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第3章
3-18 バスケJCと美那の打ち明け
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【前回のあらすじ】
高速ルーシーの加入でチームレベルが格段に上がったMC。後半2本の1Pを決めたルーシーの活躍もあり、技術と高さで抵抗するCuを21対17で打ち砕く。美那はルーシー対策に頭を悩ませるも、オツの勝ちたい意欲が満々なことで心は決まる。オツに続いてナオをマッサージしていたリユは、ナオが肩の故障でバレーボールを辞めたことを知る。
「お前なんで、上まで脱いでんだよ」
ジャージの上下を脱いで、タオルをベンチに敷いてうつ伏せになった美那に、俺は不満を言う。
「ねえ、腰、やって」
「脚じゃねえのかよ」
「カイリーっぽい動きでちょっと無理したみたい」
「あ、あれな。0番女子の厳しいディフェンスを躱すために、身体が落ちていくところで決めたヤツな。あれはカッコよかった」
「うん。でもやっぱり、あーいうのはカイリーユに任せておくか」
「わかったよ。腰な」
「もちろん、脚も。おかげで、かなり動けた」
「ちぇっ」
まあ、美那の助けになれるのは嬉しい。
美那が自分でタンクトップの裾を上げて、もう一枚のインナーも上げる。
お、こんなのも着てたのか。
確かに腰がちょっと張っている感じだ。腰から背筋にかけてほぐしていく。
「お前、ちょっと頑張りすぎなんじゃね? 結構、張ってんじゃん」
「でしょ? あのシュートだけじゃなくて、2チームとも強かったし、フィジカルもあったしね。あ、うん、そこ、気持ちいい」
ナオさんに神の手じゃない? とか冗談を言われたけど、確かに俺の指は妙に悪いところを押し当てる感覚があるらしい。かーちゃんもそんなところを俺がマッサージが上手いと言っているみたいだし。
「もうちょっと下も」
美那はそう言って、パンツも少しずらす……。
「いや、お前、尻が少し見えてるし!」
「え、いいじゃない。完全フルヌードも見られちゃったわけだし?」
「だから、あれは悪かったって」
「別に悪くないよ。だから、リユなら、いいの」
「そうかよ」
どうせ、男として意識してねえからだろうよ。
ま、仕方ねえな……感触が良すぎるけど、我慢してやるしかない。ああ、なんか、すごい矛盾した感情。
「うん。ありがと。楽になった。じゃ、次、脚ね」
「はい、はい」
脚のマッサージをしていたら、中学生くらいの女の子ふたりが、少し離れたところで、なんかモジモジしている。あのヘアスタイルは間違いなくバスケ女子。
マッサージを終えて、美那が起き上がると、彼女たちが、さささ、と駆け寄ってきた。
「あの、すみません。さっきの試合を観てたんですけど、なんかすごくて、感動しました。すごくカッコよかったです。高校生ですよね? どこの高校ですか? バスケ部ですよね? わたしたち中学3年でバスケ部入ってて、先輩と一緒にプレーしてみたい! と思って」
片方の少女が、頬を紅潮させ、美那のことを懸命な感じで見つめながら、そこまで一気に捲し立てた。
もうひとりが力強く、うんうん、と頷いている。
なんというか、美那は慣れた感じ。柔らかい眼差しで見守りながら聞いている。俺がもし、そんなこと言われたら、超テンパっちゃうけど。
「そんなことを言ってもらえるなんて、嬉しい。ありがとう。わたしは、横浜実山学院の高2」
「うわー、結構入試レベル高いですよね? でも高校からも入れるんですよね?」
「うん。確か10月に学校説明会があるから、来てみたら?」
「はい、ありがとうございます!」と、声を揃える。
「この辺の学校なの?」
「あ、わたしたちも横浜です。神奈川区。お父さんがバスケに来てて、付いてきました。お父さんも練習そっちのけで、お姉さんたちの試合を観てました」
「そうなんだ。そんな風に観てもらえるなんて、ちょっと嬉しいな」
美那がわずかにニヤケながら俺を見る。
「あ、こっちのお兄さんも同じ高校だよ。しかも、同じクラス」
「へぇー。なんか、マッサージとかして、もしかして彼氏さん?」
バスケ少女たちも俺の方をチラ見するし。美那、こっちに振るなよ。
「まあ、付き合っては、いないけど……ね?」と、美那がバスケ少女に笑顔で答え、涼しい顔で俺の方を向く。
なんか、ややこしい言い方しやがる。
「ふぅーーん? え、でも、付き合いそうってことですか?」
女子の恋話になってきたぞ……。なんか、松本の綾ちゃんたちのことを思い出すな。
現役中バス女子に好奇心の目を向けられた俺は、自分でもよくわからないけど、なぜか否定はせず、外国人風に両方の手のひらを上に向けて、肩を上げるポーズを取る。
そこで、無口なもうひとりが積極的に話す方を肘で小突く。
「そうだね……つい、興味が……」
おしゃべりな方が、相棒にぺろりと舌を出す。
「すみません……そうだ、お名前は? 名前を教えてくださいっ!」
「ヤマシタ、ミナ。でもさ、うちの女子バスケ部、あんまり強くないよ」
「そうなんですか? だって、ミナさんのプレー、無茶、すごかったのに?」
ようやくもうひとりが口を開いた。どうやらこっちは、バスケの方に熱心のようだ。
「そうだなぁ……最近、急に上手くなったかな? この男子と3x3の練習を結構やって」
「へぇ。お兄さんもバスケ部なんですか?」と、無口が訊く。
「いや、俺は違う。この3x3のチーム専門」
「なんと、このお兄さん、バスケをちゃんと始めて、まだ2ヶ月も経ってないんだよ」
「うっそー! え、なのに、なんであんな上手いの?」と、無口な方が驚く。
「いや、そんな上手くないっしょ」
「えー、うまかったよねぇ?」
無口がおしゃべりに同意を求める。
「うん。ちょっと変わった動きだったけど、うまかった……です」
ふたりが俺を見て、何度か頷く。
「いや、まあ、ありがとう……」
無口な方が、「ねえ、あんまり邪魔しちゃ悪いよ」と、おしゃべりに耳打ちする。
ふたりの顔がまた美那の方を向く。
「次はあの外国人のチームとやるんですよね? 応援してます!」
「頑張ってください!!」
バスケ少女ふたりは元気よく言って、お辞儀をすると、笑いながら駆け足で去っていった。
「やっぱ、お前、女子にもモテるよな。扱い、慣れてるし」
「ま、ね」
「学校で、女子からどのくらい告られてんの?」
「マジな告白はそんなないよ。2年の4月から夏休み前まで、3人?」
「4ヶ月でそれかよ。ま、男子については訊かないでおく」
「だけど……ホントに好きな人には、なかなか振り向いてもらえないんだよね」
寂しげな声で言う美那の表情は、俯いて見えない。
やっぱ、好きなヤツができたのか。かーちゃんも最近、美那が女らしくなってきたとか言ってたもんな。ま、少なくとも前田俊のことは、恋愛的には吹っ切れたってことか。もちろん大会では絶対に勝つつもりだろうけど。
この間の3on3のプロの試合の後も酷いこと言ってきたしな。俺だって、野郎を許すつもりはねえからな。
ふと気づくと、バスケ少女の時はコートの試合を観ていたナオがこっちを見ている。たぶん、今の美那の言葉に反応したのだろう。
美那を見て、俺を見る。そして、優しく微笑む。
え? どういう意味? 美那を慰めろってこと?
