10 / 32
10
しおりを挟む挙式1時間前。
悪天候に関わらず続々と招待客が入場して行く、その中に帝国の第二皇子ディオンズ・ギガジェントの姿があった。異国の衣装を身に纏った彼は衆目を集める。彼の正体に気が付いた貴族たちは「ひぃ!」と畏怖して頭を垂れる。
「やはり警告を無視した絢爛さだ、呆れたものだよ。そう思わないかレイモン」
「あぁ、その通りだな。民の血税を……実に許しがたい」
側近であるレイモンを引き連れ荘厳な教会を行くディオンズは苦々しい顔を取り繕わず歩く。
ウェディングアイルを挟むように飾られた燭台には、魔法で施された消えない蝋燭が無数瞬いている。これだけでもいくらつぎ込んだのだろうと頭が痛くなる。更に天井には雄大なアネックス国の景色が映し出され、ゆっくりとその光景が変化して行く。四季による色とりどりの眺望を見せて招待客の目を楽しませていた。
「はぁ、なんて贅沢な仕掛けであろう……全く」
イライラが募るディオンズは益々と仏頂面になって行く、「まぁまぁ祝宴なんだから」と慰めるレイモンだ。
時折轟々と吹き付ける大雨の音が妙に耳につく。
***
いよいよ花嫁が現れる頃合いになった時だ。パイプオルガンの音が変化して彼女を迎える。流石のアルドワン公爵も緊張しているのか佇まいがぎこちない。ただ黙って娘の到着を待った。観音開きのそのドアに全ての招待客たちが注目した。ギイと音を立てその白き姿が露わになる。
ところが、ベールダウンをすでに施された花嫁が颯爽と現れ皆は呆気に取られる。どういうことかとザワつく会場だ。
「セ、セレン?段取りと違うわよ、早くこちらに来なさい」
慌てる母親は彼女を手招きするのだが、それを丸っと無視をしてウェディングアイルを行く。真っ直ぐズカズカと歩いて、父親であるアルドワン卿の事も躱し、新郎コランタム・アネックス王太子のところへ小走りに駆け寄ったではないか。
「な、なんだ?何が起きている?」
傍観していたディオンズはポカンとして花嫁の奇行を眺めてしまった。無理からぬことだと思う。一瞬での出来事に誰も彼もが何も出来ず固まった。
「セレン?どういうつもりだい、予行練習とまるで違うじゃないか。あぁそうか、待ちきれなくて逸ってしまったのだね。大丈夫だよ、俺はどこにも逃げたりしないさ、ハハハッ!」
呑気に笑うコランタムは足早に迫る彼女を受け入れる体制になった。
「うふふぅ~♪やっぱり私が花嫁になるわ、良いでしょう?マイダーリン」
「え……その声はまさか!マーガレット!?な、なんで!」
あまりの出来事にコランタムは茫然と立ち竦む、逆に満面の笑みを浮かべるマーガレットは「チュウ」っと唇を奪ってしまう。
なにもかもが台無しになった。
本当の花嫁はどこへ行ったのだろう。
2,027
お気に入りに追加
2,744
あなたにおすすめの小説
アリシアの恋は終わったのです【完結】
ことりちゃん
恋愛
昼休みの廊下で、アリシアはずっとずっと大好きだったマークから、いきなり頬を引っ叩かれた。
その瞬間、アリシアの恋は終わりを迎えた。
そこから長年の虚しい片想いに別れを告げ、新しい道へと歩き出すアリシア。
反対に、後になってアリシアの想いに触れ、遅すぎる行動に出るマーク。
案外吹っ切れて楽しく過ごす女子と、どうしようもなく後悔する残念な男子のお話です。
ーーーーー
12話で完結します。
よろしくお願いします(´∀`)
平凡令嬢は婚約者を完璧な妹に譲ることにした
カレイ
恋愛
「平凡なお前ではなくカレンが姉だったらどんなに良かったか」
それが両親の口癖でした。
ええ、ええ、確かに私は容姿も学力も裁縫もダンスも全て人並み程度のただの凡人です。体は弱いが何でも器用にこなす美しい妹と比べるとその差は歴然。
ただ少しばかり先に生まれただけなのに、王太子の婚約者にもなってしまうし。彼も妹の方が良かったといつも嘆いております。
ですから私決めました!
王太子の婚約者という席を妹に譲ることを。
女性として見れない私は、もう不要な様です〜俺の事は忘れて幸せになって欲しい。と言われたのでそうする事にした結果〜
流雲青人
恋愛
子爵令嬢のプレセアは目の前に広がる光景に静かに涙を零した。
偶然にも居合わせてしまったのだ。
学園の裏庭で、婚約者がプレセアの友人へと告白している場面に。
そして後日、婚約者に呼び出され告げられた。
「君を女性として見ることが出来ない」
幼馴染であり、共に過ごして来た時間はとても長い。
その中でどうやら彼はプレセアを友人以上として見れなくなってしまったらしい。
「俺の事は忘れて幸せになって欲しい。君は幸せになるべき人だから」
大切な二人だからこそ、清く身を引いて、大好きな人と友人の恋を応援したい。
そう思っている筈なのに、恋心がその気持ちを邪魔してきて...。
※
ゆるふわ設定です。
完結しました。
断罪された公爵令嬢に手を差し伸べたのは、私の婚約者でした
カレイ
恋愛
子爵令嬢に陥れられ第二王子から婚約破棄を告げられたアンジェリカ公爵令嬢。第二王子が断罪しようとするも、証拠を突きつけて見事彼女の冤罪を晴らす男が現れた。男は公爵令嬢に跪き……
「この機会絶対に逃しません。ずっと前から貴方をお慕いしていましたんです。私と婚約して下さい!」
ええっ!あなた私の婚約者ですよね!?
双子の妹を選んだ婚約者様、貴方に選ばれなかった事に感謝の言葉を送ります
すもも
恋愛
学園の卒業パーティ
人々の中心にいる婚約者ユーリは私を見つけて微笑んだ。
傍らに、私とよく似た顔、背丈、スタイルをした双子の妹エリスを抱き寄せながら。
「セレナ、お前の婚約者と言う立場は今、この瞬間、終わりを迎える」
私セレナが、ユーリの婚約者として過ごした7年間が否定された瞬間だった。
〖完結〗残念ですが、お義姉様はこの侯爵家を継ぐことは出来ません。
藍川みいな
恋愛
五年間婚約していたジョゼフ様に、学園の中庭に呼び出され婚約破棄を告げられた。その隣でなぜか私に怯える義姉のバーバラの姿があった。
バーバラは私にいじめられたと嘘をつき、婚約者を奪った。
五年も婚約していたのに、私ではなく、バーバラの嘘を信じた婚約者。学園の生徒達も彼女の嘘を信じ、親友だと思っていた人にまで裏切られた。
バーバラの目的は、ワイヤット侯爵家を継ぐことのようだ。
だが、彼女には絶対に継ぐことは出来ない。
設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。
感想の返信が出来ず、申し訳ありません。
【完結】公爵令嬢は、婚約破棄をあっさり受け入れる
櫻井みこと
恋愛
突然、婚約破棄を言い渡された。
彼は社交辞令を真に受けて、自分が愛されていて、そのために私が必死に努力をしているのだと勘違いしていたらしい。
だから泣いて縋ると思っていたらしいですが、それはあり得ません。
私が王妃になるのは確定。その相手がたまたま、あなただった。それだけです。
またまた軽率に短編。
一話…マリエ視点
二話…婚約者視点
三話…子爵令嬢視点
四話…第二王子視点
五話…マリエ視点
六話…兄視点
※全六話で完結しました。馬鹿すぎる王子にご注意ください。
スピンオフ始めました。
「追放された聖女が隣国の腹黒公爵を頼ったら、国がなくなってしまいました」連載中!
婚約者に嫌われているようなので離れてみたら、なぜか抗議されました
花々
恋愛
メリアム侯爵家の令嬢クラリッサは、婚約者である公爵家のライアンから蔑まれている。
クラリッサは「お前の目は醜い」というライアンの言葉を鵜呑みにし、いつも前髪で顔を隠しながら過ごしていた。
そんなある日、クラリッサは王家主催のパーティーに参加する。
いつも通りクラリッサをほったらかしてほかの参加者と談笑しているライアンから離れて廊下に出たところ、見知らぬ青年がうずくまっているのを見つける。クラリッサが心配して介抱すると、青年からいたく感謝される。
数日後、クラリッサの元になぜか王家からの使者がやってきて……。
✴︎感想誠にありがとうございます❗️
✴︎(承認不要の方)ご指摘ありがとうございます。第一王子のミスでした💦
✴︎ヒロインの実家は侯爵家です。誤字失礼しました😵
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる