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挙式1時間前。

悪天候に関わらず続々と招待客が入場して行く、その中に帝国の第二皇子ディオンズ・ギガジェントの姿があった。異国の衣装を身に纏った彼は衆目を集める。彼の正体に気が付いた貴族たちは「ひぃ!」と畏怖して頭を垂れる。


「やはり警告を無視した絢爛さだ、呆れたものだよ。そう思わないかレイモン」
「あぁ、その通りだな。民の血税を……実に許しがたい」
側近であるレイモンを引き連れ荘厳な教会を行くディオンズは苦々しい顔を取り繕わず歩く。

ウェディングアイルを挟むように飾られた燭台には、魔法で施された消えない蝋燭が無数瞬いている。これだけでもいくらつぎ込んだのだろうと頭が痛くなる。更に天井には雄大なアネックス国の景色が映し出され、ゆっくりとその光景が変化して行く。四季による色とりどりの眺望を見せて招待客の目を楽しませていた。

「はぁ、なんて贅沢な仕掛けであろう……全く」
イライラが募るディオンズは益々と仏頂面になって行く、「まぁまぁ祝宴なんだから」と慰めるレイモンだ。
時折轟々と吹き付ける大雨の音が妙に耳につく。


***


いよいよ花嫁が現れる頃合いになった時だ。パイプオルガンの音が変化して彼女を迎える。流石のアルドワン公爵も緊張しているのか佇まいがぎこちない。ただ黙って娘の到着を待った。観音開きのそのドアに全ての招待客たちが注目した。ギイと音を立てその白き姿が露わになる。

ところが、ベールダウンをすでに施された花嫁が颯爽と現れ皆は呆気に取られる。どういうことかとザワつく会場だ。
「セ、セレン?段取りと違うわよ、早くこちらに来なさい」
慌てる母親は彼女を手招きするのだが、それを丸っと無視をしてウェディングアイルを行く。真っ直ぐズカズカと歩いて、父親であるアルドワン卿の事も躱し、新郎コランタム・アネックス王太子のところへ小走りに駆け寄ったではないか。

「な、なんだ?何が起きている?」
傍観していたディオンズはポカンとして花嫁の奇行を眺めてしまった。無理からぬことだと思う。一瞬での出来事に誰も彼もが何も出来ず固まった。

「セレン?どういうつもりだい、予行練習とまるで違うじゃないか。あぁそうか、待ちきれなくて逸ってしまったのだね。大丈夫だよ、俺はどこにも逃げたりしないさ、ハハハッ!」
呑気に笑うコランタムは足早に迫る彼女を受け入れる体制になった。

「うふふぅ~♪やっぱり私が花嫁になるわ、良いでしょう?マイダーリン」
「え……その声はまさか!マーガレット!?な、なんで!」
あまりの出来事にコランタムは茫然と立ち竦む、逆に満面の笑みを浮かべるマーガレットは「チュウ」っと唇を奪ってしまう。

なにもかもが台無しになった。
本当の花嫁はどこへ行ったのだろう。






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