完結 冗談で済ますつもりでしょうが、そうはいきません。

音爽(ネソウ)

文字の大きさ
31 / 32

31

しおりを挟む




麗らかな春の日にどこからか赤子の泣き声が聞こえた。
それは微かに聞こえたがやがて小さくなって消えた、かつての城壁で見廻りをしている憲兵たちは「良い日和だ」と言って顔を綻ばす。



「あぁ、やっと寝てくれた……この子は滅多に泣かないけれど余程機嫌が悪かったのね」
揺り籠でグッスリ眠りこける我が子を、愛し気に見守るセレンジェールは幸せなひと時を噛みしめていた。公爵令嬢から大統領夫人となった彼女はやや疲れた目をしていたが、その眼差しは慈愛に満ちている。


「やぁ、セレン、先ほどまで庁舎にまで泣き声が届いていたが大丈夫かい?」
「あら、ディオン。お仕事はいいの?またレイモンに押し付けたんじゃないでしょうね」
「そんな事しないよ、ちゃんと私の分の仕事は熟したさ」

それならば良いと微笑んで夫を迎え入れた、いつものように熱い抱擁を交わして「ディオンお疲れさま」と軽くリップ音を立てる。
「ん……足りないよ、もっとちゃんとして?」
「ふふっ、甘えん坊さんねぇ。おっきな赤ん坊みたい、偉いですよ、ディオン。午後も頑張ってね」
「うん、頑張るよ♪」

彼女が甘く囁くとフニャリと蕩ける顔をするディオンズは獅子から飼い猫のようになってしまう。執務室での彼といまの彼では雲泥の差だった。
いつの間にか膝枕をしたディオンズは微睡みながらこう言った。

「あぁ、幸せだ……このまま死んだって良い」
「あらあ、私達を置いて儚くならないで頂戴な。貴方も私も、あの子もこれからなのよ?」
「ふふっ、わかっているよセレン。ただの比喩さ、言ってみたかっただけ……」

そんなバカげたことを言っている間に夢見心地の彼はそのまま意識を手放す。
永遠に続くようにと願いながら。








本編完結



しおりを挟む
感想 52

あなたにおすすめの小説

恩知らずの婚約破棄とその顛末

みっちぇる。
恋愛
シェリスは婚約者であったジェスに婚約解消を告げられる。 それも、婚約披露宴の前日に。 さらに婚約披露宴はパートナーを変えてそのまま開催予定だという! 家族の支えもあり、婚約披露宴に招待客として参加するシェリスだが…… 好奇にさらされる彼女を助けた人は。 前後編+おまけ、執筆済みです。 【続編開始しました】 執筆しながらの更新ですので、のんびりお待ちいただけると嬉しいです。 矛盾が出たら修正するので、その時はお知らせいたします。

溺愛されていると信じておりました──が。もう、どうでもいいです。

ふまさ
恋愛
 いつものように屋敷まで迎えにきてくれた、幼馴染みであり、婚約者でもある伯爵令息──ミックに、フィオナが微笑む。 「おはよう、ミック。毎朝迎えに来なくても、学園ですぐに会えるのに」 「駄目だよ。もし学園に向かう途中できみに何かあったら、ぼくは悔やんでも悔やみきれない。傍にいれば、いつでも守ってあげられるからね」  ミックがフィオナを抱き締める。それはそれは、愛おしそうに。その様子に、フィオナの両親が見守るように穏やかに笑う。  ──対して。  傍に控える使用人たちに、笑顔はなかった。

「最高の縁談なのでしょう?なら、かわってあげたら喜んでくれますよね!」

みっちぇる。
恋愛
侯爵令嬢のリコリスは20歳。立派な嫁きおくれである。 というのも、義母がなかなかデビューさせてくれないのだ。 なにか意図を感じつつも、周りは義母の味方ばかり。 そん中、急にデビュタントの許可と婚約を告げられる。 何か裏がある―― 相手の家がどういうものかを知り、何とかしようとするリコリス。 でも、非力なリコリスには何も手段がない。 しかし、そんな彼女にも救いの手が……?

平凡令嬢は婚約者を完璧な妹に譲ることにした

カレイ
恋愛
 「平凡なお前ではなくカレンが姉だったらどんなに良かったか」  それが両親の口癖でした。  ええ、ええ、確かに私は容姿も学力も裁縫もダンスも全て人並み程度のただの凡人です。体は弱いが何でも器用にこなす美しい妹と比べるとその差は歴然。  ただ少しばかり先に生まれただけなのに、王太子の婚約者にもなってしまうし。彼も妹の方が良かったといつも嘆いております。  ですから私決めました!  王太子の婚約者という席を妹に譲ることを。  

【完結】「妹が欲しがるのだから与えるべきだ」と貴方は言うけれど……

小笠原 ゆか
恋愛
私の婚約者、アシュフォード侯爵家のエヴァンジェリンは、後妻の産んだ義妹ダルシニアを虐げている――そんな噂があった。次期王子妃として、ひいては次期王妃となるに相応しい振る舞いをするよう毎日叱責するが、エヴァンジェリンは聞き入れない。最後の手段として『婚約解消』を仄めかしても動じることなく彼女は私の下を去っていった。 この作品は『小説家になろう』でも公開中です。

婚約破棄?責任を取らされた王太子はホームレスになりました

鷹 綾
恋愛
「真実の愛を見つけた」 そう宣言し、王太子は公爵令嬢である私との婚約を一方的に破棄しました。 隣に立っていたのは、身分違いの平民の娘。 王国中が祝福すると思っていたのでしょう。 ――けれど、貴族は沈黙しました。 なぜならこの国の流通、軍需、財政、その要の多くを握っているのは公爵家だからです。 私は怒鳴りません。 泣きません。 縋りません。 ただ、契約を見直しただけ。 「婚約破棄には、当然、責任が伴いますわよね?」 市場が揺れ、物価が上がり、軍の補給が滞り、王家の実権は静かに崩れていく。 それでも王太子は気づかない。 やがて開かれる評議会。 下される廃嫡。 そして追放。 真実の愛を選んだ王太子は、王冠を失い、家を失い、名前さえ失う。 責任を――取らされたのです。 これは、感情で復讐する物語ではありません。 秩序を守るために、責任を明確にしただけの話。 そして国は、新しい王を迎えることになる。

心から愛しているあなたから別れを告げられるのは悲しいですが、それどころではない事情がありまして。

ふまさ
恋愛
「……ごめん。ぼくは、きみではない人を愛してしまったんだ」  幼馴染みであり、婚約者でもあるミッチェルにそう告げられたエノーラは「はい」と返答した。その声色からは、悲しみとか、驚きとか、そういったものは一切感じられなかった。  ──どころか。 「ミッチェルが愛する方と結婚できるよう、おじさまとお父様に、わたしからもお願いしてみます」  決意を宿した双眸で、エノーラはそう言った。  この作品は、小説家になろう様でも掲載しています。

あなたがわたしを本気で愛せない理由は知っていましたが、まさかここまでとは思っていませんでした。

ふまさ
恋愛
「……き、きみのこと、嫌いになったわけじゃないんだ」  オーブリーが申し訳なさそうに切り出すと、待ってましたと言わんばかりに、マルヴィナが言葉を繋ぎはじめた。 「オーブリー様は、決してミラベル様を嫌っているわけではありません。それだけは、誤解なきよう」  ミラベルが、当然のように頭に大量の疑問符を浮かべる。けれど、ミラベルが待ったをかける暇を与えず、オーブリーが勢いのまま、続ける。 「そう、そうなんだ。だから、きみとの婚約を解消する気はないし、結婚する意思は変わらない。ただ、その……」 「……婚約を解消? なにを言っているの?」 「いや、だから。婚約を解消する気はなくて……っ」  オーブリーは一呼吸置いてから、意を決したように、マルヴィナの肩を抱き寄せた。 「子爵令嬢のマルヴィナ嬢を、あ、愛人としてぼくの傍に置くことを許してほしい」  ミラベルが愕然としたように、目を見開く。なんの冗談。口にしたいのに、声が出なかった。

処理中です...