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第3章

3-17 新生モンスターズ・クッキー、強し

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【前回のあらすじ】
 2試合連続でKO負けを喫したものの、試合内容に手応えを感じたZ―Fourのメンバー。ミーティングでそれぞれが試合を振り返り、自分たちの持ち味もはっきりとしてくる。次のMCモンスターズ・クッキーCuキュームラスの試合は、遂にルーシーが先発で出場。するといきなり独走でシュートを決め、「クッキーー!」と雄叫おたけびを上げるのだった。



「クッキーーーーーッ!!」
 そのスピードのあるプレーに加え、ワイルドに叫ぶルーシーに、俺はまず驚き、そしてなんかうれしくなってしまった。プレーのすごさと、たぶんクッキーモンスターの叫びに。
 美那も笑みのこぼれた顔を俺に向ける。
 ルーシーが笑顔で俺たちに手を振りながら、プレーに戻っていく。
 俺と美那も慌てて手を挙げて応える。
「プレーの感じは予想していたのに近いけど、結構ワイルドなのな……」と、俺。
「確かに……ペギーよりも気が強そう」と、美那。
 オツもナオも驚いている。
「ジャックもテッドもコンディションを上げて来たし、ルーシーの追加は脅威だな」とオツが俺たちの方を向いて言う。
「ギャップ、スゴすぎ。それに速い……」とナオがつぶやくように言う。
「ルーシーのマークはどうする?」
 マジ顔のオツが美那にく。
「難しいですね……コート上の3人の組み合わせにもよるし」
「スピードでいったら、リユか美那が対応せざるを得ないな」
「そうですね。ペギーとルーシーがふたりとも出ていたらどうするか、ってことか。ちょっと考えてみます」
 美那は試合中のコートを半ば睨みながら、考え込む。

 試合はモンスターズ・クッキーのペースで進んでいる。ただ、相手のキュームラスも強豪校出身のメンバーを揃えているだけあって、かなり抵抗はしている。
 Cuもルーシーへの警戒を強めている。スピードのある33番男子をルーシのマークに付ける。開始2分ほどで、13番女子に変わって、190センチ近い1番男子を投入。22番女子と1番男子でペギーをおさえつつ、1番が同時にテッドもマークするみたいだ。ペギーがボールを持つと、ポジショニングにもよるけど、22番女子と1番男子でダブルチームを組む。テッドの1Pはある程度あきらめて、2Pはさせないという感じだ。
 コート上は少々荒れ気味で、ボールの奪い合いやアウト・オブ・バウンズになることが多く、これまでの3試合に比べてファウルも少なくない。

 残り時間7分31秒の段階で、(MC)9対4(Cu)の5点差。
 うち4点はルーシーの1P(x2本)だ。細い身体と相対的に低い背を生かして、相手のディフェンスをくぐるようにして、スピードのあるドリブルで突破していく。ただ、シュートの精度は高くない。でも、まだ調子が出ていない、って感じがする。
 ここでルーシーとジャックが交代。
 ジャックが入ると、両チームとも、デカイ。俺と同じくらいの身長の22番女子が小さく見える。
 ペギーには、スピードもそこそこあって比較的体格もいい33番男子が付く。ジャックには長身の1番男子、テッドには22番女子。ルーシーがいなくなると、あからさまにペギーを警戒している。

 にもかかわらず、ここからはペギーが爆発。2人の騎士ナイトに守られるようにして、オープンスペースに切り込んでいく。
 残り4分58秒でプレーが切れて、特別ルールのハーフタイムとなる。
(MC)17対12(Cu)。
 早くもKOノックアウトゲームが見えてきた。
 Cuは22番女子が2Pを決めて、得点的にはなんとか食らいついている感じだ。

 なんか俺たちもホッとひと息って感じ。MCの攻撃力に圧倒された感がある。
「お、そうだ上に移動しよう。ここじゃ、全体が把握しにくい」
 オツの言葉に促されて、立ち上がる。
 最初の試合でナオさんと行った回廊に急いで上がる。
MCモンスターズ・クッキーは、しおかぜ公園の時とは、全然レベルが違ってるな」とオツ。
 すでに後半が始まっている。
 今度はテッドがアウトで、ルーシーがイン。
 一方、Cuは、22番女子に代わって、13番女子が入っている。
 美那とオツが並んで、それぞれのパートナーがその横にいる。
 ここからだと、ゴールを上から見下ろす感じになる。もちろんコート全体がよく見える。そして、またまた、周りのコートの人たちも、試合を観てるっぽい感じだ。確かに観ていて、面白い。

 上から見ると、いかにルーシーが動いているか、よくわかる。
「やっぱり体格フィジカルを考えると、リユがペギーで、ルーシーはわたしかな」と、美那が言う。
「ただスピードを考えると、リユがルーシーじゃないか? 美那はあの動きについていけそうか?」と、オツが返す。
「うーん、自信があるか? と訊かれたら、難しいですけど、わたしもリユと1on1をだいぶやり込んで、少なくともディフェンスに関しては、ああいう動きに自信がついてきました」
 美那がオツの方をちらりと見てから、そう答える。
「そうか。まあ、リユに比べれば、ルーシーの方が少しは楽か……」とオツ。
「え? 俺、あれより動いてるのか?」
「そうだよ。リユはもっとすごい。ただドリブルの基礎はルーシーの方が高いけどね」
「へー」
「じゃあ、それで行こう」とオツ。「ナオは、テッドのマークになるな。行けそうか?」
「高さは負けないけど、ドリブルでガンガン来られたら、防ぎきれるかわからない」
「まあ、男子にシュートさせた方が点が少ないから、そこはある程度許容するしかないな。ナオも当たりに強くなったとはいえ、身長も向こうが上だし、体格差もあるし、ナオにマークさせるのは、多少無理があるからな」
3x3スリー・エックス・スリーは、メンバーは4人だけだし、そういうミスマッチも含めて、どうゲームメークしていくか、というのも重要になってますね」と、美那が付け加える。
「そうだな。そうなると、交代は随時というわけにはいかなくなるな。向こうに合わせて、交代していく必要があるんじゃないか?」
「はい。ただルーシーは比較的出場時間を短くしそうですね。ちょっとブランクがあって、体力的に戻っていない感じ」と、美那。
「ペギーは全時間フルタイム、出場する感じだよな」と俺。
「だね。だとすると、ルーシーが出ていない時は、わたしがペギー、リユがテッドかな?」
「そうだな」とオツ。「ただ、そうすると、ナオの出る時間が減ってしまうけどな」
「この試合をどう考えるかですね。今までの2試合のようにチーム力を高めるために使うか、〝勝ち〟を最優先で行くか。先輩はなんか、勝ちに行きたい! っぽい感じがさっきからしてるんですけど……」
 美那がちょっと笑いながら言う。
「そうか? そうだな……すっかり練習試合の目的を見失っていた……」
「いいんじゃないの、航太さん。せっかく、航太さんが変わるチャンスを掴んだんだし、ペギーたちとプレーするのはたぶんこれが最後だろうし。それに今日はまだ1勝もしてないし……」
「そうか? すまんな、ナオ」
「その代わり、わたしも出る時間は全力を出し切ってみる」
 さすが、ナオさん。人間力、高し……。

 試合の方は、後半開始早々に、Cuが13番女子の2Pシュートで、(MC)17対16(Cu)と1点差まで追い上げる。
 だけど最後は、ルーシーが後半2本目の1Pを決めて、KO決着した。
 最後ももちろん、「クッキーーーーーッ!!」と叫ぶ。
 周りの観客(?)からも、楽しげな笑い声と拍手が起こる。
 やっぱツエーぞ、MCモンスターズ・クッキー

 ルーシーは、上から見ている俺たちに気づいていたらしく、手を振ってくる。
 俺と美那も手を振り返す。
「ルーシーもだんだん調子が上がってきたっぽいね」と美那が俺に言う。
「だな。後半の2本はきれいに入ってた感じだったもんな」と、俺。
「ねえ、リユくん、マッサージお願いできる?」と、ナオさんが声を掛けてくる。
 回廊にはクッション付きのベンチシートがいくつかあって、手近なシートでオツが待ち構えている。
「ナオにはジャージを履いてくれるように頼んどいた。ま、身体からだを冷やさないためもあるけど」と美那が小さな声で言う。
「そうか。サンキュ」
「ほんとはたぶん、じかにやってもらった方が気持ちいいんだろうけど。ふくらはぎまでは、いいんじゃないの?」
「そうだな。オツとナオと同じにしておけば問題ないよな」
「うん」

 まずはオツからだ。軽く筋を伸ばしてから、ジャージの裾を上げてもらって、まずはふくらはぎ周辺をんでいく。
「お、確かに上手い……気がする。美那もキレが良くなってたもんな」
「そうっすかね。あ、そうだ。訊きたいことがあったんですけど」
「なんだ? 数学か?」
「さすがに今日はそれじゃなくて、花村さんみたく、オフボールって言うんですか? ボールを持っていない相手へのディフェンスはどうしたら上手くなるんですか? 一応、ネットで探して、勉強はしてるんですけど」
「それはなぁ……知識以外では、まあ練習と経験だな。と言ってしまうと、身もふたもないわけだが」
「結局は試合の場数ですかね?」
「そういうことになるが、そうそう試合もできないし、それどころか、4人での練習もままならないしな」
 ふくらはぎを終えて、太ももに移る。
「そうだ!」と、オツが声を上げる。
「いい考えがありましたか?」
「ああ。木村に教えてもらえ。あいつ、ディフェンス、マジ上手いから」
「え? 木村ってバスケ部キャプテンのですよね? それはちょっと……」
「俺が頼んでやるよ。リユの事情は俺が説明しておくし」
「いや、でも。練習する場所もないし」
「学校の体育館は難しいか……ただ、ポジショニングの練習なら、コートじゃなくてもできるぞ。美那も含めて3人でやれば少しはマシだろ」
「うーん」
 俺は思わずうなる。
「ま、ちょっと考えてみろ。他に何か方法がないか、俺も考えておくから」

 続いてナオさん。
「ごめんね、リユくん。無理言って」
「いや、大丈夫っす」
 ナオさんがベンチに横になる。
 基本的にオツとまったく同じメニューだ。
 筋を伸ばしてから、ナオさんにジャージの裾を上げてもらって、ふくらはぎをじかに。
「美那から聞いた。女性だとやりにくいんだって?」
「ええ、まあ」
 美那とナオさんは、ふたりとも肌はきれいだし、同じくらいの年齢の女性と言っていいと思うんだけど、なんか感触がだいぶ違うのな。
 美那は、ツル、パツンッ、て感じだけど、ナオさんは、しっとりやわらか、って感じ。まあ、筋肉の質の違いとかもあるんだろうけど。
「確かに、気持ちいい。美那が全身をやってもらいたい、って言ってたのもよくわかる」
「あいつ、そんなこと言ってました?」
 ま、俺にも直接言ってたけど。
「うん。いくら美那とリユくんの関係でも、それは無理だよねぇ」
 ジャージの上から太ももを揉む。
「あー、やっぱり直接やってもらいたいなぁ。いいな、美那は」
「すみません。これで勘弁してください」
「ごめん。でも、結構、神の手ゴッドハンドかも。わたしさ、高校の時、バレーボールで肩を痛めてさ、色々な病院とか整体とか行ってみたからわかるけど、リユくんの手、なんかあるよ」
「いや、そんなわけ……あ、それでバレーボールをめたんですか?」
「うん。まあスパイクをまったく打てないってわけじゃないんだけど、やっぱり肩をかばっちゃって、全力でプレーできなくなっちゃったから」
「そうだったんすね」
「東京の大学に来ることも父親は反対してたんだけど、わたしがあまりに落ち込んでいるから、それでようやく折れてくれたんだよね」
「へえ。あ、それでああいう門限の厳しい女子寮に住んでるんですね」
「うん。まあ父親もそこは譲れない一線だったみたい」
 みんな、それぞれ色々あるもんなんだな。
「じゃ、このくらいでいいですかね?」
「ああ、うん。ありがとう。軽くなった」

 さて、次は美那か。
 って、美那のやつ、やる気満々にジャージ脱いでるし。しかも上下……。
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