定位置か、シーツのしわ、なんなら空気の厚さなんて……そこまでじゃないか。
 そして一時間の修行の末に完成した。

「いいんじゃないの?」
「完璧なんじゃい」
「悪くないな」
「って言ってるけど、お三方は大丈夫?もう六時だよ」

 僕の台詞に三人の顔が凍り付いて、自分のベッドへ作業に向かう。

「俺たちは馬鹿かっ!新人の為に自分の時間が無いなんて……!」
「ボクなんか不器用だから終わんないよ!」
「俺は速いがなー」
「だったら手伝えカワセミ!」
「嫌じゃい」
「ははは……仲いいな」

 一番早いのはカワセミ、二番がサイケン、最後がガラスだ。

「あと何分だオトメ!」
「三分」
「間にあったか……」
「いやいや、制服着ないと」
「そうだ!アイロンかけろ!」

 すると三人は『倫理委員会戦闘対応制服(深蒼色)』を取り出し、手に暖かい赤光を放つ物体を掴んで、制服を撫で始めた。

「それは?」
「簡易な魔術だ。アイロン台を準備している暇はないからな……ってお前も早く制服を着ろ!」
「オトメ君、ボクのこれ使って──────」

 ガラスは僕にその赤光の塊を投げて渡す。

「熱い!」
「自分で耐火魔術をかけて」
「え、魔術?やったことほとんどないんだけど……」
「マジか……最終兵器とは思えないな」
「まぁここの制服の基準はベッドより厳しくない。訓練とかあるし、心配無用じゃい」
「カワセミが何時もそんなんだからペナルティ食らうんだろ!しわ一つ許さん!」
「ルーム200の点呼が始まりました」
「みんな、ルーム200の点検が始まったってキョウスケが……」
「速くしろ!」

 僕の制服は器用なサイケンに任せた。
 とりあえず208手前で準備完了、部屋に不動でつま先を揃えて立っていればいいらしい。

「(大事なオトメの二日目だ。何事もなく終わらせるぞ!)」
「(おー!ってかオトメの制服カッコイイなぁ)」
「(了解じゃい!)」
「(最善は尽くしたはずだ)」

 ルーム209が終了し、ギンジさんと同じ黒くて豪華な制服の男がスライドドアから入ってくる。

「心拍数が上昇しています」
「(わかってるよ!)」

 訓練生の教官だろうか、それともただの偉い人かな。
 そんなことを考えつつも、黒服の男は僕ら四人の制服を舐めるように見る。
 一言も発することなく、四人の確認が終了する。
 次はベッド。さてどうなる。
 男はしゃがんだり立ったり覗き込んだりしながら数秒。

「……」
「(完璧なら黙って頷いて出ていくはず……)」

 とサイケンが思った時だ。

「枕がずれている、やり直しだ。朝礼前に逆立ちで宿舎棟内を一周……いいな!」

 四人が声を揃えて返事をすると、黒服の男は次の部屋へと移動した。

「おい……誰だ?」

 サイケンが怒りの表情を見せるとカワセミの枕がずれていたことに気が付く。

「カーワーセーミー!貴様ッ!」
「わーわー悪かった!」
「先が思いやられるのはオトメじゃなくてお前かよ……」

 ベッドの基準は厳しいが、制服は日々の訓練のあるのか以外と緩い。勿論襟が立ってないかとか、変にバランスが悪いとかアンシンメトリーでなければ許されるらしい。
 しかし、ベッドメイキングのせいか、皆制服への熱は強い。
 というわけで早速逆立ちで彼らについていこう。

「行くぞお前ら!!」
「「「おー!」」」

 サイケンの掛け声と共に手で歩き出す。
 いったいどれ程の距離を歩くんだ?
 朝礼までって言ってたから百メートルくらいで済むのかな?

「朝礼は全委員集合、6:30だ。それまでにルーム100からルーム499までを完走する!」
「キョウスケ、距離はどのぐらい?」
「およそ三キロメートルです」
「マジかよ……」

 朝から腕が持つだろうか?

 ルームナンバー三桁ごとに階が変わる。勿論階段も逆立ちで上がる必要があるし、ほかの委員も移動を開始している。笑われた。

「一人だけ色が違うけど……オトメって人かな?」
「無様だな。試験受けたのか?」

 僕は下から睨みつけた。

「(うるさいやつらめ……今に見てろ、強くなってやる!)」
「お前ら、時間が無い!ペースを上げるぞ」

 サイケンのコトバで三人のスピードはブーストする。
 人のランニングと変わらない。動きが気持ち悪い。
 一方の僕は腕が限界に近い。昨日の訓練による痛みが続いていた。

「は、速い……」
「オトメ君……?」

 後方から声がする。
 頑張って振り向くと、白を基調とした黒いラインが施された制服のキリカだった。

「キリカ?何か昨日から会ってないけど、久しぶりだな」
「う、うん、そうだね久しぶりじゃないけど……なんで逆立ちなの?」

 そうか、キリカのベッドメイキングは完璧だったのか。

「ペナルティ……」
「なるほどね、お疲れ様(制服似合うなぁ)、後どれくらい?」

 振り返る前、制服が落ちたことによってオトメの割れた腹筋をチラ見したキリカは舞い上がっていた。

「一キロも進んでないです……」
「え!?もう朝礼始まるよ!急がないと!って私が引き留めてるのかハハハ……ごめん」
「お、おう、じゃあな!」
「あー待って!昨日の事もしかして覚えてる?」
「何が?」
「ううん!覚えてなかったらいいの!頑張って!」

 何か恥ずかしそうだな、何かあったのだろう、興味ないけど。いや、少し気になる。

「キョウスケ何か知ってる?」
「お答え出来かねます」
「────急ぐぞ」

 三人はたった二十分で完走、僕はダメだった。あれは人の動きではない。
 とりあえず残りは自由時間にこなすことになり、朝礼に参加した。

 野球が出来そうな広い空間、イヤもっと、ホールかな、そこに千人を超える委員が集合し、縦横ズレることなく並ぶ。
 集団の中で僕ら四人は固まって並ぶ。
 その前方に三メートルはある台があり、そこにナオヒト本部長が登壇する。

「……諸君、今日も新しい一日だ。今日も確実に何か一つを手に入れることができるように訓練に励もう!来るべき贖罪の日の為に!」

「はっ!!」

 全員が声を合わせる。
 とりあえず僕も合わせる。はいっ!って感じかな。

「食材?贖罪か、何悪いことしたのかな?」
「馬鹿野郎、贖罪は管理者達へ向けたコトバだ。勘違いすんなよ」
「ご、ごめんサイケン」
「わかればいいんだ」

 ナオヒト本部長の降壇後、十数秒のファンファーレが流れた。
 僕らの一日はこうやって始まった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ハズレ職業の料理人で始まった俺のVR冒険記、気づけば最強アタッカーに!ついでに、女の子とVチューバー始めました

グミ食べたい
ファンタジー
現実に疲れた俺が辿り着いたのは、自由度抜群のVRMMORPG『アナザーワールド・オンライン』。 選んだ職業は“料理人”。 だがそれは、戦闘とは無縁の完全な負け組職業だった。 地味な日々の中、レベル上げ中にネームドモンスター「猛き猪」が出現。 勝てないと判断したアタッカーはログアウトし、残されたのは三人だけ。 熊型獣人のタンク、ヒーラー、そして非戦闘職の俺。 絶体絶命の状況で包丁を構えた瞬間――料理スキルが覚醒し、常識外のダメージを叩き出す! そこから始まる、料理人の大逆転。 ギルド設立、仲間との出会い、意外な秘密、そしてVチューバーとしての活動。 リアルでは無職、ゲームでは負け組。 そんな男が奇跡を起こしていくVRMMO物語。

ギャルい女神と超絶チート同盟〜女神に贔屓されまくった結果、主人公クラスなチート持ち達の同盟リーダーとなってしまったんだが〜

平明神
ファンタジー
 ユーゴ・タカトー。  それは、女神の「推し」になった男。  見た目ギャルな女神ユーラウリアの色仕掛けに負け、何度も異世界を救ってきた彼に新たに下った女神のお願いは、転生や転移した者達を探すこと。  彼が出会っていく者たちは、アニメやラノベの主人公を張れるほど強くて魅力的。だけど、みんなチート的な能力や武器を持つ濃いキャラで、なかなか一筋縄ではいかない者ばかり。  彼らと仲間になって同盟を組んだユーゴは、やがて彼らと共に様々な異世界を巻き込む大きな事件に関わっていく。  その過程で、彼はリーダーシップを発揮し、新たな力を開花させていくのだった!  女神から貰ったバラエティー豊かなチート能力とチートアイテムを駆使するユーゴは、どこへ行ってもみんなの度肝を抜きまくる!  さらに、彼にはもともと特殊な能力があるようで……?  英雄、聖女、魔王、人魚、侍、巫女、お嬢様、変身ヒーロー、巨大ロボット、歌姫、メイド、追放、ざまあ───  なんでもありの異世界アベンジャーズ!  女神の使徒と異世界チートな英雄たちとの絆が紡ぐ、運命の物語、ここに開幕! ※不定期更新。最低週1回は投稿出来るように頑張ります。 ※感想やお気に入り登録をして頂けますと、作者のモチベーションがあがり、エタることなくもっと面白い話が作れます。

戦場の英雄、上官の陰謀により死亡扱いにされ、故郷に帰ると許嫁は結婚していた。絶望の中、偶然助けた許嫁の娘に何故か求婚されることに

千石
ファンタジー
「絶対生きて帰ってくる。その時は結婚しよう」 「はい。あなたの帰りをいつまでも待ってます」 許嫁と涙ながらに約束をした20年後、英雄と呼ばれるまでになったルークだったが生還してみると死亡扱いにされていた。 許嫁は既に結婚しており、ルークは絶望の只中に。 上官の陰謀だと知ったルークは激怒し、殴ってしまう。 言い訳をする気もなかったため、全ての功績を抹消され、貰えるはずだった年金もパー。 絶望の中、偶然助けた子が許嫁の娘で、 「ルーク、あなたに惚れたわ。今すぐあたしと結婚しなさい!」 何故か求婚されることに。 困りながらも巻き込まれる騒動を通じて ルークは失っていた日常を段々と取り戻していく。 こちらは他のウェブ小説にも投稿しております。

最強無敗の少年は影を従え全てを制す

ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。 産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。 カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。 しかし彼の力は生まれながらにして最強。 そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

30年待たされた異世界転移

明之 想
ファンタジー
 気づけば異世界にいた10歳のぼく。 「こちらの手違いかぁ。申し訳ないけど、さっさと帰ってもらわないといけないね」  こうして、ぼくの最初の異世界転移はあっけなく終わってしまった。  右も左も分からず、何かを成し遂げるわけでもなく……。  でも、2度目があると確信していたぼくは、日本でひたすら努力を続けた。  あの日見た夢の続きを信じて。  ただ、ただ、異世界での冒険を夢見て!!  くじけそうになっても努力を続け。  そうして、30年が経過。  ついに2度目の異世界冒険の機会がやってきた。  しかも、20歳も若返った姿で。  異世界と日本の2つの世界で、  20年前に戻った俺の新たな冒険が始まる。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

処理中です...