20 / 141
第1章
1-15 ユニフォームと抱擁(1)
しおりを挟む
霧のような雨が降り始めていた。
路面はまだドライだけど、午後の最初から、雨具を着ての乗車だ。
午後の一発目は、教習所のようなコースを使った普通のコーナーリング。
これは比較的スムーズに行く。
午前中にブレーキングやライディングフォームをきっちり教わったのが生きているようだ。
「なかなかいいよ」と初めてインストラクターに褒められた!
それと同時にブレーキのリリースやライン取りについて詳しく教えてくれる。
いくつかのR(コーナーの回転半径)の違うコーナーで、何度もトライする。
ブレーキングから前輪に荷重を残したリリース、車体のバンクと体重移動、アクセルオン、ライン取り。
それらがどんどんスムーズになっていく。
でも雨で路面が濡れてきて、だんだんバイクを傾けるのが怖くなってきたと思ったら、変なところでフロントブレーキをかけて、コケた。
考えてみると、濡れた路面をバイクで走るのは初めてだ。
体が硬くなっていると指摘された。滑りやすいウェットにビビっていたらしい。
最後は、「コーススラローム」というジムカーナと同じようなコース。
パイロンで教習所の内側のようなコースが作ってあって、そこをいかにスムーズに抜けていくかを学習する。
ジムカーナのようにスピードを競うわけではない。
こんなもん、できるかよ! っていうくらい難しい。
おまけにウェット。
何回転倒したかわからない。
ただスピードも大して出ていないから、せいぜい軽い打ち身程度だ。
でもこれだけ何度も転かすとバイクを起こすのも体力的に辛くなってくる。
それでも最後には、転ばずにゴールにたどり着けるようになった。
終了後、チーフ・インストラクターの吉田さんから総評と個々の評価をもらった。
「最後は森本さん。最初はどうなるかと思ったけど、最後はかなり上達したと思います。でもやっぱり免許を取る前の練習が不足していたと思われます。今日覚えた基礎をしっかり頭と体に叩き込んで、親御さんに心配させないライディングをできるようになってほしいと思います。だけど、それは口で言うほど簡単ではないので、ここに何度か通うなりして、きちんと身につけてほしい。そして、これから始まるバイクとの人生を充実したものにしてください」
インストラクターの最後の言葉に反応したのか、受講者から盛大な拍手が起こった。
たしかに俺の始まる前の抱負の言葉を受けた、最年少の俺に相応しいイイ言葉じゃねえか。
ちょっと感動してしまった。
解散するとイトウさんが近づいて来て、「ほんと、うまくなってたよ。公道では転けるなよ。またな」と、俺の肩をぽんと叩いていった。
タナカさんも来てくれて、「いや、びっくりするくらい上達してたよ。やっぱり若いってすごいな。バスケも楽しみにしているよ」と言って、握手してくれた。
吉田さんというインストラクターも何かを思い出したように、わざわざ戻って来て、「正直言って、公道で安全に運転するにはまだ不十分だから、ここじゃなくてもいいから、せめてあと1、2回は講習会に参加したほうがいいよ」とアドバイスをくれた。俺が「今度は7月14日に初中級コースに来ます」と答えると、「そうか。もう1回くらい初級を受けたほうがいいけど、うん、それでもいい。センスは悪くないから、頑張れよ」と言って、笑顔で去っていった。
なんか、バイク乗りって、基本みんな優しいのか?
シャワー設備があることは知っていたので、速攻で汗を流した。
シャワーを浴びていたら、次回の〝7月14日〟が頭に浮かんだ。
なんか、あった?
前期末試験のあとの最初の日曜日だろ?
予定がないことを確認して予約したはずだけど……。
オツさんの顔が迫ってくる。そうだ、試合!
タナカさんの同好会との試合が入るとしたら、その週末の可能性が高いじゃん!
やばい。
俺はすぐに美那に電話を入れた。
「ミナ、試合の予定決まっちゃった?」
「リユ、すごいじゃん! 持ってるね‼︎ 予定は、まだだよ。どうして?」
「実は14日の日曜日に次のライディングスクールを予約してあるのを忘れてた。というか、試合とそのことが頭の中でぜんぜんリンクしてなかった」
「まだ、大丈夫。わかった。14日はリユはダメなのね? それより、もしかして帰りに東京を通る? 実は今、オツさんに内緒で、ナオさんとユニフォームのデザインを考えてるの。来ない?」
「いまから? 俺、けっこう……」
疲れてると言おうとしたら、送迎バスが間もなく出発するとアナウンスが。
「わかった。場所、送って」と思わず答えてしまった。
すぐに服を着て、バスはギリギリセーフ。
美那からはすでにメッセージが届いていた。場所は市ヶ谷のスタバ。ほんとあいつスタバ好きな。
スマホで調べると、1時間ちょっとで着く。まあ、いいか。でもなんで咄嗟に了解してしまったのだろう……。
路面はまだドライだけど、午後の最初から、雨具を着ての乗車だ。
午後の一発目は、教習所のようなコースを使った普通のコーナーリング。
これは比較的スムーズに行く。
午前中にブレーキングやライディングフォームをきっちり教わったのが生きているようだ。
「なかなかいいよ」と初めてインストラクターに褒められた!
それと同時にブレーキのリリースやライン取りについて詳しく教えてくれる。
いくつかのR(コーナーの回転半径)の違うコーナーで、何度もトライする。
ブレーキングから前輪に荷重を残したリリース、車体のバンクと体重移動、アクセルオン、ライン取り。
それらがどんどんスムーズになっていく。
でも雨で路面が濡れてきて、だんだんバイクを傾けるのが怖くなってきたと思ったら、変なところでフロントブレーキをかけて、コケた。
考えてみると、濡れた路面をバイクで走るのは初めてだ。
体が硬くなっていると指摘された。滑りやすいウェットにビビっていたらしい。
最後は、「コーススラローム」というジムカーナと同じようなコース。
パイロンで教習所の内側のようなコースが作ってあって、そこをいかにスムーズに抜けていくかを学習する。
ジムカーナのようにスピードを競うわけではない。
こんなもん、できるかよ! っていうくらい難しい。
おまけにウェット。
何回転倒したかわからない。
ただスピードも大して出ていないから、せいぜい軽い打ち身程度だ。
でもこれだけ何度も転かすとバイクを起こすのも体力的に辛くなってくる。
それでも最後には、転ばずにゴールにたどり着けるようになった。
終了後、チーフ・インストラクターの吉田さんから総評と個々の評価をもらった。
「最後は森本さん。最初はどうなるかと思ったけど、最後はかなり上達したと思います。でもやっぱり免許を取る前の練習が不足していたと思われます。今日覚えた基礎をしっかり頭と体に叩き込んで、親御さんに心配させないライディングをできるようになってほしいと思います。だけど、それは口で言うほど簡単ではないので、ここに何度か通うなりして、きちんと身につけてほしい。そして、これから始まるバイクとの人生を充実したものにしてください」
インストラクターの最後の言葉に反応したのか、受講者から盛大な拍手が起こった。
たしかに俺の始まる前の抱負の言葉を受けた、最年少の俺に相応しいイイ言葉じゃねえか。
ちょっと感動してしまった。
解散するとイトウさんが近づいて来て、「ほんと、うまくなってたよ。公道では転けるなよ。またな」と、俺の肩をぽんと叩いていった。
タナカさんも来てくれて、「いや、びっくりするくらい上達してたよ。やっぱり若いってすごいな。バスケも楽しみにしているよ」と言って、握手してくれた。
吉田さんというインストラクターも何かを思い出したように、わざわざ戻って来て、「正直言って、公道で安全に運転するにはまだ不十分だから、ここじゃなくてもいいから、せめてあと1、2回は講習会に参加したほうがいいよ」とアドバイスをくれた。俺が「今度は7月14日に初中級コースに来ます」と答えると、「そうか。もう1回くらい初級を受けたほうがいいけど、うん、それでもいい。センスは悪くないから、頑張れよ」と言って、笑顔で去っていった。
なんか、バイク乗りって、基本みんな優しいのか?
シャワー設備があることは知っていたので、速攻で汗を流した。
シャワーを浴びていたら、次回の〝7月14日〟が頭に浮かんだ。
なんか、あった?
前期末試験のあとの最初の日曜日だろ?
予定がないことを確認して予約したはずだけど……。
オツさんの顔が迫ってくる。そうだ、試合!
タナカさんの同好会との試合が入るとしたら、その週末の可能性が高いじゃん!
やばい。
俺はすぐに美那に電話を入れた。
「ミナ、試合の予定決まっちゃった?」
「リユ、すごいじゃん! 持ってるね‼︎ 予定は、まだだよ。どうして?」
「実は14日の日曜日に次のライディングスクールを予約してあるのを忘れてた。というか、試合とそのことが頭の中でぜんぜんリンクしてなかった」
「まだ、大丈夫。わかった。14日はリユはダメなのね? それより、もしかして帰りに東京を通る? 実は今、オツさんに内緒で、ナオさんとユニフォームのデザインを考えてるの。来ない?」
「いまから? 俺、けっこう……」
疲れてると言おうとしたら、送迎バスが間もなく出発するとアナウンスが。
「わかった。場所、送って」と思わず答えてしまった。
すぐに服を着て、バスはギリギリセーフ。
美那からはすでにメッセージが届いていた。場所は市ヶ谷のスタバ。ほんとあいつスタバ好きな。
スマホで調べると、1時間ちょっとで着く。まあ、いいか。でもなんで咄嗟に了解してしまったのだろう……。
0
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
[1分読書]彼女を寝取られたので仕返しします・・・
無責任
青春
僕は武田信長。高校2年生だ。
僕には、中学1年生の時から付き合っている彼女が・・・。
隣の小学校だった上杉愛美だ。
部活中、軽い熱中症で倒れてしまった。
その時、助けてくれたのが愛美だった。
その後、夏休みに愛美から告白されて、彼氏彼女の関係に・・・。
それから、5年。
僕と愛美は、愛し合っていると思っていた。
今日、この状況を見るまでは・・・。
その愛美が、他の男と、大人の街に・・・。
そして、一時休憩の派手なホテルに入って行った。
僕はどうすれば・・・。
この作品の一部に、法令違反の部分がありますが、法令違反を推奨するものではありません。
幼なじみとセックスごっこを始めて、10年がたった。
スタジオ.T
青春
幼なじみの鞠川春姫(まりかわはるひめ)は、学校内でも屈指の美少女だ。
そんな春姫と俺は、毎週水曜日にセックスごっこをする約束をしている。
ゆるいイチャラブ、そしてエッチなラブストーリー。
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
『女になる』
新帯 繭
青春
わたしはLGBTQ+の女子……と名乗りたいけれど、わたしは周囲から見れば「男子」。生きていくためには「男」にならないといけない。……親の望む「ぼく」にならなくてはならない。だけど、本当にそれでいいのだろうか?いつか過ちとなるまでの物語。
姉らぶるっ!!
藍染惣右介兵衛
青春
俺には二人の容姿端麗な姉がいる。
自慢そうに聞こえただろうか?
それは少しばかり誤解だ。
この二人の姉、どちらも重大な欠陥があるのだ……
次女の青山花穂は高校二年で生徒会長。
外見上はすべて完璧に見える花穂姉ちゃん……
「花穂姉ちゃん! 下着でウロウロするのやめろよなっ!」
「んじゃ、裸ならいいってことねっ!」
▼物語概要
【恋愛感情欠落、解離性健忘というトラウマを抱えながら、姉やヒロインに囲まれて成長していく話です】
47万字以上の大長編になります。(2020年11月現在)
【※不健全ラブコメの注意事項】
この作品は通常のラブコメより下品下劣この上なく、ドン引き、ドシモ、変態、マニアック、陰謀と陰毛渦巻くご都合主義のオンパレードです。
それをウリにして、ギャグなどをミックスした作品です。一話(1部分)1800~3000字と短く、四コマ漫画感覚で手軽に読めます。
全編47万字前後となります。読みごたえも初期より増し、ガッツリ読みたい方にもお勧めです。
また、執筆・原作・草案者が男性と女性両方なので、主人公が男にもかかわらず、男性目線からややずれている部分があります。
【元々、小説家になろうで連載していたものを大幅改訂して連載します】
【なろう版から一部、ストーリー展開と主要キャラの名前が変更になりました】
【2017年4月、本幕が完結しました】
序幕・本幕であらかたの謎が解け、メインヒロインが確定します。
【2018年1月、真幕を開始しました】
ここから読み始めると盛大なネタバレになります(汗)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる