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しおりを挟む「よろしゅうな、して其方がセレンジェールであるか。何故に私の息子と結婚したい?皇帝の妻になる覚悟はあるのかえ?」
「っ!皇后!私は皇帝などになりませんよ!」
ディオンズは語気荒くそう言い放った、だか皇后は表情を変えず「ふふ、戯言を申すな」とあしらうのだった。
覚悟と問われたセレンジェールは少し考えてから答える。
「私は……何もできません、覚悟をするつもりもありませんわ」
「んな!?なんですって」
「だって私は皇太子の妻になるつもりはないですもの、公爵の名を継いだディオンズ様とともに領地を盛り立てていく所存ですわ」
サラリとディオンズの言葉を肯定する物言いをする彼女は”負けない”という意思が感じられる。皇后はワナワナと震えて扇をバキリと折ってしまう。
能面が崩れて般若の顔になった、怒り狂った我妻を見たのは久しぶりだと皇帝は笑う。
「何が可笑しいのですか!息子の一大事でしょうに、これでは結婚を許すわけにいきませんわ」
「はぁ、もう良いではないか。お前が演技しているのは今日わかったわい、そうなのだろうブランシュよ」
「んまあ……なんてことを」
皇帝リオンはゆっくりと居住まいを正してこういう、「側妃コリンヌの時と同じだ」と。彼女がまだ側女をしていた頃、花瓶の水を打ち撒けて割ってしまった時の話をする。
「あの時は余も若く余りの事に激高したものよ、だが、それを上回る怒りを爆発させて怒鳴り散らしたのはお前だったな。何度も扇を叩きつけて余が”その辺で勘弁してやれ”と言うまでやっていたな」
「な、んの話を」
狼狽える皇后は立ち上がり扇で顔を隠した、そう隠したつもりだ。その頬は赤く熟れていて動揺を繕えていない。そして「フーフー」荒く息をしている。
「母上、ひょっとして皇太子に拘っていたのは偽りなのでは?クロード派閥の出方を知るためかと……違いますか?」
「くっ……貴方たちときたら、何もかも台無しだわ」
フッと能面顔に戻った皇后は「もう少し泳がせたい」と言った。老獪なカシュト伯爵の動向が気になるというのだ。
「あれの娘とクロードは出来た人物ですわ、ですが後見人を名乗るあの男は信じられない。何か企んでいるのよ」
「ふむ……お前の勘は良く当たるからな、良し余の影を使って探らせよう。それでいいな?」
「ええ、宜しいわ」
「お母様は頭ごなしに怒る方ではないのね」
「うん、まぁ何か考えあっての行動とは思っていたが、相変わらず心を表すのが苦手とみえる」
サロンで寛ぐ二人は漏洩防止の魔法をかけて話をしている、その席にはレイモンもいた。
「まぁあれで父を溺愛しているんだから吃驚だよな、つかず離れず5m圏内には必ずいるんだよ。政務の時は隣の部屋で待機していると聞く」
「あらまぁ、実は愛が溢れる方だったのね!機微を観察したら面白いかも」
ニコニコとそんな事を考えるセレンジェールは悪戯を思いついた子供のような顔をする。
「ところで、私達はいつ二人きりになれるのだい?」
「あらぁ、御冗談を婚姻前はダメですよ」
人差し指にチュッとリップ音を立てて、それを彼の唇に触れさせた。ディオンズはそれだけでフニャリと蕩けてしまう。
「あぁ、結婚したらどうなってしまうんだろう……」
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