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後日談

誘拐劇

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「あぅ……たーた!たーた!」
「はいはい、靴下ね。でも貴女すぐに脱いじゃうでしょう?」
「たーた!」

瞳を潤ませて靴下をせがむ我が子に仕方ないと言って、アリーチャは履かせてやる。満足した娘クリスティナは「むふぅ」と頬を紅潮させた。そして、ヨチヨチと歩く。まだまだ覚束ない足取りだが、補助をしようとすると「ぶにゃあ」とイヤイヤをするのだ。

「困った子だわ、この間も頭をごっちんしたばかりなのに」
「やーあ!」
補助しようと手を差し伸べた母の手をパチンと叩き落として歩いてしまうのだ。いったい誰に似てこう頑固なのか、それはアリーチャである。彼女もまた幼い頃は我が道を行くタイプで周りを翻弄したものだ。

それを証拠にオデコの隅に、今も微かに傷が残っていた。

「血は争えないわね……せめて保護魔法だけでも使いましょう」
身体強化を唱えて、なおかつ結界魔法をかけた。これならば多少の怪我はしないというものだ。ただ、痛みは緩和しない、これは彼女のためである。

転げれば痛いということを学習させなければ、なんでもありになってしまう。

「びえ~ん!あぅあ~!」
「ほらごらんなさい、走り回ったせいですよ」
厳しいアリーチャは助け起こさない、しっかり反省させなければならないのだ。

それを見ていたクリストフはすぐに助け起こそうとするのだが、アリーチャは「やめて!」とキッと睨みつける。
「そ、そんなチャチャ、あまりに厳しくないか?」
「そんなことはございません、ちゃんと怪我をしないよう保護してます!痛みを知るということは成長の機会です」
「……そうかなぁ、うう~ん」

泣き喚く我が子にオロオロとする王子は「だいじょうぶ?痛い痛い飛んでけ~」とやっている。
「ほら、すぐに甘やかすんだから」
「だって可哀そうで」
「びえ~ん!」

散々泣かせた後でアリーチャはやっと手助けした、泣いてグチャグチャの顔を拭い、汚れた手足を拭き服をパタパタと整えた。
「良いですかティナ、好き勝手すれば良くない事が起こるのですよ」
「……あい、グスン」
「うん、よろしい」

そうしてから抱っこして背中をポンポンと叩けば、「まみ~」と嬉しそうに笑う。それを近くで見守っていた王妃は素晴らしい教育方針だと褒めたたえていた。
「私も王子には手を焼いたわぁ、つい甘やかせちゃってね、いけないわ」
「母上、いまさら厳しくしないでね?」
「あらぁ、それはどうかしら」


***

クリスティナ3歳の誕生日のことだ。
ささやかなパーティを開きお祝いに駆け付けた兄王子夫妻とその子息がやってきた。
「くりすてぃなれす、よろちく」
たどたどしい口ぶりで挨拶をした娘に、場にいた全員が骨抜きにされている。

「なんて可愛らしい!クリスにそっくりだね」
「ええ、本当に!」
「か、可愛い」
みんな見事にメロメロにされて「かわいい」と連呼していた。苦笑するアリーチャとにこにこと微笑むクリストフである。

「ねぇおじ様、彼女をボクにください!」
「え……それはちょっとどうかな、血が濃すぎる」
「ええ~」
クリストフは苦笑いで甥っ子の申し出を断った。仕方ないので兄妹のような付き合いならばと了承する。

「わかりました、兄として見守ります!」
「うん、頼むよ。お兄ちゃん」
「お兄ちゃん!なんて素晴らしい響きか!」5歳になる甥っ子は満更でもない様子で喜ぶ。

「おかあちゃま、散歩してきていい?」
「え?ううん、そうね。敷地内だったら良いわ」
「でしたら、ボクが付き添います!兄として!」
そう言った甥っ子ファビアンにアリーチャは微笑み、よろしくねとお願いした。敷地内ならば護衛騎士が警邏しており、侍女らが付いている何も問題はない。

加えて結界魔法は常に彼女を護っているのだ、快く了承して送りだした。




ところが……

「妃殿下様!甥御さまファビアンとクリスティナ様が拐されました!」
「え?」


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