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1巻
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リスティリア王国は魔族との戦争に負けた立場であり、魔王アルスはこの国の新王である。王の命令に敗戦国の平民が逆らうなんてことができるわけもなく、こうしてこの王城にやってきたわけだ。
「どうぞ、こちらへ」
「分かりました」
宿屋にやってきた二人の魔族の兵士のうち、一人は取り付く島もなく、もう一人は慇懃無礼な応対だった。もちろん、二人のどちらからも、こちらに対する好感は感じられない。二人とも、魔王陛下の命令だから仕方なくやっている、というのがありありと態度に出ている。
そんな二人のあとに続いて、おれは王城に向かって進む。
王城の正門までは馬車で来たのだが、正門を抜けた先は城に向かって大階段が延びていた。三百段以上は優にありそうな石階段を上りきった時には、おれは肩でぜぇぜぇと息をしていた。無論、兵士の二人は平然とした顔をしている。
こ、こっちの世界に転生してから、日本人だった時よりもかなり体力がついたと思っていたのに……ちょっとショックだ。
だが、王城の中に入った途端、そんな苦しさはあっという間に忘れてしまった。
外から見てきらびやかだったお城は、むしろ、中のほうがすごかった。
左右には大木のような円筒形の柱がずらりと並び、高い天井にはクリスタル製のシャンデリアが三つも吊り下げられている。大理石の床は、おれの顔が映りそうなほど、ぴかぴかに磨かれていた。
そして、さらに進むとまたもや大きな石階段があり、その奥には、彫刻の施された巨大な扉が見えた。扉の前には、兵士たちが剣を腰に佩いて立っている。おそらく、あの大扉の奥が玉座の間なのだろう。
だが、おれの前を歩く兵士たちは玉座の間には進まなかった。左側に進んで円筒形の柱を回り込むと、その脇にあった階段を上っていく。
二度目の階段にうんざりしたが、幸いにも、ここは外の大階段ほどの長さはなかった。
階段を上がった先は、正門ホールとは雰囲気ががらりと変わり、床も大理石ではなく、真っ赤な絨毯が敷かれていた。廊下の脇には彫刻や花の活けられた花瓶がいくつも置かれており、壁には絵画もかかっている。
……しかし、ちょっとこれはやりすぎじゃないか?
素人目にも、派手すぎるような気がする。彫刻とか花瓶とか、数えただけでもう二十個目だけれど、こんなに置いておく必要があるのか?
っていうか、その花瓶も彫刻も、金箔で過剰な装飾がされていたり、宝石でゴテゴテに飾られていたりする。絵画も絵画で、額縁がピカピカの金色だし。おかげで目が痛くなってきた。
そりゃ、王族が住むお城なんだから、調度品が質素じゃあ他国に舐められるのかもしれないけどさ……でも、リスティリア王国民たちの税金が、こういった贅沢品に使われているのかと思うと、なんだかやるせなくなってくるな……
金ピカの芸術品を見てうんざりしていると、前を歩いていた二人の兵士が、一つの扉の前でぴたりと足を止めた。
この扉にも、見事な彫刻が施された上に金箔が貼り付けられている。
「――魔王陛下。件の者をお連れしました」
三回のノックのあとに、兵士が緊張した面持ちで扉に向かって声をかけた。
おれもハッとして居住まいを正す。
少しの沈黙のあと、扉の向こうから重々しい声が返ってきた。
「……ご苦労。その者だけを入室させろ。お前たちは持ち場に戻るがいい」
その返答に、兵士二人が顔を見合わせた。
おれも驚きのあまり、息を呑む。
その言葉どおりなら、扉の向こうの人物とおれは、このあと二人っきりになるということだ。てっきり、この兵士たちも同席すると思っていたのに……!
「よろしいのでしょうか? 御身の護衛として、我らも共にいたほうが……!」
困惑する兵士に、しかし、扉の向こうの声は揺るがなかった。
「そのような脆弱な普人族が、たった一人で一体なにができるというのだ? お前は、そこのやわな男にこの私がどうこうされると思っているのか」
「い、いえ、そのようなことは!」
「……その男は、剣も魔法もこれっぽっちも使えない。その程度の奴のために、お前たちの時間を浪費させたくないのだ」
焦っていた兵士たちが、その返答を聞いて感じ入ったような表情になる。
「おお……そういうことでしたか。陛下のお気遣いを察せなかった私めをお許しください。では、そういうことであれば……」
一人の兵士がゆっくりと扉を開けた。
もう一人の兵士に小突かれるようにして、おれは恐る恐る足を踏み入れる。背後の扉が閉まる。おれは正面を見つめた。
そして――そこには、かつて見慣れた、しかし、今ではすっかりと見違えた男の姿があった。
あんなに小さかった背丈はずいぶんと高くなり、おれよりも頭一つぶんはある。身体にはしっかりと筋肉がついており、その姿はしなやかな黒豹を連想させた。黒い髪の毛は肩につく程度の長さだ。
けれどただ一つ、金色の瞳の鋭さだけは変わっていなかった。
人を射貫く、心の奥底まで見透かすような、鋭い光。
「……アルス」
――魔王アルス。
それが、彼の今の名前である。
そう――おれの目の前にいるこの眉目秀麗な男こそが、先の戦における革命軍のリーダーだ。
アルスは強力な魔法を使いこなし、各地の奴隷たちを解放して革命軍を組織した。いつしか彼は革命軍の者たちから、魔を率いる王――魔王と呼ばれ始め、その二つ名は瞬く間に王都にも伝わってきた。
アルスがこのリスティリア王国の玉座を奪い取ったあとも、魔王の名は畏怖と畏敬の念をもって使われている。
「……その目はどうした?」
黙って向かい合っていたアルスが口を開いた。
が、言われたことの意味が分からず、きょとんとしてしまう。
しばらくして、ようやくアルスが言わんとすることが分かった。
「ああ、右目のことか。これは、昔ちょっとね」
「……ふぅん?」
アルスが聞いたのは、おれの右目のことだろう。白い眼帯に覆われたそれは、今ではすっかり視力を失っている。だが、右目を失ったのはずいぶんと昔のことなので、今ではさほど不自由さも感じていなかった。
アルスはそれ以上はなにも言わず、どさりと正面にあるソファに腰かけた。
「……こちらに来い」
言われるがまま、アルスが座るソファの正面に立つ。
アルスが顎で床を示したので、意図を察して床に跪く。
仮にも魔王陛下――今では国王陛下か――の前なので自分から進んでそうするべきだったのかもしれないが、前世でも今世でもずっと庶民のおれに、そこらへんの礼儀作法は期待しないでほしい。
「――で?」
「え?」
アルスが端的に問いかけてきた。
が、端的すぎて意味が分からない。
「自分より下に見ていた、可哀想なものだと見下していたモノに、こうして言葉ひとつで呼び出される気分はどうだ?」
……ああ、そういう意味か。
アルスは無表情のまま、おれを見下ろしている。
その視線は絶対零度よりもはるかに冷たく、そして切り刻まれそうなほどに鋭い。
おれは少し考えたあと、素直に自分の今の気持ちを述べることにした。
「えーっと……なんでおれがここに呼ばれたんだろうって疑問と、魔王陛下からの直々の呼び出しとはいえ、仕事に急に穴をあけちゃって宿屋の親父さんに申し訳ないな、って気持ちだけれど」
「……貴様、ふざけているのか?」
ふざけているわけじゃない。ただ、アルスの視線があんまりにも鋭くて、下手な言い訳は一切通用しそうになくて――そういうところが、本当に昔から変わってないなぁと思ったら、なんだか懐かしくて嬉しくなってしまったのである。
でも、それをありのままに告げられる雰囲気ではなかったので、とりあえずおれが心の隅でずっと気に病んでいることを告げてみた次第だ。嘘を言っているわけでもないしな。
「ふざけたり、冗談を言ってるわけじゃなくて……ただ、今のアルスは、種族関係なく民衆に人気の、いい王様で通ってるんだからさ。ただの一市民をこんなふうに呼びつけて大丈夫なのかな、と思ってさ」
そう――このリスティリア王国は、今、おれの目の前にいる魔王アルス率いる革命軍に敗北した。王城は占拠され、この国の王族や主要な貴族は軒並み処刑され、城下町には魔族や獣人族が闊歩するようになった。
けれど――おれが読んでいた漫画、『リスティリア王国戦記』のストーリーとは違い、それは決して暴力的な支配ではなかった。
確かに、魔王アルスが今まで奴隷として虐げられていた魔族と獣人族たちを率い、王族や貴族を殺し、この国を乗っ取ったところまでは同じだ。
だが、漫画とは違って、魔王アルスはリスティリア王国民たちを奴隷にすることはなかったのである。
それどころか、彼はリスティリア王国に攻め入り、王城を落としたあと、「魔族や獣人族を奴隷に貶めていたのは、この国の王族と貴族であり、平民にその咎を問うことはしない。無辜の民を傷つけた者は、革命軍の者であっても厳重に処罰する」と布告を出したのだ。
確かにアルスの言うとおり、この国の王族と主要な貴族は腐りきっていた。
なにせ、前リスティリア国王は「近年の国庫の状況を鑑みて、一般市民の家屋の窓や扉に税を課すこととなった。これは一般的な家庭において扉・窓が贅沢品の類であり、通常の営みには必要不可欠なものではないと判断したものである」と宣言していたくらいである。
要約すると「国のお金がなくなっちゃったから、一般市民は自宅の窓や扉の枚数ごとに税金払ってね! ドアとか窓とか、ふつーに暮らす分には別に必要ないから贅沢品だよね? 屋根があれば住むには充分でしょ?」という意味だ。
平民は日の当たらない地下に住めとでも言うのだろうか?
それとも、平民は全員まとめてホームレスかテント暮らしにでもなれと?
しかも、平民が貧困に喘いでいるのを尻目に、王族や貴族は酒池肉林ざんまいで、魔族や獣人族を攫ってきては使役魔術で奴隷に落とすという蛮行を繰り返していたのだ。
年々重くなる税金と、暴虐を尽くす彼らに、民衆の不満は溜まりに溜まっていた。
まぁ、そんなわけで「王様や貴族が殺されようが、これ以上この国は悪くなりようがないだろ!」という空気だったのである。
……とはいえ、もしもアルスが『リスティリア王国戦記』と同じように「我らが味わった屈辱と苦渋を、この国の民にも同じように味わってもらう」なんて言い出したりしていたら、この国は漫画同様、さらに悪いほうへ悪いほうへと転がり落ちていったはずだ。
だが、実際に出された慈悲深い布告のおかげで、平民の暮らしは守られた。
しかも先日、アルスは、「年貢や通行税を軽減し公共事業をおこなう」と発表した。
そのため、今や種族関係なく、魔王アルスの評判はうなぎ登りだ。
というか、王や主要貴族の首がさらされ、解放記念として城に貯蔵されていた食料が振る舞われただけで、王都はもはやお祭りさわぎだった。
王都に出入りするようになった魔族や獣人族も、マナーがよく、チップの支払いも気前がいいので、こちらも特に問題なかったりする。
おれの働いている宿屋の親父さんだって、新しいウェイトレスの猫耳獣人のミーナちゃんにめちゃくちゃデレデレだしな……
「今、お前は国王に就任したばかりで微妙な時期だろう? お前の弱みを探っている連中だって、まだこの国にはいるはずだ。おれを呼びつけたことが、そういう連中にとってつけこむ隙になるんじゃないかってのが心配だよ」
前リスティリア国王に近しい貴族や、魔族や獣人族を奴隷にしていた貴族たちはとっくに処刑されている。だが、すべての貴族を処刑したわけではないのだ。
生き残っている貴族の中には、面従腹背の者もいるだろう。民衆の中にだって、「いくら暮らしが良くなったって、異種族が町に入ってくるのはいやだ」と言う人がいるくらいなのだ。
「…………」
だがアルスは、なにを言われたのか分からないと言わんばかりの顔で、眉間に皺を寄せている。
そんなアルスを見ていたら、ふと、おれは先ほどの彼の言葉を思い出した。
『……その男は、剣も魔法もこれっぽっちも使えない。その程度の奴のために、お前たちの時間を浪費させたくないのだ』
……ああ、そっか。おれの考えはどうやら思い上がりだったらしい。
おれなんかを呼びつけたくらいで、魔王アルスの評判が揺らぐことはないのだ。
……おれはかつて、幼い頃にアルスと出会った。そして、この世界が漫画『リスティリア王国戦記』の世界だと気づき、彼をなんとか魔王にしないようにと色々と奔走した。
だが結局、おれとアルスは離れ離れになり、お互いに違う道を歩むことになった。
そして、アルスはその道で「魔王」になってしまった。
しかし――今のこの世界は、おれが漫画で知っていた『リスティリア王国戦記』とは、まったく異なる道を進んでいる。
普人族が奴隷になることはなく、魔族と獣人族、普人族の三種族が手を取り合い、平和的な道を歩もうとしているのだ。そして、その最良の結果を導いたのは、〝魔王アルス〟である。
……つまり、おれがやってきたことは、なにもかも無駄だったんだろう。
おれがアルスと共にいたのは、本当に短い時間だった。それで、彼のなにかを変えることができたはずがないし、そもそもおれたちの別離は最悪なものだった。
だから、おれがなにをせずとも、きっとアルスはその実力で、この未来にたどり着いていたに違いない。
前世で読んだ『リスティリア王国戦記』は、この世界と似て非なるものだったのだろう。
おれがやったことは、なんの意味もないことだったのだ。そんなおれを呼びつけたところで、今更魔王アルスの評判に傷がつくはずもない。
「いや、ごめん。今の言葉は忘れてくれ。アルスにとって、おれなんか大した存在でもないよな。失礼なことを言って悪かった」
おれがそう述べた瞬間だった。
「――大したことがない、だと?」
いきなり、室内に吹雪でも入り込んできたのかと思った。それほどの冷気がおれを襲った。
心なしか、窓から見える空もどんよりと曇り始めたように感じる。
「ク……ククッ、ハハッ……! そうか、やはりそういうことだったんだな……!」
「ア、アルス?」
――あれ、もしかしてなんかやばいか、コレ!?
アルス、めちゃくちゃ怒ってる……!
おれの発言のなにが問題だったのかは分からないが、特大級の地雷を踏んだことは分かる。
「……もういい。これ以上話していると、嬲り殺したくなってくる」
乾いた笑いを収めたアルスは、ギロリとおれを睨みつけた。
……これ、大丈夫? もしかしておれ、もう生きて城から出られないんじゃない?
冷や汗をだらだらとかきながら、まるで断頭台に上がったような心地でアルスの次の言葉を待つ。
が、次に告げられた言葉は、おれの予想の斜め上をいくものだった。
「……なぜ貴様をここに呼んだか、と言ったな。ここに貴様を呼びつけたのは、これからこの城で俺の側仕えとして働いてもらうためだ」
「側仕え……って、えっ!?」
聞き間違いじゃないかと思い、まじまじとアルスを見つめる。
だが、アルスはどうやらマジで言っているようだ。
「貴様の雇い先である宿屋にも話は通し、補填の金も渡した。貴様に拒否権はないぞ」
「なっ……!」
いきなり、そんな横暴な!?
そりゃあ一般的に考えて、魔王陛下の側仕えなんてものは大変に名誉な役職なんだろうが……おれはそんな仕事、全然できる気がしない……!
前世はサラリーマンで、今世は宿屋の従業員だぞ。国王陛下の側仕えとか一気にステップアップしすぎてない?
そもそも、いきなりなんでそんな話に!?
それになにより……その、おれは昔、アルスにひどい言葉を投げつけた。
おれたちが別々の道を歩むことになったのも、それが理由だ。そんなおれを、どうしてアルスはそばに置きたいだなんて言うんだ……?
「……分かるか? これは復讐だ」
アルスはおれのシャツを片手でぐいと掴み、顔を寄せてきた。
その金色の瞳は憎悪に爛々と輝き、おれを真正面からぎろりと見据えてくる。
「かつて貴様は、中途半端に俺の味方のふりをして……俺を、最後の最後で置いていった」
「……っ……」
「貴様のような卑怯者に一時でも心を許した俺が愚かだった。これからは、俺が飽きるまでせいぜい飼い殺しにしてやる」
分かったか、と一方的に告げられ、掴まれていたシャツを放される。
そんな彼に――おれは、なにも反論できなかった。
だって、まったくそのとおりだったから。
おれは幼い頃、アルスと親しくなったが……最終的に、おれは手酷い形でアルスを突き放して置き去りにした。そういうことに、なってしまった。
「……分かったよ。そういうことなら、仕方がないな」
アルスの気が済むようにすればいい。
そう言って、アルスから逃げるように俯くおれ。
その瞬間、アルスの顔がくしゃりと泣き出しそうに見えたが、きっとおれの見間違いだろう。
しばらくしてから、おれは気まずさを払拭するように口を開いた。
「けどさ。おれは側仕えなんて、全然これっぽっちもできる気がしないぞ? 本当におれでいいのか」
「それはいい。側仕えというのはただの名目だからな」
「名目……?」
アルスの言っている意味が分からなくて、首を傾げる。
「レン、来い」
アルスがおれの手首を引きながら、おれの名前を呼んだ。
アルスに名前を呼ばれるのは久しぶりのことで、ドキリとしてしまう。
おれたちが別れたのは、お互いまだ変声期前の子どもの頃だった。今のアルスの声は、耳に心地いい低い声で、そんな声で名前を呼ばれると、なんだか変な気持ちになってしまう。
「……レン」
アルスに導かれるまま、おれはソファに座る。が、なぜかアルスは、そのままおれの身体にのしかかってくる。
あっけに取られていると、アルスはおれの身体をソファに押し倒し、馬乗りになった。
「っ、ちょ……ア、アルス?」
「なんだ」
「いや、その、なんだじゃなくて……なっ、なんで服を脱がせ始めるんだよっ!?」
「側仕えというのは名目だと言っただろう? 主な仕事は、俺の閨の相手だ」
「はい!?」
ちょっと待って、待って!?
アルスが、あのアルスが、子どもの頃にはカルガモの雛みたいに純真でおれについてきていた可愛いアルスが、なんかすごいコトを言い出し始めたんだけど!?
「先程、貴様も言ったではないか。国を支配したばかりの俺の周りには、弱みを探ってくる連中や、自分の娘を新国王の妾や后に据えようと狙う輩が多くてな。閨に下手に女も呼べん」
「だ、だからって……おれを相手にとか、だいぶ血迷ってないか!?」
そう言っている間にも、アルスはおれのシャツのボタンをすっかり外してしまっていた。こんな真っ昼間の応接間で、上半身をあらわにしている自分が恥ずかしく、頭にかあっと血が上ってしまう。おれの上にいるアルスが、礼服をかっちり着込んだままというのも、恥ずかしさに拍車をかけた。
「言っただろう? これは復讐だ」
「っ……!」
アルスがひんやりとした指先で、おれの胸をなぞる。
その冷たさに、思わず肩が跳ねた。
「……貴様は俺に優しさを与えておいて、最後には俺を突き放した」
「っ、アルス……ッ」
「今や俺はリスティリア王国の王で、貴様は俺の所有物だ。仕事も家も俺が奪ってやった。だが、それだけでは飽き足りん。この身体も快楽に染め上げて、二度と俺から離れられなくさせてやる」
「っ、あ……!」
アルスの指先が、乳首をかすめた。
そのまま、乳首の先端をくにくにといじられて、身体が震えてしまう。
「んぅ、ふ……」
「思ったよりも、いい声で啼くじゃないか」
くくっ、と喉の奥で愉しそうに笑われ、おれは自分の顔が真っ赤に染まるのが分かった。
は、恥ずかしい、こんな……
「ココが感じるのか? 敏感だな」
「……はぁっ、……うぅ……あっ!」
指で乳首をつままれ、いじくられるたびに、腰がびくびくと跳ねてしまう。
しばらくそこをいじられ続け、おれはすっかり息も絶え絶えとなる。アルスを押しのけようにも、身体からは力が抜けきっていた。
アルスはそれを見計らったかのように、おれの下肢に手を伸ばし、ズボンも取り去ってしまう。
「もうココはこんなだぞ、レン」
「っ……! い、言うなよ……」
おれのソコは明らかに立ち上がっており、おれは恥ずかしさに身体をくねらせる。
「ふっ……それじゃ逆効果だ。それとも、俺を誘っているのか?」
「なっ!」
アルスの言い分に、一気に顔が熱くなった。くそ、今のおれはもはや耳まで真っ赤になっているに違いない。
「顔が真っ赤だぞ」
「ひぁっ!?」
そう言うアルスに陰茎の亀頭を親指でグリグリと刺激され、悲鳴に近い声を上げる。
「……言っておくが、この程度じゃ済まさない。これから、娼婦ですら逃げ出すような快楽を与えてやるからな。覚悟しておけ」
アルスが低い声でおれの耳元で囁き、爪を立てるようにして、鈴口をグリッと刺激した。
「っぁ、ぁあっ!」
その瞬間、おれは全身を硬直させて絶頂を迎えた。先端から、白濁した液が溢れ、アルスの手を汚してしまう。液が溢れ出る間、おれもびくびくと身体をソファの上で震わせた。
「ふ……イったか」
「ぁ……」
頭がぼうっとして、なにも考えられない。
はぁはぁと肩で息をし、涙目になっているおれを、アルスは満足げに見下ろしている。
「……レン」
アルスはおれの頬を撫でながら目を細める。そして、唇に触れるだけのキスを落として囁いた。
「貴様は……お前は、俺のものだ。もう……どこにも行かせない」
「っ、アルス……」
アルスの囁きと同時に、ぐっ、と後孔になにかが押し入る感覚があった。
だが、イったばかりで身体の力が抜けきっているためか、あまり痛みは感じない。ただ、異物に対する違和感だけがある。
その違和感も、アルスの指先が、おれの胎内のナカのしこりを押し潰した瞬間、頭が真っ白になるほどの快感へと変わった。
「ひっ、あっ、ゃ……ぁっ!」
「イイ声だな……女のような声だ」
「あっ、な、なにして……」
「知らんのか? ココが、前立腺というやつだ。だが、初めてでこうも乱れるとは、予想していなかったがな」
「いっ! あ、やだ、だ、だめ……っ」
目の前に火花が散るほどの快楽に、目尻からぼろぼろと涙がこぼれる。
なんとかアルスを止めようと手を伸ばしたものの、おれの弱々しい抵抗など、アルスは意に介さなかった。むしろ、おれがアルスにすがるような格好になってしまう。
「ふっ……レン、貴様、自分がどんな顔をしているか分かっているか?」
「っ……」
「後ろでの快楽に浸りきり、あられもない声を上げて……もはや雌の顔だ。それでこそ、俺の溜飲も下がるというものだ」
「っ……なら、これでもう満足したか……?」
「まさか。今までのはただの前戯だぞ」
後孔になにかを当てられたと思った瞬間、おれのナカに、硬く、熱いものが無遠慮に踏み込んできた。アルスの肉棒は、その先端で、おれの胎内にあるしこりを押し上げ、ぐりっ、とえぐる。
瞬間、視界が真っ白に染まり、おれはもはや悲鳴に近い嬌声を上げた。
「~~……っ!! あっ、ァ、んあ!!」
「っ……さすがに狭いな」
愉しそうに笑うアルスが、おれの胎内のしこりを執拗に先端で押し上げる。そのたびに、おれの身体がびくびくと魚のように跳ねる。その快楽はもはや暴力に近い。
「あっ、あぁ、ァ!」
「どうぞ、こちらへ」
「分かりました」
宿屋にやってきた二人の魔族の兵士のうち、一人は取り付く島もなく、もう一人は慇懃無礼な応対だった。もちろん、二人のどちらからも、こちらに対する好感は感じられない。二人とも、魔王陛下の命令だから仕方なくやっている、というのがありありと態度に出ている。
そんな二人のあとに続いて、おれは王城に向かって進む。
王城の正門までは馬車で来たのだが、正門を抜けた先は城に向かって大階段が延びていた。三百段以上は優にありそうな石階段を上りきった時には、おれは肩でぜぇぜぇと息をしていた。無論、兵士の二人は平然とした顔をしている。
こ、こっちの世界に転生してから、日本人だった時よりもかなり体力がついたと思っていたのに……ちょっとショックだ。
だが、王城の中に入った途端、そんな苦しさはあっという間に忘れてしまった。
外から見てきらびやかだったお城は、むしろ、中のほうがすごかった。
左右には大木のような円筒形の柱がずらりと並び、高い天井にはクリスタル製のシャンデリアが三つも吊り下げられている。大理石の床は、おれの顔が映りそうなほど、ぴかぴかに磨かれていた。
そして、さらに進むとまたもや大きな石階段があり、その奥には、彫刻の施された巨大な扉が見えた。扉の前には、兵士たちが剣を腰に佩いて立っている。おそらく、あの大扉の奥が玉座の間なのだろう。
だが、おれの前を歩く兵士たちは玉座の間には進まなかった。左側に進んで円筒形の柱を回り込むと、その脇にあった階段を上っていく。
二度目の階段にうんざりしたが、幸いにも、ここは外の大階段ほどの長さはなかった。
階段を上がった先は、正門ホールとは雰囲気ががらりと変わり、床も大理石ではなく、真っ赤な絨毯が敷かれていた。廊下の脇には彫刻や花の活けられた花瓶がいくつも置かれており、壁には絵画もかかっている。
……しかし、ちょっとこれはやりすぎじゃないか?
素人目にも、派手すぎるような気がする。彫刻とか花瓶とか、数えただけでもう二十個目だけれど、こんなに置いておく必要があるのか?
っていうか、その花瓶も彫刻も、金箔で過剰な装飾がされていたり、宝石でゴテゴテに飾られていたりする。絵画も絵画で、額縁がピカピカの金色だし。おかげで目が痛くなってきた。
そりゃ、王族が住むお城なんだから、調度品が質素じゃあ他国に舐められるのかもしれないけどさ……でも、リスティリア王国民たちの税金が、こういった贅沢品に使われているのかと思うと、なんだかやるせなくなってくるな……
金ピカの芸術品を見てうんざりしていると、前を歩いていた二人の兵士が、一つの扉の前でぴたりと足を止めた。
この扉にも、見事な彫刻が施された上に金箔が貼り付けられている。
「――魔王陛下。件の者をお連れしました」
三回のノックのあとに、兵士が緊張した面持ちで扉に向かって声をかけた。
おれもハッとして居住まいを正す。
少しの沈黙のあと、扉の向こうから重々しい声が返ってきた。
「……ご苦労。その者だけを入室させろ。お前たちは持ち場に戻るがいい」
その返答に、兵士二人が顔を見合わせた。
おれも驚きのあまり、息を呑む。
その言葉どおりなら、扉の向こうの人物とおれは、このあと二人っきりになるということだ。てっきり、この兵士たちも同席すると思っていたのに……!
「よろしいのでしょうか? 御身の護衛として、我らも共にいたほうが……!」
困惑する兵士に、しかし、扉の向こうの声は揺るがなかった。
「そのような脆弱な普人族が、たった一人で一体なにができるというのだ? お前は、そこのやわな男にこの私がどうこうされると思っているのか」
「い、いえ、そのようなことは!」
「……その男は、剣も魔法もこれっぽっちも使えない。その程度の奴のために、お前たちの時間を浪費させたくないのだ」
焦っていた兵士たちが、その返答を聞いて感じ入ったような表情になる。
「おお……そういうことでしたか。陛下のお気遣いを察せなかった私めをお許しください。では、そういうことであれば……」
一人の兵士がゆっくりと扉を開けた。
もう一人の兵士に小突かれるようにして、おれは恐る恐る足を踏み入れる。背後の扉が閉まる。おれは正面を見つめた。
そして――そこには、かつて見慣れた、しかし、今ではすっかりと見違えた男の姿があった。
あんなに小さかった背丈はずいぶんと高くなり、おれよりも頭一つぶんはある。身体にはしっかりと筋肉がついており、その姿はしなやかな黒豹を連想させた。黒い髪の毛は肩につく程度の長さだ。
けれどただ一つ、金色の瞳の鋭さだけは変わっていなかった。
人を射貫く、心の奥底まで見透かすような、鋭い光。
「……アルス」
――魔王アルス。
それが、彼の今の名前である。
そう――おれの目の前にいるこの眉目秀麗な男こそが、先の戦における革命軍のリーダーだ。
アルスは強力な魔法を使いこなし、各地の奴隷たちを解放して革命軍を組織した。いつしか彼は革命軍の者たちから、魔を率いる王――魔王と呼ばれ始め、その二つ名は瞬く間に王都にも伝わってきた。
アルスがこのリスティリア王国の玉座を奪い取ったあとも、魔王の名は畏怖と畏敬の念をもって使われている。
「……その目はどうした?」
黙って向かい合っていたアルスが口を開いた。
が、言われたことの意味が分からず、きょとんとしてしまう。
しばらくして、ようやくアルスが言わんとすることが分かった。
「ああ、右目のことか。これは、昔ちょっとね」
「……ふぅん?」
アルスが聞いたのは、おれの右目のことだろう。白い眼帯に覆われたそれは、今ではすっかり視力を失っている。だが、右目を失ったのはずいぶんと昔のことなので、今ではさほど不自由さも感じていなかった。
アルスはそれ以上はなにも言わず、どさりと正面にあるソファに腰かけた。
「……こちらに来い」
言われるがまま、アルスが座るソファの正面に立つ。
アルスが顎で床を示したので、意図を察して床に跪く。
仮にも魔王陛下――今では国王陛下か――の前なので自分から進んでそうするべきだったのかもしれないが、前世でも今世でもずっと庶民のおれに、そこらへんの礼儀作法は期待しないでほしい。
「――で?」
「え?」
アルスが端的に問いかけてきた。
が、端的すぎて意味が分からない。
「自分より下に見ていた、可哀想なものだと見下していたモノに、こうして言葉ひとつで呼び出される気分はどうだ?」
……ああ、そういう意味か。
アルスは無表情のまま、おれを見下ろしている。
その視線は絶対零度よりもはるかに冷たく、そして切り刻まれそうなほどに鋭い。
おれは少し考えたあと、素直に自分の今の気持ちを述べることにした。
「えーっと……なんでおれがここに呼ばれたんだろうって疑問と、魔王陛下からの直々の呼び出しとはいえ、仕事に急に穴をあけちゃって宿屋の親父さんに申し訳ないな、って気持ちだけれど」
「……貴様、ふざけているのか?」
ふざけているわけじゃない。ただ、アルスの視線があんまりにも鋭くて、下手な言い訳は一切通用しそうになくて――そういうところが、本当に昔から変わってないなぁと思ったら、なんだか懐かしくて嬉しくなってしまったのである。
でも、それをありのままに告げられる雰囲気ではなかったので、とりあえずおれが心の隅でずっと気に病んでいることを告げてみた次第だ。嘘を言っているわけでもないしな。
「ふざけたり、冗談を言ってるわけじゃなくて……ただ、今のアルスは、種族関係なく民衆に人気の、いい王様で通ってるんだからさ。ただの一市民をこんなふうに呼びつけて大丈夫なのかな、と思ってさ」
そう――このリスティリア王国は、今、おれの目の前にいる魔王アルス率いる革命軍に敗北した。王城は占拠され、この国の王族や主要な貴族は軒並み処刑され、城下町には魔族や獣人族が闊歩するようになった。
けれど――おれが読んでいた漫画、『リスティリア王国戦記』のストーリーとは違い、それは決して暴力的な支配ではなかった。
確かに、魔王アルスが今まで奴隷として虐げられていた魔族と獣人族たちを率い、王族や貴族を殺し、この国を乗っ取ったところまでは同じだ。
だが、漫画とは違って、魔王アルスはリスティリア王国民たちを奴隷にすることはなかったのである。
それどころか、彼はリスティリア王国に攻め入り、王城を落としたあと、「魔族や獣人族を奴隷に貶めていたのは、この国の王族と貴族であり、平民にその咎を問うことはしない。無辜の民を傷つけた者は、革命軍の者であっても厳重に処罰する」と布告を出したのだ。
確かにアルスの言うとおり、この国の王族と主要な貴族は腐りきっていた。
なにせ、前リスティリア国王は「近年の国庫の状況を鑑みて、一般市民の家屋の窓や扉に税を課すこととなった。これは一般的な家庭において扉・窓が贅沢品の類であり、通常の営みには必要不可欠なものではないと判断したものである」と宣言していたくらいである。
要約すると「国のお金がなくなっちゃったから、一般市民は自宅の窓や扉の枚数ごとに税金払ってね! ドアとか窓とか、ふつーに暮らす分には別に必要ないから贅沢品だよね? 屋根があれば住むには充分でしょ?」という意味だ。
平民は日の当たらない地下に住めとでも言うのだろうか?
それとも、平民は全員まとめてホームレスかテント暮らしにでもなれと?
しかも、平民が貧困に喘いでいるのを尻目に、王族や貴族は酒池肉林ざんまいで、魔族や獣人族を攫ってきては使役魔術で奴隷に落とすという蛮行を繰り返していたのだ。
年々重くなる税金と、暴虐を尽くす彼らに、民衆の不満は溜まりに溜まっていた。
まぁ、そんなわけで「王様や貴族が殺されようが、これ以上この国は悪くなりようがないだろ!」という空気だったのである。
……とはいえ、もしもアルスが『リスティリア王国戦記』と同じように「我らが味わった屈辱と苦渋を、この国の民にも同じように味わってもらう」なんて言い出したりしていたら、この国は漫画同様、さらに悪いほうへ悪いほうへと転がり落ちていったはずだ。
だが、実際に出された慈悲深い布告のおかげで、平民の暮らしは守られた。
しかも先日、アルスは、「年貢や通行税を軽減し公共事業をおこなう」と発表した。
そのため、今や種族関係なく、魔王アルスの評判はうなぎ登りだ。
というか、王や主要貴族の首がさらされ、解放記念として城に貯蔵されていた食料が振る舞われただけで、王都はもはやお祭りさわぎだった。
王都に出入りするようになった魔族や獣人族も、マナーがよく、チップの支払いも気前がいいので、こちらも特に問題なかったりする。
おれの働いている宿屋の親父さんだって、新しいウェイトレスの猫耳獣人のミーナちゃんにめちゃくちゃデレデレだしな……
「今、お前は国王に就任したばかりで微妙な時期だろう? お前の弱みを探っている連中だって、まだこの国にはいるはずだ。おれを呼びつけたことが、そういう連中にとってつけこむ隙になるんじゃないかってのが心配だよ」
前リスティリア国王に近しい貴族や、魔族や獣人族を奴隷にしていた貴族たちはとっくに処刑されている。だが、すべての貴族を処刑したわけではないのだ。
生き残っている貴族の中には、面従腹背の者もいるだろう。民衆の中にだって、「いくら暮らしが良くなったって、異種族が町に入ってくるのはいやだ」と言う人がいるくらいなのだ。
「…………」
だがアルスは、なにを言われたのか分からないと言わんばかりの顔で、眉間に皺を寄せている。
そんなアルスを見ていたら、ふと、おれは先ほどの彼の言葉を思い出した。
『……その男は、剣も魔法もこれっぽっちも使えない。その程度の奴のために、お前たちの時間を浪費させたくないのだ』
……ああ、そっか。おれの考えはどうやら思い上がりだったらしい。
おれなんかを呼びつけたくらいで、魔王アルスの評判が揺らぐことはないのだ。
……おれはかつて、幼い頃にアルスと出会った。そして、この世界が漫画『リスティリア王国戦記』の世界だと気づき、彼をなんとか魔王にしないようにと色々と奔走した。
だが結局、おれとアルスは離れ離れになり、お互いに違う道を歩むことになった。
そして、アルスはその道で「魔王」になってしまった。
しかし――今のこの世界は、おれが漫画で知っていた『リスティリア王国戦記』とは、まったく異なる道を進んでいる。
普人族が奴隷になることはなく、魔族と獣人族、普人族の三種族が手を取り合い、平和的な道を歩もうとしているのだ。そして、その最良の結果を導いたのは、〝魔王アルス〟である。
……つまり、おれがやってきたことは、なにもかも無駄だったんだろう。
おれがアルスと共にいたのは、本当に短い時間だった。それで、彼のなにかを変えることができたはずがないし、そもそもおれたちの別離は最悪なものだった。
だから、おれがなにをせずとも、きっとアルスはその実力で、この未来にたどり着いていたに違いない。
前世で読んだ『リスティリア王国戦記』は、この世界と似て非なるものだったのだろう。
おれがやったことは、なんの意味もないことだったのだ。そんなおれを呼びつけたところで、今更魔王アルスの評判に傷がつくはずもない。
「いや、ごめん。今の言葉は忘れてくれ。アルスにとって、おれなんか大した存在でもないよな。失礼なことを言って悪かった」
おれがそう述べた瞬間だった。
「――大したことがない、だと?」
いきなり、室内に吹雪でも入り込んできたのかと思った。それほどの冷気がおれを襲った。
心なしか、窓から見える空もどんよりと曇り始めたように感じる。
「ク……ククッ、ハハッ……! そうか、やはりそういうことだったんだな……!」
「ア、アルス?」
――あれ、もしかしてなんかやばいか、コレ!?
アルス、めちゃくちゃ怒ってる……!
おれの発言のなにが問題だったのかは分からないが、特大級の地雷を踏んだことは分かる。
「……もういい。これ以上話していると、嬲り殺したくなってくる」
乾いた笑いを収めたアルスは、ギロリとおれを睨みつけた。
……これ、大丈夫? もしかしておれ、もう生きて城から出られないんじゃない?
冷や汗をだらだらとかきながら、まるで断頭台に上がったような心地でアルスの次の言葉を待つ。
が、次に告げられた言葉は、おれの予想の斜め上をいくものだった。
「……なぜ貴様をここに呼んだか、と言ったな。ここに貴様を呼びつけたのは、これからこの城で俺の側仕えとして働いてもらうためだ」
「側仕え……って、えっ!?」
聞き間違いじゃないかと思い、まじまじとアルスを見つめる。
だが、アルスはどうやらマジで言っているようだ。
「貴様の雇い先である宿屋にも話は通し、補填の金も渡した。貴様に拒否権はないぞ」
「なっ……!」
いきなり、そんな横暴な!?
そりゃあ一般的に考えて、魔王陛下の側仕えなんてものは大変に名誉な役職なんだろうが……おれはそんな仕事、全然できる気がしない……!
前世はサラリーマンで、今世は宿屋の従業員だぞ。国王陛下の側仕えとか一気にステップアップしすぎてない?
そもそも、いきなりなんでそんな話に!?
それになにより……その、おれは昔、アルスにひどい言葉を投げつけた。
おれたちが別々の道を歩むことになったのも、それが理由だ。そんなおれを、どうしてアルスはそばに置きたいだなんて言うんだ……?
「……分かるか? これは復讐だ」
アルスはおれのシャツを片手でぐいと掴み、顔を寄せてきた。
その金色の瞳は憎悪に爛々と輝き、おれを真正面からぎろりと見据えてくる。
「かつて貴様は、中途半端に俺の味方のふりをして……俺を、最後の最後で置いていった」
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アルスの気が済むようにすればいい。
そう言って、アルスから逃げるように俯くおれ。
その瞬間、アルスの顔がくしゃりと泣き出しそうに見えたが、きっとおれの見間違いだろう。
しばらくしてから、おれは気まずさを払拭するように口を開いた。
「けどさ。おれは側仕えなんて、全然これっぽっちもできる気がしないぞ? 本当におれでいいのか」
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「名目……?」
アルスの言っている意味が分からなくて、首を傾げる。
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アルスがおれの手首を引きながら、おれの名前を呼んだ。
アルスに名前を呼ばれるのは久しぶりのことで、ドキリとしてしまう。
おれたちが別れたのは、お互いまだ変声期前の子どもの頃だった。今のアルスの声は、耳に心地いい低い声で、そんな声で名前を呼ばれると、なんだか変な気持ちになってしまう。
「……レン」
アルスに導かれるまま、おれはソファに座る。が、なぜかアルスは、そのままおれの身体にのしかかってくる。
あっけに取られていると、アルスはおれの身体をソファに押し倒し、馬乗りになった。
「っ、ちょ……ア、アルス?」
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「いや、その、なんだじゃなくて……なっ、なんで服を脱がせ始めるんだよっ!?」
「側仕えというのは名目だと言っただろう? 主な仕事は、俺の閨の相手だ」
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ちょっと待って、待って!?
アルスが、あのアルスが、子どもの頃にはカルガモの雛みたいに純真でおれについてきていた可愛いアルスが、なんかすごいコトを言い出し始めたんだけど!?
「先程、貴様も言ったではないか。国を支配したばかりの俺の周りには、弱みを探ってくる連中や、自分の娘を新国王の妾や后に据えようと狙う輩が多くてな。閨に下手に女も呼べん」
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そう言っている間にも、アルスはおれのシャツのボタンをすっかり外してしまっていた。こんな真っ昼間の応接間で、上半身をあらわにしている自分が恥ずかしく、頭にかあっと血が上ってしまう。おれの上にいるアルスが、礼服をかっちり着込んだままというのも、恥ずかしさに拍車をかけた。
「言っただろう? これは復讐だ」
「っ……!」
アルスがひんやりとした指先で、おれの胸をなぞる。
その冷たさに、思わず肩が跳ねた。
「……貴様は俺に優しさを与えておいて、最後には俺を突き放した」
「っ、アルス……ッ」
「今や俺はリスティリア王国の王で、貴様は俺の所有物だ。仕事も家も俺が奪ってやった。だが、それだけでは飽き足りん。この身体も快楽に染め上げて、二度と俺から離れられなくさせてやる」
「っ、あ……!」
アルスの指先が、乳首をかすめた。
そのまま、乳首の先端をくにくにといじられて、身体が震えてしまう。
「んぅ、ふ……」
「思ったよりも、いい声で啼くじゃないか」
くくっ、と喉の奥で愉しそうに笑われ、おれは自分の顔が真っ赤に染まるのが分かった。
は、恥ずかしい、こんな……
「ココが感じるのか? 敏感だな」
「……はぁっ、……うぅ……あっ!」
指で乳首をつままれ、いじくられるたびに、腰がびくびくと跳ねてしまう。
しばらくそこをいじられ続け、おれはすっかり息も絶え絶えとなる。アルスを押しのけようにも、身体からは力が抜けきっていた。
アルスはそれを見計らったかのように、おれの下肢に手を伸ばし、ズボンも取り去ってしまう。
「もうココはこんなだぞ、レン」
「っ……! い、言うなよ……」
おれのソコは明らかに立ち上がっており、おれは恥ずかしさに身体をくねらせる。
「ふっ……それじゃ逆効果だ。それとも、俺を誘っているのか?」
「なっ!」
アルスの言い分に、一気に顔が熱くなった。くそ、今のおれはもはや耳まで真っ赤になっているに違いない。
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「ひぁっ!?」
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「っぁ、ぁあっ!」
その瞬間、おれは全身を硬直させて絶頂を迎えた。先端から、白濁した液が溢れ、アルスの手を汚してしまう。液が溢れ出る間、おれもびくびくと身体をソファの上で震わせた。
「ふ……イったか」
「ぁ……」
頭がぼうっとして、なにも考えられない。
はぁはぁと肩で息をし、涙目になっているおれを、アルスは満足げに見下ろしている。
「……レン」
アルスはおれの頬を撫でながら目を細める。そして、唇に触れるだけのキスを落として囁いた。
「貴様は……お前は、俺のものだ。もう……どこにも行かせない」
「っ、アルス……」
アルスの囁きと同時に、ぐっ、と後孔になにかが押し入る感覚があった。
だが、イったばかりで身体の力が抜けきっているためか、あまり痛みは感じない。ただ、異物に対する違和感だけがある。
その違和感も、アルスの指先が、おれの胎内のナカのしこりを押し潰した瞬間、頭が真っ白になるほどの快感へと変わった。
「ひっ、あっ、ゃ……ぁっ!」
「イイ声だな……女のような声だ」
「あっ、な、なにして……」
「知らんのか? ココが、前立腺というやつだ。だが、初めてでこうも乱れるとは、予想していなかったがな」
「いっ! あ、やだ、だ、だめ……っ」
目の前に火花が散るほどの快楽に、目尻からぼろぼろと涙がこぼれる。
なんとかアルスを止めようと手を伸ばしたものの、おれの弱々しい抵抗など、アルスは意に介さなかった。むしろ、おれがアルスにすがるような格好になってしまう。
「ふっ……レン、貴様、自分がどんな顔をしているか分かっているか?」
「っ……」
「後ろでの快楽に浸りきり、あられもない声を上げて……もはや雌の顔だ。それでこそ、俺の溜飲も下がるというものだ」
「っ……なら、これでもう満足したか……?」
「まさか。今までのはただの前戯だぞ」
後孔になにかを当てられたと思った瞬間、おれのナカに、硬く、熱いものが無遠慮に踏み込んできた。アルスの肉棒は、その先端で、おれの胎内にあるしこりを押し上げ、ぐりっ、とえぐる。
瞬間、視界が真っ白に染まり、おれはもはや悲鳴に近い嬌声を上げた。
「~~……っ!! あっ、ァ、んあ!!」
「っ……さすがに狭いな」
愉しそうに笑うアルスが、おれの胎内のしこりを執拗に先端で押し上げる。そのたびに、おれの身体がびくびくと魚のように跳ねる。その快楽はもはや暴力に近い。
「あっ、あぁ、ァ!」
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