22 / 32
22
しおりを挟む麗らかな日和となったその日、アルドワン公爵家自慢の庭園で茶会が開かれた。
とはいっても極わずかな内輪でのことだ、セレンジェールはディオンズ・ギガジェント皇子だけを招いた。しばしの歓談の後に人払いをした彼女は改めてお礼を言った。
恐縮するディオンズは「礼を言われるほどの事ではない」と苦笑する。
「いいえ、あの時の貴方は救世主のようでしたわ。颯爽と現れて……それからあの男をボコボコに素敵でした」
「は、はは……些かやり過ぎたと反省しているよ」
頭の後ろを掻きながら、視線をどこへやって良いのかわからない皇子はキョロキョロと落ち着かない。そして、ついウッカリ目線を合わせると真っ赤になってしまう始末だ。
「う……し、失礼した!今日はやけに暑いな!暑い暑い!」
「まぁ、うふふ」
緊張が伝わったのかセレンジェールも頬を染て笑う、それから紅茶を一口嚥下して「ほぉ」と溜息を吐く。それに倣った彼もまた茶を飲み干すのだった。
「実は……私達は初めて会うのではないのだ」
「え……それは本当ですか?」
皇子に対して無礼にあたると詫びるセレンジェールは大慌てで椅子から立ち上がり深々と頭を下げる。そんなつもりはなかった皇子はどうか頭を上げて欲しいと言う。
そして、彼は「だいぶ前のことですから気にしないで頂きたい」と笑った。
でもやはり当時どのような事があったのかと気になるというセレンジェールだ、愛しい彼女にどうか教えてと懇願されれば黙っているわけにもいかない。
「あれは王城にて迷子になり途方に暮れていた時にセレンに助けられたのだ、私は当時ヤンチャが過ぎていて護衛や側近をまくことに面白がり過ぎていた。そう、ここの花園に良く似ていたよ」
「あ、まさかあの時の……申し訳ございません、私はてっきり女の子だとばかり、そういえば皇子と名乗っていたわね」
「ええ?それは酷いなぁ、まぁ華奢で細かったから仕方ないか」
「ごめんなさい、ふふふ」
当時の事を思い出したのか、ゆっくりと目を閉じてセレンジェールは「あぁ、懐かしい」と零した。
その時、雨が上がりの空に虹を一緒に見たというではないか。
「大きな虹を見たのです、とてもとても大きく素晴らしい虹をね」
「ああそうだ、思い出した!どうして忘れていたのだろう。大切な思い出だというのに!私は運命だと思った、なぜなら我が国では虹を共に見た男女は結ばれると言い伝えがあるのですよ」
「ま、まぁ……」
困惑するセレンジェールはドギマギする、すると先ほどまで照れていたディオンズは真面目腐った顔で言う。
「どうか、7年越しのこの想いを受け入れてくれないか?私はずっと貴女のことを……愛しているんだセレン」
「ま、まあ……どうしましょう。ですが、私のような傷持ちなど」
「私はずっと待ち続ける!何年でも何十年でもだ!」
「ディオンズ様」
一方で、ディオンズ皇子に伸されたコランタムは三日間も気を失っていた。
そして、目を覚ました彼は何かが足りない気がして仕方ない、それは一体何なのかわからない。
「ううん、俺はどうしちゃったんだ?父上、なにか知らないか?俺は確かセレンの屋敷で……」
堅い馬車に揺れながら途方に暮れる彼を「やれやれ」と言わんばかりの元王はクイクイと下を指す。
「え、何父上……下の方がなんだと言うの?馬車の車輪かい?違うの……?」
「……そろそろ現地につく頃だ、心して励めよ」
「なんだよぉ、教えてくれてもいいじゃないか」
そして、馬車から追い立てられた彼は尿意に気が付く、そして厠に飛び込めば絶叫が轟いた。
「ない!俺のイチモツがない!いやぁあー!ない、どうして!?どこへ行ったのだ俺のXXX!」
彼は移動中に去勢を執行されていた。
1,883
お気に入りに追加
2,744
あなたにおすすめの小説
アリシアの恋は終わったのです【完結】
ことりちゃん
恋愛
昼休みの廊下で、アリシアはずっとずっと大好きだったマークから、いきなり頬を引っ叩かれた。
その瞬間、アリシアの恋は終わりを迎えた。
そこから長年の虚しい片想いに別れを告げ、新しい道へと歩き出すアリシア。
反対に、後になってアリシアの想いに触れ、遅すぎる行動に出るマーク。
案外吹っ切れて楽しく過ごす女子と、どうしようもなく後悔する残念な男子のお話です。
ーーーーー
12話で完結します。
よろしくお願いします(´∀`)
平凡令嬢は婚約者を完璧な妹に譲ることにした
カレイ
恋愛
「平凡なお前ではなくカレンが姉だったらどんなに良かったか」
それが両親の口癖でした。
ええ、ええ、確かに私は容姿も学力も裁縫もダンスも全て人並み程度のただの凡人です。体は弱いが何でも器用にこなす美しい妹と比べるとその差は歴然。
ただ少しばかり先に生まれただけなのに、王太子の婚約者にもなってしまうし。彼も妹の方が良かったといつも嘆いております。
ですから私決めました!
王太子の婚約者という席を妹に譲ることを。
女性として見れない私は、もう不要な様です〜俺の事は忘れて幸せになって欲しい。と言われたのでそうする事にした結果〜
流雲青人
恋愛
子爵令嬢のプレセアは目の前に広がる光景に静かに涙を零した。
偶然にも居合わせてしまったのだ。
学園の裏庭で、婚約者がプレセアの友人へと告白している場面に。
そして後日、婚約者に呼び出され告げられた。
「君を女性として見ることが出来ない」
幼馴染であり、共に過ごして来た時間はとても長い。
その中でどうやら彼はプレセアを友人以上として見れなくなってしまったらしい。
「俺の事は忘れて幸せになって欲しい。君は幸せになるべき人だから」
大切な二人だからこそ、清く身を引いて、大好きな人と友人の恋を応援したい。
そう思っている筈なのに、恋心がその気持ちを邪魔してきて...。
※
ゆるふわ設定です。
完結しました。
断罪された公爵令嬢に手を差し伸べたのは、私の婚約者でした
カレイ
恋愛
子爵令嬢に陥れられ第二王子から婚約破棄を告げられたアンジェリカ公爵令嬢。第二王子が断罪しようとするも、証拠を突きつけて見事彼女の冤罪を晴らす男が現れた。男は公爵令嬢に跪き……
「この機会絶対に逃しません。ずっと前から貴方をお慕いしていましたんです。私と婚約して下さい!」
ええっ!あなた私の婚約者ですよね!?
双子の妹を選んだ婚約者様、貴方に選ばれなかった事に感謝の言葉を送ります
すもも
恋愛
学園の卒業パーティ
人々の中心にいる婚約者ユーリは私を見つけて微笑んだ。
傍らに、私とよく似た顔、背丈、スタイルをした双子の妹エリスを抱き寄せながら。
「セレナ、お前の婚約者と言う立場は今、この瞬間、終わりを迎える」
私セレナが、ユーリの婚約者として過ごした7年間が否定された瞬間だった。
〖完結〗残念ですが、お義姉様はこの侯爵家を継ぐことは出来ません。
藍川みいな
恋愛
五年間婚約していたジョゼフ様に、学園の中庭に呼び出され婚約破棄を告げられた。その隣でなぜか私に怯える義姉のバーバラの姿があった。
バーバラは私にいじめられたと嘘をつき、婚約者を奪った。
五年も婚約していたのに、私ではなく、バーバラの嘘を信じた婚約者。学園の生徒達も彼女の嘘を信じ、親友だと思っていた人にまで裏切られた。
バーバラの目的は、ワイヤット侯爵家を継ぐことのようだ。
だが、彼女には絶対に継ぐことは出来ない。
設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。
感想の返信が出来ず、申し訳ありません。
【完結】公爵令嬢は、婚約破棄をあっさり受け入れる
櫻井みこと
恋愛
突然、婚約破棄を言い渡された。
彼は社交辞令を真に受けて、自分が愛されていて、そのために私が必死に努力をしているのだと勘違いしていたらしい。
だから泣いて縋ると思っていたらしいですが、それはあり得ません。
私が王妃になるのは確定。その相手がたまたま、あなただった。それだけです。
またまた軽率に短編。
一話…マリエ視点
二話…婚約者視点
三話…子爵令嬢視点
四話…第二王子視点
五話…マリエ視点
六話…兄視点
※全六話で完結しました。馬鹿すぎる王子にご注意ください。
スピンオフ始めました。
「追放された聖女が隣国の腹黒公爵を頼ったら、国がなくなってしまいました」連載中!
婚約者が病弱な妹に恋をしたので、私は家を出ます。どうか、探さないでください。
待鳥園子
恋愛
婚約者が病弱な妹を見掛けて一目惚れし、私と婚約者を交換できないかと両親に聞いたらしい。
妹は清楚で可愛くて、しかも性格も良くて素直で可愛い。私が男でも、私よりもあの子が良いと、きっと思ってしまうはず。
……これは、二人は悪くない。仕方ないこと。
けど、二人の邪魔者になるくらいなら、私が家出します!
自覚のない純粋培養貴族令嬢が腹黒策士な護衛騎士に囚われて何があっても抜け出せないほどに溺愛される話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる