96 / 141
第3章
3-19 ナオの言葉
しおりを挟む
【前回のあらすじ】
リユが美那のマッサージを終えると、美那のファンになった中学生バスケ女子ふたりが話しかけてくる。美那はリユにチーム結成の経緯をオツに話しておくべきか相談。意を決した美那は自分を捨てた男を見返すためだったと正直に話すが、オツは受け入れられず、チームを続けるか考えさせてくれと言う。
横に座る美那は、項垂れて、がっくりと肩を落としている。背中が弱々しく見える。
「オツも心が揺れてる感じだったよな」
俯いていた美那が顔を上げる。
「先輩は、どこが引っかかったんだと思う?」
「そうだな……たぶん、大好きなバスケを、そういう道具に使われたことじゃないかな。お前だってオツに負けないくらいバスケが好きだろう? お前はどう思ってんの、そういうとこ?」
「うーん、そうだなぁ……わたしはむしろアイツの自信のあるバスケで倒してこそ意味があると思ったのかなぁ。アイツは口でいくら何言っても、効果ないっていうか……」
「ま、確かにそんな感じだったな。目に物見せる、てか、論より証拠というか、うまい言葉が見つからねえけど、体で分からせてやるというか、そういうんじゃないと効かなそうだよな」
「……うん」
「ナオさんは理解してくれてたじゃん」
「うん」
「最初から言ってたら、少しは違ったのかな? いや、でもそんなこと言えねえよな」
「うん。そんなに親しかったわけじゃないしね」
「でもオツもチームを辞めたい、って感じじゃなかったよな」
「うん」
「前田の野郎からは、やっぱ、バスケでもナメられてたわけ?」
「そうだね。まだあの頃は全然敵わなかったしね」
「お前、このチームでやって、そんな変わったの? 木村主将も柳本も言ってたけど」
美那が俺を見る。少しは気持ちが落ち着いたような目だ。
「変わった。プレーの幅も広がったし、強い相手でも渡り合えるような自信もついたかな。それは言い過ぎか。少なくとも、向かっていこう、って気持ちにはなるようになった」
「そうか」
美那が俺を見つめてくる。
「リユ、ありがとう」
「え? ま、これでチームが終わったわけじゃねえし、オツだって理解してくれるんじゃねえの? あ、ナオさんは理解してくれたし、オツを説得してくれるとか?」
「どうだろ。先輩は特にバスケに関しては頑固みたいだから……それに、それが原因でふたりの関係が悪くなっても嫌だし。先輩が辞めるとしたら、ナオも辞めるかな?」
「どうだろうな。俺はそれでもナオさんは残るような気がするな」
「そしたら、ふたりはどうなるんだろ?」
「それは……俺にはわからないな。彼女もいたことのない俺にわかるわけないじゃん」
「でも小説家じゃない」
「いや、ちょっと書いたことがあるってだけで……」
「あ、そうだ! リユのマッサージしなきゃ」
「え、もういいよ」
「いいから、横になって?」
美那はすごく丁寧に脚と腕、腰をマッサージしてくれる。
「どう?」
「うん。気持ちいい。てか、俺、誰かにマッサージしてもらうのなんて、初めてかも」
「じゃあ、初体験だね」
「いや、なんか、美那に言われると、ちょっと意味が微妙に……」
「なんで?」
「なんで、ってことはないけど……」
美那はどうも思っていないかもしれないけど、なにしろ俺の初キスの相手だ。それになんか最近、美那を、すげー可愛いい、と感じてしまったりする自分がいる。
「ま、いいけど」
と、美那が腰をさすりながら答える。
「そろそろ時間じゃね?」
「ああ、そうだね……あと3分ぐらい」
美那が手を止め、俺は起き上がる。
「おお、俺もちょっと身体が軽くなった。サンキュ」
「うん」
ベンチシートを元に戻して、下に降りる。
ナオさんが待ち兼ねたように、走り寄ってきた。
オツは、向こうでスクリプトの人たちと話をしている。
「ナオにもちゃんと謝らなきゃ。騙していた形になって、すみませんでした」
「え、いいよ、そんなの。わたしでも、同じようなことを考えたかもしれないもん。それにわたしは航太さんから誘われて始めただけだし、楽しんでるし」
「ナオは?」
「続けるか、ってこと?」
美那が真面目な顔で頷く。
「もちろん。わたしは航太さんが辞めても続けるって宣言した」
「大丈夫なんですか? その、ふたりの関係」
「うーん……たぶん、大丈夫かな」
「それならいいんですけど」
「だから……航太さんを説得しておいた。まあ、どのくらい考えを変えてくれるかはわからないけど」
「やっぱり先輩は辞めるつもりなんですか?」
「どうだろ? 続けたい気持ちはすごくあるみたいけど。なんというか、自分を納得させるのに少し時間がかかるみたいな感じかな?」
「じゃあ、希望はあるってことですか?」
ナオさんが小さく首を縦に振る。
「リユくんはもちろん続けるんでしょ?」
「はい。俺は美那と一緒に、あの野郎を叩きのめします!」
「だよね。わたしも美那を応援する。一緒に戦うよ」
やっぱりナオさん、カッコ美しい!
「あ、ありがとう、ナオ……」
涙の溢れる美那をナオさんが抱き締める。
美那から離れたナオさんが、俺に優しく微笑んでくれる。
「こんなこと訊いていいのかわからないけど、ナオさんは、なんて言って、花村さんを説得したんですか?」
「航太さんは、復讐みたいのに、バスケを使われたことに納得がいかないみたいから、わたしは、元々バスケが関係したことみたいだし、実力のある男子の大学3年生に美那がバスケで勝とうとするのはむしろカッコいい、って言った。そしたら、そのことには同意してくれた」
「ナォ……」
「美那、もうすぐ試合だし、もう泣かない!」
「ああ、はい……」
美那が顔を上げて、涙を拭う。
「そうですよね。俺も最初は無理ゲーじゃね? とか思ったけど、マジで練習してそれなりになってきたし、チームもまとまってきたし、今じゃ行けそうな気がしてます。まあ、俺はまだ向こうの実力を知らないからなんとも言えないですけど、知ってる美那が手応えを感じてるみたいだし」
「ねえ、リユくんって、初めて会った時より、ぐんと大人っぽくなったし、カッコよくなったよね」
「え、そうすっか? ナオさんにそんなこと言われると、マジ嬉しいっす!」
「ね、美那?」
横の美那を見ると、足元に目を落として、小さく頷いている。
って、また泣いてるし……。
「航太さん、美那が、自分を頼るわけではなく、戦力の一部として見ていることもすごく評価してたよ。それとリーダーシップも。それから、リユくんの成長ぶりも」
いや、ナオさん、それ美那の涙を煽ってますから!
「リユー」
なぜか美那は俺に抱きついてくる。
俺は抱き返すことなんてできずに、硬直するしかない。心地いいけど……。
「よしよし」と言いながら、ナオさんが美那の頭を撫で撫でする。
「次の試合、戦力アップしたMCに勝てれば、きっと航太さんの心も動くはずだろうから、エンジョイ、バスケットボールの精神で頑張ろ!」
美那の顎が肩に当たって、ナオさんの励ましに頷いたのがわかる。
「じゃ、リユくん、頑張ろうね!」
「うっす!」
俺は心地いい美那の抱擁に拘束されたまま、ナオさんの突き出したグーにグータッチで応えた。
リユが美那のマッサージを終えると、美那のファンになった中学生バスケ女子ふたりが話しかけてくる。美那はリユにチーム結成の経緯をオツに話しておくべきか相談。意を決した美那は自分を捨てた男を見返すためだったと正直に話すが、オツは受け入れられず、チームを続けるか考えさせてくれと言う。
横に座る美那は、項垂れて、がっくりと肩を落としている。背中が弱々しく見える。
「オツも心が揺れてる感じだったよな」
俯いていた美那が顔を上げる。
「先輩は、どこが引っかかったんだと思う?」
「そうだな……たぶん、大好きなバスケを、そういう道具に使われたことじゃないかな。お前だってオツに負けないくらいバスケが好きだろう? お前はどう思ってんの、そういうとこ?」
「うーん、そうだなぁ……わたしはむしろアイツの自信のあるバスケで倒してこそ意味があると思ったのかなぁ。アイツは口でいくら何言っても、効果ないっていうか……」
「ま、確かにそんな感じだったな。目に物見せる、てか、論より証拠というか、うまい言葉が見つからねえけど、体で分からせてやるというか、そういうんじゃないと効かなそうだよな」
「……うん」
「ナオさんは理解してくれてたじゃん」
「うん」
「最初から言ってたら、少しは違ったのかな? いや、でもそんなこと言えねえよな」
「うん。そんなに親しかったわけじゃないしね」
「でもオツもチームを辞めたい、って感じじゃなかったよな」
「うん」
「前田の野郎からは、やっぱ、バスケでもナメられてたわけ?」
「そうだね。まだあの頃は全然敵わなかったしね」
「お前、このチームでやって、そんな変わったの? 木村主将も柳本も言ってたけど」
美那が俺を見る。少しは気持ちが落ち着いたような目だ。
「変わった。プレーの幅も広がったし、強い相手でも渡り合えるような自信もついたかな。それは言い過ぎか。少なくとも、向かっていこう、って気持ちにはなるようになった」
「そうか」
美那が俺を見つめてくる。
「リユ、ありがとう」
「え? ま、これでチームが終わったわけじゃねえし、オツだって理解してくれるんじゃねえの? あ、ナオさんは理解してくれたし、オツを説得してくれるとか?」
「どうだろ。先輩は特にバスケに関しては頑固みたいだから……それに、それが原因でふたりの関係が悪くなっても嫌だし。先輩が辞めるとしたら、ナオも辞めるかな?」
「どうだろうな。俺はそれでもナオさんは残るような気がするな」
「そしたら、ふたりはどうなるんだろ?」
「それは……俺にはわからないな。彼女もいたことのない俺にわかるわけないじゃん」
「でも小説家じゃない」
「いや、ちょっと書いたことがあるってだけで……」
「あ、そうだ! リユのマッサージしなきゃ」
「え、もういいよ」
「いいから、横になって?」
美那はすごく丁寧に脚と腕、腰をマッサージしてくれる。
「どう?」
「うん。気持ちいい。てか、俺、誰かにマッサージしてもらうのなんて、初めてかも」
「じゃあ、初体験だね」
「いや、なんか、美那に言われると、ちょっと意味が微妙に……」
「なんで?」
「なんで、ってことはないけど……」
美那はどうも思っていないかもしれないけど、なにしろ俺の初キスの相手だ。それになんか最近、美那を、すげー可愛いい、と感じてしまったりする自分がいる。
「ま、いいけど」
と、美那が腰をさすりながら答える。
「そろそろ時間じゃね?」
「ああ、そうだね……あと3分ぐらい」
美那が手を止め、俺は起き上がる。
「おお、俺もちょっと身体が軽くなった。サンキュ」
「うん」
ベンチシートを元に戻して、下に降りる。
ナオさんが待ち兼ねたように、走り寄ってきた。
オツは、向こうでスクリプトの人たちと話をしている。
「ナオにもちゃんと謝らなきゃ。騙していた形になって、すみませんでした」
「え、いいよ、そんなの。わたしでも、同じようなことを考えたかもしれないもん。それにわたしは航太さんから誘われて始めただけだし、楽しんでるし」
「ナオは?」
「続けるか、ってこと?」
美那が真面目な顔で頷く。
「もちろん。わたしは航太さんが辞めても続けるって宣言した」
「大丈夫なんですか? その、ふたりの関係」
「うーん……たぶん、大丈夫かな」
「それならいいんですけど」
「だから……航太さんを説得しておいた。まあ、どのくらい考えを変えてくれるかはわからないけど」
「やっぱり先輩は辞めるつもりなんですか?」
「どうだろ? 続けたい気持ちはすごくあるみたいけど。なんというか、自分を納得させるのに少し時間がかかるみたいな感じかな?」
「じゃあ、希望はあるってことですか?」
ナオさんが小さく首を縦に振る。
「リユくんはもちろん続けるんでしょ?」
「はい。俺は美那と一緒に、あの野郎を叩きのめします!」
「だよね。わたしも美那を応援する。一緒に戦うよ」
やっぱりナオさん、カッコ美しい!
「あ、ありがとう、ナオ……」
涙の溢れる美那をナオさんが抱き締める。
美那から離れたナオさんが、俺に優しく微笑んでくれる。
「こんなこと訊いていいのかわからないけど、ナオさんは、なんて言って、花村さんを説得したんですか?」
「航太さんは、復讐みたいのに、バスケを使われたことに納得がいかないみたいから、わたしは、元々バスケが関係したことみたいだし、実力のある男子の大学3年生に美那がバスケで勝とうとするのはむしろカッコいい、って言った。そしたら、そのことには同意してくれた」
「ナォ……」
「美那、もうすぐ試合だし、もう泣かない!」
「ああ、はい……」
美那が顔を上げて、涙を拭う。
「そうですよね。俺も最初は無理ゲーじゃね? とか思ったけど、マジで練習してそれなりになってきたし、チームもまとまってきたし、今じゃ行けそうな気がしてます。まあ、俺はまだ向こうの実力を知らないからなんとも言えないですけど、知ってる美那が手応えを感じてるみたいだし」
「ねえ、リユくんって、初めて会った時より、ぐんと大人っぽくなったし、カッコよくなったよね」
「え、そうすっか? ナオさんにそんなこと言われると、マジ嬉しいっす!」
「ね、美那?」
横の美那を見ると、足元に目を落として、小さく頷いている。
って、また泣いてるし……。
「航太さん、美那が、自分を頼るわけではなく、戦力の一部として見ていることもすごく評価してたよ。それとリーダーシップも。それから、リユくんの成長ぶりも」
いや、ナオさん、それ美那の涙を煽ってますから!
「リユー」
なぜか美那は俺に抱きついてくる。
俺は抱き返すことなんてできずに、硬直するしかない。心地いいけど……。
「よしよし」と言いながら、ナオさんが美那の頭を撫で撫でする。
「次の試合、戦力アップしたMCに勝てれば、きっと航太さんの心も動くはずだろうから、エンジョイ、バスケットボールの精神で頑張ろ!」
美那の顎が肩に当たって、ナオさんの励ましに頷いたのがわかる。
「じゃ、リユくん、頑張ろうね!」
「うっす!」
俺は心地いい美那の抱擁に拘束されたまま、ナオさんの突き出したグーにグータッチで応えた。
0
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
天下
かい
青春
小学校から野球を始めた牧野坂道
少年野球はU-12日本代表
中学時代U-15日本代表
高校からもいくつもの推薦の話があったが…
全国制覇を目指す天才と努力を兼ね備えた1人の野球好きが高校野球の扉を開ける
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
青春って残酷…でも大好き。仕事ができないOLの私がハイスペック男子と入れ替わって無双しちゃいます
西東友一
青春
社会人2年目の23歳OL、木村春奈(きむらはるな)は仕事を頑張っていたけれど、頑張った分だけ仕事をが周りから渡されて、そのせいでミスを繰り返し、職場も仕事も人生も嫌になる。そんなある夜、あの頃(学生)に戻りたいと願うと、3つの流れ星が流れていた。次の日、目が覚めると頭のいいイケメンだけど人当たりが冷たい二階堂流星(にかいどうりゅうせい)になっていて・・・
心が入れ替わった二人は、互いに長所を活かして相手の人生をバラ色に塗り替えていく?
二人の運命はいかに?
うわっ、そんなことはっきり言うなんて・・・
「青春って残酷…でも、大好き!!」
【本当にあった怖い話】
ねこぽて
ホラー
※実話怪談や本当にあった怖い話など、
取材や実体験を元に構成されております。
【ご朗読について】
申請などは特に必要ありませんが、
引用元への記載をお願い致します。
鎌倉讃歌
星空
ライト文芸
彼の遺した形見のバイクで、鎌倉へツーリングに出かけた夏月(なつき)。
彼のことを吹っ切るつもりが、ふたりの軌跡をたどれば思い出に翻弄されるばかり。海岸に佇む夏月に、バイクに興味を示した結人(ゆいと)が声をかける。
夏の日の面影を僕は忘れない
イトカワジンカイ
青春
-夏が始まる。
私が一番嫌いな季節が。
だけど今年は、いつもの夏とは異なるだろう-
失恋の傷を癒せないまま日々を過ごしていた「私」は、偶然失恋相手の面影のある少年-葵と出会った。
夏休みを利用して祖父の家に来ているという葵なぜか「私」を『ナツコ』と呼び懐いてしまい、
「私」は半ば強引に共に過ごすようことになる。
偶然の出会いから始まった葵と『ナツコ』は自分たちの衝撃の関係を知ることになるのだが…。
夏が終わるときに、「私」は何を思うのだろうか…。
葵と『ナツコ』の一夏を切り取った物語。
※ノベルバでも公開
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる