上 下
32 / 32

マーガレット・ビルドの罪

しおりを挟む



暫く放置された彼女は暇を持て余し、「カンコン」と給仕されてきた空皿を叩いて音を楽しんでいた。何かやってなければ退屈で発狂しそうだった。




だが、そんな日々も終わる時がやってきた、看守がふたりやってきて「沙汰が降りた」と言った。斬首刑だと淡々と述べる。

「あーはー、そう……良いんじゃない」
暗がりで虚しく暇をつぶすくらいならば、いっそバッサリやってくれと思った。気が遠くなる程の倦怠感と格闘するのに飽き飽きしていた彼女は処刑をあっさりと受け入れた。

「ところで私の罪ってなーに?愛した人を横取りしたセレンの方がよっぽど罪だと思うのだけど?」
「……つまらん問答はせぬ」
「ふん、何よ!気取っちゃってさ!そこの男子!XXXの毛がやっと生えた年頃の癖に偉そうに」

やさぐれた彼女は酔っ払いのように喚き散らし、看守らを閉口させる。新卒で17~8歳の若き看守は羞恥に顔を赤らめる。
「おい、相手にすんなよ。舐められる」
「は、はい!」


やがて地下牢獄から出ると目映い光に出迎えられてクラクラする、特にマーガレットは長い事幽閉されていたせいでちょっとの光にも敏感だ。
「な、何よ……眩しいわね目が開けられないわ」
ブツクサと文句を垂れていると「さっさとしろ」と小突かれる、しかし、腹を立てるマーガレットは最期を迎えるのだからと余計に横柄だ。

「好きにさせてよ!どうせ死んじゃうんだから!」
看守の手を振りほどいて大股で歩く、とてもこれから死に向かおうという態度ではない。年嵩の刑務官は「好きにさせろ」と肩を竦めた。
そしてギロチン台に着くと「へぇ、これがねぇ。思ったより小さいのね」と感想まで言う始末だ。

「思い残すことはあるか?」と定型文の台詞を執行人に問われると「この世の全てを嫌悪するわ」と言った。そうして斬首台に首を添えられると「ザシュッ」と言う音が聞こえた。

「え?聞こえた?なんで?」
首を落とされたと言うのに意識がはっきりしていた、痛みもなければ何もないのだ。こういうものなのかと辺りをキョロキョロと見物する。自分の首と身体は一体どうなったのだろうと周囲を見回す。

「さて、起きろ。刑は執行された、お前は名もなき死体になったのだ。良かったな」
「良かったですって?殺されたのに何が良いのよ」

グイッと起こされた彼女の頭と胴体は離れていない、ちゃんとそこに在ってマヌケな顔を晒す。
「ど、どういうことよ。ちょっとねぇ!私の首はどこにあるわけ?」
斬首刑の予行練習でもしたのだろうかとマーガレットは己の首周辺を摩る、やはりちゃんとくっ付いている。わけがわからない。

傍らに根菜らしきがゴロリと転がっていた、どうやらこれが代わりに真っ二つにされたとわかる。
「悪趣味~処刑の練習に駆り出されたのね」
「いいや、違うね。マーガレット・ビルドは確かに殺された。キミは名もなき死体なのだよ」
すぐ上の所から声が聞こえた、刑務官とは違うようだ。
「はあ?誰よあんた」

上から聞こえて来たのは大統領首席補佐となったレイモンの声だった。彼女は「誰だっけ?」と頭を傾ぐ。
「俺の名なんてどうでも良かろう、キミには最果ての地にて仕事が待っているからねサヨナラ会う事もない」
「え、どういうこと?私はどうなっちゃうの?」
空恐ろしくなった彼女は背後にジリリと下がった、嫌な汗が背中を伝う。

「ああ、普通だったら生き地獄だろうけどキミには天職なのかなぁ。彼も嫌な仕事を思いつくもんだ」


***


マーガレットは生き延びた喜びを味わう暇もなく、水でゴシゴシ乱暴に洗われ見た目だけは身ぎれいな恰好をさせられた。しかし、その衣装はどう見ても娼婦のそれだった。そして、視力を魔法で奪われて体は避妊が施され余計な口はきけなくなった。


そして、馬車で揺られる事三日、土臭いその土地が職場だと言われた。
野太い腕に担がれて着いたところは山小屋だ、目が見えない彼女はドスンと放り出される。
「お前はなんて名にしようか、まぁ良いや適当に呼ばれろ」
「あぅあああ……あぅあああ」

そこについて一日目から幾人もの相手をさせられた、目が見えない彼女は幾度となくやってくる快楽に身を委ねる。彼女の職場は罪人たちが働く鉱山で、行き場のない不満と劣情を吐かせるのが仕事なのだ。ビッチ気質の彼女は最高の仕事と言える。
「あうぁああ!あぅあああ!ひぃひぃ!」




「よぉ、アウア今日も世話になるぜ?」
「あぅあ……ひひひっ」












しおりを挟む
感想 52

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(52件)

魅亜*´ㅅ`)
2024.08.13 魅亜*´ㅅ`)

息子さんが……
(っ´・д・)✄╰;.’:╯バチィン

音爽(ネソウ)
2024.08.17 音爽(ネソウ)

ご感想ありがとうございます。

い、痛い( ;∀;)

解除
太真
2024.08.12 太真

マーカー・ビルドの罪・何ともつまらん人生だったな~。なにかをしろとは言わないけど人のモノを盗まないで生きて欲しいな❗😖💧。

音爽(ネソウ)
2024.08.13 音爽(ネソウ)

ご感想ありがとうございます。

最後まで読んでいただき感謝致します<(_ _)>

解除
太真
2024.08.11 太真

30. 30. 女の子は色んな顔を持ってたすから~( ・∀・)b。

音爽(ネソウ)
2024.08.12 音爽(ネソウ)

ご感想ありがとうございます。

そうですね(*'▽')

解除

あなたにおすすめの小説

アリシアの恋は終わったのです【完結】

ことりちゃん
恋愛
昼休みの廊下で、アリシアはずっとずっと大好きだったマークから、いきなり頬を引っ叩かれた。 その瞬間、アリシアの恋は終わりを迎えた。 そこから長年の虚しい片想いに別れを告げ、新しい道へと歩き出すアリシア。 反対に、後になってアリシアの想いに触れ、遅すぎる行動に出るマーク。 案外吹っ切れて楽しく過ごす女子と、どうしようもなく後悔する残念な男子のお話です。 ーーーーー 12話で完結します。 よろしくお願いします(´∀`)

平凡令嬢は婚約者を完璧な妹に譲ることにした

カレイ
恋愛
 「平凡なお前ではなくカレンが姉だったらどんなに良かったか」  それが両親の口癖でした。  ええ、ええ、確かに私は容姿も学力も裁縫もダンスも全て人並み程度のただの凡人です。体は弱いが何でも器用にこなす美しい妹と比べるとその差は歴然。  ただ少しばかり先に生まれただけなのに、王太子の婚約者にもなってしまうし。彼も妹の方が良かったといつも嘆いております。  ですから私決めました!  王太子の婚約者という席を妹に譲ることを。  

女性として見れない私は、もう不要な様です〜俺の事は忘れて幸せになって欲しい。と言われたのでそうする事にした結果〜

流雲青人
恋愛
子爵令嬢のプレセアは目の前に広がる光景に静かに涙を零した。 偶然にも居合わせてしまったのだ。 学園の裏庭で、婚約者がプレセアの友人へと告白している場面に。 そして後日、婚約者に呼び出され告げられた。 「君を女性として見ることが出来ない」 幼馴染であり、共に過ごして来た時間はとても長い。 その中でどうやら彼はプレセアを友人以上として見れなくなってしまったらしい。 「俺の事は忘れて幸せになって欲しい。君は幸せになるべき人だから」 大切な二人だからこそ、清く身を引いて、大好きな人と友人の恋を応援したい。 そう思っている筈なのに、恋心がその気持ちを邪魔してきて...。 ※ ゆるふわ設定です。 完結しました。

