カイリーユと山下美那、Z(究極)の夏〜高2のふたりが駆け抜けたアツイ季節の記録〜

百一 里優

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第1章

1-15 ユニフォームと抱擁(2)

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 あやうく乗り過ごしそうになったけど、電車の中で熟睡したおかげで、疲れはだいぶ取れた。しかしこんなに疲れるとは思いもしなかった。美那のしごきがなかったら、1日持たなかったかもしれない。バイクってスポーツなんだぁっ! って叫びたい気分。
 スタバは駅の近くで、すぐに見つかった。この辺りはもう雨は上がったようだ。
 奥のほうの席で美那とナオさんが赤いノートパソコンを開いて、楽しげに話している。
「こんちは」と俺は声を掛ける。
「おかえり」と美那。
「こんにちわ」と笑顔のナオさん。
 二人席だったから、カウンターでの注文のついでに椅子を頼む。
 美那が少しけて、場所を空けてくれている。店員さんが持って来てくれた椅子を受け取って、美那の斜め横あたりに座る。パソコンの画面は反対側を向いていて俺からは見えない。
「ふぅ、疲れた」
 つぶやくように言いながらストローをくわえ、シロップをたっぷり入れたアイスコーヒーを二口飲む。喉乾いたし、今日はトール。あとで100円のおかわりもしよ、っと。
「バイクのスクールはどうだった?」
「いやもう、へたっぴで疲れるのなんのって。最低でも20回は転んだし」
「え、体は大丈夫なの?」
「まあスピードは大して出てないし、バイクも完全には倒れないようになってるし、肘とか膝にはプロテクター貸してくれたし、大丈夫。ただ雨具がかなりやぶけた」
「なら、よかった。ところで、だいたい完成したんだけど」
「なにが」
「ユニフォームのデザイン」
「ああ、そうだった」
「ほとんどナオさんがデザインしてくれたんだよ」
「ベースはミナちゃんが考えてくれたし、わたしはウェブショップのテンプレートみたいので細かい部分の配色とか決めただけだから」
「そうなんだ。で、どんなの?」
「見てびっくりするなよ、リユ」と、美那がにやける。
「なんだよ、そんなもったいぶるなよ。ナオさん、見せてよ」
 美那とナオさんがアイコンタクトすると、ナオさんが画面を俺に向けてくれる。
 そこには……。
「なんだよ、これ、すげーじゃん!」
 なんとグリーンをベースに、ゼットを配したデザイン。まるで俺のバイクのためのユニフォームじゃん!
 え? バスケなのにバイク? でもそうか、ゼット・フォーのZは俺のZ250から来てるんだからな。
「どう、気に入った?」と、美那が満面の笑みで俺を見る。
「うわー、ありがとう、ナオさん」
 俺は思わずナオさんの両手を取り、握手をしてしまった。こんなとこ、オツさんに見られたら殺されるな。
「でもリユ君、元のアイディアはミナちゃんのこの写真だからね」
 ナオさんが画面をウェブブラウザから画像再生ソフトに切り替えた。すると、そこにはこの間美那に送った俺のZ250の写真が!
「え、じゃあミナが?」
「そうよ。ミナちゃんがリユ君のバイクをモチーフにしたいって」
 美那がドヤ顔で右手を差し出す。が、俺は思わず隣の美那に抱きついた。つよーく、抱き締めてしまった。
「え?」
 美那の戸惑った声が頭の後ろで聞こえる。
「ミナ、ありがとう。俺、チョーうれしい。最高だよ、ミナ。ありがとう」
 なんかしらんけど、涙が出て来た。
「ちょっと苦しいよ、リユ。もしかして泣いてんの?」
 うわー、すげーいい匂いだよ、美那。え? やばい俺、なにやってる?
「ご、ごめん。うう、なんかほんとうれしくて。人生の5大うれしいのひとつだ!」
 俺は慌てて美那から離れた。
 くそ、まだ涙が止まってない。うわ、なんか周りのお客さんに見られまくってるじゃん。
「ほかの4つはなんなのよ?」
 と、美那はぶっきらぼうに言いながら、スタバの紙ナプキンをくれる。涙を吸い取る。
「い、いや、適当に言っただけ。ま、ひとつはバイクを手に入れたことだな」
「じゃあ、あと3つはこれからってわけね?」
「そうしないと計算が合わないな……」
「じゃあ、次は今度の大会での優勝だね!」
 と、ナオさんが言ってグーを差し出す。俺と美那がグータッチで応える。
「ああ、わたし、なんかすごい燃えてきた! 絶対、優勝したい!」
 美那の瞳がギランギランしている。
 こんなに輝いている美那の瞳は久しぶりに見るような気がする。もう例の男のことなんか吹っ切れちゃった勢いだな。
 だけどそれには俺の奇跡的なレベルアップが必要だ。
 カイリーみたいなプレーができるのか? この俺に……。
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