24 / 32
24
しおりを挟む「遠い目をするのはお止めください」
「なんだぁ?」
皇帝リオンは政務を終わらせて茶を飲んでいた、そして、他に用事はないものかと仕事を探している。そんな中にやってきた宰相の台詞である。
「仕事がないか探していた、再来週の冬季予算でも練ろうか」
「早すぎます、冬季予算など半年後で十分ですよ。前倒し過ぎです」
「そうは言ってもなぁ……なぁ仕事はないか?溝攫いでもしようか?肩を揉もうか?」
「お戯れを……」
仕事人間であるリオンは何かしてないと落ち着かない様子である。それは皇后から逃げたい一心でだ。ことある事に『王太子は是非、ディオンズに!』と詰め寄られるのだ。
「そんな事よりやるべき事があるでしょう、次代の皇帝を」
「あーあー!聞こえなーい!余には何も聞こえんぞ!絶対にだーー!」
「まったくもう!貴方という人は!」
逃げ回ってどうにかなる問題ではないのは自身が良く分かっている。それでも「もう少しだけ」と先延ばしをしていた。
「はぁ、わかっているんだ。ディオンズが一番皇帝に相応しい、芯がしっかりして未来を見据える目を持っている、だがあの子は望んでおらん。そしてクロードだが穏やかで平等に見る目を持っている、しかし、人が良いだけではカシュト伯爵に傀儡とされてしまうだろうよ」
「なるほど、悩むのはわかります。だが、先送りして良い問題ではありませんよ」
「……ぐぅ」
***
それから2週間後、ディオンズはセレンジェールとアルドワン公爵夫妻を伴いギガジェント帝国に戻っていた。何とか婚姻の許可を貰うためである。彼は故郷を棄て旧アネックス国改めゲルネイル共和国に落ち着くつもりなのだ。ゲルネイルは故・祖父の名である。
「良く戻りましたディオンズ、さぁさぁ皇太子として学ぶことが山積みですよ。その前にゆるりと休みなさい。長旅でしたでしょうから」
能面皇后はしれっとそれだけ言うと皇妃の椅子から立ち上がり去ろうとする。あからさまにアルドワン公爵一家を無視するのだ。
「お待ちください皇后よ、まだ挨拶が終わっておりませんよ」
ディオンズは落ち着いた声を出したが、どこか棘のある言い方で彼女を引き止める。皇后は身じろぎもせず「それが」と言った。
「皇后、かの国から遥々訪れたアルドワン公爵一家を無下になさるおつもりか。それはあまりに無礼ではないですか?皇帝すらこの場に留まり話を聞く体制ですよ」
「……なるほど、良かろう。礼を欠いたことは謝ろうぞ、アルドワン卿よ失礼した」
能面皇后は目を眇めてジッと彼の出方を見る。
「恐れながら挨拶をさせていただきます、クリフト・アルドワンと申します。それから妻のメイリン、娘のセレンジェールでございます。以後お見知りおきを」
武人らしく丁寧でキビキビとした挨拶だった、能面皇后はちょっとばかり彼に興味を持った。
「よろしゅうな、して其方がセレンジェールであるか。何故に私の息子と結婚したい?皇帝の妻になる覚悟はあるのかえ?」
「っ!皇后!私は皇帝などになりませんよ!」
ディオンズは語気荒くそう言い放った、だか皇后は表情を変えず「ふふ、戯言を申すな」とあしらうのだった。
1,569
お気に入りに追加
2,744
あなたにおすすめの小説
婚約者様、王女様を優先するならお好きにどうぞ
曽根原ツタ
恋愛
オーガスタの婚約者が王女のことを優先するようになったのは――彼女の近衛騎士になってからだった。
婚約者はオーガスタとの約束を、王女の護衛を口実に何度も破った。
美しい王女に付きっきりな彼への不信感が募っていく中、とある夜会で逢瀬を交わすふたりを目撃したことで、遂に婚約解消を決意する。
そして、その夜会でたまたま王子に会った瞬間、前世の記憶を思い出し……?
――病弱な王女を優先したいなら、好きにすればいいですよ。私も好きにしますので。
お久しぶりですね、元婚約者様。わたしを捨てて幸せになれましたか?
柚木ゆず
恋愛
こんなことがあるなんて、予想外でした。
わたしが伯爵令嬢ミント・ロヴィックという名前と立場を失う原因となった、8年前の婚約破棄。当時わたしを裏切った人と、偶然出会いました。
元婚約者のレオナルド様。貴方様は『お前がいると不幸になる』と言い出し、理不尽な形でわたしとの関係を絶ちましたよね?
あのあと。貴方様はわたしを捨てて、幸せになれましたか?
どうぞ、(誰にも真似できない)その愛を貫いてくださいませ(笑)
mios
恋愛
公爵令嬢の婚約者を捨て、男爵令嬢と大恋愛の末に結婚した第一王子。公爵家の後ろ盾がなくなって、王太子の地位を降ろされた第一王子。
念願の子に恵まれて、産まれた直後に齎された幼い王子様の訃報。
国中が悲しみに包まれた時、侯爵家に一報が。
報われない恋の行方〜いつかあなたは私だけを見てくれますか〜
矢野りと
恋愛
『少しだけ私に時間をくれないだろうか……』
彼はいつだって誠実な婚約者だった。
嘘はつかず私に自分の気持ちを打ち明け、学園にいる間だけ想い人のこともその目に映したいと告げた。
『想いを告げることはしない。ただ見ていたいんだ。どうか、許して欲しい』
『……分かりました、ロイド様』
私は彼に恋をしていた。だから、嫌われたくなくて……それを許した。
結婚後、彼は約束通りその瞳に私だけを映してくれ嬉しかった。彼は誠実な夫となり、私は幸せな妻になれた。
なのに、ある日――彼の瞳に映るのはまた二人になっていた……。
※この作品の設定は架空のものです。
※お話の内容があわないは時はそっと閉じてくださいませ。
私がいなくなっても、あなたは探しにも来ないのでしょうね
新野乃花(大舟)
恋愛
貴族家の生まれではありながらも、父の素行の悪さによって貧しい立場にあったエリス。そんな彼女は気づいた時、周囲から強引に決められる形で婚約をすることとなった。その相手は大金持ちの御曹司、リーウェル。エリスの母は貧しい暮らしと別れを告げられることに喜び、エリスが内心では快く思っていない婚約を受け入れるよう、大いに圧力をかける。さらには相手からの圧力もあり、断ることなどできなくなったエリスは嫌々リーウェルとの婚約を受け入れることとしたが、リーウェルは非常にプライドが高く自分勝手な性格で、エリスは婚約を結んでしまったことを心から後悔する…。何一つ輝きのない婚約生活を送る中、次第に鬱の海に沈んでいくエリスは、ある日その身を屋敷の最上階から投げてしまうのだった…。
婚約破棄をしてきた婚約者と私を嵌めた妹、そして助けてくれなかった人達に断罪を。
しげむろ ゆうき
恋愛
卒業パーティーで私は婚約者の第一王太子殿下に婚約破棄を言い渡される。
全て妹と、私を追い落としたい貴族に嵌められた所為である。
しかも、王妃も父親も助けてはくれない。
だから、私は……。
今さら救いの手とかいらないのですが……
カレイ
恋愛
侯爵令嬢オデットは学園の嫌われ者である。
それもこれも、子爵令嬢シェリーシアに罪をなすりつけられ、公衆の面前で婚約破棄を突きつけられたせい。
オデットは信じてくれる友人のお陰で、揶揄されながらもそれなりに楽しい生活を送っていたが……
「そろそろ許してあげても良いですっ」
「あ、結構です」
伸ばされた手をオデットは払い除ける。
許さなくて良いので金輪際関わってこないで下さいと付け加えて。
※全19話の短編です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる