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後日談
姫の誕生
しおりを挟む初産にも係わらずアリーチャはあっさりと子を産み落とした。あまりにも安産だったので助産婦は「やることがなかった」と拍子抜けしたものだ。
「ともかく無事に生まれて良かったよ、あぁボクのベビー!」
愛しそうにクリストフはメロメロな様子で愛娘を見つめている、まだ生まれたばかりなので結界魔法で仕切られている。彼は触れられないことにもどかし気だったが「娘もためならば」と我慢する。
「ふふ、ほんの暫くの間ですわ。どうか耐えて下さいませ」
「うん、良く分かっているよ。どうか健やかに育って欲しい」
見えない壁に向かって彼は苦笑するのだった。
そして、首が座った頃に解禁となった。
彼も両陛下も挙って会いにやって来た、特に王は顔面が土砂崩れしたのではないかと思うほどの様子だった。これにはアリーチャは呆れた。
「陛下、どうぞ抱っこしてあげてくださいな」
「う、うむ!……おお、なんと軽いまるで羽が生えたかのような、まさに天使ではないか!」
「貴方ったら恥ずかしい」
王妃は「まったくもう」と肩を竦めてその様子を見守った。自身も触れたいのをじっと我慢している。
「クリスの時なんてほとんど無関心でしたのに!変わるものですわね」
「そういうな、子と孫では話が違うのだ!」
「んまぁ!」
身勝手なことを宣う王の言葉を聞いて「早く代わってくださいませ」とプリプリと怒った。すると渋々の体で赤子を手渡す。
「ん~ほんとうに愛らしいこと……可愛くて可愛くてまるで王子の生き写しね」
「はい、本当にクリスにそっくりで私も驚いております」
二人は微笑みあい感想を述べた、すると赤子が「あうあう」と何事か呟く。
「あらぁ?な~に、バァバに何かごようですか?」
「あう~キャハハハ」
「まあ!驚いた!見た?いま私を見て笑ったわよ!」
それは声を出して初めて笑った瞬間だった、王妃は小躍りする勢いで「やったやった」とはしゃいだ。
「ず、ずるいぞ!王妃!余だって笑って欲しいのに!」
「ほほほっ!女は女同士で通じるものがあるのですわ!ね~えクリスティナや」
「キャア、キャハハハッ」
またも笑う赤子に悔しがる王は「今一度、余にもチャンスを!」とせがむ。仕方なく交代すれば赤子は無の表情に戻ってしまう。
「ど、どうしてじゃ姫や!何が違うというのか」
オロオロする王はどうにかして笑わせたいと四苦八苦する、変顔やお道化たようすを見せるのだが一向に「無」だった。
「父上、いい加減ボクと変わってくださいよ」
呆れて見ていた王子が貸してくださいと横合いから腕を伸ばす、しかし意地になった王は赤子を渡そうとしない。
「嫌だ~余も笑って欲しいのじゃ~」
「父上……あんたって人は」
その時だ、大人しくしていた赤子が火を点けたように泣き出したではないか。
「びえ~ん!いぎゃあああん!わああああん!」
「えええ!?」
王の腕の中で突如泣き出したものだから、すっかりパニックだ。オロオロするばかりでどうしようもない。
「ひえええ!妃殿下ァ!どうにかしてくれい!」
「はいはい、わかりましたよ」
ぴぎゃぴぎゃと泣き喚く我が子を抱いて「よしよし、どうしたの」と背中をポンポン叩く。どうやらオシメが濡れていたようだ。サクサクと取り換えてやれば機嫌は元通りだ。
「キャッキャッ!」
「うふふ、良い子ね。少し寝ましょうか」
ポンポンと背を叩きユラユラと身を揺らめさせればウトウトと微睡始めた。やがて深い眠りに落ちた赤子はスヤスヤと寝静まる。
結界を展開させて「今日はこれでお引き取りを」とアリーチャは言う。
「ええ、ボクはまだ抱っこしていない」
「余だって足りないぞ」
「我儘はよしてください、それにクリスはいつでも会えるでしょ?」
「うん、そうかわかった」
「ええ~」
最後までぐずっていた王だったが王妃に「彼女の負担になるでしょう」と叱られた。そして、どうして笑ってくれなかったのか研究すると息巻くのだった。
「やれやれだわねぇ」
「うん、そうだね。ねぇ起きたら遊んで良い?」
「はいはい、機嫌が良ければね」
こうしてジィジ、バァバ、パパの面会は幕を閉じたのである。
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