そんなの、わかんねえし。
「それにしても、美那から好きになられて、それでも平気でいられるって、どんだけモテる奴だよ!」
俺の言葉に美那が顔を上げる。
なんか、めちゃ笑顔。
「なーんてね!」
「あ、てめえ。人をおちょくるな」
美那が突然、顔を寄せてくる。まさか、このシチュエーションでキスはねえだろうけど。
「あのさ」と美那が囁く。「ちょっと来て」
美那は立ち上がると、俺をオツとナオから離れたところに手首を掴んで引っ張っていく。
「そろそろ、アイツ……前田俊のこと、先輩とナオに言った方がいいかな? 試合当日にまたアイツ、なんか言ってきそうだしさ。てか、絶対言ってくるしさ。ナオは理解してくれそうだけど、先輩はどう思うかな? そんなことなら俺は出ない! とか言うかな?」
美那の瞳は超マジだ。そして、なんか俺を信頼している感じ。それに、チョー可愛い。顔が可愛いというより、表情が愛らしい……。
「そ、そうだな……いや、それはないんじゃねえの? そうだよな、そろそろ正直に打ち明けといた方がいいよな。それなら、ペギーたちとやる前、今がいいタイミングなんじゃね? オツの性格を考えると、それ聞いてちょっとわだかまりができても、試合を楽しめばすっかり吹っ飛んじゃいそうだし。それに俺もしっかりフォローするしよ」
「うん、そうだね。そうする」
美那は行動が早い。
すぐさまオツとナオのところに歩き出す。
「試合はどうなってます?」と、美那がオツの横に行って、ふたりに話しかける。俺も美那の横に並ぶ。
「見事な守り合いだな。互いにディフェンスの優れたチームだから、なかなか得点にならない。こうして客観的に見ていると、負けたとはいえ、俺たちもかなりイイ線行っていたと、あらためて思うな」
「残り時間6分で、まだ8対4。スクリプツのリードですか」
「今回、初めてKOゲームじゃなさそうだな。やっぱり女子のポイント2倍はKO勝負になる可能性が高そうだ。試合時間が思ったより短かったから、次の俺たちの試合も15分くらい後にずらしてくれることになった。MCも久しぶりの真剣勝負で少し疲れてるみたいだしな」
オツはほんとにペギーたちとの再戦を楽しみにしている。
ここで前田俊の話をするのは、楽しみにしているオツには悪い気がする。けど、偶然時間も出来たし、ここで話しておくしかない気もする。俺はそういう決断が苦手だけど、美那は割とそういうの読むのは得意だからな。
「美那、すごいね。女の子からもモテモテで」と、ナオ。
「ナオだって、女子校だったし、絶対女子からもモテてたでしょ」
「それなりにね。でもやっぱりイケメン系の方が人気あるよね。宝塚でいったら、男役の方。美那みたいな」
「ナオが共学だったら大変だっただろうな」と、オツ。
「そんなことないと思うけど……」と、ナオが謙遜する。
いや、普通にモテるでしょ。男の俺から見ても、ナオさんは〝カッコ美しい〟って感じだもんな。美那は、〝きれ可愛カッコいい〟って感じ?
「ところで……」
唐突な美那の真剣な口調に、オツとナオが怪訝な顔で振り向く。
「先輩とナオに話しておきたいことがあるんです」
「なんだ?」
オツの表情が引き締まる。
「ちょっと真面目な話でして。もしかしたらチームの存続に関わるかもしれません」
「どうした? もしかして美那、腰を痛めたのか? それともリユか?」
「そうじゃないんです。二人とも身体は大丈夫です」
「じゃあ、なんだ?」
「ちょっとそこに座りませんか?」
俺と美那で横に並んでいたベンチシートを移動させて、オツとナオ、美那と俺のいつものペアが向かい合って座る。
「実はこのチームを組んで、大会に出ようと思ったのは、わたしがある男を見返してやろうと思ったからなんです。そのことに触れずに、先輩をチームに誘いました」
「見返す?」
オツはピンときていないようだ。
「女子だから色々あるよね?」と、ナオが助け舟を出す。さすが恋愛予知能力者のナオさん。
美那が頷く。
「……そういうことか。ま、詳しく言いたくなければ、それはそれでいい」
「いえ。簡単に言うと、彼女がいるのに嘘を付かれて、遊ばれて、捨てられたんです」
「そうか。ということは、その復讐に俺たちを巻き込んだってことか?」
「航太さん、いいじゃない。そんなことされたら悔しいに決まってる」
「ナオ、黙っててくれ。いや、すまん。ナオはナオで自分の考えに従えばいい。俺はちょっとスッキリしない。リユは知ってたのか?」
「はい。俺は最初からそういう話を聞かされて、美那の手助けになれればいいなと思って、まあ渋々ではありますけど、参加することにしました」
「そうなのか。まあ、美那が最初にチームに誘ってきた時、妙な必死さがあっておかしいなとは俺も思っていたんだ」
「いや、でも美那も今は、このチームを愛していて、大会で優勝することをマジで目指してますから」と、俺も助けを出す。
「まあ、リユの言わんとするところは分かる。美那がこのチームを使って見返したい、ってことは、それなりのプレイヤーなんだろうな」
「福永学院大学の3年です。付属中学からバスケ部で、大学では3on3のチームを組んでいて、今度の大会に出場することになっています。技術はかなり高いと思います」
「大会に出るなんて情報をどこから聞いた?」
「そのチームのメンバーとは今もときどき連絡を取り合っているので……」
「俺も、その男と、美那が連絡を取っているメンバーと会ったことがあります。2、3週間前に美那とプロの3on3の試合を観に行って、そこでばったり。確かに見た目はイケメンでしたけど、超ムカつく野郎でした。俺はそれからさらに闘志を燃やしてますから」
ふっ、とオツが笑う。優しい目で俺を見る。
「リユが美那を庇う気持ちはよくわかったよ。俺だってこうしてサークルを離れてナオと一緒にバスケが出来てるんだし、それに俺のバスケ観も大きく変わってきたしな。誘ってくれた美那には感謝の気持ちでいっぱいだ。だけど、少し考えさせてくれ」
「先輩……すみませんでした」
美那と一緒に、俺も頭を下げる。
「ああ、わかった。ま、次のペギーたちの試合はもちろんやるさ。ただ、この後、チームを続けていくかどうかは、少し考える」
「航太さん……」と、ナオが不安げな声で言う。
オツがスマホで時間を見る。
「じゃあ、15分後にコートで合流しよう」
そう言ってオツが立ち上がる。
ナオは美那を見て、膝に置かれた美那の手に、手を重ねる。
「きっと大丈夫だから」
俺にも目配せをしたナオさんは、立ち上がって、早足でオツの後を追った。
高速ルーシーの加入でチームレベルが格段に上がったMC。後半2本の1Pを決めたルーシーの活躍もあり、技術と高さで抵抗するCuを21対17で打ち砕く。美那はルーシー対策に頭を悩ませるも、オツの勝ちたい意欲が満々なことで心は決まる。オツに続いてナオをマッサージしていたリユは、ナオが肩の故障でバレーボールを辞めたことを知る。
「お前なんで、上まで脱いでんだよ」
ジャージの上下を脱いで、タオルをベンチに敷いてうつ伏せになった美那に、俺は不満を言う。
「ねえ、腰、やって」
「脚じゃねえのかよ」
「カイリーっぽい動きでちょっと無理したみたい」
「あ、あれな。0番女子の厳しいディフェンスを躱すために、身体が落ちていくところで決めたヤツな。あれはカッコよかった」
「うん。でもやっぱり、あーいうのはカイリーユに任せておくか」
「わかったよ。腰な」
「もちろん、脚も。おかげで、かなり動けた」
「ちぇっ」
まあ、美那の助けになれるのは嬉しい。
美那が自分でタンクトップの裾を上げて、もう一枚のインナーも上げる。
お、こんなのも着てたのか。
確かに腰がちょっと張っている感じだ。腰から背筋にかけてほぐしていく。
「お前、ちょっと頑張りすぎなんじゃね? 結構、張ってんじゃん」
「でしょ? あのシュートだけじゃなくて、2チームとも強かったし、フィジカルもあったしね。あ、うん、そこ、気持ちいい」
ナオさんに神の手じゃない? とか冗談を言われたけど、確かに俺の指は妙に悪いところを押し当てる感覚があるらしい。かーちゃんもそんなところを俺がマッサージが上手いと言っているみたいだし。
「もうちょっと下も」
美那はそう言って、パンツも少しずらす……。
「いや、お前、尻が少し見えてるし!」
「え、いいじゃない。完全フルヌードも見られちゃったわけだし?」
「だから、あれは悪かったって」
「別に悪くないよ。だから、リユなら、いいの」
「そうかよ」
どうせ、男として意識してねえからだろうよ。
ま、仕方ねえな……感触が良すぎるけど、我慢してやるしかない。ああ、なんか、すごい矛盾した感情。
「うん。ありがと。楽になった。じゃ、次、脚ね」
「はい、はい」
脚のマッサージをしていたら、中学生くらいの女の子ふたりが、少し離れたところで、なんかモジモジしている。あのヘアスタイルは間違いなくバスケ女子。
マッサージを終えて、美那が起き上がると、彼女たちが、さささ、と駆け寄ってきた。
「あの、すみません。さっきの試合を観てたんですけど、なんかすごくて、感動しました。すごくカッコよかったです。高校生ですよね? どこの高校ですか? バスケ部ですよね? わたしたち中学3年でバスケ部入ってて、先輩と一緒にプレーしてみたい! と思って」
片方の少女が、頬を紅潮させ、美那のことを懸命な感じで見つめながら、そこまで一気に捲し立てた。
もうひとりが力強く、うんうん、と頷いている。
なんというか、美那は慣れた感じ。柔らかい眼差しで見守りながら聞いている。俺がもし、そんなこと言われたら、超テンパっちゃうけど。
「そんなことを言ってもらえるなんて、嬉しい。ありがとう。わたしは、横浜実山学院の高2」
「うわー、結構入試レベル高いですよね? でも高校からも入れるんですよね?」
「うん。確か10月に学校説明会があるから、来てみたら?」
「はい、ありがとうございます!」と、声を揃える。
「この辺の学校なの?」
「あ、わたしたちも横浜です。神奈川区。お父さんがバスケに来てて、付いてきました。お父さんも練習そっちのけで、お姉さんたちの試合を観てました」
「そうなんだ。そんな風に観てもらえるなんて、ちょっと嬉しいな」
美那がわずかにニヤケながら俺を見る。
「あ、こっちのお兄さんも同じ高校だよ。しかも、同じクラス」
「へぇー。なんか、マッサージとかして、もしかして彼氏さん?」
バスケ少女たちも俺の方をチラ見するし。美那、こっちに振るなよ。
「まあ、付き合っては、いないけど……ね?」と、美那がバスケ少女に笑顔で答え、涼しい顔で俺の方を向く。
なんか、ややこしい言い方しやがる。
「ふぅーーん? え、でも、付き合いそうってことですか?」
女子の恋話になってきたぞ……。なんか、松本の綾ちゃんたちのことを思い出すな。
現役中バス女子に好奇心の目を向けられた俺は、自分でもよくわからないけど、なぜか否定はせず、外国人風に両方の手のひらを上に向けて、肩を上げるポーズを取る。
そこで、無口なもうひとりが積極的に話す方を肘で小突く。
「そうだね……つい、興味が……」
おしゃべりな方が、相棒にぺろりと舌を出す。
「すみません……そうだ、お名前は? 名前を教えてくださいっ!」
「ヤマシタ、ミナ。でもさ、うちの女子バスケ部、あんまり強くないよ」
「そうなんですか? だって、ミナさんのプレー、無茶、すごかったのに?」
ようやくもうひとりが口を開いた。どうやらこっちは、バスケの方に熱心のようだ。
「そうだなぁ……最近、急に上手くなったかな? この男子と3x3の練習を結構やって」
「へぇ。お兄さんもバスケ部なんですか?」と、無口が訊く。
「いや、俺は違う。この3x3のチーム専門」
「なんと、このお兄さん、バスケをちゃんと始めて、まだ2ヶ月も経ってないんだよ」
「うっそー! え、なのに、なんであんな上手いの?」と、無口な方が驚く。
「いや、そんな上手くないっしょ」
「えー、うまかったよねぇ?」
無口がおしゃべりに同意を求める。
「うん。ちょっと変わった動きだったけど、うまかった……です」
ふたりが俺を見て、何度か頷く。
「いや、まあ、ありがとう……」
無口な方が、「ねえ、あんまり邪魔しちゃ悪いよ」と、おしゃべりに耳打ちする。
ふたりの顔がまた美那の方を向く。
「次はあの外国人のチームとやるんですよね? 応援してます!」
「頑張ってください!!」
バスケ少女ふたりは元気よく言って、お辞儀をすると、笑いながら駆け足で去っていった。
「やっぱ、お前、女子にもモテるよな。扱い、慣れてるし」
「ま、ね」
「学校で、女子からどのくらい告られてんの?」
「マジな告白はそんなないよ。2年の4月から夏休み前まで、3人?」
「4ヶ月でそれかよ。ま、男子については訊かないでおく」
「だけど……ホントに好きな人には、なかなか振り向いてもらえないんだよね」
寂しげな声で言う美那の表情は、俯いて見えない。
やっぱ、好きなヤツができたのか。かーちゃんも最近、美那が女らしくなってきたとか言ってたもんな。ま、少なくとも前田俊のことは、恋愛的には吹っ切れたってことか。もちろん大会では絶対に勝つつもりだろうけど。
この間の3on3のプロの試合の後も酷いこと言ってきたしな。俺だって、野郎を許すつもりはねえからな。
ふと気づくと、バスケ少女の時はコートの試合を観ていたナオがこっちを見ている。たぶん、今の美那の言葉に反応したのだろう。
美那を見て、俺を見る。そして、優しく微笑む。
え? どういう意味? 美那を慰めろってこと?
そんなの、わかんねえし。
「それにしても、美那から好きになられて、それでも平気でいられるって、どんだけモテる奴だよ!」
俺の言葉に美那が顔を上げる。
なんか、めちゃ笑顔。
「なーんてね!」
「あ、てめえ。人をおちょくるな」
美那が突然、顔を寄せてくる。まさか、このシチュエーションでキスはねえだろうけど。
「あのさ」と美那が囁く。「ちょっと来て」
美那は立ち上がると、俺をオツとナオから離れたところに手首を掴んで引っ張っていく。
「そろそろ、アイツ……前田俊のこと、先輩とナオに言った方がいいかな? 試合当日にまたアイツ、なんか言ってきそうだしさ。てか、絶対言ってくるしさ。ナオは理解してくれそうだけど、先輩はどう思うかな? そんなことなら俺は出ない! とか言うかな?」
美那の瞳は超マジだ。そして、なんか俺を信頼している感じ。それに、チョー可愛い。顔が可愛いというより、表情が愛らしい……。
「そ、そうだな……いや、それはないんじゃねえの? そうだよな、そろそろ正直に打ち明けといた方がいいよな。それなら、ペギーたちとやる前、今がいいタイミングなんじゃね? オツの性格を考えると、それ聞いてちょっとわだかまりができても、試合を楽しめばすっかり吹っ飛んじゃいそうだし。それに俺もしっかりフォローするしよ」
「うん、そうだね。そうする」
美那は行動が早い。
すぐさまオツとナオのところに歩き出す。
「試合はどうなってます?」と、美那がオツの横に行って、ふたりに話しかける。俺も美那の横に並ぶ。
「見事な守り合いだな。互いにディフェンスの優れたチームだから、なかなか得点にならない。こうして客観的に見ていると、負けたとはいえ、俺たちもかなりイイ線行っていたと、あらためて思うな」
「残り時間6分で、まだ8対4。スクリプツのリードですか」
「今回、初めてKOゲームじゃなさそうだな。やっぱり女子のポイント2倍はKO勝負になる可能性が高そうだ。試合時間が思ったより短かったから、次の俺たちの試合も15分くらい後にずらしてくれることになった。MCも久しぶりの真剣勝負で少し疲れてるみたいだしな」
オツはほんとにペギーたちとの再戦を楽しみにしている。
ここで前田俊の話をするのは、楽しみにしているオツには悪い気がする。けど、偶然時間も出来たし、ここで話しておくしかない気もする。俺はそういう決断が苦手だけど、美那は割とそういうの読むのは得意だからな。
「美那、すごいね。女の子からもモテモテで」と、ナオ。
「ナオだって、女子校だったし、絶対女子からもモテてたでしょ」
「それなりにね。でもやっぱりイケメン系の方が人気あるよね。宝塚でいったら、男役の方。美那みたいな」
「ナオが共学だったら大変だっただろうな」と、オツ。
「そんなことないと思うけど……」と、ナオが謙遜する。
いや、普通にモテるでしょ。男の俺から見ても、ナオさんは〝カッコ美しい〟って感じだもんな。美那は、〝きれ可愛カッコいい〟って感じ?
「ところで……」
唐突な美那の真剣な口調に、オツとナオが怪訝な顔で振り向く。
「先輩とナオに話しておきたいことがあるんです」
「なんだ?」
オツの表情が引き締まる。
「ちょっと真面目な話でして。もしかしたらチームの存続に関わるかもしれません」
「どうした? もしかして美那、腰を痛めたのか? それともリユか?」
「そうじゃないんです。二人とも身体は大丈夫です」
「じゃあ、なんだ?」
「ちょっとそこに座りませんか?」
俺と美那で横に並んでいたベンチシートを移動させて、オツとナオ、美那と俺のいつものペアが向かい合って座る。
「実はこのチームを組んで、大会に出ようと思ったのは、わたしがある男を見返してやろうと思ったからなんです。そのことに触れずに、先輩をチームに誘いました」
「見返す?」
オツはピンときていないようだ。
「女子だから色々あるよね?」と、ナオが助け舟を出す。さすが恋愛予知能力者のナオさん。
美那が頷く。
「……そういうことか。ま、詳しく言いたくなければ、それはそれでいい」
「いえ。簡単に言うと、彼女がいるのに嘘を付かれて、遊ばれて、捨てられたんです」
「そうか。ということは、その復讐に俺たちを巻き込んだってことか?」
「航太さん、いいじゃない。そんなことされたら悔しいに決まってる」
「ナオ、黙っててくれ。いや、すまん。ナオはナオで自分の考えに従えばいい。俺はちょっとスッキリしない。リユは知ってたのか?」
「はい。俺は最初からそういう話を聞かされて、美那の手助けになれればいいなと思って、まあ渋々ではありますけど、参加することにしました」
「そうなのか。まあ、美那が最初にチームに誘ってきた時、妙な必死さがあっておかしいなとは俺も思っていたんだ」
「いや、でも美那も今は、このチームを愛していて、大会で優勝することをマジで目指してますから」と、俺も助けを出す。
「まあ、リユの言わんとするところは分かる。美那がこのチームを使って見返したい、ってことは、それなりのプレイヤーなんだろうな」
「福永学院大学の3年です。付属中学からバスケ部で、大学では3on3のチームを組んでいて、今度の大会に出場することになっています。技術はかなり高いと思います」
「大会に出るなんて情報をどこから聞いた?」
「そのチームのメンバーとは今もときどき連絡を取り合っているので……」
「俺も、その男と、美那が連絡を取っているメンバーと会ったことがあります。2、3週間前に美那とプロの3on3の試合を観に行って、そこでばったり。確かに見た目はイケメンでしたけど、超ムカつく野郎でした。俺はそれからさらに闘志を燃やしてますから」
ふっ、とオツが笑う。優しい目で俺を見る。
「リユが美那を庇う気持ちはよくわかったよ。俺だってこうしてサークルを離れてナオと一緒にバスケが出来てるんだし、それに俺のバスケ観も大きく変わってきたしな。誘ってくれた美那には感謝の気持ちでいっぱいだ。だけど、少し考えさせてくれ」
「先輩……すみませんでした」
美那と一緒に、俺も頭を下げる。
「ああ、わかった。ま、次のペギーたちの試合はもちろんやるさ。ただ、この後、チームを続けていくかどうかは、少し考える」
「航太さん……」と、ナオが不安げな声で言う。
オツがスマホで時間を見る。
「じゃあ、15分後にコートで合流しよう」
そう言ってオツが立ち上がる。
ナオは美那を見て、膝に置かれた美那の手に、手を重ねる。
「きっと大丈夫だから」
俺にも目配せをしたナオさんは、立ち上がって、早足でオツの後を追った。
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