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しおりを挟む娘であるコリンヌの威を借りて外務大臣にまでなったカシュト伯爵はまだ物足りない顔をする。彼が目指すのは皇帝に仕える摂政という立場だ。クロード皇子は年こそ28歳と立派な成人だが、穏やかで人が良すぎるところがある。そこを付け込んで傀儡にしてしまおうとカシュト卿は企んでいる。
「人の上に立つには狡猾でなければないらない、そうであろう?」
「は、真にごもっとも!クロード殿下は優れた人材ではありますが、どこか頼りないと」
「はっは!そうだな、その通りだよ!我が婿殿では心もとない。ワシが陰になり婿殿下を支えたいと思うのだ」
彼のコバンザメである副大臣と政務官らはヘコヘコと作り笑いでゴマをする。美味しい匂いを嗅ぎつけた彼らこそが狡猾と言えよう。イエスマンだけを侍らせたカシュト卿はご満悦で、いつものように御高説を説くのだ。
「いま帰ったぞ、少々疲れたわい」
伯爵家に戻ったカシュトはグニャリとだらしなくソファに沈む、すると奥から夢見る乙女のような夫人がやってきて「おかえりなさいませ」とお辞儀をする。夫妻は20歳ほど離れており二人連れだって歩くと親子に見えてしまう。
愛してやまない夫人を目にすると途端に相好を崩して「変わりないか」と声を掛ける。
「なにもございませんわ、貴方。今日も穏やかに過ごしました」
「うむ、それならば良い。さて夕餉にしようか、今晩も酒とツマミだけで良い」
「はい、承知しましたわ」
夫人はそう答えると卿の脇に手を置いてニコリと微笑む、カシュトは骨抜きにされて笑うとゆっくりと歩き出した。
***
夜半も過ぎた頃。
伯爵家に出入りする怪しい影が数人走り込んだ、黒づくめの輩は慣れた様子で居室に入る。
「ご報告に参りました」
「うむ、聞こうか」
デスクに片肘を付き聞く体制になったカシュトはムシャリと酒の肴を噛みつき琥珀の液体を喉に流し込む。そして、ギロリと睨むように影者に報告を促す。ギスギスと痩せこけたその体躯はカマキリのようだ。
「やはり第二皇子は立太する旨は無い様子です、かの国の公爵となり王籍を離れるつもりと」
「……ふん、口先だけではどうとでも。何より皇帝と皇后は彼を推しているのだろう、いまだにディオンズ派が幅を利かせておるのはそういう事」
今度はゆっくりと味わうように目を瞑りブランデーをゆっくり嚥下する。そして、目を開くとこう言った。
「消せ、いかに小さな気がかりだろうと目障りだ。そうだなぁ、五日後にはゲルネイル共和国に帰るのだろう?旅路には何かとトラブルがつきもの御無事に帰れるといいな……フフッ隣国の者を使え、足が付かんようにな」
「御意」
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