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チャペルで一騒動起きていた頃、本物の花嫁セレンジェールは豪雨の最中、中庭の噴水の中に閉じ込められていた。
「うう……寒い、ゴホッ!ゲホゲホッ!誰か助け…て」
彼女は両の手を後ろに封じられ腰は噴水管に磔られている、豪雨のせいで水嵩は今にも溢れそうな勢いだ。なんとか体制を上に持っていっているが体力が持つか怪しい。

音を立ててみるが大雨のせいでそれも打ち消されてしまう。

「はぁはぁ……ゲホッ……だ、れか……」
涙目になりながら今日の日を恨んだ。控室にいたあの時、侍女がトイレに席を外した。すぐに戻りますというのでそのまま行かせてしまった。運の悪い事に護衛も1~2分ほど離れていた。その一瞬の油断が仇になった。

偽花嫁に扮したマーガレットが乱入し、祝いに訪れた風を装った男たちにあっという間に連れ去られてしまう。彼女はいよいよ、意識が混濁して目を閉じる。
(短い人生……、でもあの男に穢されるくらいなら……いっそこのまま)



***


「マーガレット!どういうつもりだ!?こんな事をして」
「どうもこうもないわ、私と結婚してよぉ」
「ば、バカな!」

ざわめく会場に我に返った王が「何事であるか!説明せよ」と喚いた。護衛騎士達はすぐさま本物の花嫁の行方を探し始める。どうにも後手後手になっている様子だ。

「コランタム!この大馬鹿者が!何を考えておる!その娘は諦めろと言っただろうが!」
「ち、違います!これは……その軽い冗談でしてアハッアハハハッ」
「何が違うのよぉ、コラン~」



「一体なにをしているんだ、この体たらくは……花嫁は人違いだと?」
ディオンズ・ギガジェント皇子は大騒ぎするアネックスの貴族たちを一瞥する。闖入者に悲鳴をあげる者、スキャンダラスなことに興味深々な者、他人事だと大笑いする者が喧騒を立てる。

「皇子、ここは離れるべきだ。良からぬ考えを持つ者がいる以上は退去したほうが」
「あ、あぁそうだな、それに花嫁の行方が気になる」
ワーワーと荒れる会場の中、人を掻き分けて出て行く皇子だ。やっとの想いで飛び出してみれば吹き荒れる嵐に翻弄される。

「ん?何か聞こえないか?……人の声のような」
「え、そうかい?俺は何も聞こえなかったが」
「いいや、間違いない!何処だ……あっちの方か?悲鳴のようだぞ」

ザーザーと吹き荒れる天候の中、皇子は濡れネズミになるのも厭わず走り出した。その後をレイモンが追う。
「だ……れか、お願い助け……ゴホンゲホンッ!うぅ助けてー!」
必死に叫ぶ女性の声をディオンは拾う、慌てて駆けつけてみれば瀕死の状態で噴水に凭れかかるセレンジェールを発見した。

「キミ!大丈夫か!その衣装は花嫁の……」
ザブリと音を立てて彼女を救いだそうとする、しかし腰に纏わりつく紐にギョッとした、彼は慎重に剣先で掃う。

「あぁ、なんという事だ……可哀そうに。レイモン、直ぐに部屋を用意しろ。温かいものもだぞ」
「わかってる、湯浴みの用意をさせよう」

ディオンズは何故だか蒼く横たわる花嫁のその顔に覚えがあるように感じた。だが、今は詮索している場合ではない。
彼は抱きかかえて走り出した。






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