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しおりを挟む「属国の公爵令嬢を娶るですって!?……あぁ、アレは何を考えているのか。皇太子を選ぶという時期に、政敵を喜ばせて楽しむつもりかしら」
皇后ブランシュ・ギガジェントは能面を崩さずそう言った、腹の内はどんなことになっているのか読ませない。そうしていまの地位を獲得したのだ。
皇帝はと言えば無関心そうに目を瞑り、大きな玉座に横たわっている。こちらも何を考えているやらサッパリだ。そして「小腹が空いた」と一言申せば側女たちがそそくさと動き、水菓子や蒸しパンなどを供する。
それを片眉だけピクリとさせて皇后は「差し出がましい」と叱咤する。
すると側女たちは「ひぃ」と恐れ戦く、これはいつもの慣習だ。そうなるとわかっていて行っているのだ。この能面皇后の表情を晴らすか曇らすのは誰かと賭けをしている。
実際に逆鱗に触れた側妃コリンヌは側室に納まった、『私を怒らせるとは大したものだ』と皇后を言わしめた。そして、側妃に召し抱えれたコリンヌは第一子クロードを授かり、後宮の地位を不動のものにしたのである。
だが、コリンヌは言う「あの方に歯向かうなど滅相もない」と。
しかし、派閥争いはそうもいかない、クロード派と正妃の子ディオンズ派に真っ二つに分かれたのだ。
「あぁ、父様は野望剥き出しで困りますわ。大人しくしてくださらないかしら」
コテリと頭を倒してそういうのはコリンヌである、彼の父は伯爵で側妃におさまった我が子をダシに頭角を現した怪人物である。
「ふふん、どうだか皇后の座を狙っているのではないのかい?」
「まあ、何をおっしゃいますか!恩義ある貴女様を出し抜こうなどと思ってもいませんわ」
茶の席で腹の探り合いをする両名は一見穏やかに過ごしている、皇后は相変わらず能面、そして側妃コリンヌは終始ニコニコとしている。
「私は手討ちにされても文句も言えない粗相をしましたわ、それを怒った振りをして助けてくださったのは皇后様ですもの。私は恩義を忘れたりしません」
「……」
彼女は崇拝するように手を前で組み「私の憧れの君」と言って頬を赤らめた。するとブランシュはブルリと震え「それを止めんか!気色悪い!」と激高した。
「あぁ、私の前でだけ素を見せてくださる、尊いですわブランシュ様」
「おのれは抜け抜けと……はぁ」
***
ディオンズ・ギガジェントは母親からの手紙を読み、反応は芳しくないことを知る。それは想定内のことだったが、如何に説き伏せるか頭を悩ます。
「母には皇太子などにはならないと送ったのだが、それに候補は兄上だけだろうに」
「そうですね、クロード皇太子をすでに名乗ってらっしゃる。まあ、確定したわけではないですが」
側近レイモンも難しい顔する。
「面倒だよ、こちらはとうに放棄しているのだ。後は父上が一言いえば」
面倒臭がりの皇帝リオンは、皇后に頭が上がらずノラリクラリしている。政務に逃げてばかりいる父は仕事だけは優等だがそれ以外の事となると虚けなのだ。
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