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公爵家のベランダで盛大に溜息を吐き、悲し気に佇むのはセレンジェール・アルドワン令嬢だ。例の色呆け王太子との結婚が明日に迫っているのだから無理もない。

数日前、珍しくコランタム王太子がアルドワン家に顔を出しだと思えば『後数日でキミを抱けるのだなヒヒヒッ』と嗤ったのだ。その事を思い出しゾゾッとするセレンジェールである。

「あぁ、悍ましい!あんな男に身も心も捧げなければならないなど……絶対に嫌だわ」
彼女は悔しくて仕方ないと己の運命を呪い、いっそのこと舌を噛み切って果てようかとすら思う。だが、そんな事をすれば父や母に迷惑がかかると思いとどまった。

「悲しい……でもどうすることも出来ないのね」
「お嬢様……」
はらりはらりと涙が止めどなく頬を伝った、側に控えている侍女も釣られて泣いた。泣いて泣いて、泣き腫らし気が済むまで泣いて、いっそのこと結婚式ではとびきりブサイクな顔で出てやろうと思った。

「ふふ、……面白いからそうしてやりましょう。きっと度肝を抜くわよ、そう思わなくて?」
「はい、そうですね。そのくらい意趣返ししても良いかと」
そう微笑むと二人は抱き合って、そのまま泣き崩れ別れを惜しんだ。



***


結婚式当日。

コランタム・アネックス王太子は不機嫌だった、なぜなら晴れ舞台となるその日に大雨に見舞われ、季節外れの大嵐に襲われたからだ。まるでこの後の花嫁の悲劇を暗示させるかのようだ。

「ええい!縁起でもない、何故だ!?目出度い今日のこの日に嵐なぞくるのだ!」
己の誕生日にして結婚式当日だというのに、嵐の直撃を食らったコランタムは激怒して地団駄を踏んだ。だが、いくら怒ったところで荒れた天気は好転するはずもない。

彼は窓に打ち付ける雨粒を睨み歯噛みする、そこへ呑気な声が掛かる。やや間延びした厭らしい声の主はマーガレットのものである。
「んふぅ、まるで昨夜の貴方のようじゃなくて?とても激しかったわぁ♪」
「……あぁ、マーガレット。いまはそんな気分じゃないんだ」

下腹部に手をやった彼女の手を払い除け、やや八つ当たり気味にした。それでも彼女は怯まず「皆さんの前でファックしましょうか?」と脅して来る。
青褪めたコランタムは「止めろ、止めてくれ」と懇願する。

「ふん、私はね怒っているのよ?どうしてだかわかって?ここには新しい命が」
マーガレットは腹を愛おしそうに撫でている、それを見たコランタムはいよいよ弱り、「お願いだ、大人しくしていてくれ」と土下座した。

「わかっていて?結婚式は我慢するけれど、私達の愛は」
「ああ、ああ!わかっているよ!キミを側室に迎えるとも!だからさ?ね?わかるだろう?」
「んふ、それならば良いわ」

マーガレットは口先では大人しくすると約束した、果たして挙式は無事に済むのだろうか。















*たくさんの方に読んでいただいて、嬉しいです。有難うございます。
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