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第1章

1-22 接戦(1)

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 試合のインターバルの間にちょっとした反省会。
 主にオツさんからのアドバイスとなる。
 まずはナオさんから。
「ナオは、前からの課題である横の動きとかドリブルをもう少し頑張ろう。ほかのプレーは確実になってきてる。いいぞ。体力のほうはどうだ?」
「まだいけるけど、ちょっときつくなってる」
 ナオさんは言葉通り、ちょっと辛そうだ。たぶん筋力の問題なんだろう。
「わかった。交代を使いながら、いけるところまでいってみよう」
 次は俺を見る。
「よくなった。次は相手のレベルが上がる。その中で確実にできることをやってみろ」
「はい」と、俺も素直に答える。
「それから、2ポイントシュートのときの足の位置に気をつけろ。前もラインを踏んでたよな」
「気をつけてはいるんだけど、足元を見られないし……」
「じゃあ、ぎりぎりじゃなく、余裕を持って立て。少しくらい離れてもたいして変わらん」
「先輩、リユをかばうわけじゃないけど、サスケコートはラインがないんですよ。コートでの練習もほとんどできてないし」
「そうか。じゃあ、テープで印をつけさせてもらうとか頼んでみるんだな」
「そうですね。わかりました」
「とにかくせっかくよく入るのに、1点だけじゃもったいないからな」
 なんかオツさん、めちゃ機嫌がいい。
 それから試合中の動きに関してオツさんと美那が話し合い、ナオさんと俺が横で聞く。
 オツさんは3x3に関しては素人だし、美那もストリートバスケでの3on3の経験が多少あるだけだ。ただ経験があるぶん、美那のほうが分析ができるらしく、オツさんがうなずいたり、質問したりしている。
「まだ練習時間も短いが、それぞれの特徴、長短所はわかってきたよな」
 オツさんの言葉に3人がうなずく。
「じゃあ、次の試合ではさっきの試合の経験を生かして、お互いの長所を引き出していこう。大会まで時間はないし、合同練習と練習試合はいっさい無駄にできない。ひとつのプレーごとにチーム力を一段引き上げるくらいのつもりでやってくれ」
「リユとナオさんはこれから体力が厳しくなると思うから、無理しすぎないで。頻繁に交代して構わないから。怪我だけはしないで」
 と、美那が付け足す。
 第一試合終了後に田中さんから渡されたサニーサイド(SS)のメンバーは、6番(男)、8番(女)、10番(女)、それに15番の同好会キャプテン・鈴木さん。
 鈴木さんは小学高学年からのバスケ歴が15年。高校のときは愛知県大会ベスト4を2回経験している。
 10番の女性も中・高でバスケ部所属でバスケ歴は10年以上。
 そうだ、呼び名を付けておこう。
〝10番高バス女子〟な。
 8番の女性は中学バスケ部所属でバスケ歴は計6年。高校時代などにブランクがあるのだろう。
〝8番中バス女子〟と。
 6番の男性はバスケ未経験だけど、高校ラグビーの経験者。新入社員ぽい。手強そうだ。
〝6番ラグビー〟な。
 オツさんの分析では、鈴木さんとオツさんがいい勝負、10番高バス女子と美那が同レベル、8番中バス女子と俺、6番ラグビーとナオさんがそれぞれ対抗馬となりそうだという。
 8番って、バスケ歴6年だけど、俺は一カ月。
 ナオさんはボディコンタクトが弱点なのに、6番は高校ラグビーだぞ。
 マジか、オツさん?
 だけど、経験と特徴を考え合わせると、そういうことになるんだろうな。
 オツさんと美那が相談して、美那が先発を発表する。
「先発は、オツ、わたし、リユ。ナオさんとリユは息が切れる前に随時交代して。それ以外の交代はわたしが指示する」
 そろそろ始めましょうか、と田中さんが声をかけてきた。
 コートに向かう途中、ナオさんが俺に小声で話しかける。
「リユ君、ぜったい2点以上は取ろうね。実はね、航太さんに内緒で例のユニフォームはもう出来上がってて、今日持ってきてるの。だからなんとしてでも勝ちたいの」
「マジっすか。早く、あれ、着たいっ」
 俺の言葉にナオさんが微笑む。
「じゃあ、次も行こうか!」と、美那が俺の肩を叩く。
 けっこう思い切り……。

 ウォームアップ練習は両チームが混ざってするのが、3x3の流儀らしい。
 練習をしながら相手を観察する。
 10番高バス女子は身長160くらいか。美那より低い。ボールさばきは流石さすがだ。シュートフォームも整っている。
 8番中バス女子も160くらい。10番に比べるとレベルは低いけど、ドリブルやハンドリングなど基礎はできているっぽい。
 6番ラグビーは170くらいで、半月前の俺を見てる感じ。まだハンドリングさえおぼつかない。だけど動きのキレはいい。
 15番鈴木さんは言わずもがな。バスケ歴15年って、俺の年齢とほとんど変わんないじゃん。背はオツさんより少し低いけど――178から180か――ジャンプ力はあるし、技術もすごそう。

 さあ、第2試合の開始だ!
 向こうは10番高バス女子が控えだ。
 1チーム目と、ぜんぜん動きのスピードが違う。
 オツさんがマークする15番鈴木さんが巧みなドリブルで切り込んでくる。
 俺は止めに入ろうとするが、俺がマークすべき8番中バス女子がカットインからパスを受け取る。
 それを走りこんできた鈴木さんにパス。
 いきなりダンクシュートを決められてしまった……。
 がーん。
(0対1)

 ゴールから落ちたボールを美那が取り、アークそとのオツさんにパス。
 Zの攻撃開始だ。
 8番中バス女子のマークをかわし、俺にパス。
 6番ラグビーがディフェンスに来る。練習を重ねたドリブル技で振り切る……はずがしっかりつかれたままだ。
 背はさほど高くないけど、ガタイがいい。立ちはだかれるとすげー迫力。
 なんとかロールターンで置き去りにするも、ショットクロックは10秒経過、攻撃時間がなくなる寸前。
 あわててシュートに入るが、8番中バス女子に手に当てられてしまい、6番ラグビーにボールを奪われる。
 さすがラグビー出身者、ルーズボールへの反応が速い。
 6番ラグビーのドリブルは下手だが、鈴木さんがパスを受け取りアーク外へ。
 8番中バス女子とのパス交換、ドリブルで、最後は8番中バス女子がレイアップを決め、あっという間の3点目。
(0対3)

 意外にも美那は余裕の表情。
 オツさんはいつもの厳しい顔なので、内面は不明。
 攻撃交代。
 オツさんから美那、美那から俺、俺から美那と、パスを回すが、ディフェンスの圧が強くて、なかなか中に入っていけない。
 俺がカットインするのと同時に、ボールを手にした美那がペネトレイション(※ドリブルでの中への切り込み)する。
 まったく同時の動きに敵は虚をつかれている。
 よし。
 俺へのパスフェイクで美那は8番中バス女子を振り切り、レイアップシュートでゴール!
(2対3)

「いいぞ、ミナ、リユ!」と、オツさんから声が飛んでくる。
 今度はサニーサイドの攻撃だけど、6番ラグビーのドリブルを俺がスティール。
 外の美那にパスすると、美那のドリブルからインサイドのオツさんにパス。
 15番鈴木さんのブロックを越えて、ダンクシュートのお返しだ!
(3対3)

 鈴木さんの顔が笑っている。
 ちょっと怖い。
 鈴木さんから何かささやかれた6番ラグビーのディフェンスがきつくなる。
 俺が低いドリブルで抜きかけると、接触寸前のガードで止めようとする。
 フェイントを入れてみると、6番ラグビーはまどわされ、俺は視界に入ってきた美那へのパス&カット。
 6番ラグビーはついてこられない。
 美那からボールを再び受けた俺は、さらに美那へのパスフェイクを入れて、8番中バス女子も振り切る。
 華麗なレイアップのはずが、リングに嫌われる。
 くっそぉー!
「おしい、リユ」と、美那から励まし。
 美那のやつも、楽しそうに笑ってやがる。
 ボールはSSに移る。
 8番中バス女子はペネトレイションとみせかけて、バックステップからの2ポイントショットを放つ。
 リングに綺麗に吸い込まれていく……。
 うわ、一気に4点。
(3対7)

 ミックスでの女子の2ポイントはヤバいな。
 しかも序盤から結構走っているので、すでに息は上がりかけている。
 それでも休んではいられない。
 オツさんのミドルショットのリバウンドをなんと俺がゲット。
 すばやく美那にパス。
 美那はディフェンスを避けて外に回り込んでから、ジャンピングシュート。
 決まった!
(5対7)

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