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しおりを挟む「不埒者め、誰に断わって私の名前を呼ぶ。許しませんよ」
「お、お嬢様……記憶が」
侍女はいまだ彼女を庇うように立ち塞がったが、それは必要ないと肩を叩く。そして「すべて思い出したの」と言った。
「セレン、何をグチャグチャ言ってるんだ?己の初めてを相談しているのかい?ふふ、大丈夫さ、お望みならば優し~く抱いてやらんでもない、だから大人しくこちらにおいで」
ニヤニヤと笑いながら彼女の元へ歩いてくるコランタムは股間の膨らみを誇張している。とても気持ちの悪いことだ。反吐が出る想いを抱くセレンジェールはキッと睨みつけて言う。
「下衆が、誰がお前などにしな垂れ掛かるものですか。野にいる猪でも愛でていたほうが万倍マシです」
「な、なんだと!?俺は猪以下だとでも」
「その通りですわ、いっそ熊に襲われて腹に納まる方を選びますね。ド変態が」
「んなっ!なんてことを、俺を誰だと思っている!」
ワナワナと拳を握る彼は激高して、今にも襲い掛からんとしている。チラリと出入り口の方を見たセレンジェールは深々とお辞儀をした。
「皇子殿下、恐れ入ります。暴漢から救っていただけませんでしょうか?」
「あい、わかった。姫君の思うままに」
「へ?」
背後を見たコランタムは悲鳴を上げる間もなく”ドシン”と横に飛び跳ねた。頭を強かに打って白目を剥く。だが、脳震盪を起こしている暇などディオンズは与えやしない。傍らにあった花瓶の水を頭から浴びせると無理矢理に目を覚まさせる。
「どうした、そんなに股間を膨らませて元気なんだろう?ゆっくり相手をしてくれよ」
「いっ!ひやぁ~!俺は男の相手など…ぐぼぉ!?……ゲ、ゲホゲホッま、待って、いぎゃああ!」
ドシンバタンと顔と腹部や背中を強打されて、サンドバック状態に陥るコランタムが気を失おうとすればレイモンの放つ治癒でその暇を与えない。
「ぎぃひぃぃ!止めて……ゲボォ!お、願い、うぎゃあああ!痛い!痛いよぉ!」
「喧しいわ!その劣情をセレンに向けただけで万死に値する!ただで済むと思わん事だ」
ドタバタと血飛沫を上げてディオンズは狼藉者を叩きのめす、いくらレイモンが治癒を掛けていても間に合わない。
ドカドカと打ち付ける拳はコランタムの身体を宙に舞わせた。
「おいおい、やり過ぎじゃないか?」
「何を言うか!セレンに淫情を抱き襲おうとしたのだぞ!許されることではない!」
「いや、それは同意見だが、婦女子に見せて良い惨状じゃないかと思うんだ」
「あ……」
我に返ったらしいディオンズは「やってしまった、申し訳ない」と悄気た。ドシャリと力なく床に放置されたコランタムは虫の息である。
「ふふ、素敵でしたわ。ディオンズ様」
「いや、そんな……褒められて良い事ではないし、もっと気を遣うべきだった」
「大丈夫です、私はこれでも近衛騎士隊長の娘です。その見慣れているといいますか」
「ええ?……ん、なにか違和感を感じるな」
ふわりと微笑む彼女はすべて思い出したことを告白する。
「ありがとうディオンズ様、二度も助けられましたね、どうお礼を返しましょうか」
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