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第1章

1-21 練習試合、開始

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 最初の試合のスタートは、俺はまず控え……。
「今日は勝ち負けよりもチームの形をつくることを考えよう。誰がどう動いたらいいかを意識してプレーしよう」
 美那のスターティングメンバー発表を受けて、オツがプレーの方針を指示する。
 美那が、紙袋のひとつから、緑のビブス(※ユニフォームの代わりに着用するチームごとに色分けしたゼッケンのようなもの)を「年齢順」と言って、配る。
 オツさんが1番、俺が4番。
「航太さん、ユニフォームの件はどうなるの? 今日の結果次第と言ってたけど」
「それか。そうだな。相手もわからんし、リユ君とナオが2本ずつシュートを決めたらというのはどうだ? もちろん1試合でな」
「2試合以上する可能性もあるんですか?」と、俺は驚く。
「当たり前だ。1試合10分だぞ。たぶん向こうは最初はこっちが勝つようなメンバーを当ててくるはずだ。それから次は実力が伯仲はくちゅうしそうなメンバー。最後は9割方、向こうが勝ちそうなメンバーだな。となると、ユニフォームの件は2試合目までで、勝利が前提条件ということにしよう。相手によってそこは考慮するが」
「うわ……」と、俺。
 なかなかハードルが高い。
 ナオさんもちょっと厳しい表情だ。
 美那は表情を変えていないから、自信があるのかも。
「3試合もするの?」
 と、今度はナオさんが不安を見せる。
「ミナ、大会なら予選リーグで最低3試合くらいするよな?」
「そうですね。参加チーム数にもよるけど、予選プールの総当たりで最低2試合。普通は3試合。そして決勝トーナメントで2試合。1日で最大5試合ですかね」
「そういうわけだ。5試合を延長を含めて戦い抜ける体力をつけとかなけりゃダメってことだ。優勝する気ならな」
 すげえ体育会なノリだけど、なんか急に優勝が目標として見えてきた気がする。まだ1試合もしてないわけだが。
「今日はとりあえず、わたしがメンバー交代のサインを出すから。ボールがデッドになったタイミングで交代して」
 なんとなくしかわからないが、何事も経験だ。とりあえずナオさんと俺が交代する可能性が高いだろう。
 田中さんを先頭に同好会のメンバーが入ってきた。
 え、いったい何人いるんだ?
 数えると16人。そのうち男性2人、女性2人はユニフォームじゃない。
 でもなんかその人たちの方がうまそうに見えるのは気のせいか?
 俺たちも立ち上がる。
 オツさんと美那が相手のメンバーを見ながら、こそこそ話している。
 田中さんがやってきて、「では、そろそろ始めましょうか」と言った。
 一枚の紙が田中さんからオツさんに渡される。
 覗き込むと、向こうのメンバー一覧だ。
 1から16までの番号が振ってあり、名前は書いていない。数が大きいほど、バスケ歴が長いとかレベルが高いようだ。
 向こうも黄色のビブスが配られて、ユニフォームの上から着けている。

 そして、両チームの全員が集合。
 今日の参加者の輪の中心にいる田中さんが、事前に花村さんと打ち合わせたという本日のルールを説明する。
 基本は3x3の公式ルールだ。
 21点先取で勝ち。延長戦はなし(21点未満の場合、10分終了時の点数で勝敗を決める)。
 1試合10分で、ハーフタイムを1分入れる。男女混合チームで、必ずひとりは女性がコートに立っていること、そして女性の点は2倍にカウントされる。この辺りは、俺たちが出場する大会に合わせてくれているらしい。
 それに加えて、審判を3x3の経験があるバスケ部の人が引き受けてくれるとのこと。それがユニフォームを着ていない人たちの正体だったのか。
 番号は12、13、14、16だ。
 抜けている15番は? と探すと、キャプテンの鈴木さんが付けている。田中さんは11番だ。
 コイントスで、先攻はサニーサイド(=SS)。メンバーは、3番(男)、4番(女)、5番(男)、7番(女)。7番は控えだ。
 オツさんの予想通り、経験の少ない人たちで組まれている。
 さて、いよいよ試合開始だ。
 ちゃんとブザーも、でかいタイマーみたいなのも、用意してくれている。
 美那からSSのプレーヤーにトス。
 相手はドリブルで抜けていこうとするが、いきなり美那がスティール。
「ナオ!」
 美那からアーク外のナオさんにパス。ナオさんは果敢にドリブルに持ち込み、オツさんにパスを出すが、逆に相手に取られてしまう。
 ドリブルで外に出たSSの5番は、2ポイントシュートを狙うが入らず、オツさんがリバウンドをゲット。
 外の美那にパス。
 美那は、2ポイントを狙うふりをして、ドリブルで相手ふたりを振り切り、きれいなレイアップシュート。
 決まった!
 まずは、2対0。
 近くにいた3人はハイタッチ。なんかうらやましい。
 SSも隙をついてセットシュートやジャンプシュートで得点する。俺がいうのもなんだけどプレーのレベルは高くない。
 美那のドリブル、オツさんのオーバーハンドレイアップ、ナオさんのポストプレー。それぞれの特徴を出して、ゴールを決める。ナオさんも2点取った。
 ハーフタイム。
 得点は12対7。かなり優勢だ。
 オツさんと美那は余裕の表情。
 ナオさんは呼吸を整えるのに必死だ。
 当然、俺の出番だろう。
「3x3はやっぱ体力の使い方違うな」と、オツさん。
「ですね」と、美那が答える。
「リユ、後半はオツと代わって」
「え、オツと? ナオじゃなくて?」
「そうだ。正直、相手のレベルは俺とミナには準備運動程度だ。それからリユ、お前は切り札だ。この試合は基本的なプレーに徹しろ。実力を出し切るのは3試合目だ。2試合目は向こうもレベルを上げてくるだろうが、圧勝するつもりだ」
「相手のある中で練習の動作を確かめる感じ。わかった? それとちゃんと2点は取ってね」
 と、美那が付け足す。
「わかった。まかせとけ」
 切り札か……なんかスラムダンクでも花道がそんなことをゴリから言われていたような気もするが……ま、いいさ。俺は流川だし。
 いよいよ出番だ。
 向こうも4番がアウト、7番がイン。
 いきなり美那からパス。しっかり受け取ってドリブル。
 相手の動きを見て、切り込んでいく。
 美那にパス。
 カットインしていくと、美那からまたパスがくる。
 しっかりキャッチして、ステップからジャンプ、レイアップシュート!
 が、無情にもボールはリングに当たって、相手ボールに。
「ああ、クッソー!」
 ボールを取ったSSの交代メンバー7番は、一番数字が大きいだけあって、やっぱり少しレベルが高い。女性にしては体つきもがっちりしている。動きも速い。
 7番は、すぐにアーク外の仲間にパスし、リターンパスを受け、ナオさんを振り切りシュートを決める。
 12対9。
 俺がボールを取り、ドリブルから外のナオさんにパス。美那が動いてパスを受け取る。早くもナオさんの足が動いていない。
「リユ!」
 美那がドライブイン、俺もカットインして美那をフォロー。
 美那からの絶妙なパス!
 そのままレイアップシュート。
 ボールがリングに吸い込まれ、ネットがぱさっと音を立てる。
 うぉーー! やったぁー‼︎
 13対9。
 美那とハイタッチ!
 ナオさんのところにも走って行ってハイタッチ! しようと思ったけど、「リユ、もう始めってるからね!」
 と、美那の声が飛んでくる。
 アーク外のナオさんがリーチを生かしてディフェンス。相手をアーク内に入れない。
 SS7番がフォローに入る。俺がディフェンス。
 だけど、ボールを受けた7番は、シュートのフェイントからドリブル。
 反応するけど、届かない!
 振り切られて、そのままゴールを奪われる。
 13対11だ。
 後半開始時に5点あった差は、わずか2点に。
 まずい。女性のポイント2倍はでかいな。
 ボールを取った美那がアーク外に出て、攻撃開始。
 美那の指示で、ナオさんはゴールに近いところにポジションを取る。
 俺と美那が、パスとドリブルで揺さぶりをかける。
 美那がナオさんに一度ボールを預けて、走り込んだところにナオさんがワンバンのナイスパス。
 受け取った美那がゴール。2点追加!
 15対11。
 次は俺が外からのシュートを決める。2ポイントと思ったけど、足がアーク内に踏み込んでいて1点だけ。
 しまった、まただー。
 でもこれでノルマの2点は、クリア。
 あのカッコいいZのユニフォームまであと一歩だ。
 16対11。
 そして、美那の連続得点で20点目。
 20対11。あと1点で勝利。
 7番の2ポイントシュートで4点返されるも、最後は交代せずに踏ん張っていたナオさんが、俺からの低いパスを受け、反力を使った高いジャンプから見事なゴール! サニーサイドの人たちからも「おー」と声が上がる。
 21(+1)点先取で試合終了。
 勝ったー!
 美那とナオさんが抱き合う。
 俺とオツさんは抱き合わない。低く出されたオツさんの手のひらをロータッチ(?)。
 オツさんとナオさんがハイタッチ。俺とナオさんもハイタッチ。
 美那の突き出したグーに、俺がグータッチ!
 田中さんが「22対15で、Z―Fourの勝利」と宣言する。
 両チームから拍手が起こる。
 田中さんと鈴木さんがやってきて、オツさんに話しかける。
「次は30分後でいいですか?」と、田中さん。
 どうやら事前にある程度そういう設定になっていた模様。
 たぶん俺たちのレベルがあまりに低かったら、1試合で終わらせることになっていたのだろう。
「そうですね。初めての試合でちょっと疲れもあるので、45分ください」
 と、オツさんが答える。
「わかりました。次はもう少し手応えのあるメンバーを組みますから」
 と、田中さんがにこやかに言う。
「よろしくお願いします」
 と、オツさんが応じる。
 なんか田中さんにも少し火が入ってきた感じだ。
 田中さんが俺に話しかけてくる。
「森本くん、ほんとに初心者なの? ま、バイクのほうもあんな感じだったから、バスケもありうるけど」
「はい」
 と、俺は答え、美那と朝練を始めたのはいつだっけと考える。
 そうだ、忘れもしない、美那と喫茶店に行って有里子さんからZ250を譲ってもらうことになった日の翌朝からだ。
 6月14日。
 今日は7月13日だから、おお、ちょうど1カ月。
「始めてから今日でちょうど1カ月です」
「そうなんだ。こりゃ、これからが楽しみだ」と、田中さんが笑った。
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