断罪された公爵令嬢に手を差し伸べたのは、私の婚約者でした

カレイ
恋愛
 子爵令嬢に陥れられ第二王子から婚約破棄を告げられたアンジェリカ公爵令嬢。第二王子が断罪しようとするも、証拠を突きつけて見事彼女の冤罪を晴らす男が現れた。男は公爵令嬢に跪き…… 「この機会絶対に逃しません。ずっと前から貴方をお慕いしていましたんです。私と婚約して下さい!」     ええっ!あなた私の婚約者ですよね!?

双子の妹を選んだ婚約者様、貴方に選ばれなかった事に感謝の言葉を送ります

すもも
恋愛
学園の卒業パーティ 人々の中心にいる婚約者ユーリは私を見つけて微笑んだ。 傍らに、私とよく似た顔、背丈、スタイルをした双子の妹エリスを抱き寄せながら。 「セレナ、お前の婚約者と言う立場は今、この瞬間、終わりを迎える」 私セレナが、ユーリの婚約者として過ごした7年間が否定された瞬間だった。

〖完結〗残念ですが、お義姉様はこの侯爵家を継ぐことは出来ません。

藍川みいな
恋愛
五年間婚約していたジョゼフ様に、学園の中庭に呼び出され婚約破棄を告げられた。その隣でなぜか私に怯える義姉のバーバラの姿があった。 バーバラは私にいじめられたと嘘をつき、婚約者を奪った。 五年も婚約していたのに、私ではなく、バーバラの嘘を信じた婚約者。学園の生徒達も彼女の嘘を信じ、親友だと思っていた人にまで裏切られた。 バーバラの目的は、ワイヤット侯爵家を継ぐことのようだ。 だが、彼女には絶対に継ぐことは出来ない。 設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。 感想の返信が出来ず、申し訳ありません。

【完結】公爵令嬢は、婚約破棄をあっさり受け入れる

櫻井みこと
恋愛
突然、婚約破棄を言い渡された。 彼は社交辞令を真に受けて、自分が愛されていて、そのために私が必死に努力をしているのだと勘違いしていたらしい。 だから泣いて縋ると思っていたらしいですが、それはあり得ません。 私が王妃になるのは確定。その相手がたまたま、あなただった。それだけです。 またまた軽率に短編。 一話…マリエ視点 二話…婚約者視点 三話…子爵令嬢視点 四話…第二王子視点 五話…マリエ視点 六話…兄視点 ※全六話で完結しました。馬鹿すぎる王子にご注意ください。 スピンオフ始めました。 「追放された聖女が隣国の腹黒公爵を頼ったら、国がなくなってしまいました」連載中!

婚約者に嫌われているようなので離れてみたら、なぜか抗議されました

花々
恋愛
メリアム侯爵家の令嬢クラリッサは、婚約者である公爵家のライアンから蔑まれている。 クラリッサは「お前の目は醜い」というライアンの言葉を鵜呑みにし、いつも前髪で顔を隠しながら過ごしていた。 そんなある日、クラリッサは王家主催のパーティーに参加する。 いつも通りクラリッサをほったらかしてほかの参加者と談笑しているライアンから離れて廊下に出たところ、見知らぬ青年がうずくまっているのを見つける。クラリッサが心配して介抱すると、青年からいたく感謝される。 数日後、クラリッサの元になぜか王家からの使者がやってきて……。 ✴︎感想誠にありがとうございます❗️ ✴︎(承認不要の方)ご指摘ありがとうございます。第一王子のミスでした💦 ✴︎ヒロインの実家は侯爵家です。誤字失礼しました😵

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。