カイリーユと山下美那、Z(究極)の夏〜高2のふたりが駆け抜けたアツイ季節の記録〜

百一 里優

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第3章

3-19 ナオの言葉

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【前回のあらすじ】
 リユが美那のマッサージを終えると、美那のファンになった中学生バスケ女子ふたりが話しかけてくる。美那はリユにチーム結成の経緯いきさつをオツに話しておくべきか相談。意を決した美那は自分を捨てた男を見返すためだったと正直に話すが、オツは受け入れられず、チームを続けるか考えさせてくれと言う。



 横に座る美那は、項垂うなだれて、がっくりと肩を落としている。背中が弱々しく見える。
「オツも心がゆれれてる感じだったよな」
 うつむいていた美那が顔を上げる。
「先輩は、どこが引っかかったんだと思う?」
「そうだな……たぶん、大好きなバスケを、そういう道具に使われたことじゃないかな。お前だってオツに負けないくらいバスケが好きだろう? お前はどう思ってんの、そういうとこ?」
「うーん、そうだなぁ……わたしはむしろアイツの自信のあるバスケで倒してこそ意味があると思ったのかなぁ。アイツは口でいくら何言っても、効果ないっていうか……」
「ま、確かにそんな感じだったな。目に物見ものみせる、てか、論より証拠というか、うまい言葉が見つからねえけど、体で分からせてやるというか、そういうんじゃないと効かなそうだよな」
「……うん」
「ナオさんは理解してくれてたじゃん」
「うん」
「最初から言ってたら、少しは違ったのかな? いや、でもそんなこと言えねえよな」
「うん。そんなに親しかったわけじゃないしね」
「でもオツもチームをめたい、って感じじゃなかったよな」
「うん」
「前田の野郎からは、やっぱ、バスケでもナメられてたわけ?」
「そうだね。まだあの頃は全然かなわなかったしね」
「お前、このチームでやって、そんな変わったの? 木村主将も柳本も言ってたけど」
 美那が俺を見る。少しは気持ちが落ち着いたような目だ。
「変わった。プレーの幅も広がったし、強い相手でも渡り合えるような自信もついたかな。それは言い過ぎか。少なくとも、向かっていこう、って気持ちにはなるようになった」
「そうか」
 美那が俺を見つめてくる。
「リユ、ありがとう」
「え? ま、これでチームが終わったわけじゃねえし、オツだって理解してくれるんじゃねえの? あ、ナオさんは理解してくれたし、オツを説得してくれるとか?」
「どうだろ。先輩は特にバスケに関しては頑固みたいだから……それに、それが原因でふたりの関係が悪くなっても嫌だし。先輩が辞めるとしたら、ナオも辞めるかな?」
「どうだろうな。俺はそれでもナオさんは残るような気がするな」
「そしたら、ふたりはどうなるんだろ?」
「それは……俺にはわからないな。彼女もいたことのない俺にわかるわけないじゃん」
「でも小説家じゃない」
「いや、ちょっと書いたことがあるってだけで……」
「あ、そうだ! リユのマッサージしなきゃ」
「え、もういいよ」
「いいから、横になって?」

 美那はすごく丁寧に脚と腕、腰をマッサージしてくれる。
「どう?」
「うん。気持ちいい。てか、俺、誰かにマッサージしてもらうのなんて、初めてかも」
「じゃあ、初体験はつたいけんだね」
「いや、なんか、美那に言われると、ちょっと意味が微妙に……」
「なんで?」
「なんで、ってことはないけど……」
 美那はどうも思っていないかもしれないけど、なにしろ俺の初キスの相手だ。それになんか最近、美那を、すげー可愛カワいい、と感じてしまったりする自分がいる。
「ま、いいけど」
 と、美那が腰をさすりながら答える。
「そろそろ時間じゃね?」
「ああ、そうだね……あと3分ぐらい」
 美那が手を止め、俺は起き上がる。
「おお、俺もちょっと身体が軽くなった。サンキュ」
「うん」
 ベンチシートを元に戻して、下に降りる。
 ナオさんが待ち兼ねたように、走り寄ってきた。
 オツは、向こうでスクリプトの人たちと話をしている。
「ナオにもちゃんと謝らなきゃ。だましていた形になって、すみませんでした」
「え、いいよ、そんなの。わたしでも、同じようなことを考えたかもしれないもん。それにわたしは航太さんから誘われて始めただけだし、楽しんでるし」
「ナオは?」
「続けるか、ってこと?」
 美那が真面目な顔でうなずく。
「もちろん。わたしは航太さんが辞めても続けるって宣言した」
「大丈夫なんですか? その、ふたりの関係」
「うーん……たぶん、大丈夫かな」
「それならいいんですけど」
「だから……航太さんを説得しておいた。まあ、どのくらい考えを変えてくれるかはわからないけど」
「やっぱり先輩は辞めるつもりなんですか?」
「どうだろ? 続けたい気持ちはすごくあるみたいけど。なんというか、自分を納得させるのに少し時間がかかるみたいな感じかな?」
「じゃあ、希望はあるってことですか?」
 ナオさんが小さく首を縦に振る。
「リユくんはもちろん続けるんでしょ?」
「はい。俺は美那と一緒に、あの野郎を叩きのめします!」
「だよね。わたしも美那を応援する。一緒に戦うよ」
 やっぱりナオさん、カッコ美しいカッコいい+美しい
「あ、ありがとう、ナオ……」
 涙のこぼれる美那をナオさんが抱き締める。
 美那から離れたナオさんが、俺に優しく微笑んでくれる。
「こんなこと訊いていいのかわからないけど、ナオさんは、なんて言って、花村さんを説得したんですか?」
「航太さんは、復讐ふくしゅうみたいのに、バスケを使われたことに納得がいかないみたいから、わたしは、元々バスケが関係したことみたいだし、実力のある男子の大学3年生に美那がバスケで勝とうとするのはむしろカッコいい、って言った。そしたら、そのことには同意してくれた」
「ナォ……」
「美那、もうすぐ試合だし、もう泣かない!」
「ああ、はい……」
 美那が顔を上げて、涙をぬぐう。
「そうですよね。俺も最初は無理ゲーじゃね? とか思ったけど、マジで練習してそれなりになってきたし、チームもまとまってきたし、今じゃ行けそうな気がしてます。まあ、俺はまだ向こうの実力を知らないからなんとも言えないですけど、知ってる美那が手応えを感じてるみたいだし」
「ねえ、リユくんって、初めて会った時より、ぐんと大人っぽくなったし、カッコよくなったよね」
「え、そうすっか? ナオさんにそんなこと言われると、マジうれしいっす!」
「ね、美那?」
 横の美那を見ると、足元あしもとに目を落として、小さく頷いている。
 って、また泣いてるし……。
「航太さん、美那が、自分を頼るわけではなく、戦力の一部として見ていることもすごく評価してたよ。それとリーダーシップも。それから、リユくんの成長ぶりも」
 いや、ナオさん、それ美那の涙をあおってますから!
「リユー」
 なぜか美那は俺に抱きついてくる。
 俺は抱き返すことなんてできずに、硬直するしかない。心地ここちいいけど……。
「よしよし」と言いながら、ナオさんが美那の頭をでする。
「次の試合、戦力アップしたMCモンスターズ・クッキーに勝てれば、きっと航太さんの心も動くはずだろうから、エンジョイ、バスケットボールの精神で頑張ろ!」
 美那の顎が肩に当たって、ナオさんのはげましに頷いたのがわかる。
「じゃ、リユくん、頑張ろうね!」
「うっす!」
 俺は心地いい美那の抱擁ほうように拘束されたまま、ナオさんの突き出したグーにグータッチで応えた。

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